(この小説はフィクションで登場する人物・団体等の名称は全て実在と関係ありません。)
- 厚労省共用第8会議室 -
「えー、皆さんお集まりいただいたようですので、始めさせていただきます。お手元の資料は、来年から全国的に展開いたしますX-ワクチンについて、そのロードマップとキャンペーン展開について、私どものほうで大まかに作成させていただいたものですが…」
「(……うーん、またワクチン展開があるのか…。しかも今回は対象の世代の幅も広いし、半ば強制的に接種させるキャンペーンを張るようだな…。国で全額負担となれば税金での負担だから担保も十分…下世話な話だが製薬会社はぼろもうけ間違いない代物だな…。とは言え、病気を防げるならこれぐらいの負担も致し方ない、と言いたいところだが、ワクチン全般に渡ってあんまりいい噂を聞かないもんだ…。ずっと前から副作用に関する相談センターへの問い合わせはひっきりなしのようだし、こちらとしても良く分かってないものだから対応のしようもない…とりあえず製薬会社からの回答を待つばかりだが、リスクだの何だのでうまくはぐらかされているような感じだ…。かと言ってはじめから多国籍大製薬会社の依頼を断れるか?と問われれば、今の日本のシステムだと無理だろうな…断れば何か別な問題として日本に跳ね返ってくるだろうしな…。まぁ、一介の公務員のオレがひとり反対したところで、受け入れられ中止になるわけもない。そんなことしたら、オレの来年の昇進に響く、というよりも、クビにさせらるかもな…。せっかく係長までこぎつけたのだし、オレには家族を守る責任がある。こんなところでヘマできるわけがない。今は黙って、来年の昇進に向けてコネを確実なものとしておくことだ…。)」
「…さん?Aさん!」
「あ?はい、すいません」
「以上のような流れなんですが、何かご意見などございますか?」
「え?あ、いや、特にございません」
「わかりました。では次に、マスメディアなどの広告戦略について進めてまいりますが…」
- 都内住宅 -
「ただいま」
「あなた、お帰りなさい」
「あぁ、今日も疲れたな」
「本当にお疲れ様です。ごはんになさいます?それともお風呂?」
「あー、風呂にするかな」
「ではさっそく」
「おう、今日の会議で新しいワクチン接種のキャンペーンが始まることが決まった。前のようにB子には受けさせないよう、やってくれ」
「またワクチンですか?しかも今回もB子に受けさせないなんて…」
「いいんだ、オレの言うとおりにやってくれ」
「…前は聞きづらかったんですけど…。ワクチンって病気を予防するためには必要なんでしょう?私はB子にも受けてほしいと思うのですが…」
「…お前には言ってなかったか。オレもよくわからないんだが、同僚の間でもワクチンに関してはどうも良い話を聞かんでな…副作用があるのはお前も知ってるだろうが、どうやらそれがかなりひどいらしい。それにワクチン自体の効果も疑問が多いそうだ。同僚も同じように家族には打たせていないようだし、オレの独断だがうちもそのようにしてるんだ」
「!…そうなんですか…。ではB子には受けさせないようにしておきますわね。じゃあ、B子の親友のC子さんのおうちにもお知らせしたほうが良いわね。ねぇ、良いでしょう?」
「…それはやめてくれ」
「え!」
「…いいか?お前があんまりいろんな人に言い触らしてみろ。それがまわり回ってオレの上司とかの耳に触れたらどうなる?オレは良くて地方に左遷か、最悪職を失うことになる。そうなればお前らはどうなる?そんな余計な面倒はオレだってごめんだ。来年は大事な昇進もあるし、お前もよく考えてものを言えよ」
「…そうね。失礼いたしました」
「おう、風呂だ風呂だ」
- 2年後 -
- 某芸能事務所 -
「ちょっとぉーーー!!!マネージャー!!!」
「はいはいはい、どうしましたぁ?Dさん!」
「どうしましたぁ?じゃないわよ!!!あんた、新聞読んだ?!」
