緑のカーテンとゴルわんこ

愛犬ラム(ゴールデンレトリバー)との日々のあれこれと自然や植物、
本や映画などの勝手な独り言を書き留めています

「スクリプターはストリッパーではありません」

2014年10月11日 | 

新聞の書評欄で紹介されていたときから「読みたい!」と思っていた本をやっと読了しました。

本のタイトルだけ読むとドキッとするのですが、内容は至って真面目、というか映画界自体があまり真面目とは言えないので、まっとうな正攻法の本です。

日活のスクリプターとして昭和30年からずっと映画に寄り添い、いまだにしんゆり映画祭や川崎映画アートセンターの代表として映画に添い遂げている白鳥あかねさんという方の聞き書き「女映画一代記」みたいな本です。

聞き取りをしているのは、映画関係本の名編集者、高崎俊夫氏です。私はこの人がネットで書いている清流出版という出版社のサイトに載っている映画コラムが好きで、アップデイトされるたびに楽しみに読んでいます。よく知っている懐かしいことも、私が知らなかった映画人の様子などもいろいろ書かれていて、高崎さんの厚い経験に裏打ちされたとても興味深いコーナーです。「高崎俊夫の映画アトランダム」というタイトルの連載記事です。読んでいて、一つだけ注文があります、高崎さん、記事がアップされた年月日をどこかに入れてください。お願いします。いつ書かれたものなのか、知りたいときがあるのです。

さて、横道にそれてしまいましたが、肝心の「スクリプターはストリッパーではありません」の本ですが、まずは高崎さんの編集者としての素晴らしい着眼点に拍手したい。スクリプターという日の当たらない職業、しかし昔の映画界で唯一と言っていい女性が映画作りの現場で働ける職業にスポットライトを当て、映画監督の一番そばに座って映画が作られる過程を細かく見続ける仕事ゆえにほかの人では見ることのできない映画人たちの様子を見事に捉え、描き出しています。

そういえば、私も若いころスクリプターに憧れた時がありました。女性ができる専門職として私はそういう仕事があることを知っていたので、スクリプターなら映画の現場に携われるなと思ったのです。でも、神経がタフではない私にはとても映画作りの現場の仕事は無理だろうなと諦めました。正解でした、この本を読んで改めて、スクリプターにならないでよかった、と思いました。もとより実力的に私にはとてもなれなかったでしょうが・・・

この本を読んでいて、レイモンド・チャンドラーの有名なセリフを思い出しました。「タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない。」というあのセリフです。

まさにタフで優しい白鳥姉さんの周りの、映画バカたちの楽しそうな様子を、また涙ぐんでしまうようなシビアーな姿を浮かびあがらせてくれる貴重な本です。高崎さん、ありがとうございました、白鳥さんを、またスクリプターという仕事をこのような本の形で紹介してくださり、「面白い」なんて言葉を通り越して、「愛しいな」としみじみ映画界に席を置いていた者として感謝しています。

313頁という大部な本なので、詳しく紹介できないのですが、日活の全盛期からロマンポルノ製作への変遷、やめていく人残る人、また台頭する若手監督たちと日活を離れてからフリーランスで仕事をしていく醍醐味、合宿生活のような撮影現場での様々な人たちの繰り広げる人間模様、男の嫉妬は女のより怖いという親密な関係性、面白すぎて一つひとつ紹介したいくらいです。

白鳥あかねさんは大学を卒業した後、新藤兼人監督の「狼」でスクリプター助手になり、日活に入社して斎藤武市監督の「渡り鳥シリーズ」など日活全盛期の監督のスクリプトをして、日活がロマンポルノを作り始めてからは神代辰巳、藤田敏八、曽根中生、根岸吉太郎などの作品につき、その後日活を離れてからは岩井俊二の「Love Letter」のスクリプトなどを務めている方です。映画戦後史を生きてきた方であります。そして、日活という他社にはない独特な雰囲気をもった映画会社の様子をよく書き留めてあります。まるでその場に居合わせたような感じがします。

吉永小百合の「愛と死を見つめて」にもスクリプターとしてついています。サングラスの女性が著者の白鳥さんです。他の2人は言わずもがな・・・

彼女がスクリプターをした作品のDVDの紹介です。これ以上たくさんの作品に関わっています。

興味深い記述はいくつもあるのですが、やはり日活ロマンポルノといったら神代辰巳監督です。

映画「恋人たちは濡れた」の撮影風景です。端は主演の中川梨絵、中央が神代監督です。愛称クマさんはとてももてたそうです。まあ、監督ってもてるのですけどね、神代監督はまた特別な魅力がありました。

