読書の森

再びの道 その3



「なぜ透は退学したのか?」それは20年間靖子の心の中で消えない疑問だった。

彼は弁護士志望だった。
「進んで国選弁護人になる。僕の生活は遺産で賄えるから」
「贅沢な事言うな」と靖子は思った。

その志望も果たさず、透は退学届を出した。
あの震災で何かあったのか。

透は自宅を売却していた。
連絡手段は何も無かった。

虚ろな心のまま大学を卒業して、靖子は大手損保の代理店に勤めた。
28の時、客の一人と付き合った。
一人で頑張るのに疲れ切った時期である。
平凡な生活が一番とプロポーズを受けた。

相手こそいい迷惑だったと彼女は思う。
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