「そりゃーひと通りは読んでますけど…どうしましたぁ?」
「何よ!ほんとに読んでるの???これ、見てみなさいよ!!!」
「うーん、なになに…『X-ワクチンで健康被害、積極的接種を中止』?ですかね?」
「そうそうそう、それよ!!!」
「これがどうかしたんですかね?」
「もーバカー!!!私が広告に出たやつじゃないの!!!」
「…あー、そうでしたそうでした!」
「こんなことになったら、私の評判にも影響あるんじゃないの??!!」
「うーん…まぁ、どうでしょうねぇ…」
「せっかく気持ちを込めた渾身の演技で、なかなか出来の良いCMだったのに…」
「…うーん…まぁ、あんまり気にすることないんじゃないですか?」
「何よ」
「そこまで一般の人は見てないですって!それに、このCMのおかげで今度のドラマの出演もゲット出来たじゃないですか!」
「まぁ、それもそうだけど…」
「今不景気ですからそんなに仕事もないですよ?この際選んでなんかいられないのはどこも一緒ですからね」
「ほんとに影響ないのぉ???」
「大丈夫、だーいじょーぶですって!!!とにかく次の仕事に全力投球!!!で、いーんじゃないですか???」
「…ふーん。ま、それしかないわね。でもなるべく仕事選んでよね、ほんと…」
「わーかりましたって!次のドラマでドカン!といったら仕事も入れ食いですよ!!!」
「…そうよね。ドラマではばっちりかますわよ」
「そーこなくっちゃ!!!じゃ、スケジュールの確認お願いしまっす!!!」
- 某所一般家庭 -
「えーなになに…『X-ワクチンで健康被害、積極的接種を中止』?あらやだ!これってあんたも受けたやつじゃないの???」
「ん?うん」
「副作用で体の震えとか記憶障害?もあるみたいよ!あんたは何ともないの???」
「別に」
「あらそう。良かったわね。それよりあんた、勉強やってるの???そんな雑誌なんか読んでないでしっかりやりなさいよ!!!」
「はーい」
「何ぼ言っても生返事なんだから…。それっと…新しいドラマ始まるみたいね…あら、Dが久しぶりに出るんじゃない?これは見ないとね!あ、こんな時間!ご飯支度ご飯支度…」
- 某新聞社社会部 -
「はい…はい…あー…そうなんですか…はい。えぇ、えぇ、かしこまりました。取材協力ありがとうございます。ぜひお大事に…はい、ありがとうございました」
(ガチャリ)
「(…何件か取材してみたが、実情を知ればかなりの被害のようだな…何件も病院にかかる医療費も現時点では自己負担だが、国もまだ補償云々の段階でもなく可能だとしても最低でも1年以上先か…病院の医師の対応もまちまちだが、どこもまともに取り合ってくれないようだ…。行政も国の判断待ちの状況だし…これはもう少し突っ込んだ取材をしてみなくては…!)」
「デスク!」
「おー、E、どうした?」
「ちょっとご相談がありまして…」
「おー、言ってみろ」
「今何件かX-ワクチンの副作用被害者の方に電話取材をしてみたんですが、国の発表から比べるとずっと厳しい現状があるようで…もうちょっと突っ込んで取材をしてみたいと思うのですが…」
「…。それより、お前は来月の過疎化地域の連載特集記事を任されているんだろ?かなり足を使ったハードな現場だし、それだけでも体はいっぱいなんじゃないか?」
「えぇ、それはそれでがんばります。その他に空き時間を作ってでも、行政や医師など回ってみたいと思っています」
「…。そうか。…ここじゃ何だから第二会議室で話を聞こうか」
「あ、はい」
「まぁ、座りたまえ」
「はい」
「…お前はわが社が何でメシを食っているか知っているか」
「はい…新聞販売の売上と広告主様からの広告料が主です」
「あぁ、そうだ。どちらも我々にとっては大切なお客様だ」
「はい、承知いたしております」
「特に、製薬会社様からもまた、多くの広告をいただいているのもわかるな?」
「あ、はい」
