黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

OJTを拒む「我流」弁護士の弊害

2013-04-20 08:29:52 | 弁護士業務
 今日は,新人・若手弁護士のOJT問題について,若干思ったことを書きます。

『OJTの必要性』(イデア綜合法律事務所・坂野真一先生のブログより)
http://www.idea-law.jp/sakano/blog/archives/2013/04/19.html
 これは昨日(4月19日)付けで公表された記事ですが,要するに早期独立者と思われる弁護士が代理人に就いて顧問先に訴えを起こしてきて,その訴状がかなり杜撰な内容だったというお話です。たぶん,このようなお話は,今どきの弁護士業界ではありふれたものになっているのだろうと思います。

 一般的に,旧試験時代の弁護士は,司法試験に合格した後2年間(期によっては1年6ヶ月)の司法修習を経て弁護士登録するわけですが,弁護士登録すれば直ちに通常の訴訟業務をこなせる,というわけではありません。弁護士になってから学ぶことも山ほどあり,また実務の流儀に慣れるにも時間がかかりますので,少なくとも最初の1~2年は弁護士として修行の時期です。
 黒猫自身もその例外ではなく,良いボスに恵まれなかったこともあり最初の1~2年は特に苦労した記憶があります。裁判官に怒られながらも,何が問題なのかを自分なりに検討し改善を図っていく,そんなプロセスの繰り返しでした。そういう自覚があったからこそ,弁護士を長くやっているベテラン先生の意見は有り難く拝聴し,それを自分の見識に取り入れていったわけです。
 それが新60期以降になると,司法試験の受験には原則として法科大学院の終了が義務づけられたものの,そこで実務の役に立つような教育をやっているというわけでもなく,合格者数を増やしたため司法試験の合格レベルは下がり,司法修習は1年間に短縮されて内容も相当薄くなり,従来よりもかなり未熟な状態で弁護士として実務に放り出されるわけですから,旧試験時代の弁護士以上に,弁護士になってからの研鑽(OJT)が重要です。
 旧試験時代の弁護士なら当然そのように考えると思いますが,どうやら新試験時代の弁護士は,必ずしもそのような考え方をしないようです。
 このような論理に照らせば,新試験時代の弁護士は旧試験時代の弁護士より質的に劣っているという結論になりがちですが,彼らは自分たちのアイデンティティを維持するために,このような論理に反駁しようとします。

 パターン1。自分たちは法科大学院で高度な教育を受け,法務博士の学位も受けている。一方,旧試験時代の弁護士は大半が大学卒であり,博士号など持っていない。だから,旧試験時代の弁護士より自分たちの方が偉いんだ。法科大学院の先生も,法科大学院で高度な教育を受けた君たちに,旧試験時代の弁護士は絶対敵わないと太鼓判を押してくれた。・・・・・・
 今日ではジョークにしか聞こえませんが,特に制度発足当初には,このように信じ込んでいる新人弁護士が相当数いたようです。ひょっとしたら今でもいるかも知れません。

 パターン2。自分たちが合格した新司法試験は,旧司法試験と異なり行政法が必修科目となり,商法や民事訴訟法・刑事訴訟法の択一も出題されている。旧試験時代にはなかった選択科目の知的財産法や租税法,環境法なども勉強している。だから自分たちの方が偉いんだ。・・・・・・

