黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

「ブラック」な法律事務所に務めることの危険

2012-12-08 14:42:38 | 弁護士業務
 最近,このブログでは同業者批判のような記事を連続で書いていますが,似たようなことを指摘している記事は他にも結構あるようです。
<参 照>
法律事務所もブラック化?(PINE's Page)
http://puni.at.webry.info/201212/article_1.html
とりあえず修習生にはご一読頂きたい記事です【就職活動】(弁護士中尾慎吾公式ブログ)
http://www.lawyer-nakao.com/2012/12/blog-post_5.html
失われた環境と「不幸」な新人の関係(元「法律新聞」編集長の弁護士観察日記)
http://kounomaki.blog84.fc2.com/blog-entry-593.html

1 「公募」による就職が増加した背景
 中尾弁護士のブログでも触れられているとおり,昔の法律事務所における弁護士の採用は,ほとんどが紹介によるものでした。もちろん大手の渉外事務所などは例外ですが,一般の個人事務所が新人を採用するという場合,弁護修習で自分のところに来た修習生をそのまま採用するか,弁護修習中に知り合った指導担当弁護士や他の弁護士から修習生を紹介してもらうというのが一般的でした。
 そのような方式のメリットは,「札付き」「ブラック」などと呼ばれている問題のある事務所に,修習生が誤って飛び込んでしまうことを防止することにあります。このような就職形態が一般的であった頃は,むしろ公募で弁護士を探しているような事務所は大抵が「ブラック」だ,などと評されていたくらいです。
 しかし,司法試験の合格者数が急激に増えてきたことにより,このような紹介形式は一般的ではなくなり,特に都市部では規模の大小を問わず,公募による弁護士採用が一般的になってきました。
 具体的な理由は主に2つあり,まず紹介による弁護士採用システムは需要と供給のバランスが安定していることを前提としているため,現在のように司法修習生の数が激増し供給過剰になると,例えば都市部の弁護士が新人弁護士を1人採用したいということで他の弁護士に紹介を依頼すると,その話が広まってたちまち何十人もの修習生が押し寄せて来て収拾がつかなくなる,といった事態に陥ることになります。
 次に,司法試験合格者の数が激増したことによって,司法修習生の質にもばらつきが大きくなった,ということが挙げられます。以前であれば,難易度の高い司法試験により合格者の質もある程度は保証されていたため,自分のところへ来た修習生をそのまま採用してもそれほどの問題はなかったのですが,合格者数が増えてくると,司法修習生の中にも自分のところで採用するのはいかがなものか,と思ってしまうレベルの人が残念ながら増えているようです。もちろん,自分のところで採用できないと思う修習生を,他の事務所に自信を持って紹介できるわけがありませんね。
 もちろん,司法修習生の中にも「この人なら採用してもいい」と思えるようなレベルの人はいるのですが,そのような修習生と就職の話をすると,既に大手事務所などから採用の内定が出ており,さらに裁判所からも引き抜きがかかっているといった状況になっていて,もはや従来の方式では一般の法律事務所が優秀な人材を確保するのは不可能です。
 そのため,司法修習生が史上空前の就職難に見舞われ,司法修習中に事務所を何十軒も回るような必死の就職活動を余儀なくされる一方,既存の法律事務所の側も,新人を採用する際には玉石混淆の修習生の中で少しでもよい人材を見つけようとして,かなりの労力を費やした「採用活動」を余儀なくされているという現実があります。
 最近は単に「公募」という形で修習生を募集するのではなく,サマー・クラークなどと称して司法試験合格前の段階から人を集め,優秀そうな学生や受験生に採用内定を出してしまう(もちろん司法試験に落ちた場合は内定取消し)といったことを中小の法律事務所までがやるようになりましたから,司法試験に合格してから就職活動をする,あるいは司法試験に合格した修習生を対象に公募の採用活動をするというのは,もはや手遅れという時代が到来しつつあるのかも知れません。

