黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

「弁護士は敷居が高い」と言われるけれど・・・

2006-11-21 03:52:02 | 弁護士業務
 司法制度に関する問題点の1つとして、日本の弁護士は「敷居が高い」などといったことがよく言われますが、実際に弁護士の仕事をやっていると、そもそも敷居が高いって一体何を意味するんだろう、と思うことがよくあります。今回は、このあたりの事情について考えてみます。

 実際に弁護士の仕事をしていると、常識では考えられないような「質の悪い」依頼者に出くわすことがよくあります。このようなことを書くと、法曹以外の人からは「何をもって質が悪いと決め付けるんだ」などといわれそうですが、以下に挙げる何点かの具体例を読んでいただければ、おおよそ言いたいことは理解して頂けるのではないかと思われます。

1 相談案件
 まず、法律相談だけの案件については、仮に質が悪くても実害は少ないのでまだよいのですが、本当にいろいろな人がいます。
 まず、明らかに精神状態がおかしい人。隣の家から電波が降ってくるから刑事告訴したいとか、どこへ行っても常に周囲の人から監視され続けているとか言ってくる人がいるということは以前にも書きましたが、実際には精神疾患を抱えているのに自分ではそれを自覚していない人の場合、自分が人権を侵害されているものと勘違いして、精神科医ではなく弁護士に相談に来てしまうわけです。こういう人が来ても、安易に精神科医に観てもらったほうが良いなどといったら逆切れされてしまう危険性があるので、実際には「証拠が無ければどうしようもない」などと言ってなだめて帰すくらいしか方法は無いのですが。
 また、黒猫の場合はあまり実例に出くわさないのですが、特に地方に行くと、これは法律相談ではなく単なる人生相談じゃないかというような相談が結構あるようです。
 ちなみに、黒猫は事務所の電子掲示板で無料法律相談を受け付けていますが、無料であるのをいいことに、何かどうでもいいようなことを聞いてくる人も結構いますね。
 最近来た相談の中で一番ひどかったのは、おそらく2chの掲示板で、「腐女子=セクハラ虐め」などといったタイトルのスレッドを立てて、内容が「腐女子を徹底的にいじめよう」「腐女子を○○(性行為)の刑に架けちゃうよ~」「まずは椅子に拘束して身動きできなくしてやる。その後○○の刑をしてやる。解放なんかさしてあげないよ~。じゃあどこの腐女子が○○の刑の餌食になっちゃうのかな~。」云々といった書き込みをした場合、これは犯罪予告になるのかだとか、医師から診断書をもらえば心身喪失と認められるかなどとしつこく聞かれた相談で、これには黒猫も最後にはぶち切れてしまいました。
 あと、これは事務所の掲示板での話ではありませんが、どこかのマンションを購入したらタレントの藤原紀香が付いていたというようなCMが放映されていた時期、このようなCMをしたら本当に藤原紀香が付いているものと誤認する消費者がいるかもしれないから違法ではないか、と聞かれたことがあり、このときは一応真面目に答えましたが、内心「こいつは弁護士を馬鹿にしているのか」とはらわたが煮えくり返っていました。
 世間一般には「弁護士の敷居が高い」などと良く言われますが、実際に相談を受けている側から見ると、実際にはこんなろくでもないことで相談に来る人がいるじゃないか、どこが「敷居が高い」んだ、と言いたい気分になります。