 パターン3。旧試験時代の弁護士はずいぶん偉そうにしているが,彼らの中にも出来の悪い奴は相当いるじゃないか。・・・・・・

 このような主張の当否には敢えて触れませんが,彼らはとにかく必死で,自分たちは旧試験時代の弁護士より優れているんだ,という理屈を必死に考え出そうとし,そのように思い込もうとします。そのため,彼らは旧試験時代の弁護士から助言や指摘を受けても,なかなか受け入れようとしません。必死になって「自分の方が正しいんだ」という理屈を考え出そうとしたり,あるいは「傲慢に上から目線で物を言いやがって」などと感情的に反発したりします。
 もちろん,新試験時代の弁護士すべてがそのように考えているわけではなく,少なくとも従来の法律事務所に就職して相当期間勤務できている人は,少なくとも旧試験時代の弁護士と同程度かそれ以上の謙虚さを持ち合わせている可能性が高いと言えますが,既存の法律事務所に就職できず即独した人,あるいは既存の法律事務所に一度は就職しても,早期に退職して独立した人については,上記のように考える傾向が特に強いです。
 彼らは,経済的にも極めて厳しい環境にありますから,そのような環境を生き抜いて行くには,自分たちは優れた人間であるという強固なアイデンティティを持つことが不可欠なのかも知れません。しかし,そのような思考で弁護士業務をやっていると,誰からの助言も聞き入れず,仕事のやり方が法的に間違っていることにすら気付かないまま,ひたすら「我流」を押し通すということになりがちです。もちろん,旧試験時代にもそういう弁護士はいましたが,新試験時代になると,法曹人口の激増,司法試験の合格水準低下,司法修習の希薄化・形骸化,就職機会の減少,新旧弁護士の世代間対立等が重なり,旧試験時代とは比較にならない規模で,そういう「我流」弁護士を大量発生させる土壌が出来てしまっています。

 例えば,冒頭に挙げた坂野弁護士のブログで槍玉に挙げられた早期独立弁護士(名前は知りません)が,仮に当該記事を読んだとして,「ああ,やらかした。次からはこういう失敗はしないようにしよう」と考える人であれば,現在は未熟であっても弁護士としてはまだ救いようがあります。しかし,その人が上記のような「我流」弁護士であれば,きっとこのように考えるでしょう。
「おのれ,坂野弁護士め。俺が作った訴状のどうでもいいような細かい欠点をあげつらって偉そうにしているが,あいつだって民事訴訟規則のことを『民訴法規則』なんて書いてるじゃないか。あんな傲慢な弁護士はいつか潰してやる」
 念のために言っておきますが,黒猫自身がこのように思っているわけでは決してないですよ。
 それはともかく,確率としては「我流」弁護士である可能性の方がかなり高いでしょうから,坂野弁護士は個人的な恨みを買う一方,坂野弁護士が指摘されたような訴状の欠陥は今後も是正されない可能性が,残念ながら非常に高いということです。各地の弁護士会では,OJTの機会が不足している新人弁護士の事情に配慮して,チューターとか兄弁・姉弁とか,色々な業務のサポート制度を設けているところもありますが,そういう制度は自己研鑽の必要性を自覚している弁護士しか利用しませんので,「我流」弁護士にはおそらく何の効果もありません。

 「我流」弁護士は,知らず知らずのうちに違法なことをやってしまう可能性があるため,最悪の場合裁判沙汰になってしまうこともあります。最近問題になった事例として,最判平成25年4月16日は,任意整理事件を受任した弁護士が,和解案(元本債務の8割を一括して支払い,その余は免除するというもの)を業者に提示すると同時に,和解に応じなかった場合は放置して時効の完成を待つという方針を採り,依頼者に解任された挙げ句,後任の弁護士を代理人として依頼者の相続人から損害賠償を請求され,最高裁が事件処理の違法性を認めたというものがあります。
 依頼者がすっからかんで自己破産すらできないような事案であればともかく,元本の8割を一括返済できるような事案で安易に「時効援用待ち」をするというのは,いろいろな意味であり得ない事件処理だと思いますが,この判決について出された日弁連コメントを読むと,この訴えられた弁護士は日弁連の公設事務所である奄美ひまわり基金法律事務所の初代所長で,本件のみならず多くの依頼者から苦情が出ていたため,苦情に対応するため専用のホットラインまで設けているそうです。
 過疎地の公設事務所については,当初はある程度のベテラン弁護士を送り出す構想であったものの,希望者が集まらなかったので,急遽仕事にあぶれている新人弁護士を大量に雇用して過疎地に送り出したという事情があり,たぶんこの弁護士も未熟な状態でそのまま奄美に送り出されて「我流」弁護士になってしまったのだろうと思いますが,公設事務所の弁護士さえそんな体たらくでは,他の若手弁護士も本当に大丈夫なのか,という不安に繋がりかねません。再発防止策というのも,新人弁護士の質が年々下がっていく現状では,一体何処まで効果があるか分かりません。
 また,4月19日付け毎日新聞記事によると,窃盗罪などで公判中の被告人が,無罪判決を得るため「俺の言うとおり公判で訂正しろよ」などと書いた文書を弁護士に渡し,その弁護士が文書を証人に見せたりして,その弁護士も偽証教唆容疑で逮捕されたそうです。逮捕された弁護士は黒猫より若干年上なので50期台という可能性もありますが,これも「我流」で弁護士業を続けた結果,自分のやっていることが違法だと気付かないまま違法行為に手を染めてしまった可能性は大いにあります。

