黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

早くも始まった? 旧61期修習生争奪戦

2007-03-22 01:44:00 | 司法一般
 3月15日付けで事務所に配布された日弁連速報No,23に、ちょっと気になる記事があったので、ご紹介します。

「現行弟61期司法修習生等に対する就職勧誘行為自粛に関する協力要請
 
 平成19年4月16日から司法修習を開始する現行61期司法修習生(司法修習予定者を含む。)について、平静な司法修習環境を維持し、司法修習の実効を期すとともに司法修習生の職業選択の自由を尊重するため、下記のとおりの要請をいたします。(後略)
                 記
1 会員は、平成19年4月16日から司法修習を開始する現行弟61期の司法修習生に対し、平成19年7月末日まで就職勧誘行為(事務所見学の案内は含まれない)を行わない。
2 会員は、司法修習生に対し、過度の飲食提供、その他不相当な方法による就職勧誘を行わない。
3 会員は、修習開始前に現行第61期司法修習予定者に就職勧誘行為をしてはならず、また司法修習生及び司法修習予定者から就職申込みを受けても、平成19年7月末日までは、これを応諾してはならない。
4 会員は、現行第61期司法修習生に対する採用決定により、司法修習生を拘束してはならない。会員は、現行第61期司法修習生の会員に対する就職の申込み又は会員からの採用の申込みに対する現行第61期司法修習生の承諾につき、司法修習生が撤回することを妨げてはならない。
5 会員は、職業選択に関する司法修習生の自由な意思を尊重しなければならない。」

 司法試験については、平成17年12月1日の改正司法試験法全面施行により、法科大学院卒業者の受験する新司法試験の方が「現行法の」司法試験となったことから、法務省などでは従来から行われている司法試験を「旧司法試験」と呼称しており、黒猫のつぶやきでもこれに従って記事を書いているのですが、上記の要請文を読む限り、日弁連関係者の頭の中では、未だに従来から行われている司法試験が「現行司法試験」になっているようです。
 文言上の問題はこの程度にしておきますが、たしか、59期や旧60期、新60期の修習が始まる頃にはこのような要請が来たという記憶はないので、日弁連がこのような要請をするのは、少なくとも最近では異例の事態といえるでしょう。すなわち、旧61期修習予定者に対する採用競争は、既に相当激化しているものと思われます。

 ところで、旧61期の修習予定者とは、そのほとんどが平成18年の旧試験合格者ということになると思われますが、平成18年の旧試験は、最終合格者数549人、対受験者合格率1.81%という結果になっており、合格者は大変な激戦を勝ち抜いてきた人たちだということになります(なお、平成16年及び平成17年の旧試験は、いずれも合格者数1400人台、対受験者合格率3%台です)。
 そうであれば、旧61期の司法修習生となる平成18年度の旧試験合格者は、例年の旧試験合格者以上の精鋭揃いではないかという推測が働きます(黒猫も一時期本気でそう思っていた時期がありました)が、昨年の10月ころにも書いたとおり、択一試験及び論文試験の合格基準点の推移を見てみると、必ずしもそうとは言い切れないことに気が付きます。
 以下は、法務省のHPで発表されている、各年の(旧)司法試験第二次試験における択一試験と論文試験の合格基準点です。

<択一試験>
平成18年 46点以上
平成17年 42点以上
平成16年 45点以上
平成15年 47点以上
平成14年 41点以上
平成13年 46点以上

<論文試験>
平成18年 133.75点以上
平成17年 132.75点以上
平成16年 136.50点以上
平成15年 無制限枠140.75点以上、制限枠137.25点以上
平成14年 無制限枠140.75点以上、制限枠137.25点以上
(平成13年以前は非公開)

 択一試験については、例年合格基準点にばらつきがあるため(おそらく、問題の難易度にも影響されているのでしょう)、平成18年度の46点という数字については、高いとも低いとも言い難いです。
 論文試験については、合格基準点が年々下がってきたところ、平成18年になってやっと若干持ち直したという感じです。
 これらの数字を見ると、旧61期の司法修習生については、例年より高い競争率の試験に敢えて挑んで合格を勝ち取ったというスピリッツは買えるとしても、学力そのものに関しては、合格者数1500人時代の59期・旧60期とあまり変わらないのではないかと思われます。

