阿部卓馬ブログ

北海道新ひだか町サポート大使のシンガーソングライターです。ライブ告知、活動情報などを中心に更新しております。

第3話 創造の想像

2010年04月28日 | ひとりごと
一応、続きモノになっています。
第1話 覚悟の祈り
第2話 理由探し

街に着いてから、男はあの手この手で仕事を探し、ようやく古く大きな建物の清掃の仕事を手に入れた。

口ひげをはやした気さくなオーナーは、素性の分からない男を快く雇ってくれた。

オーナー「そんなにたくさんお給料あげられないけどね…まぁ、しばらくやってみてちょ。

で、仕事はこちらの方にいろいろ教えてもらってちょ。」

と、やや腰の曲がったおばあさんを紹介された。おばあさんはジロッと男を見たが、口元だけニヤリと会釈?をして、スタスタと歩いていく。

慌てて男はおばあさんのあとを追いかけた。

男「よろしくお願いします!」

おばあさん「あぁ、よろしく。じゃあさっそくやるかい。

まずは全館ほうきで掃いてくよ。」

と言いながら、掃き掃除を始めた。男も見よう見まねで掃いていく。

男は自分のエネルギーを信じて、無我夢中で仕事に没頭した。そのスピードはおばあさんよりも速く、次々に廊下を綺麗にしていった。そのことに男は少し得意になりながら、さらに仕事を進めた。

と、おばあさんが男に言い放った。

おばあさん「うーん、ダメだね。やり直し。」

その言葉に男は少々面食らい、怪訝な顔をしておばあさんを見た。

おばあさん「なんだい、その顔は。

じゃあ、わしの仕事をしばらく見ていなさいな。」

そう言って再びおばあさんは掃除を始めた。男はばつを悪くしながらも、おばあさんの掃除を眺めた。

最初男は、少々いらだちながら眺めていたが、ふとあることに気付いた。

何度見てもそのおばあさんの動きはとてもゆっくりなものだった。しかし、廊下のホコリはみるみるうちに綺麗になり、その綺麗になった廊下を見ているうちに、気付けばおばあさんはずっと向こうまで掃除を進めていた。