「まぁ、そういうことだ」
「…?」
「何、わからんのか」
「申し訳ありません」
「若いなお前は…。基本的に我々が独自で記事を書くのは地方の問題についてだ。国や全国的な話題や社会問題については上位の機関からの情報や公式の発表を待つことになる。大きな問題になれば、広告主様の絡んだものになるかもしれんから、我々だけが先走って記事を書くなんぞ出来ないのだ」
「…それは、そうなんでしょうか…」
「そうだ。我々もいい加減な記事は書けん。他の報道機関と足並みを揃えるためにも、上位からの情報や公式の発表を待つのが一番いいのだ」
「…それでは真実に肉薄することは出来ないのでは?」
「だからお前は若いと言っているのだ。上位からの情報や公式の発表であれば、それが真実かどうかなんて我々にはどうでも良いのだ。正しく伝えたことになるからな」
「はぁ…」
「オレも若いころはお前のように血の気が多かったがな…ある先輩に言われて目が覚めたよ。『賢く生きろ』ってね。だから今オレはこのポストにいるんだ。お前にもこの言葉を送るよ」
「賢く…ですか?」
「あぁ、そうだ。あとは自分で考えろ」
「では取材の件については…」
「ダメだ、ということだ。はい、終わり。戻って仕事しろ」
「…」
- 都内高校 -
「はい…はい…はぁ、しばらく…はい、わかりました。いえいえそんな!はい…はい…どうぞお大事になさってください。はい、では」
(ガチャリ)
「ふー…そうか…」
「…どうしました?F先生」
「あ!校長…実はうちのクラスの子が体調不良だそうで、もうしばらく休むということで…これでもう1週間になるんです」
「…そうですか…」
「いつも活発で明るい子で…クラスではムードメーカーのような子だったんで、どうしたのかと…」
「それは心配ですねぇ…」
「何件か病院へも行ったそうですが、まだ原因不明なようで…」
「うーん…」
「…私、ふと思ったのですが、しばらく前にX-ワクチンを接種させたことによる影響なのかと…ネットでいろいろ調べてみたのですが、そのような事例も多いそうで…」
「…」
「校長はいかがお思いですか?」
「…私はよく分からないから何とも言えないですが…まぁ、このようなことは問題があれば国や自治体で対応することですし、そのうち結果も出てくるでしょうから、私たちはそれを待つしかないでしょうねぇ」
「うーん…まぁ、そうでしょうねぇ…」
「他の生徒のこともありますから、先生もあまり考え過ぎず、授業のほうに専念されてくださいね」
「…はい、わかりました」
- 都内病院 -
「で、先生…C子はどうなんでしょうか…?」
「…まだはっきりとしたことはわからないですねぇ…とりあえず痛み止めと抗生物質を処方しておきますので、それでしばらく様子をみてみましょう」
「…先生…私、個人的に調べてみたんですが、先日娘が打ったワクチンの副作用、なんてことも考えられますでしょうか…?」
「…。そうですねぇ…これだけの状況でまだ何とも言えませんが…」
「かなり症状が似ていると思うのですが…」
「…。いいですかお父さん。ひと口にワクチンと言っても、製薬会社のほうで何年も厳しい臨床試験を行っており、認可までは相当なハードルを経て、十分に安全に配慮したものが初めて一般の方々に接種されるものです。副作用の影響もないことはないでしょうが、かなりの低確率です。それを疑うよりは、日常生活においての何らかのウィルス性のものの影響であると私は睨んでいます。今回の検査結果が出ましたら大体のことがわかりますので、それまでおうちで安静にされているのが一番です」
「…はい…わかりました…」
「ご心配のこととは思いますが、どうぞお大事になさってください」
「…はい」
「はい!じゃ次の方ー…」
- 都内某所 -
「どうだ…首尾よく進んでいるか…?」
「はい、対象の世代の9割以上にX-ワクチンの接種が完了しております。基本的には強制ではなく任意接種としておりますので、一部、個人的に接種を避ける人もいるようですが、ごくわずかです」
