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読書の森

彼女はエスパー その3

古い喫茶店の片隅で、柔らかな灯りを受けた奇妙なカップルは姉弟とも母子とも見えて、全然人目につく事はなかった。
それをいい事に(?)智恵子は問わず語りの身の上話をし出した。

元々智恵子は地方の小さな蔵元の一人娘だった。
彼女が3歳の時、やり手だった祖父が他界してから、経営能力の無い父親のやる事なす事裏目に出て家は破産、全財産は没収されてしまったのである。

幼い智恵子は、貧しい暮らしに疲れ切った両親の仲が険悪化するのを毎日見ていた。
優しかった母が目を吊り上げて聞くに耐えない悪口雑言を父に浴びせ、大人しかった父が激しい暴力で返す日が続いた後、高熱を出して寝込んでしまった。

そんな時にその声が聞こえたのである。
「おまえのような馬鹿は死ね。金のかかる子供ごと死んじまえ」
おぞましすぎる父親の声。
「別の人と結婚してれば幸せになれた筈なのに。こんな子がいるから身動きも取れない。死んじゃやいいのに」
ヒステリックな母の声。
確かに智恵子の耳に届いた気がした。

しかし、目の前の両親は赤の他人のような冷たい表情で黙り込んでいるだけだった。
「聞こえない筈の声が聞こえてしまった!」
激しいパニックが襲い、その時以来、智恵子は口がきけなくなった。

やっと、子どもの異常に気づいた両親は、残った母屋も売り払い、先祖代々住んだその土地を離れた。



「へえ、そうなんだ。そう言えば『智恵子抄』の智恵子さんも蔵元の娘でしたよね」
智は呑気な声を出した。
一瞬、智恵子は嫌な顔をして睨んだ。

「まっ、上京した後の一家は何とか暮らしがやっていけるようになったのよ」
と打ち明け話は些か唐突に終わってしまったのである。
「高村さんのテレパシーはどうなったんですか?」
物足りない思いで智は尋ねた。

「未だ小さな子だったし自覚が全然無かったのよ。でもそのまんま相手の心の中の言葉をこっちから言うと、引かれるのは分かってたから」
智恵子は読書家のちょっと変わった子として無意識のうちに自分のテレパシーを糊塗していたのである



「それが大学時代に暴露たというか、爆発しちゃったの!」

よせば良いのに、明日から連休という事もあり、この奇妙なカップルは場末の小料理屋で未だ危険なおしゃべりを続けていた。
智恵子はお猪口の日本酒、智は茶碗酒じゃなくてお茶け、魚は煮込んだおでんという、奇妙な組み合わせだった。

「何ですか? 爆発って」
智は、頬を紅く染め熱心の語る智恵子を変なおばさんが痛ましい話をしてるとは思わなかった。
この話が事実なら、彼女は特殊能力者、エスパーじゃないか。
俺は凄え人と話してるんだと高揚感が湧いてきた。


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