もて男といえば、パキさん、藤田敏八監督もいますね。端っこのサングラス姿がパキさんです。

パキさんは見るからにもてそうですが、意外と濡れ場シーンの撮影は苦手だったとか。

艶福家といえば、今村昌平監督もいます。今村監督の「果てしなき欲望」についたとき、白鳥さんは死にそうな思いをしたとか。粘りに粘る監督ですからね。「豚と軍艦」の豚の疾走シーンなんてスタッフがどんなに大変だったか、想像しただけで震えがきそうです。

この映画の撮影の時、主演の渡辺美佐子は過酷な監督の指導に恨み骨髄だったそうです。猫の死骸が浮いているどぶ川に飛び込まされたり、浴衣一枚で嵐の中を逃げるシーンであまりの水の量に失神してしまった渡辺美佐子にさらに水をぶっかけ、息を吹き返したら、また撮影を続けたとか。さすがに「粘りのイマヘイ」ですね。

日活らしい映画にもたくさんついています。小林旭主演の渡り鳥シリーズには何本もスクリプターとしてついています。

 もちろん、石原裕次郎の映画にも関わっていますが、小林旭映画の監督をした斎藤武市監督の縁が深いので、どちらというと旭派だったとか。

「渡り鳥シリーズ」には、神代監督が助監督としてついていたのですね。まだこぎれいなクマさんです。

こちらは監督になったクマさん、奥はゴールデン街でよく会ったカメラマンの姫田真佐久氏です。楽しい酔っ払いおじさんでした。

その頃は若手のホープだった根岸吉太郎監督の撮影風景です。下は根岸吉太郎と同期の池田敏春監督の現場です。

根岸監督の出世作「遠雷」のときの撮影裏話がおかしいです。「遠雷」はATGの一千万映画の中でも大ヒットしました。

池田監督は、2010年末に自死されました。その間の話も辛いけど、根岸監督との友情が強烈な魅力で迫ってきます。

上の写真は元「キャロル」のジョニー大倉と天地真理が出ている池田監督の「魔性の香り」の撮影シーンです。アイドルだった天地真理が脱いだというので話題になった映画だそうです。下の写真は同じ撮影現場で、水の中で正面を向いているのが池田監督です。浮かんでいるのが天地真理ですね。残念ながら私はこの映画を見ていません。

池田監督は一番思い入れのある映画「人魚伝説」のロケ地、志摩半島の映画のラストシーンの現場だった断崖から海に飛び込み自殺したそうです。

「人魚伝説」撮影現場での池田敏春監督と白鳥さんです。池田監督は白鳥さんをお母さんのように慕っていたとか。

神代監督ももう亡くなられました。晩年はワーカーホリックのようになって、「俺に仕事をさせろ」という感じだったとか。「少し休んだら・・・」という忠告に耳も貸さなかったそうです。映画「恋文」のショーケンと神代監督です。女優の高橋惠子、倍賞美津子と一緒に映る看護婦長役で出演している白鳥さんです。

神代監督とショーケンという組み合わせだと「青春の蹉跌」といういい映画があります。あのショーケンは素晴らしかった。岸恵子が今まで付き合った男性で一番魅力的だったのは誰?と聞かれ、「ショーケン」と答えたとか・・・ うーん、私的には鶴田浩二と答えてほしかったです。

たくさんの映画の撮影に一番前の席で最初から最後まで1シーンも欠かさずにかかわり、見つめ続け、そして記録していくスクリプターという仕事、ただ記録をとるだけではなく、大所帯の撮影隊のコミュニケーションや台本の読み込み、監督が悩み始めた時は相談相手になったり、ちょっとしたアドバイスをしたりする、そんなすごい仕事を白鳥さんは何十年も続けてこられた方なのですね。

彼女の映画人生には圧倒されました。さらに今はしんゆり映画祭の代表として市民と作る映画祭を20年も続けていられる。そして川崎アートセンターでの映画上映の選定委員を務め、大好きな映画を一人でも多くの人に届けたいとワクワクしながら動いていられる。こうした方のおかげで、私も都心まで出ないで近所の新百合ヶ丘で観たかった映画を観ることができているのですね。

ありがとうございます。そして素晴らしい映画の仲間たち、それを支えるというか巻き込まれた幸運なそしてある意味不孝な人たちに乾杯を!

そして、スクリプターという脚光を浴びることのない仕事を、男社会の映画会社の中で黙々と続けてこられた同業の女性たちと「日本映画・テレビスクリプター協会」も設立されていたとのこと、どうぞお元気であちこちの映画祭で映画バカの男どもの話をたくさん聞かせてくださいね。楽しみにしています。

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