読書の森

転校の思い出 最終章



小学校時代に6回の転校と述べた。
しかし、引っ越しは7回かも知れない。
遠い記憶の中で、大垣でも、池上でも、羽田でも、川崎でも、蓮沼でも、武蔵新田でもない、どことも分からない町が浮かぶのだ。
場末の町と言った雰囲気だった。

恐らく、小学3年になる前、1か月にも満たない短い間居た所だと思う。
間借り人が一杯いる道路沿いの家の一部屋だった。
隣の隣がバス会社で、そこでバスが何台か停まっていた。

間借り人の年代は様々だが、戦争を経験した人ばかりだった。
気さくでちょっと御節介な隣人で、どうも両親と馬が合わなかった様だ。

その中で若い勤め人のお兄さんがいて、幼い私にいつも声をかけてくれた。

春とはいえ、寒い風の吹く晩だった。
道路沿いのバス会社の近くの家が火事を起こした。
夜空が凄い赤さで染まっていたのをうっすら覚えている。



「バス会社に火が回ったら大変だ」
間借り人と大家さんは興奮して話している。
皆荷物をまとめていた。
わざわざ戦火を潜ったお宝を見せて自慢する人もいた

私は隅っこで震えていた。
小さな頭の中で爆発、炎上という想像が頭を駆け巡った。

お兄さんはそんな私に元気に笑って見せてくれた。
「大丈夫だよ!
俺、まずA子ちゃんおぶって逃げてあげるから」
「えええ(╹◡╹)」
この言葉は生まれて初めて聞く頼もしい男の言葉だった。
心に暖かい火が灯った。
嘘の様に恐怖が消えた。

それから、、火事は直ぐに鎮火した。
そして日ならずして新しい場所に移転したのだと思う。
お兄さんの名前も顏も覚えていない。
ただあの暖かな思いは忘れられない。

夢の中の情景の様で、それでいて映画のワンシーンの様に鮮明な記憶である。

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