2 「公募」による採用システムの問題点
 用語を使い分けるのは面倒なので,以下修習生を対象とした採用募集と司法試験合格前の法科大学院生や受験生を対象とした青田買いを特に区別せず,まとめて単に「公募」と呼ぶことにしますが,公募による採用システムでは,就職する側の情報量が少なすぎるという問題点があります。
 法律事務所の中には明らかに問題がある事務所,すなわち懲戒請求の事案として度々ボス弁の名前が挙がっていて,しかもその内容をみると,懲戒請求の原因が明らかにボス弁の業務に対する考え方やキャラクターに由来していると思われる事務所(以下,このような事務所を「ブラック事務所」と定義します)が少なからずあるわけですが,ある事務所が「ブラック事務所」であるか否かは,ほとんど同業者にしか判断できません。
 そのため,多くの修習生はある「ブラック事務所」から就職内定をもらうと,その事務所が「ブラック事務所」であることを知らないまま就職してしまうことになります。また,就職内定先がブラック事務所らしいという噂を聞いても,ブラック事務所の怖さを真の意味で理解できていないためそのまま就職してしまったり,あるいは「他に行けるところがないから」という理由で仕方なくそのまま就職してしまうという例も,決して少なくないと思います。
 一方で,「ブラック事務所」は怖いという認識を持っている修習生であっても,一般市民向けの法律事務所が「ブラック事務所」であるか否かを自分の目で判断することは通常不可能であるため,自分がブラック事務所に「就職してしまう」リスクを回避する手段は,大手渉外事務所や企業法務で定評のある法律事務所に就職するか,あるいはどこの事務所にも就職せず即独するかの二択しかなく,そのため企業法務の事務所ばかりに修習生の応募が殺到する,という結果も生んでいます。

3 「ブラック事務所」の恐ろしさ
 一口に「ブラック事務所」といってもその内実は様々だと思いますが,一般的に「ブラック事務所」と言われるところは,違法すれすれの危ない業務でも,時にはあからさまに違法な業務でも平然と手を出すことが特徴であり,同業者の非難にもかかわらずブラックな需要に応える(あるいは弱い依頼者を食い物にする)ことで生き残っている法律事務所です。
 そういうところで働く弁護士は,たとえ違法不当な業務であってもボスの命令であれば指示通りに動く必要があり,なまじ正義感や倫理感が強い人は,そのうち良心の呵責に耐えられなくなってきます。
 また,ブラック事務所は一般に利益至上主義で行動しており,後進の育成などにはほとんど関心を示しませんから,使えないと判断した新人はすぐに切ります。できるはずのない高度な訴状の作成をいきなり命じたり,高度な法律の問題で質問攻めにしたり,明らかに理不尽な理由で叱責を繰り返したり。
 こうして,「ブラック事務所」に就職してしまった新人弁護士の多くは,早ければわずか数ヶ月ほどの短期間で,心身共に疲弊しきって自主退職せざるを得ないことになります。退職した人の多くは他の就職先を探すか独立することになるのでしょうが,どちらも非常に厳しいいばらの道であることは言うまでもありません。弁護士登録を抹消して弁護士を廃業する人も確実に増えているようです。
 最近は「ブラック事務所」とまでは言えない一般の事務所でも,過当競争による経営難で事務所の利益を第一に考えざるを得なくなり,後進の育成に関心を示す余裕がなくなっていること,基礎的な法的素養が不十分で使い物にならない新人も増えていることから,新人弁護士への態度は「ブラック事務所」と変わらないと思われるところが増えています。
 なお,大手の渉外事務所や企業法務の事務所では,業務の質を確保するため,新人弁護士を多めに入れて内部競争で淘汰するということをかなり以前からやっていますので,もはや今どきの修習生は,どこの事務所に就職する場合でも,使えないと判断されたらごく短期間で切られるということを覚悟しなければなりません。
 かく言う黒猫自身,最初に務めた事務所は公募で入ったところで,紛れもない「ブラック事務所」でもありましたが,悪いところは巧妙に隠されていて,最初のうちは「ブラック事務所」だと気付きませんでした。結局その事務所は4年で辞めましたが,次に入ったところもブラックに近いところで,その過程で精神的におかしくなってしまい,今でも回復の目途は立っていません。
 ちなみに,心身の故障のため弁護士業務を行うことが出来ない者については,申請により日弁連や所属弁護士会の会費を免除される制度がありますが,単に収入が低いというだけでは会費の免除は認められておらず,おまけに日弁連や所属弁護士会の会費は登録年数が増えていくほど増加していく仕組みになっており,最終的には年間約60万円とか,所属弁護士会によっては年間100万円以上(プラス長時間拘束される様々な会務負担)といったとんでもない高水準にまで跳ね上がるため,現行制度の下では病気にならなかった人の方が弁護士登録を維持するのが難しいというおかしな現象が発生しています。10年後の日弁連は,会員が病人だらけになるのではないでしょうか。