男が自分の掃除した廊下を見てみたら、あちこちにホコリは残っており、目に見える大きなゴミまで残っていた。

おばあさん「なにやっているんだい、あんたも早くやりなさいな。」

ずっと遠くに行ってしまったおばあさんの声がする。男はあわてて掃除を再開したが、今度は丁寧にやっているせいか、おばあさんとの距離はどんどん開いていく。

男はとにかく出来る範囲でがむしゃらにやりながら、おばあさんについていった。



ひと段落し、晴れ上がった空の下、おばあさんとお茶を飲みながらの休憩。

おばあさん「まぁ、なんだかんだよくやってるよ、あんた。

あのときと比べたら随分変わったねぇ。

まぁ、安心しな。あんたはまだまだ変われるから。」

あのときの老人と同じく、初対面のおばあさんの言葉に驚きを感じたが、この一言は男にとって素直に嬉しいものだった。

男「おばあさんはゆっくりやっているようでいて、とても仕事が速いですね。

何かコツとかあるんですか?あれば教えてほしいのですが…」

おばあさんはお茶をひと口すすって、遠くを見ながら言った。

おばあさん「コツ?んなもん、ないねぇ。

なんたって50年もこの仕事してるから、そんな若い衆に負けられんワイ。

まぁ、強いて言えば…あんた、仕事してるとき何を考えながらやっとる?」

男は少し考えて、

男「特に何も考えないで、一生懸命にやるようにしています。

没頭、集中、やっぱりこれが一番でしょう?」

おばあさんはまた、口元だけニヤリとして、こう言った。

おばあさん「まぁ、それはそれでいいワイ。

だけども、それだけじゃあ、なかなか大変なのじゃよ。

どんなに一生懸命にやっても、なかなかうまくいかないことが続くと、イヤになって投げ出したくもなろう。

そうなっては、元も子もなかろうが。」

男は不思議そうな顔でおばあさんを見つめる。

おばあさん「あんた、人間と動物の決定的な違い、って何だかわかるかい?」

男はしばらく考え込んだあと、

男「知能を持っている、ってことですか?」

と答えた。すると、おばあさんはうなずきながら答えた。

おばあさん「まぁ、そういう風にも言えるかの。

しかし、知能は他の動物も少なからず持っておる。

生きるための知恵、とでも言おうか、そうやってしっかり子孫を残しておる。

知能など、それだけあれば十分ではないかの。

ここであんたに教えておこうかの。

人間と動物の決定的違いは、『想像力』じゃ。

もちろん、動物にも想像力はある。

しかしそれは、直近の危険の察知や、今日の餌場探しにしか使わん。

人間の想像力は、それがずーっと延長したようなもんじゃ。

過去と未来に。

本当にずーっとじゃ。

自分の生を通り越すほどずーっとじゃ。

これに、どんな意味があると思う?」

男は、深く考え込んで、ためらいがちに口を開いた。

男「よくはわかりませんが…それが色んな技術の進歩を生み出したりする、ってことですか?」

おばあさん「いいとこついとるナ。

過去の他人の想像による創造を膨らませて、さらに大きな想像をする、それが新しい技術、創造となる。

人間にはそういった無限の想像力というものがあるのじゃ。

そうやって、これまで陸を走り、海を渡り、空を飛んだ。

それらも初めはとんでもない空想、妄想から始まったのじゃ。

しかしこの想像力は、はじめっからふたつに分裂していたのじゃ。

それは『恐怖の想像力』と『希望の想像力』とでも言おうかの。

この二つの想像力が溶け合い、ときにはぶつかり合い、そうして発展してきたのじゃ。

人間にはこのどちらの想像力も持ち合わせておる。

あんたのこれまでの人生を観ると、恐怖の想像力を多用していたようじゃの。

ろくな想像をしてこなかったみたいじゃの、かっかっか。」

男は何となく気分を害して、残りのお茶を一気に飲み干した。

おばあさん「まぁ、それも過去のこと。

紛れもなく、あんたもいまだにどちらの想像力も持ち合わせておる。

ただ、いままで恐怖の想像力しか使ってこなかったのだろうヨ。

まぁ、その話は置いといて、希望の想像力について話してみようかの。

あんた、今この掃除のお仕事について、どれだけの希望を想像できるかの?」

男「うーん、掃除して、綺麗になって、オーナーが喜ぶ…かな?」

おばあさん「まぁ、それぐらいかの、あんたの希望の想像力では。

さっきも話したが、人間の想像力は無限じゃ。

もっともっと希望の想像が出来るのじゃ。もっとやってごらんなさいな。」

男は眉間にしわを寄せて、口を尖らせながらしばらく考え込んで答えた。

男「…綺麗になった廊下をお客様が気持ちよく歩いている、とか、

子供たちが遊んで走って転んでも汚れない、とか…うーん。」

おばあさん「おぉ、なかなか良いではないか!

そうそう、そうやって真剣に希望の想像を働かせるのじゃ。

あんたが仕事をするとき、それを常に意識して仕事をするがよい。

常にじゃぞ。

常に意識して行動していれば、その意識はゆっくりとではあるが無意識に落ち込んでゆく。

あんたの今の無意識は相当汚れとるからなおさらじゃ。

無意識の想像力は強力じゃ。

この過程で、あんたは無意識の恐怖の想像に操られるかもしれん。

『うまくいかなったら…』とか『自分には無理では…』とか。

その恐怖の想像に常に気付いてすぐさまやめて、意識的に希望の想像をするのじゃ。

いずれその希望の想像力が無意識に落ち込めば、

そこから本当の学びがやってくるであろうの。」

男はいまいち意味がわからないまま、おばあさんの次の言葉を待った。

おばあさん「今はお仕事について話したけども、

このことはお仕事だけではないぞ。

日々の生活でも、常に希望の想像力を使うこと。

あんたは手も足も十分動くであろう?