「そうか…それは良いことだ。次の手も打っているのか?」
「はい、ただ今次回のワクチンを国やマスコミを通じて大々的に宣伝させておりますので、多くの国民の不安意識を煽ることが出来ていると思われます」
「仕事が早いな。無知な一般の大衆は不安を煽られれば素直に従順に従うものだ。国や自治体、マスコミから医師、保健師にいたるまで、皆で不安意識を煽るから話が早い。特に日本人は不安に弱く周りに合わせる特性があるから、周囲と一緒でなければ不安になることも良い方向に働いているものだ。推進する中には、単に無知なものがほとんどだが、中には我々の計画を知った上で協力する者や、立場上協力せざるを得ない連中もいるだろう。無知と欺瞞…良い響きだ」
「なるほど…。そして、今回もかなりの収益がありましたね」
「あぁ、もちろんだ。我々は売るだけだ。あとは日本人自らが税金でワクチンを買い、税金で宣伝し、税金で接種させ、健康被害が出れば税金で補償させる。我々は司法にも影響力があるから、補償のタイミングなど自由自在だ。あとは日本人同士で賛成だの反対だの勝手に騒いでいればよい」
「同情するつもりもありませんが、日本人は愚かなものですね…」
「これは我々の計画により愚かとなったのだ。我々は日本支配のために綿密に計画を練り、明治維新から本格的に着手した。脱亜入欧の思想により日本国民に江戸時代を完全に否定させ、さらに日本を戦争に駆り立て敗戦させ、GHQにより事実上の植民地としたのだ。表向きは独立国のように装ってはおるがな。あとは日本人の勤勉さを利用して、教育は将来従順な労働者となるように徹底させ、新聞やテレビは国民を無知のままでいるように仕向け、日本人が稼いだ分は米国債やその他の方法で搾取を続ける。太らせては刈り取る、まさに家畜だ」
「そうだったんですね…しかしなぜに日本に対してそこまで?」
「そうか…教えてやるか。明治維新までの日本、すなわち江戸時代は、本来人間が進むべき真の平和へ向けた、非常に安定的な社会を作り上げていたのだ。有史以来、200年以上単独政権の下で戦争のない平和な時代があったのは、世界でも江戸時代だけだ。我々やアジア諸国が日本に干渉しなければ、おそらくは1000年以上続いたかもしれない。それに伴い科学や芸術は宇宙レベルまで発展していただろう。というのも、江戸の大衆の芸術であった浮世絵は現在でも世界的に評価され欧米人をさえ魅了してやまない。200年でそれだけに到達しうる民族がそれ以上の年月を経過させたのなら…と考えると、我々としては末恐ろしいものを感じるのだ」
「日本はそれほど平和な社会だったのですか!今の日本人はそれを知っているのですか?」
「そこは我々の計画だ。先にも言ったように、明治維新以降はその江戸時代を日本国民に徹底的に否定させ、教育では非常に劣悪な封建主義社会であったと洗脳させた。その甲斐あって、今の日本人は自国民の意識はほぼ消滅して、資本主義的考えに支配されている。我々が何より恐れるのは、日本人がそれらの事実に気づき、自国民の意識を復活させることだ。そうさせないためにも、我々は決して手を緩めることはしない」
「なるほど…確かにそれが起こることは我々にとっては恐ろしいですね…」
「我々は自然と人間が調和して共生するような真の平和など、興味も関心もない。いや、嫌悪すべきものだ。我々が目標とするのは、我々の支配に基づく仮の平和だ。金と欲望、無知と欺瞞、暴力と退廃による、不調和をコントロールした我々のための平和だ。未だ計画は完全に達成されてはいない。最近ではロシアが最大の障壁となっているしな…とにかく、粛々と計画を遂行するのみだ。もちろん、ワクチンもその計画の一部なのだ」
「…そうですね、かしこまりました」
- 創作小説 「ワクチンを巡る人々」第1部 終わり -