 「我流」弁護士が,最終的に裁判や懲戒手続きによってその資格を失ってしまう可能性は高いですし,そこまでには至らなかったとしても,法的におかしな事件処理によって依頼者や裁判所の信頼を失ってしまう可能性は大いにありますが,先輩弁護士の助言を聞き入れようとしないというその性質上,弁護士業界内部の努力によってその弊害を未然に防止するというのは,自ずと限界があるものです。
 些末な私事になりますが,最近他の弁護士さん(若手の早期独立者と思われる)のブログを見たところ,法的に問題のある刑事弁護活動を自慢げに書いていたような記事があったので,要らぬお世話と思いつつコメント欄でその問題点を指摘したところ,案の定逆ギレされました。懲りたので今後は似たような記事があっても放置するしかありませんが,このように法的知識も実務経験も未熟な状態で弁護士としての独立を許してしまうと,しばしば誰にも手が付けられないような状態になってしまうのです。
 同業者としては,もはやそんな弁護士は自己責任でやって行けばいいと突き放すしかなく,中にはひどい弁護士が沢山いる,でもうちの弁護士は違うんだと熱心に宣伝している事務所もあります(代表例:みずほ中央法律事務所)。また,弁護士業界の中には,もはや弁護士がいくら増えたって構わん,他の弁護士との差別化を図れば自分は生き残れる,法曹人口拡大に反対する弁護士は競争に生き残れる自信がないだけだなどと主張する人もいます。
 でも,既存の弁護士サイドから見ればそれでいいとしても,生き残りを賭けて必死の営業活動をする「我流」弁護士の被害を受けた一般市民の立場はどうなるのでしょうか。自分が生き残れるから法曹人口増大に反対しないという弁護士には,既に公共的な使命感といったものが欠如しているのではないかという気がしますし,少なくとも黒猫としては,そこまで良心の欠けた弁護士にはなりたくないという思いが強くあります。国の政策のあり方に関する問題と,そこで自分が生き残れるかという問題はあくまで別次元の話です。

 もはや,こうなってしまった以上個人で出来ることには限界がありますが,これから司法試験を受ける皆さん,これから弁護士になる皆さんは,司法試験に合格したから勉強は終わりなどと考えるのではなく,例え気に入らない相手であっても,先輩法曹の言うことは素直に聞き入れるという謙虚さを持ってください。それから,弁護士業務は単なるサービス業ではなく,一歩間違えれば自分が犯罪者になってしまうという危機意識を持って仕事に臨んでください。先輩法曹の言うことを無視して「我流」弁護士になっても,おそらく良いことは何もありません。

19 コメント

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Unknown (Unknown)
2013-04-20 09:27:02
> また,弁護士業界の中には,もはや弁護士がいくら増えたって構わん,他の弁護士との差別化を図れば自分は生き残れる,法曹人口拡大に反対する弁護士は競争に生き残れる自信がないだけだなどと主張する人もいます。

最近多いのはこれですね。
空元気ステマ。

でもこれは政策論ではなく、自己アピールですからね。

ただ、そうやって謙虚さを捨てないと業務拡大しづらい現実があるんですけど。
Unknown (Unknown)
2013-04-20 09:47:31
ローにお金払って合格率ゆるい側の受験資格を買った事へのコンプレックスが、
悪い方向に出てしまってる人が、一部いるのかもしれませんね
Unknown (Unknown)
2013-04-20 11:23:15