 にもかかわらず、旧61期の司法修習予定者に対し、日弁連が自粛要請を出さなければならないほどの就職勧誘行為が行われるということは、そもそも弁護士の多くがこのようなデータを見ていないという可能性も高いですが、おそらくは新司法試験合格者の能力に対する疑念ないし不信感が相当根強いことの裏返しであろうと思われます。
 昨年の新司法試験に合格した旧60期については、法科大学院の人気が過熱していた1期生で、かつ既習者コース卒業者のみということで、法科大学院卒業者の中では最精鋭に属する人たちということになりますが、実際の試験結果は、司法試験委員会の委員をして「そのような印象は受けなかった」と言わしめた程度のものであり、有名大学卒で早々に大手渉外事務所などに「青田買い」された一部の幸福な人たちを除けば、就職活動も相当難航しているようです。
 日弁連などの調査によると、今年の弁護士の求人は概ね2000人前後あるということなので、旧60期と合わせて、今年は500人規模の就職浪人が出るのではないかと噂されていますが、特に中小の法律事務所の場合、求人は出しても適当な人物がいなければ必ずしも採用にはこだわらないというスタンスのところが多いので、実際の就職浪人は500人より多くなる可能性も否定できません。

 一方、旧61期と競合することになる新61期、すなわち今年の新司法試験受験者となる人の顔ぶれは、以下の3種類に大別できます。
(1)去年の新司法試験に落ちて、今年再挑戦する人。
(2)第2期の既習者コース卒業生。
(3)第1期の未習者コース卒業生。

 まず(1)については、再受験までの間、旧試験合格者並に受験勉強に専念していれば、かなりの実力者になるのではないかという見方もあり得ますが、おそらく再挑戦組の全員が猛勉強をするわけではないでしょう。
 そもそも、去年の合格者である新60期が就職活動で散々な目に遭っていると聞かされたら、必死で勉強する気になるかは大いに疑問であり、むしろ大半の人は再受験を諦めて一般企業への就職など別の進路を探してしまうのではないかと思われます(黒猫も、仮に彼らと同じ立場であればそうすると思います)。
 次に(2)については、法科大学院の人気があったのは最初の年だけで、後は年々志望者が減っていると聞いていますから、おそらく1期既習生より質は落ちていると考えた方がよいでしょう。
 そして(3)については、やや判断が難しいところです。1期の未習者コースは、入学試験時の倍率が約10倍くらいであったと聞いているので、おそらく基本的な知能や適性は比較的高い人が揃っていると思われますが、問題は入学後のカリキュラムです。
 未習者コースの法科大学院生には、法学部卒なのに自信がないなどといった理由で敢えて未習者コースに入った人(法学部卒未習者)と、法学部以外の出身で未習者コースに入った人(純粋未習者)がいるようですが、3年間の学習で法律学を一から法曹実務家として通用するレベルまで引き上げるというのは、法科大学院関係者ですら「受講者が全員天才であることを前提にしているとしか思われない」と言っているほどの難事ですから、法学部卒未習者の、しかも既習者コースに入ろうと思えば入れたぐらいの実力を最初から持ち合わせていた人ならともかく、それ以外の人(特に純粋未習者)の中には、結局授業にも付いていけず、わけの分からないまま法科大学院の課程を修了してしまうような人も少なくないのではないかと思われます。
 このように考えていくと、今年の新司法試験は合格率が3割程度になる予定とはいえ、それによって合格者の質が去年より向上するとは考えにくいように思われます。もっとも、新60期の場合と異なり、旧61期の約500人だけでは法曹界の新人需要を満たすことはおそらくできませんから、実際には新61期に対する採用の門戸はある程度開かれると思いますが、できれば(たとえレベルが旧59期や旧60期とあまり変わらなくても)まだ安心して採用できそうな旧61期の修習生を採用したいというのが、多くの法曹実務家にとっての本音なのでしょう。

 さて、冒頭では敢えて省略しましたが、今回の日弁連からの協力要請には、以下のような注意書きが付いています。

「なお、ひまわり公設事務所等、日弁連、弁護士会連合会や単位弁護士会が設置する公設事務所の所属弁護士及び日本司法支援センターの常勤弁護士への勧誘については、本自粛の対象外として扱わせていただきますので、その点ご留意ください。」

