2017年3月23日
奈良地方裁判所御中
陳 述 書
原告 奈良県生駒市壱分町953-3
池田 順作
私は1941年2月9日生まれの76歳です。大学卒業後、大阪の私立高校に理科専任教諭として就職し、65歳で定年退職し、以後理科の非常勤講師として4年間勤務し、69歳で退職し、現在に至っております。
理科教育の関係で、NHKの教養番組、特にサイエンス特集の番組は、優れたものが多く、大変参考になり、何度も理科教育に活用させていただきました。しかし、理科のみならず、私は教員が持つべき一般的素養として、テレビや新聞が報道する幅広い多くの社会的また政治的ニュースに、特に仕事がら平和と人権に関するニュースに興味と関心を持ってきました。
Ⅰ. その中で、私が最初にNHKの放送内容に違和感を持ったのが、2001年1月~2月に教育テレビで4夜連続で放送された「ETV2001 戦争をどう裁くか」の第2回「問われる戦時性暴力」です。これは、戦争中の「慰安婦」問題など日本軍による性暴力の実態を検証しようとしたもので、放送の前年に開かれた、7カ国の団体が国際実行委員会を構成する民衆法廷「女性国際戦犯法廷」に焦点をあてた番組です。
戦争中の人権尊重の観点から編成された4回の放送のうち、他の3回はメッセージが極めて明快で、はっきりしていたのに、この第2回だけは「何をいいたいのかわからない曖昧な番組」でした。後に「女性国際戦犯法廷」実行委員会団体の1つ「バウネットジャパン」が、「法廷」の真実を伝えなかったこの番組作成の真相を求めてNHKを提訴し、この裁判の中でNHKの長井デスク(当時)や永田チーフプロデユーサー(当時)らが、政治的改変の実態を内部告発し勇気をもって真実を証言したこと、2007年1月の第二審東京高裁判決では、NHKが自民党国会議員の発言を「忖度して・・・、その結果修正を繰り返して改編が行われた」と政治介入があったことを認め、NHKに200万円の損害賠償を命じたことは、社会に大きな衝撃を与えました。さらに放送倫理・番組機構BPO放送倫理検証委員会が、「この改変は公共放送の自主・自律を危うくし、視聴者に放送の真実に重大な疑念を抱かせた」と、報道倫理に真正面から向き合った意見書を明らかにしました。
サイエンス関連の番組はともかくとして、社会的・政治的または歴史的問題について、NHKは真実を報道しているだろうか? 今後NHKが、自民党議員やそのときの政権からの有形無形の圧力に抗して、どのように報道しているか、このことが私の大きな関心事になりました。
あの2001年の「問われる戦時性暴力」問題から、NHKはどんな教訓を得て、その後の放送にどう活かされるのか、私は重大な関心をもって見てきました。ところが、高裁判決後NHKが上告し、2008年6月の最高裁判決では政治介入の問題には全く触れず、「編集権の自由」という抽象的一般論に終始して、損害賠償請求を否定してしまったため、これをNHKは「正当な判断」とし、以後この事件について「自らの手で番組改編の真相を明らかにする」ことはありませんでした。蓋をして、この問題から逃げたのです。
Ⅱ. 最近では、2017年1月24日放送のNHK番組「クローズアップ現代+、韓国・過熱する“少女像”問題 初めて語った元慰安婦」の内容が問題です。
日韓両国は、2015年12月に慰安婦問題で合意に達しました。第2次世界大戦当時に日本軍によって慰安婦にさせられた韓国・朝鮮人の多くは未成年でした。強制的に慰安所に閉じ込められ、逃げることもできず、性奴隷にされた少女たちの悲惨な状況を考えるとき、この当事者の方々に何の相談も、まったく1人の意見を聞くこともなく、両国政府によって政治決着されたもので、今日に至っても韓国内の「日韓合意」批判は厳しいものがあります。2017年2月17日に発表された韓国世論調査では、韓国国民の約7割がこの「日韓合意」に反対しています。
いま、なぜ当事者(被害者)や韓国の若い世代が「日韓合意」に抗議し、少女像の設置を進めるか、少女像を自らの分身と言い、愛情を注ぐ多数の被害者の声や、長期にわたる募金活動で少女像を新たに作り、記憶を継承しようとする若い世代の思いを、この番組は伝えていません。
番組キャスターは、「日韓合意は問題解決の最後のチャンス」「どうしたらこの合意を進めていけるか」などと発言し、少女像設置運動や合意反対運動は、当事者を置き去りにして、一部の人達が過熱・先鋭化しているのだ、という番組の立場を伝え、「合意」による「支援金」を受け取った被害者と家族の声は伝えたが、「合意」に反対し「支援金」受け取りを拒否する被害者の声はまったく無視しています。
今日の事態の責任は、被害者に謝罪する意思は「毛頭ない」と言い放つ安倍首相、10億円は「賠償ではない」と繰り返し、被害者の法的賠償請求権を無視し、一貫して「法的に解決済み」と主張する日本政府にあります。これらの政府の言動は、「合意」がいう「日本の反省とお詫び」が、実は口先だけのものだと韓国民に知らしめたのです。
メデイアの役割は、政府の立場を忖度して報道することではなく、「日韓合意」の問題点を客観的に分析し、日韓両国民の多様な意見をさまざまな角度から明らかにすることです。
Ⅲ. 籾井氏がNHK会長に就任して、NHKの今後に私は暗い予感がしておりました。籾井氏は「政府が右というものを左というわけにはいかない」と述べ、NHKは政権の意向を忖度して放送する、と宣言したのです。
2015年は、5月から9月にかけて安保法制の国会審議が行われ、与野党の激突国会となりました。国会内外の動きをどうニュースにまとめて伝えるか、にメデイアの立場が問われます。
国会の審議内容や、国会外の市民や学者の動きのうち、政権にとってマイナスになる内容を、民放は放送したのに、NHKが放送しなかった例はたくさんあります。(時間の関係で、ここでは割愛します)
以上3点は、ほんの1例です。籾井氏から上田氏にNHK会長が交代し、NHKが放送法第4条を本当に遵守して放送するようになることを求めて、私の陳述を終わります。
以上