4 求められる「正しい判断」とは
 中尾弁護士は,従来であれば勤務弁護士を採用することが難しかった事務所(この記事でいうブラック事務所)であっても,勤務弁護士を採用することが容易となった,(修習生は)その事実から目を逸らさずに常時正しい判断をせよと忠告されており,その忠告自体は正しいと思いますが,同時にその忠告がどこまで現実的か,という点には疑問を持たざるを得ません。
 東京などの大都市部で弁護士が独立して事務所を立ち上げるのは,いまや経験者でさえ極めて難しい時代ですから,新人が事務所を作って独立したところで,おそらく9割以上は数年で貯蓄が尽きて実質的廃業を余儀なくされるのが関の山でしょう。
 もちろん,今の修習生には間違っても「ブラック事務所」に就職して黒猫のようになって欲しくはありませんが,では何が「正しい判断」かと言われるとお答えのしようがなく,そもそも法曹や弁護士への道を選ぶかという場面で「正しい判断」をすべきであるという結論に行き着かざるを得ません。
 最近は,経済不況の影響で法曹界のみならずどこでも就職は厳しい状態であり,法科大学院でこれ以上勉強を続けるかという段階でも,新司法試験の勉強をこれ以上続けるかという段階でも,司法修習に行くかという段階でも,新人弁護士として就職するという段階でも,就職先がなく「他に行く道がないから」という理由で,とても正しいとは思えない判断を余儀なくされている人が少なくありません。
 それどころか,学生が法科大学院に入学するか判断する場でさえも,就職もできず「他に行く道がないから」という理由で,やむを得ず法科大学院進学を決断する人がいると聞いています。黒猫としてはさすがにその判断はおかしい,特に中堅以下の法科大学院に敢えて入学するくらいなら他にましな道は探せばきっとあると強く訴えたいところですが,実際にはそういう「正しい判断」のできない人ばかりが法科大学院に入ってくるのですから,入学後の進路についても「正しい判断」ができない人が多いのはある意味当然のことなのかも知れません。
 また,真剣に勉強して司法試験に合格したところで,ごく一部の優等生を除いてはその先の進路に希望を持てないわけですから,司法試験の勉強に身が入らない法科大学院生が多くなるのもある意味当然であり,司法試験合格者の質の低下に関し,法科大学院生や受験生ばかりを責めるわけにも行かないのでしょう。
 最近は,黒猫のみならず弁護士業界内部の黒い内幕を吐露してしまう弁護士が多くなってきたようですが,これは法曹養成制度のあり方を決定する政治家や一般市民が「正しい判断」をしてくれない限り,もはや司法内部の自助努力ではどうにもならない事態に陥っている,という認識が広まっていることの表れかも知れません。

14 コメント

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同期の近況 (bazz)
2012-12-08 16:49:45
就職できなかった人も含め、修習終了後1年以内に、何らかの形で失業を経験した人は、うちの修習地では25%です。2年以内だと33%です。弁護士事務所に就職できずに民間企業に行った人を加えると41%です。
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Unknown (世も末)
2012-12-08 19:24:39
いつも拝見しております。
何からの形(クラスアクションなど)で訴訟を提起するなどして、警鐘を鳴らす必要があるでしょう。そうでもしなければ、正しい情報は流されないでっしょうから。
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Unknown (Unknown)
2012-12-08 19:32:09
就職率を数字上引き上げてくれるブラック事務所は、法科大学院関係者や弁護士会の法科大学院大好きっこの先生たちの救世主じゃないの?
1年でやめても就職は就職。司法試験受かれば就職先はあるよってね。就職できないなんて嘘だよっていえるもんね。
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Unknown (Unknown)
2012-12-08 21:55:57
弁護士会に弁護士の廃業転職を支援する委員会ぐらい作らないといけないでしょうね。
まだ若い人であれば経歴を生かした転職も可能でしょうし,むしろ先行きの暗い弁護士にとどまるよりも幸せな人生になるかもしれません。
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皮肉ですね (現役ロー生)
2012-12-08 23:18:06
市場原理信仰者(≒弁護士増員賛成派)は、先生のおっしゃるような「ブラック事務所」が淘汰されることを望んでいたのでしょうが、割りを食っているのは純粋な(?)新人、修習生ってことですね。