2 民事事件案件
 単なる相談だけの案件であれば、質が悪いといってもそれほどの実害はありませんが、実際に「質が悪い」依頼者から訴訟などの民事事件を受任してしまうと、大変なことになったりします。
 まず、あまりやる気のない依頼者。自分から訴訟事件を依頼してきたくせに、途中で面倒くさくなったのか、訴訟に必要な証拠資料をいくら催促しても出してこなかったり、期日間の打ち合わせにもなかなか出てこなかったりする人がたまにいます。
 次に、法律上無茶な要求に固執し、それが実現しないと弁護士のせいにする依頼者。以前、ある民事事件を受任していたとき、依頼者が証人を最低5人立てるなどと言い出すので、一体誰を証人として呼ぶつもりなのか、各証人ごとに立証趣旨を説明し尋問の必要性が認められなければ裁判所が採用しないと説明したら、いきなり解任されたことがありましたね。しかも「若すぎて訴訟のことがよく分かっていない」などと言われて。分かっていないのはどっちだ。
 また、露骨な嘘をつく依頼者。これは黒猫が受任した事件ではなく、他の弁護士から聴いた話ですが、ある女性の労働者が、自分は正社員なのに賞与がもらえないと訴えてきて、たしかに就業規則にも賞与の規定があり、事務所のボスにも「これなら勝てる」と言われたので受任し訴えを起こしたところ、実際にはその女性は正社員ではなくパートで、当然訴訟には負けたということがあったそうです。自分が正社員かパートか分からないなんて人はそういないでしょうから、おそらく依頼者が嘘をついたんでしょうね。どうしてそんな嘘をつくのか分かりませんが。
 そして、最もひどいのが、結果の不確実な事件を無理に頼み込んできて、いざ負けると「弁護過誤だ」などといって騒ぎ立てる依頼者。特に女性の依頼者の場合、受任時に「この事件では必ず勝てるとは限らないよ」と何度念を押しても、時間が経つと勝手に「自分は必ず勝てる」と思い込み、自分の期待通りの結果が出ないと弁護活動の些細な点まで問題にして弁護過誤だ、慰謝料を払えなどと言ってくる人が、実は結構います。弁護士の中には、過去に女性の依頼者から受任した事件でこのようなひどい目にあったせいか、「おばさんからの事件は絶対受任しない。おばさんからの事件をうまく処理できるようになったら大したものだ」と広言したり、過去に女性側の離婚事件をやって散々な目にあったので「自分は女性の離婚事件は絶対に受任しない」と言ったりする人もいるようです。
 このような、「質の悪い」依頼者の事件を受任してしまうと、着手金を全額叩き返して辞任という形で済むならまだ良い方で、弁護士会の紛議調停や訴訟まで起こされてしまうケースもあるので、結局は大赤字になってしまいます。
 弁護士や法律事務所の広告は、電話帳のほか電車内でも良く見かけますが、実際には広告を見て相談に来る依頼者にはろくな人がおらず、わざわざお金を出して広告してもそれに見合った収益にはつながらない、と言う弁護士もいます(ただし、後述する債務整理事件は除く)。
 また、世の中には、誰かの紹介があった人の事件しか受任しないという、世間一般から観ればなんて閉鎖的な、それで食べていけるのかと思われそうな仕事の仕方をする弁護士もいますが、実際にはむしろそうやって依頼者の選別を図ることで、大赤字になる「質の悪い」依頼者の事件を受けずに済むので、顧問先などを確保していればむしろそのようが経営上効率がよいというのが実態のようです。

3 債務整理事件
 債務整理は民事事件の一種ですが、依頼者の質などといった観点では通常の民事事件とかなり事情が異なるので、項を改めて述べることにします。
 債務整理事件、特に自己破産事件の場合には、仮に免責不許可事由のある事案でも大抵は裁判官の裁量により免責が認められ、実際に免責が不許可になる事件はほとんどないので(免責が不許可になる確率は、東京では全体の1%にも満たないようです)、民事事件の中では珍しく、結果がほぼ確実に近い事件といえます。
 しかも、通常の民事事件であれば依頼者や相手方の住所により裁判所の管轄が異なり、事件によっては弁護士が遠隔地の裁判所に出張しなければならなくなりますが、破産・再生事件を取り扱う東京地裁の民事20部では、事件の管轄を問題にせずとりあえず事件を受理し、債権者から移送の申し立てがあったら対処すればよいという考え方を採っており、実際には債権者から移送の申し立てが出ることは滅多に無いので(裁判官の話では年に2件くらいとか)、事実上どこに住んでいる人の破産事件でも東京地裁で処理してもらうことは可能です。そんな事情も手伝って、債務整理事件は依頼者の質をあまり問題にせず、とにかく広告で大量に依頼者を集めて大量の事件を処理することで、それなりの収益を挙げることが出来るという特徴があります。
 しかし、そんな債務整理事件でも、「質の悪い」依頼者の問題に直面する場面がないわけではありません。弁護士費用は、一括で支払える人はほとんどいないので月何万円かの分割払いにするのが通常ですが、それでも払えない(ひどい場合は、明らかに資力はあるのにわざと払わない)人もいます。明らかに資力が無い人については法律扶助協会を紹介することも考えられますが、わざと払わない人については辞任するしかありません。
 また、さすがに自己破産するだけのことはあって、依頼者には性格的にもいい加減な人が多く(もちろん、依頼者全員がそうというわけではありませんが)、いくら催促しても申立てに必要な書類をなかなか提出してこない、といったケースも少なくありません。
 債務整理事件の某大手法律事務所では、こうした問題のある依頼者の選別をかなり徹底しているようで、事前に依頼者自身に申立書類の必要事項を記入させ、申立てに必要な添付書類も全部揃えさせ、すぐにでも申立てができる状態になってからでないと受任しない(債権者への受任通知も出さない)とか、少しでも問題があったり文句を言ってきたりする依頼者は即辞任してしまうとか、破産事件より手続きが複雑で結果も確実とはいえない個人再生事件は、依頼者が希望してもなかなか受けてくれないとか。
 最近は、多くの依頼者を集めるため債務整理の法律相談を無料にしている事務所が増えているようですが、その代わり依頼者の話は事実上事務員が聞いて弁護士は契約時に出てくるだけという形になり、個人再生にしたいなどという依頼者の細かい希望などはなかなか聞いてもらえないのが実情だとか。
 なんで黒猫がこんなことを書けるかというと、そういった事務所から辞任されたり、個人再生事件の依頼を断られたりした人が結構うちに流れてきたりするので、そういった依頼者から事情を聴けたりするわけですが。
 もっとも、そういった某大手法律事務所の関係者に言わせれば、そうでもしなければ自己破産事件を19万円で引き受けるなどできないと言うでしょうし、現に彼らのおかげで安い費用で自己破産できている人も相当数いるのでしょうから、彼らのやり方を一概に悪いと言うつもりはありません。

