蝉が鳴いている
孤独と悲しみは
どうしようもなく私の芯に染みついているけれど
流した涙は
私の足元を濡らし
新芽を育てるだろう
冷え切った体に
温かい血は巡るのか
悲しみを憶えてしまった平らな瞳に
光は宿るのか
夕陽に映える川沿いの雑草
すれ違いざまの犬の一瞥
乗り捨てられた自転車
スーパーの野菜に記された生産者の名前
風に乗ってやってくる洗濯用洗剤の香り
車用と歩行者用の信号がどちらも赤になった瞬間の静寂
道路に転がる片方だけのビーサン
植えられたばかりの稲が整然と並ぶ田んぼ
窓から窓へ抜ける風の口笛
静かにゆっくりと動くぜんまい仕掛けの体内時計
振り子が刻む音に耳をすましながら
静かに目を開けると
こういった情景が鮮やかに目に映る
とても静かだ