顔も動くんなら表情も作れるだろう?

言葉も喋れるだろう?

考える脳も持っておろう?

それらを動かすとき、逐一希望の想像力を働かせなさい。

あんたの手を動かすとき。

そう動かすことにどんな希望があるのか。

あんたの足を動かして移動でもするとき。

そう動かすことにどんな希望があるのか。

あんたの表情を作るとき。

その表情をすることでどんな希望があるのか。

あんたが言葉を話すとき。

そう言葉を放つことでどんな希望があるのか。

あんたが考え事をするとき。

そう考えることでどんな希望があるのか。

常に希望の想像力と共に、行動するのじゃ。

そうすれば、めったなことは出来なくなるぞ。

まぁ、出来なくなることはほとんどムダなことばかりだから、

生きることがだいぶスリムになるかの。」

男はわかったような、わからないような気分で聞き返した。

男「そんなことって可能でしょうか?

生きていると色んなヤなこともあるし、

そうなったときでも希望を想像するなんて…。

そして、恐怖の想像力ってそんなにムダなことばかりなんですか?」

おばあさん「可能かどうかは、周りを見渡せばわかること。

ようく探してごらん。

活発で笑顔で活動している人は、希望の想像と共にある。

他人から見てイヤなことも、平気でやっているように見える。

そういう人を探して、いろいろ教えてもらえばよい。

学ぶことはたくさんあるだろうヨ。

そして、恐怖の想像力について。

それはあんたが一番知っておろうが。

今まで多用して生きてきたあんたの人生はどうだった?

自分の胸に聞いてみるがよい。

まぁ、あんたの人生がムダだった、と言っているわけではないぞ。

あんたのしてきたことがムダだった、ということじゃ。

恐怖というのは防衛じゃ。

自分を守るために人はどうする?

財産を守るためにセキュリティでもつけるだろう。

権威を守るために規則でがんじがらめにするだろう。

命を守るために武装でもするだろう。

その先にあるのは争いじゃ。

争いが先にあって守るのではない。

守ろうとするから争うのじゃ。

人間の想像力は無限じゃから、

こちらもどうしても過剰になるのう。」

男は胸をえぐられる気持ちになりながらも、その目は真剣な眼差しだった。

男「もう少し教えてください。

希望の想像をしながら行動すると、どうなるのですか?」

おばあさんは穏やかな表情で男に向かって言った。

おばあさん「希望の想像が現実になるんじゃよ。

それを創造、ともいうかの。創り出すのじゃ。

あんたも普段意識していないかもしれないが、

きちんと希望の想像を使っておる。

朝、寝床から起き上がる。

コップ一杯の水を飲む。

朝食を作って食べる。

全部望みどおりになっているではないか。

それが創造というものじゃ。

しかし、頭の中でただ大それた夢を描くだけではいかん。

常に体の動き、行動と共に描くのじゃ。

この腕の動き、この足の動き、この表情の先に、

あんたの描く希望の想像があることを常に意識する。

意識して、意識して、ゆくゆくは無意識で想像する。

そして、いつか目の前に想像の結果が創造されて現れる。

それの繰り返しじゃ。

ここで大事なことを言うぞ。

希望の想像をするときは、初めにまず自分や他人、環境の現状を認めてやることじゃ。

良いときも、悪いときも。

それを完全に受け入れたあとに初めて、希望の想像が沸き起こるであろう。

受け入れないままでは、恐怖の想像が膨らむままじゃ。

受け入れる、とは許すこと。

あんたは宇宙で起こるすべてのことを許すことが出来る。

自分も、他人も、その他生物も、無生物も。

良いことも、悪いことも。

過去も、未来も。

今はただ、あんたがそれらを限定的に選んで許しているだけじゃからの。

許すのにもエネルギーがひつようじゃが、

あんたも持ってる愛、ってやつなら許せるんじゃないかの。

さぁ、長くなってしまったの。

仕事、仕事。」

男は、最後の言葉に身を引き締めながらも、

スタスタ歩いていくおばあさんを尊敬の眼差しで追いかけた。

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