自己矛盾を解消できないまま時間が経っていく・・・認知的不協和ってやつですかねえ。

Unknown (貧乏人)
2013-04-20 13:10:39
「酸っぱいブドウ」の逆に「甘いレモン」というのがあるそうですが、それでしょうか。

Unknown (産めよ増やせよの時代は通り過ぎた)
2013-04-20 14:43:21
旧試験時代、民訴刑訴の両訴選択が必須になった頃で、不得手な実務家をある程度防止し、あとはじっくり2年間で研修所のカリキュラムに学びながら、実務修習中、ある事務所の先生と出会い、自然とその事務所で独立するまでお世話になって、ボス弁に仕事をもらいながら、時に恥さらししながら仕事をおぼえていったが、今はライバルとなる相手を増やしたがらない雰囲気が事務所同士でも広がっている。

見做し公務員と言われた頃、修習先で事務所先生の奢りで飲んだり社交を身につけたりしたが、和やかな一場面もうない。今の時代、紛争の未然防止こそ企業間のコンプライアンスな時代、顧問契約もいまや営業の力しだい、顧問先に使われるという覚悟の訓練も必要では。
Unknown (Unknown)
2013-04-20 19:23:22
両訴必須になったころは1年半修習でしょうが。
Unknown (民草)
2013-04-20 19:28:32
資質を疑ってしまうような弁護士の増加と合格者の増加に相関関係はあるのでしょうか?そうであるなら、法科大学院制度は現状維持しつつ、合格者数だけ減らせば良さそうですね(設立の理念はさておき)。
すると、法科大学院について否定的な弁護士先生方も井上正仁先生と共闘できそうです。いかがでしょうか?
これは旧試験に合格している先生方へお尋ねしたいのですが、先輩弁護士の指導を聞かない若手弁護士は以前から一定数存在していたと思うのです。そのような“旧試験”合格組の弁護士が過誤を引き起こす点について、弁護士会・先輩弁護士はどのような手当をなさっていたのでしょうか。消費者(国民)に、このような配慮をすることなく、増員反対を主張なさるなら既得権益擁護の謗りは免れないと思うのです。

一方で大学院に関わる直接の当事者である学生にとっては、法科大学院は「受かる・受かる」詐欺みたいなものだと思います。この「受かる」には『収入が約束された社会的地位の獲得』というものを含意しているのですが。とするなら、社会に良くあるカネを巻き上げる手口の一つですね。ただ、首謀者が1流大学の教授なので目が眩んでしまうのでしょう。これも成人である以上、自己責任。佐藤先生ならこれも市民社会における自己実現。と、のたまうかもしれませんけれど。

要するに、リーガルサービスの受益者・消費者たる国民ならびに大学院商法の被害者たる学生という法曹界の外にいる者の利益擁護を声高に叫ばない限り、弁護士の公共的な使命感に基づく立論でななく、既得権擁護での増員反対であると疑いを抱かれてしまうのではないでしょうか。
Unknown (民草さんへ)
2013-04-20 20:34:09
弁護士の数が多くて、競争の激しいアメリカではこんな事が起こっています。
http://americanlegalsysteminfo.blogspot.com/2012/10/blog-post_31.html
増員が国民のためになるとはとても思えません。
Unknown (Unknown)
2013-04-20 20:59:26
そもそも大学周辺既得権益を強化するための、ロー通過者限定大増員なんだけどね
ネット上に見られる
「司法改革が国民を無視した既得権益強化するのには特に文句言わないが、
司法改革反対派にだけは既得権益保持だと叩く人」
の発想が理解できない
Unknown (Unknown)
2013-04-20 21:38:14
引用されているブログは拝読しましたが、前半は、枝葉末節についてあげつらっているというイメージしかありません。
まあ、執行できない請求の趣旨に問題は残るでしょうが。
ただ、ロー弁にOJTが必要かというと、本人が要らないという以上周りがお節介を焼くことないと思うのです。
どれだけありがたいかという認識もないのですから、無視するのが一番。
国民は法科大学院の教授ほどバカじゃありませんので、自分の人生を委ねるのに適しているかどうかは察知すると思います(そのうち)。そのために今経験の足りない弁護士にめちゃくちゃされるのも必要なプロセスなのではないでしょうか。
私としては、製造物責任法に基づいて法科大学院を被告に出来るという法改正を望みたいのですが。