続きは創作小説 「ワクチンを巡る人々」第2部をどうぞ。
- 厚労省共用第8会議室 -
「えー、皆さんお集まりいただいたようですので、始めさせていただきます。お手元の資料は、来年から全国的に展開いたしますX-ワクチンについて、そのロードマップとキャンペーン展開について、私どものほうで大まかに作成させていただいたものですが…」
「(……うーん、またワクチン展開があるのか…。しかも今回は対象の世代の幅も広いし、半ば強制的に接種させるキャンペーンを張るようだな…。国で全額負担となれば税金での負担だから担保も十分…下世話な話だが製薬会社はぼろもうけ間違いない代物だな…。とは言え、病気を防げるならこれぐらいの負担も致し方ない、と言いたいところだが、ワクチン全般に渡ってあんまりいい噂を聞かないもんだ…。ずっと前から副作用に関する相談センターへの問い合わせはひっきりなしのようだし、こちらとしても良く分かってないものだから対応のしようもない…とりあえず製薬会社からの回答を待つばかりだが、リスクだの何だのでうまくはぐらかされているような感じだ…。かと言ってはじめから多国籍大製薬会社の依頼を断れるか?と問われれば、今の日本のシステムだと無理だろうな…断れば何か別な問題として日本に跳ね返ってくるだろうしな…。まぁ、一介の公務員のオレがひとり反対したところで、受け入れられ中止になるわけもない。そんなことしたら、オレの来年の昇進に響く、というよりも、クビにさせらるかもな…。せっかく係長までこぎつけたのだし、オレには家族を守る責任がある。こんなところでヘマできるわけがない。今は黙って、来年の昇進に向けてコネを確実なものとしておくことだ…。)」
「…さん?Aさん!」
「あ?はい、すいません」
「以上のような流れなんですが、何かご意見などございますか?」
「え?あ、いや、特にございません」
「わかりました。では次に、マスメディアなどの広告戦略について進めてまいりますが…」
- 都内住宅 -
「ただいま」
「あなた、お帰りなさい」
「あぁ、今日も疲れたな」
「本当にお疲れ様です。ごはんになさいます?それともお風呂?」
「あー、風呂にするかな」
「ではさっそく」
「おう、今日の会議で新しいワクチン接種のキャンペーンが始まることが決まった。前のようにB子には受けさせないよう、やってくれ」
「またワクチンですか?しかも今回もB子に受けさせないなんて…」
「いいんだ、オレの言うとおりにやってくれ」
「…前は聞きづらかったんですけど…。ワクチンって病気を予防するためには必要なんでしょう?私はB子にも受けてほしいと思うのですが…」
「…お前には言ってなかったか。オレもよくわからないんだが、同僚の間でもワクチンに関してはどうも良い話を聞かんでな…副作用があるのはお前も知ってるだろうが、どうやらそれがかなりひどいらしい。それにワクチン自体の効果も疑問が多いそうだ。同僚も同じように家族には打たせていないようだし、オレの独断だがうちもそのようにしてるんだ」
「!…そうなんですか…。ではB子には受けさせないようにしておきますわね。じゃあ、B子の親友のC子さんのおうちにもお知らせしたほうが良いわね。ねぇ、良いでしょう?」
「…それはやめてくれ」
「え!」
「…いいか?お前があんまりいろんな人に言い触らしてみろ。それがまわり回ってオレの上司とかの耳に触れたらどうなる?オレは良くて地方に左遷か、最悪職を失うことになる。そうなればお前らはどうなる?そんな余計な面倒はオレだってごめんだ。来年は大事な昇進もあるし、お前もよく考えてものを言えよ」
「…そうね。失礼いたしました」
「おう、風呂だ風呂だ」
- 2年後 -
- 某芸能事務所 -
「ちょっとぉーーー!!!マネージャー!!!」
「はいはいはい、どうしましたぁ?Dさん!」
「どうしましたぁ?じゃないわよ!!!あんた、新聞読んだ?!」
