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読書の森

山田太一『生きるかなしみ』

「今大切なことは生きるかなしさ、人間の無力を知ることではないだろうか」とはアンソロジーの編者山田太一の言葉です。

ほんの些細なこと(円地文子『めがねの悲しみ』)から、日本の敗戦の記録(石原吉郎『望郷と海』)に至る迄、人の持つかなしみについて綴られたこの本、BOOKOFF で廉価で求めました。



古本である以上、当然本を売った人がいる、その跡がくっきりと残った本なのです。

最初、「何だ、これ!」と感じましたが、何箇所に渡るメモ書きを読んで、とても楽しくなってきました。
私とは全然異なるモノの受け取り方をする人ですが、まともな人柄が伝わってきて非常に親近感を覚えてきました。

最初に挙げた山田太一さんの言葉に傍線を引き
「No天気!この位のこと、普通の人は分かってる」
とかなり書き慣れた文字で鉛筆書きがしてあります。
確かに。

でも、わざわざそんなメモ残すこの方、幾つぐらいの人で、男性でしょうか女性でしょうか? 学生さん、それとも社会人、フリーター?
仮にZさんと呼んでみます。

別に頭の中で探索しても罪にはならぬ筈。
本の内容それ自体への興味より、Zさんへの興味の方が先に湧いてくるのです。





水上勉『親子の絆についての断層』の書き込みを見るに至って、思わずニンマリしてきます。
水上勉は幼い頃から貧乏の苦しみをたっぷり味わった人で、その為9歳の時寺に奉公に出されました。当然実の両親との触れ合いが非常に少なかった。
寺を飛び出して転々とする中で同棲した女性との間に子供が出来ました。その子を捨てる形で女と別れた経歴を持ってます。
作家として身を立てた後も家庭に安住するのを嫌い、一人暮らしを始める人です。

Zさんが「人間はみな単独旅行者なのである」という水上の言葉に愕然とした様子が目に浮かんできます。

「わがまま、男としてだらしない、ごうまん」怒りの書き込みが見られます。
水上勉独特の人生観について「本当はいろいろ」役所を頼らぬ生き方は「ダメ系」。
とっても健全で真面目な方みたい。

このアンソロジーでZさんがもっとも関心を持ったのは戦争で親を喪った小さな子どもの話らしいです。
それと文学そのものへの興味、「物書き!」という書き込みが目立ってます。

こんな変な興味を持つ婆さんのブログ、Zさん「気味悪〜」と書き込みしそうです。
第一この本の主旨と全然違う感想です。


追記
BOOKOFF の本で私が書き込みを見つけたのはこの本一冊です。
買取にあたる店員さんは丁寧に一冊一冊を点検してます。

その中で書き込みがあったというのは、よっぽど多くの書籍を売りに出したか、若しくは買取価格がタダ同然で持ち主が一見書き込みなどしないタイプだったからではないでしょうか?
私の迷(!)推理ですが、後者じゃないでしょうかね。
しっかりした大人の社会人を想像するのです。その方が私は嬉しいです。






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