 ・・・ここが一番納得いかないところです。
 就職勧誘を自粛しろというのは、平静な修習環境を維持し、司法修習の実効を期すことと、修習生の職業選択の自由を尊重するということがその理由ということですから、これは修習生を採用する公設事務所や法テラスについても同じ事が言えるはずであり、就職活動の自粛要請をするならこれらの機関に対しても要請をしなければ筋が通りませんし公平を欠くと思うのですが、なぜこれらの機関については自粛の対象外になるのでしょうか。
 これでは、旧61期の司法修習生の勧誘については、平成19年7月末日までは裁判官、検察官、法テラス及び公設事務所で独占することに決めたので、それ以外の法律事務所は就職勧誘をするなという「要請」がなされているようにしか思えません。一体この文面を読んで、何人の弁護士が素直に納得しているのでしょうか。
 現在の日弁連執行部は、法科大学院制度を推進する姿勢を取っているのですから、公設事務所などの弁護士については、むしろ新司法試験合格者を積極的に採用するのが筋というものでしょう。法テラスについても、新司法試験制度を推進してきた法務省の外郭団体なのですから、同じことが言えると思います。
 もっとも、日弁連執行部がなぜ法科大学院制度を支持したかについては、法科大学院の教員の推薦にあたり弁護士会が関与できるという思惑があったところ、実際の弁護士教員の採用は各法科大学院が一本釣りしてしまい、弁護士会が関与する余地はなかったので、結局執行部の思惑は期待外れに終わったという噂があり、もしそのようにいい加減な理由で法科大学院制度を支持したのであれば、今回の無原則とも思える「協力要請」が出される動機も理解できなくはありません。
 ただ、一つだけ断言できるのは、今回の「協力要請」を読んで、黒猫の日弁連という組織に対する不信感はさらに増大したということです。

51 コメント

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Unknown (とおりすがり)
2007-03-22 02:07:07
同じような協力要請は,新60期の時もありましたが。
今年の2月末までは内定を出してはならないという内容でした。
その下のコメント(新試験合格者への不信感云々)は,Webを見た人を誤導するものではないでしょうか?
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公設事務所 (修習生)
2007-03-22 07:02:19
 公設事務所、法テラス等が青田買い自粛の対象外とされているのは私もおかしいと思います。
 私は昨年いくつかの公設事務所に応募したのですが、担当者が、説明会の席で、「うちは弁護士会の優先枠があって、すでに○×名の方に内定を出しています・・・」等と公言されるのには驚いてしまいました。実際、採用過程も不透明でした。
 このような姿勢に対しては、多くの修習生が失望していると思います。
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『とおりすがり』へ (Unknown)
2007-03-22 09:47:00
ロー卒・新試験合格者への不信感が実務界で根強いのは事実ですよ。多くの新60期が直面している苦難と惨めさを見れば容易に分るでしょうよ。それを、あなたのように頑として否定し認めたがらない輩が多いですけどねロー卒(やロー生)には。
そもそも旧試験が難しくて受からないからローに行ったんでしょ?だから就職活動で旧試験合格者より格下に見られても仕方ないと思います。
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Unknown (Unknown)
2007-03-22 15:37:51
旧試験が難しい=旧試験に通った人が実務家として優秀という発想はやめましょうよ。もうそろそろ。
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Unknown (Unknown)
2007-03-22 16:01:31
ロー卒新60が本当に優秀ならば、こんなに就職活動で苦労しないはず。事務所側が放っておくはずがないでしょ。
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黒猫先生を怒らせると恐い・・・ (白豚)
2007-03-22 16:24:52
黒猫先生の事務所の所長も、黒猫先生を怒らせたばかりに
ブログで自分を悪く書かれ、自分の事務所のイメージを悪くさされてしまいましたね。
きっと所長も「黒猫先生を怒らせたら怖い」と思ってることでしょう。
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Unknown (新修習生)
2007-03-22 19:36:42
>3年間の学習で法律学を一から法曹実務家として通用するレベルまで引き上げるというのは、法科大学院関係者ですら
>「受講者が全員天才であることを前提にしているとしか思われない」と言っているほどの難事

本当にそうですね。こういうスキームを考えたのは誰なんでしょうか。アホとしか思えません。

それにしても,新試験合格者は歓迎されてませんねえ。就職難は事実です。こっちは好きで就職難に巻き込まれてる
わけではないのですが,採ってもらえないものは仕方ないですよね。
私の怒りの矛先は,法科大学院です。高い学費を取るだけ取っておいて,試験に即応した勉強どころかかけ離れたこと
しかしないわ,レポートを書かせっぱなしで参考答案すら出せないわ,合格者の就職の世話すらろくすっぽできないわ
で,何のために金と時間をかけてローに行ったんだろうかと思います。
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Unknown (Unknown)
2007-03-22 19:48:07
なんで黒猫さんはロー生・ロー卒叩きにこんなに必死なんだろう?
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Unknown (Unknown)
2007-03-22 21:30:43
現行60期の就職活動についても同趣旨の協力要請がありました。
事実誤認と言わざるを得ません。
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Unknown (Unknown)
2007-03-22 21:34:08
今年は実受験者は5000人切るだろうから合格率は40%以上になりますね。択一足切りは1000人以上いるでしょうから実質倍率は去年と変わらないか、むしろ未収がいることから、去年以上のザルと言えるでしょう。
2000人合格させたら凄いことになりそうです。崩壊が一気に加速することは間違いない。わくわくしますね(笑)。
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