何しろ凄い!という前評判です。ネタバレ厳禁とか言われてましたので余計に興味しんしん。
エキセントリックな女性が主人公のイメージがありました。悪女と言うのでもない、さりとて純真無垢なタイプとは程遠い。
文庫本が出回った時期に購入し、最後まで読み通してショックを受けました。
展開が常に予想を外れるのです。常識を超えた凄みがあった。
ただし、読み終わってカタルシスより疲れてしまう感じだったのです。
そこでつい処分してしまったこの本。
今とても気にな本となりました。
シャープで行動的な美女、アレックス。卑劣極まる暴力や迫害を受けてます。
しかも迫害者はアレックスに侮蔑の目を向けている。
しかし、アレックスはどんな理不尽な暴力を受けても、挫けない。
逞しく、自力で危険を切り抜けて平然としている。
そこで読者はアレックスが太々しい為に、彼女から酷い目にあった男の仕返しをされてるのかと誤解しがちです。
しかし、真相は違います。
数々の事件が起き、その解決に当たる天才刑事カミーユは、身長が145センチしかない小男。
一見お偉い肩書きと全然そぐわず、人の侮蔑の眼差しに甘んじます。
出版当時のネタバレ厳禁と異なり、今ネットを読むと全面ネタバレの感想blog記事が多いです。
そこで衝撃的なネタバレをあえて私も致します。
アレックスは少女の頃、複数の不良少年に惨たらしいレイプを受けてます。
ただのレイプでなく性器を焼かれて使い物にならないようにされてしまった、、。
そしてアレックスはその男たちに復讐をするのです。法の裁きよりもっと残酷な。
為に復讐される前に男たちから何度も消されかける訳です。
ここでは展開やアレックスの心理に触れる事はしたく無いです。残酷過ぎるから。
ただ、このネタバレで「分かった、嫌だ。可哀想」で終わる訳でない事を今の私は強く感じてます。
外見はまるで異なりまが、追う刑事カミーユと追われるアレックスは、共通の宿命を持っています。
アレックスは女性として、カミーユは男性として、決定的なコンプレックスを持っている。
それは努力ではどうにもならない、今更言ってもおそらく殆どの人に分かってもらえないコンプレックスです。
カミーユは自分のコンプレックスを全然気にしない神様のような女性と結婚する事が出来ました。
天国に登ったように幸せだったのに、それも束の間、その妻は暴力的に惨殺されてしまう。そういう過去を持っている男。
だからこそカミーユはアレックスに非常に同情的です。
作者はそこら辺の心理描写が実に上手です。
単純に意外過ぎる結末で驚愕のミステリーとだけ私は片付ける気持ちになれません。
主人公二人の受ける苦痛は多分説明しがたいものでしょう。
同情はされるかも知れない、しかし、殆どの人は体験がない為、共感は得られないでしょう。
どうにもならない絶望感の中で生きる事について考えさせられるミステリーであります。