これは経済学で言われていることですが、新自由主義とか市場原理を説いた学者は、概して労働市場がどう変化するかを考慮しないんだそうです。日本の弁護士業界で起きていることをみると、正しく前述の労働市場の変化を考慮しなかったツケが起きている様な気がします。とくに経済学にそれほど詳しくない弁護士が推し進めただけあって無残すぎる(笑)。

修習生になった時にブラック事務所に引っかからないよう、アンテナを張っておくことにします。それ以前に修習生になれるのかもわかりませんが。
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ブラックの意味 (Unknown)
2012-12-09 04:10:49
15年以上前に考えられていた所謂ブラック事務所というのは、違法なことをするとか、違法ぎりぎりなことをするとか、ヤクザ関係の会社の顧問をしているという意味でした。しかし、このブログでのブラック事務所には、そのような事情がなくても劣悪な環境下で弁護士を働かせる事務所も含んでいるように読めます。

劣悪な環境下で働かせるという意味でのブラック事務所は、下記に述べるような事情から、現在の体制では避けようがないと思います。経営者の立場で考えてみてください。

弁護士事務所は大手であっても従業員が500人以下の中小企業で、その大半が、従業員50人以下の企業で言えば零細企業です。零細企業として様々な不利益があります。
また、仕事の性質からいって、事務所収入が多い月、少ない月、仕事が多い月、少ない月と波が出てくるわけです。昔はこれを月額の顧問料でカバーしていましたが、顧問契約は年々減っています。すると、収入が少ない月のことを考えて、固定費である給料を安く抑えようと安い給料で少数を雇用し、仕事が多い月には少ない人数で大量の仕事をこなすために残業せざるを得なくなります。
競争が激しくなってくると、利益ぎりぎりの料金で仕事をこなさざるを得ないので、もっと劣悪な環境下で働かざるを得ないことになります。
これから、劣悪な環境下で勤務弁護士を働かせる事務所という意味でのブラック事務所が増えることは間違いないでしょう。
不可避だと思います。
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同期の近況2 (bazz)
2012-12-09 15:44:54
不本意に法テラスに就職した人、不本意に縁もゆかりもない土地で就職した人、司法修習生を下回る不本意な低賃金で働いている人などを加えると、余裕で50%超えます。
つまり、法科大学院に進学すると7割以上の人が法曹になれず、法曹になれても、半分以上の人は不本意な何らかの形で失業や不本意な就職を経験するわけです。もはやブラック事務所が問題というよりは、業界そのものがブラック化していると言って良いでしょう。
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Unknown (Unknown)
2012-12-09 23:17:42
今なら弁護士は月給25万固定、ボーナスなしで雇えますよ。
ヤクザの見方でも、ブラック企業で労災や違法な営業の証拠隠しの指南をする役でも、やってくれるようになるでしょう。たまに行書がやってるように、戸籍等の職務上請求も23条照会も、金払えばやってくれるようになるでしょう。

するとどうなるか。

気づいた時に、淘汰に任せればよい?
ええ、その頃には、日本全土が、焦土になってるのではないでしょうか。
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Unknown (Unknown)
2012-12-09 23:36:15
他士業の人たちは法律違反の依頼にも柔軟に対応されていますよ。
弁護士も法律やへりくつをひねり回してばかりいないで、気に入らない相手を一発殴ってきてほしいという依頼にも応じるくらい「市民感覚」をもって仕事をしていかないと競争に負けてしまいますよ。
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Unknown (Unknown)
2012-12-10 20:08:57
確かに・・・。
返り討ちを食らわないように、鍛えないと。
あと、証拠を残さない闇打ちの仕方を研究しないと生き残れないね(捕まっちゃうから)。
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