読書の森

愛してるから その6



覚は都内の中規模の工場でアドバイザーの立場で働いている。
以前の職場では二年しか勤めてないが、その知識と技術を買われた。
下手なお世辞を必要もなく、持つ知識が充分活かせる職場だった。
しかし、給与は半減している。
とても所帯を構えるには足りない。

休み時間に春めいた空を眺めて、覚は櫻子を思う。
櫻子のスマホをハッカーしたのは彼である。
隙だらけの櫻子のスマホに入り込むのは容易である。

彼は会社勤めに苦痛を覚え始めた頃に櫻子の電話を受けた。
飛び上がりたい程の喜びを感じたが、同時にそれは苦悩の始まりでもあった。

櫻子は美貌という程でないが魅力的な若い女性である。
覚にとっては天使である。
自分のような屈折した遊び人が相応しいと思えなかった。
それでも誰かに盗られないかと心配になった。
それがストーカー紛いの行為に走らせ、同時に表面上のよそよそしい顔を作らせた。

彼が日頃相手にする街の女に比べ、櫻子は世間知らずのお嬢様である。
街の女は金次第で動くが、彼女は金では動くまい。
だからこそ、それなりの水準の生活をさせたかった。
給与であくせくせず好きな仕事をしたい気持ちは同じである。

大会社に残れば砂を噛むような毎日であろうが、彼女との結婚生活は可能である。
しかし、辞めたい気持ちは日々に募る。
辞めれば、先ず結婚は無理だろう。

ジレンマの中でいっそ彼女と心中を図りたい気分に襲われた。
極めて弱い陰険な自分を見せたくない思いが、あの「このまま進むと死ぬ」というメッセージを作らせたのだ。

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