 こうした実務の現場を知ってしまうと、弁護士としては一般市民向けに門戸を広げようというよりは、「質の悪い」依頼者に出くわし被害を蒙ることの無いよう、むしろ依頼者の選別をどうやって図るかということに関心を向けがちになります。
 司法修習生などまだ実務の現場をあまり知らない人たちの中には、一般に言われている「弁護士の敷居の高さ」を問題視し、自分は日本一敷居の低い法律事務所を目指すんだと意気込んでいる人もいますが、大抵は弁護士実務の現状を知るにつれ次第にトーンが下がっていくことになります。
 その一方で、勝手に弁護士の敷居が高いと思い込み、司法による解決が適切な法律問題を抱え込んでしまっても、なかなか弁護士に相談する勇気が持てないという人が相当数いるのもまた事実でしょう。先に書いた事務所の電子掲示板でも、幼稚な相談ですみませんなどと書いてくる人がいますが、そういった人の相談はむしろまともで、逆にひどい内容の相談を書き込んでくる人は、自分はまともだと信じ込んでいるケースが多いです。
 要するに、「弁護士は敷居が高い」と言われている問題の本質は、非常識な相談者や依頼者が多く弁護士がそれらへの対策に頭を抱える一方で、まともな法律問題を抱えている常識的な人は弁護士への相談を躊躇してしまう傾向があるということで、おそらくは弁護士の業務内容がどういうものかあまり一般に知られていない、ということにその一因があるものと思われます。
 テレビで弁護士の出てくるドラマなどは多くありますが、そのほとんどは、なぜか実務ではほとんどお目にかからない殺人事件の弁護といった役割で、弁護士業務の実態を知ってもらうのに役立つどころか、むしろ弁護士業務に対する誤ったイメージを助長させるのに役立っているというほかはありません(だから黒猫は刑事ドラマが大嫌いなのです)。

 では、この「弁護士は敷居が高い」と言われる問題を、どうやったら解決することができるか。この記事を書くにあたり、黒猫も答えをいろいろ考えてみましたが、どうやっても思いつきませんでした。たぶん、ほかの弁護士さんたちも答えを出せないでいるか、あるいはそもそも考えることを放棄しているかのどちらかだと思います(もし、明確な答えを出せている弁護士がいるのであれば、この問題はとっくに解決の方向に向かっているはずです)。
 もし、こういった問題につき有効な解決方法があるとお考えの人は、是非コメント欄でご意見をお寄せください。

11 コメント

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Unknown (ビシャス)
2006-11-18 20:27:28
あんた、弁護士にむいてないでー
Unknown (国民の一つの望み)
2006-11-21 06:06:29
法律相談はいつでも無料。
弁護士報酬は今の5分の1。