「そりゃーひと通りは読んでますけど…どうしましたぁ?」
「何よ!ほんとに読んでるの???これ、見てみなさいよ!!!」
「うーん、なになに…『X-ワクチンで健康被害、積極的接種を中止』?ですかね?」
「そうそうそう、それよ!!!」
「これがどうかしたんですかね?」
「もーバカー!!!私が広告に出たやつじゃないの!!!」
「…あー、そうでしたそうでした!」
「こんなことになったら、私の評判にも影響あるんじゃないの??!!」
「うーん…まぁ、どうでしょうねぇ…」
「せっかく気持ちを込めた渾身の演技で、なかなか出来の良いCMだったのに…」
「…うーん…まぁ、あんまり気にすることないんじゃないですか?」
「何よ」
「そこまで一般の人は見てないですって!それに、このCMのおかげで今度のドラマの出演もゲット出来たじゃないですか!」
「まぁ、それもそうだけど…」
「今不景気ですからそんなに仕事もないですよ?この際選んでなんかいられないのはどこも一緒ですからね」
「ほんとに影響ないのぉ???」
「大丈夫、だーいじょーぶですって!!!とにかく次の仕事に全力投球!!!で、いーんじゃないですか???」
「…ふーん。ま、それしかないわね。でもなるべく仕事選んでよね、ほんと…」
「わーかりましたって!次のドラマでドカン!といったら仕事も入れ食いですよ!!!」
「…そうよね。ドラマではばっちりかますわよ」
「そーこなくっちゃ!!!じゃ、スケジュールの確認お願いしまっす!!!」
- 某所一般家庭 -
「えーなになに…『X-ワクチンで健康被害、積極的接種を中止』?あらやだ!これってあんたも受けたやつじゃないの???」
「ん?うん」
「副作用で体の震えとか記憶障害?もあるみたいよ!あんたは何ともないの???」
「別に」
「あらそう。良かったわね。それよりあんた、勉強やってるの???そんな雑誌なんか読んでないでしっかりやりなさいよ!!!」
「はーい」
「何ぼ言っても生返事なんだから…。それっと…新しいドラマ始まるみたいね…あら、Dが久しぶりに出るんじゃない?これは見ないとね!あ、こんな時間!ご飯支度ご飯支度…」
- 某新聞社社会部 -
「はい…はい…あー…そうなんですか…はい。えぇ、えぇ、かしこまりました。取材協力ありがとうございます。ぜひお大事に…はい、ありがとうございました」
(ガチャリ)
「(…何件か取材してみたが、実情を知ればかなりの被害のようだな…何件も病院にかかる医療費も現時点では自己負担だが、国もまだ補償云々の段階でもなく可能だとしても最低でも1年以上先か…病院の医師の対応もまちまちだが、どこもまともに取り合ってくれないようだ…。行政も国の判断待ちの状況だし…これはもう少し突っ込んだ取材をしてみなくては…!)」
「デスク!」
「おー、E、どうした?」
「ちょっとご相談がありまして…」
「おー、言ってみろ」
「今何件かX-ワクチンの副作用被害者の方に電話取材をしてみたんですが、国の発表から比べるとずっと厳しい現状があるようで…もうちょっと突っ込んで取材をしてみたいと思うのですが…」
「…。それより、お前は来月の過疎化地域の連載特集記事を任されているんだろ?かなり足を使ったハードな現場だし、それだけでも体はいっぱいなんじゃないか?」
「えぇ、それはそれでがんばります。その他に空き時間を作ってでも、行政や医師など回ってみたいと思っています」
「…。そうか。…ここじゃ何だから第二会議室で話を聞こうか」
「あ、はい」
「まぁ、座りたまえ」
「はい」
「…お前はわが社が何でメシを食っているか知っているか」
「はい…新聞販売の売上と広告主様からの広告料が主です」
「あぁ、そうだ。どちらも我々にとっては大切なお客様だ」
「はい、承知いたしております」
「特に、製薬会社様からもまた、多くの広告をいただいているのもわかるな?」
「あ、はい」
「まぁ、そういうことだ」
「…?」
「何、わからんのか」
