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卒業記念に友人と山陰に旅行した。
昭和44年の事だ。
今でもそうだが山陰線はローカル線そのものである。
長い長い時間列車に乗る旅となる。
夜行列車、(寝台列車でないの!)、ガタゴト揺られてお目当の鳥取駅にやっと着く。
夕陽を浴びた鳥取砂丘はピンクに染まって綺麗という言葉に惹かれたのだ。
それが、何年に一度かの強風が吹き、砂丘は歩けど歩けど砂嵐。
うら若い二人の女性は髪とスカートを乱しキャーキャー言うだけだった。
ガッカリして列車を乗り継ぎ、松江で宿を取る。
翌日、松江の街を一回りして、出雲大社に行った。
出雲大社とはどんなとこかと興味シンシンだった。
しかし、白い綺麗な道は何処までも続き、社は遠すぎる。
私は脚が痛くなった。
「なんかさ、今から良縁を祈るって面白くないよ」
これは口実。
友達も
「どうせ縁のものでしょう。仰々しく拝むの気が進まない」
二人は疲れ切ってる事を、意地でも口に出さずに、お参りをギブアップしたのだ。
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帰りの列車も固い椅子で夜を明かす事になった。
せめて食堂車で美味しいもの食べて、スタミナを付けようと言う話になる。
その食堂車でサラリーマンらしい二人連れに会った。
出張帰りと言う。
いかにも明るい話好きなおじさんだった。
当時は列車内で、見知らぬ人とごく気軽に話せる時代だった。
おじさんと言っても、当時そう思っただけで、今考えると30台後半位と思う。
東京の女子大生と言う事で興味を持たれた。
彼らはビールを飲みながら、
「人間にとって一番の幸せって何だと思う?」
と尋ねる。
私達は顔を見合わせて首をひねった。
「僕はね、女房と結婚出来た時これ以上幸せな事はないと思ったんだ。
お嬢さん達も好きな人と一緒になんなよ!」
磊落な笑みを浮かべて一人が言った。
若い女性に甘いのか「幸せにね」と美味しい言葉を一杯貰った。
おまけに、食事代も彼らが持ってくれた。
私達はひどく幸せな気分で席に戻り、列車に揺られた。
列車から見る伯耆大山は実に美しい稜線をしていた。
ところで、友人も私もずっと独身である。
友人など、気は強いが、美人でどこも欠陥がないのに、一度も縁がない。
これは出雲の神様を馬鹿にした祟りではなかろうか?
あの親切なサラリーマンの話は、今は夢物語となった。
今日、「いい夫婦の日」に彼を思い出した。
結婚後数年経って「結婚出来たのが一番幸せ」という夫は、本物のいい夫だと分かった。
若い頃見過ごした人の価値を、今頃になると分かる事が出来るのだ。