読書の森

彼はテレポーター (続き)

喜和子は深い目になった。
「やはり、隔世遺伝だったのね」

母、美里は実務能力の優れた女性ではある。
それを隠そうともしない。
しかし、普通の優れた人と言うだけである。


喜和子は話し出した。
広島に原爆が落とされた時、喜和子の母は閃光が走った瞬間、京都に居る従妹の
家の前に居た。
家族は全滅したが、この特殊な能力について誰にも口外しなかった。
「テレポーテーション」、瞬間移動力、空間を飛び越える超能力である。
喜和子の母は外界に起こりうる事に敏感な自分を騙し騙し、生きた。
勧められて見合い結婚し、この能力を封じ込めるように外出を避けた。

喜和子は母からその事を聞かされたのは、自分がテレポーターであると気づいた時
だった。

婚約者と海外旅行に出た時、飛行機が墜落した。
絶望する恋人の顔が目に焼き付いているのに、喜和子は実家の庭に蹲っていたのだ。
おなかに恋人の子を身ごもっていた。

「この子を殺しちゃいけないと思ったのよ。強く、強くね。死んだ大ばあちゃんは
 京都の高等学校に通う好きな人がいて、死ぬ前に会いたいと思ったんだって」

甚だロマンティックな話が、何故か仁には不気味に思えた。

「じゃあ、戦争になって僕一人生きたいと強く思ったら、戦争の無い国へ行ける訳?」
「それはダメ、自分一人の事を思うんじゃないの。誰かの為に生きていたいと思うと
 テレポーテーション出来るのよ」

祖母はそれから言った。
こんな不思議な能力を持つより、好きな人と一緒に死ねればよかったと思うと。

仁は突然聞かされたこの話をまだ信じられずにいる。
隣の家の沙也ちゃんは可愛いと思うが、愛してはいない。
この世の中で一番愛しているおばあちゃんの為に能力を使うだけで十分だ。


現在、仁は高校生、この不思議な能力を使うことがあるのだろうか?

又、明日このお話をしよう。
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