「申し訳ありません」
「若いなお前は…。基本的に我々が独自で記事を書くのは地方の問題についてだ。国や全国的な話題や社会問題については上位の機関からの情報や公式の発表を待つことになる。大きな問題になれば、広告主様の絡んだものになるかもしれんから、我々だけが先走って記事を書くなんぞ出来ないのだ」
「…それは、そうなんでしょうか…」
「そうだ。我々もいい加減な記事は書けん。他の報道機関と足並みを揃えるためにも、上位からの情報や公式の発表を待つのが一番いいのだ」
「…それでは真実に肉薄することは出来ないのでは?」
「だからお前は若いと言っているのだ。上位からの情報や公式の発表であれば、それが真実かどうかなんて我々にはどうでも良いのだ。正しく伝えたことになるからな」
「はぁ…」
「オレも若いころはお前のように血の気が多かったがな…ある先輩に言われて目が覚めたよ。『賢く生きろ』ってね。だから今オレはこのポストにいるんだ。お前にもこの言葉を送るよ」
「賢く…ですか?」
「あぁ、そうだ。あとは自分で考えろ」
「では取材の件については…」
「ダメだ、ということだ。はい、終わり。戻って仕事しろ」
「…」
- 都内高校 -
「はい…はい…はぁ、しばらく…はい、わかりました。いえいえそんな!はい…はい…どうぞお大事になさってください。はい、では」
(ガチャリ)
「ふー…そうか…」
「…どうしました?F先生」
「あ!校長…実はうちのクラスの子が体調不良だそうで、もうしばらく休むということで…これでもう1週間になるんです」
「…そうですか…」
「いつも活発で明るい子で…クラスではムードメーカーのような子だったんで、どうしたのかと…」
「それは心配ですねぇ…」
「何件か病院へも行ったそうですが、まだ原因不明なようで…」
「うーん…」
「…私、ふと思ったのですが、しばらく前にX-ワクチンを接種させたことによる影響なのかと…ネットでいろいろ調べてみたのですが、そのような事例も多いそうで…」
「…」
「校長はいかがお思いですか?」
「…私はよく分からないから何とも言えないですが…まぁ、このようなことは問題があれば国や自治体で対応することですし、そのうち結果も出てくるでしょうから、私たちはそれを待つしかないでしょうねぇ」
「うーん…まぁ、そうでしょうねぇ…」
「他の生徒のこともありますから、先生もあまり考え過ぎず、授業のほうに専念されてくださいね」
「…はい、わかりました」
- 都内病院 -
「で、先生…C子はどうなんでしょうか…?」
「…まだはっきりとしたことはわからないですねぇ…とりあえず痛み止めと抗生物質を処方しておきますので、それでしばらく様子をみてみましょう」
「…先生…私、個人的に調べてみたんですが、先日娘が打ったワクチンの副作用、なんてことも考えられますでしょうか…?」
「…。そうですねぇ…これだけの状況でまだ何とも言えませんが…」
「かなり症状が似ていると思うのですが…」
「…。いいですかお父さん。ひと口にワクチンと言っても、製薬会社のほうで何年も厳しい臨床試験を行っており、認可までは相当なハードルを経て、十分に安全に配慮したものが初めて一般の方々に接種されるものです。副作用の影響もないことはないでしょうが、かなりの低確率です。それを疑うよりは、日常生活においての何らかのウィルス性のものの影響であると私は睨んでいます。今回の検査結果が出ましたら大体のことがわかりますので、それまでおうちで安静にされているのが一番です」
「…はい…わかりました…」
「ご心配のこととは思いますが、どうぞお大事になさってください」
「…はい」
「はい!じゃ次の方ー…」
- 都内某所 -
「どうだ…首尾よく進んでいるか…?」
「はい、対象の世代の9割以上にX-ワクチンの接種が完了しております。基本的には強制ではなく任意接種としておりますので、一部、個人的に接種を避ける人もいるようですが、ごくわずかです」