これが国民の望む「市民に身近な司法」という
説もあるそうです。
確かに (dedeko)
2006-11-21 06:53:03
 「弁護士は敷居が高い」とは、やはり、料金体系が分からないということでしょう。ロー生だと、人からよく法律相談を受けます。真面目な人の相談なので、教員の弁護士に紹介して、解決がつくと喜んでもらえます。長期間1人で頭を抱えている人たちでした(案件としてはロー生のレベルから見ても単純な事件)。演習で無料法律相談に出た時、弁護士の先生が「無料だと変なのが来るからな~」と愚痴っていました。
 裁判員制度が始まりますが、あれは刑事事件です。私は裁判所を身近に感じてもらうためには有効と思います。ただ、民事の方にも、なんとか市民参加の機会があればよいと思うのですが・・・
Unknown (修習生)
2006-11-21 07:20:55
裁判員制度は果たして成功するんでしょうかねぇ…面倒と思う人ばかりで,身近に感じる人って実は相当少数の人なのでは?一般の人は民事刑事問わず裁判なんて関わりたくないでしょう。
私はある程度の依頼者の選別は,弁護士として生きていくためには必要不可欠だと思います。裁判の現場にると変な人って多々いますが,やはりその人たちの代理人にはなりたくない,というのが正直な感想です。
Unknown (ピコリン)
2006-11-21 09:41:48
弁護士志望の修習生の多くが都会の企業法務専門の事務所に就職したがり、実務家の先生方も人権擁護活動より企業法務に非常に熱心な御仁が多い。黒猫さんのブログを読んでてその背景事情がよく分りました。
修習生さんへ (dedeko)
2006-11-21 22:27:04
 確かに、そのような感覚の人々は多いですが、「やってみたい」という人にも出会いました。テレビのドラマやバラエティの影響で関心を持ったという人もいました。そんなところからでも、一般的に関心を持ってもらうことは一歩前進ではないかと思います。
 少数でも少しずつ理解者が増えていくように法曹も努力をしていくべきでは・・・今まであまりに世間一般からかけ離れていたから。訴訟や弁護士に対する理解が進むと、法律相談の質も改善していくと思います。長い時間をかけていく問題だと考えています。
Unknown (mage)
2006-11-21 23:26:34
> 弁護士の業務内容がどういうものかあまり一般に知られていない

これですけど、弁護士の業務内容を(法律の素人である)相手にわからせることは、果たして可能なんでしょうか?病気になったら医者に行く、腹が減ったら定食屋に行くというふうに単純な目的別で場合分けできる話でもないでしょう。法律問題はそれこそ千差万別ですし、弁護士にとっても得手不得手もあるでしょう。

弁護士に相談するためには、
(1)当事者本人がまず自分の抱える問題が法律に関することだと理解し、
(2)自分の知識では解決できないと自覚し、
(3)自分なりに要点をまとめて相談するだけの準備をする、
ことが必要ですが、困ってる人がここまで落ち着いて考えられるケースは稀でしょうし、むしろそんな時間も無い場合もあるでしょうから、自然、弁護士が当事者の時に支離滅裂な話を黙って聞いて、(1)(2)(3)の全部を頭の中で判断するということになりがちでしょう。

というより、そういう苦労もあるから、30分5250円の相談料が設定されてると思うのですが、たしかに無料にしたらやってられないでしょうね。
Unknown (zzz)
2006-11-22 00:00:38
法律相談はいつでも無料。
弁護士報酬は今の5分の1。

こんな時代が来たらみんな「橋ノ下」弁護士になっちゃうよ
よく言われることだけど、日本人って知識に対して対価を支払うという意識が低いよね。
2007問題 (Unknown)
2006-11-22 18:58:58
 来年の2007年問題、弁護士だけで、2300人程度、1年で誕生するといわれています。
 就職にあぶれる新人弁護士がでてくることは必至ですが、あふれた弁護士の受け皿を作らないと大変なことになります。
 日弁連も、個人事務所に就職をよびかけるだけで、まともな対応はしようとしません。
 弁護士登録すると、会費や登録費、会館建設費だけでも、年間100万円を超えますが、どうなることやら?
 
Unknown (mako)
2006-11-26 01:47:58
弁護士なんだから開業すれば。