「そうか…それは良いことだ。次の手も打っているのか?」
「はい、ただ今次回のワクチンを国やマスコミを通じて大々的に宣伝させておりますので、多くの国民の不安意識を煽ることが出来ていると思われます」
「仕事が早いな。無知な一般の大衆は不安を煽られれば素直に従順に従うものだ。国や自治体、マスコミから医師、保健師にいたるまで、皆で不安意識を煽るから話が早い。特に日本人は不安に弱く周りに合わせる特性があるから、周囲と一緒でなければ不安になることも良い方向に働いているものだ。推進する中には、単に無知なものがほとんどだが、中には我々の計画を知った上で協力する者や、立場上協力せざるを得ない連中もいるだろう。無知と欺瞞…良い響きだ」
「なるほど…。そして、今回もかなりの収益がありましたね」
「あぁ、もちろんだ。我々は売るだけだ。あとは日本人自らが税金でワクチンを買い、税金で宣伝し、税金で接種させ、健康被害が出れば税金で補償させる。我々は司法にも影響力があるから、補償のタイミングなど自由自在だ。あとは日本人同士で賛成だの反対だの勝手に騒いでいればよい」
「同情するつもりもありませんが、日本人は愚かなものですね…」
「これは我々の計画により愚かとなったのだ。我々は日本支配のために綿密に計画を練り、明治維新から本格的に着手した。脱亜入欧の思想により日本国民に江戸時代を完全に否定させ、さらに日本を戦争に駆り立て敗戦させ、GHQにより事実上の植民地としたのだ。表向きは独立国のように装ってはおるがな。あとは日本人の勤勉さを利用して、教育は将来従順な労働者となるように徹底させ、新聞やテレビは国民を無知のままでいるように仕向け、日本人が稼いだ分は米国債やその他の方法で搾取を続ける。太らせては刈り取る、まさに家畜だ」
「そうだったんですね…しかしなぜに日本に対してそこまで?」
「そうか…教えてやるか。明治維新までの日本、すなわち江戸時代は、本来人間が進むべき真の平和へ向けた、非常に安定的な社会を作り上げていたのだ。有史以来、200年以上単独政権の下で戦争のない平和な時代があったのは、世界でも江戸時代だけだ。我々やアジア諸国が日本に干渉しなければ、おそらくは1000年以上続いたかもしれない。それに伴い科学や芸術は宇宙レベルまで発展していただろう。というのも、江戸の大衆の芸術であった浮世絵は現在でも世界的に評価され欧米人をさえ魅了してやまない。200年でそれだけに到達しうる民族がそれ以上の年月を経過させたのなら…と考えると、我々としては末恐ろしいものを感じるのだ」
「日本はそれほど平和な社会だったのですか!今の日本人はそれを知っているのですか?」
「そこは我々の計画だ。先にも言ったように、明治維新以降はその江戸時代を日本国民に徹底的に否定させ、教育では非常に劣悪な封建主義社会であったと洗脳させた。その甲斐あって、今の日本人は自国民の意識はほぼ消滅して、資本主義的考えに支配されている。我々が何より恐れるのは、日本人がそれらの事実に気づき、自国民の意識を復活させることだ。そうさせないためにも、我々は決して手を緩めることはしない」
「なるほど…確かにそれが起こることは我々にとっては恐ろしいですね…」
「我々は自然と人間が調和して共生するような真の平和など、興味も関心もない。いや、嫌悪すべきものだ。我々が目標とするのは、我々の支配に基づく仮の平和だ。金と欲望、無知と欺瞞、暴力と退廃による、不調和をコントロールした我々のための平和だ。未だ計画は完全に達成されてはいない。最近ではロシアが最大の障壁となっているしな…とにかく、粛々と計画を遂行するのみだ。もちろん、ワクチンもその計画の一部なのだ」
「…そうですね、かしこまりました」
- 創作小説 「ワクチンを巡る人々」第1部 終わり -
続きは創作小説 「ワクチンを巡る人々」第2部をどうぞ。