黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

自分の昔のこと,その他いろいろ

2013-05-15 01:16:15 | 自己紹介
 最近,このブログのコメント欄に,黒猫の素性その他についてうるさく詮索するようなコメントを書く人がいるようです。無視しようかとも思いましたが,最近になってこのブログを読み始めた人は黒猫のことをよく知らない人も多いようですし,法科大学院制度の経緯について正確に理解していない人も多いようです。放置して他の読者様に悪影響を及ぼすのも癪ですので,昔話のうち支障のないところをこの記事でまとめておくことにします。

1 自己紹介
 黒猫の本名は記事に書かない方針ですが,たぶんネットで本名は知られているので,どうしても知りたい人は検索などで勝手に調べてください。
 黒猫は,平成7年に東京大学の文科一類に入学し,平成9年に法学部第2類(公法コース)へ進学。その頃から司法試験の受験勉強を始めました。平成10年に旧司法試験を受験して論文で落ち,司法留年して2度目に受験した平成11年に最終合格を果たしました。平成15年から東京弁護士会で弁護士登録をしており,法科大学院関係の仕事はしていませんので,法科大学院関係者ではありません。
 司法修習生の時代にうつ病を発症し1年間修習を休んだこともあるのですが,弁護士になってからは間違ってブラックな法律事務所に就職してしまい,苛酷な勤務で精神を害し,一時は入退院を繰り返すまでになってしまいました。今では少し持ち直しましたが,精神状態が不安定のため他人様の仕事をお預かりできるような状況にはなく,弁護士業は実質休業状態で,障害年金をもらって細々と生活しています。とりあえず,他にやれることもないのでブログを書いているだけです。

 黒猫と法科大学院の関わりは,平成11年の司法試験合格時に遡ります。当時は,司法制度改革審議会が法科大学院制度などを検討している最中でしたが,当時の大学法学部は法科大学院制度の話題で持ちきりになっていました。
 当時の司法試験は予備校での勉強が主流になっており,何百人も入れる大教室で教授が言いたいことを一方的に喋るだけの法学部の授業では,司法試験合格に必要な能力を身に付けることは不可能であり,司法試験に合格するには予備校で勉強する必要があるという考え方が支配的になっていました。
 黒猫自身も,3年生のときから早稲田セミナーで司法試験の勉強をしていますが,早くから法曹を目指す法学部生は,むしろ1年生の秋くらいから司法試験の勉強を始めるのが一般的だったようです。また,黒猫の知人の中には,弁護士の息子でおそらく親から法学部教育の実情を知らされていたのか,法学部の授業には一切出席せず司法試験の勉強だけで単位を取り,司法試験にも黒猫より一年早く合格したという人もいました。
 黒猫はそのようなこともつゆ知らず,司法試験に関係ないものも含めて,法学部ではいろいろな講義やゼミを受講していました。卒業に必要な単位は90単位なのに,黒猫の卒業時には取得単位数が160を超えており,また単位の付かない米国独禁法のゼミを受講していたときもありましたので,当時の法学部の実情はよく知っているつもりです。
 黒猫は平成11年の秋学期,故中山信弘教授のゼミ(不正競争防止法)を受講していましたが,中山教授は司法試験に合格したばかりの黒猫がいる前で,このようなことを言われました。
「法科大学院制度ができたら,法科大学院で高度な教育を受けた修了生に,旧試験の弁護士たちは絶対にかなわない」
 司法試験に合格した途端,これまでの勉強の成果を全否定するようなことを言われた黒猫は,当然ながら怒りを禁じ得ませんでしたが,自分の将来にも関わることだけに,それ以来法科大学院制度の成り行きについては強い関心を持つようになりました。
 そして,多数の司法試験合格者を輩出している東大法学部であるにもかかわらず,その教授たちの大半は司法試験にも合格しておらず,司法試験の受験勉強がどのようなものかも分かっておらず,法曹実務の現状もほとんど把握していない法学部の教授たちが中心になって法科大学院を作ったところで,旧試験時代の合格者を上回る質の高い法曹を多数養成することなど絶対に不可能であると確信するに至りました。
 このブログを開設した後は,記事の内容も法科大学院の批判に関するものが多くなり,法曹ブログ界ではそれなりに名前を知られる存在になりました。黒猫が延々と法科大学院批判を続ける動機については,これ以上説明する必要はないでしょう。

2 法科大学院制度はなぜ作られたか
 この点については,話が長くなるので黒猫版『法科大学院の失敗』でも書いた方がよいのかとも思いますが,可能な限り要点を整理して書きます。
 黒猫の知る限り,法科大学院制度が作られた理由は,完全な学者エゴです。司法試験予備校が定着した時期は正確には分かりませんが,1979(昭和54)年合格の谷垣禎一法務大臣は予備校のことをよく知らず,1988(昭和63)年合格の枝野幸男議員は予備校のことを知っているようですので,おそらく1980年代ころから広く普及したものと思われます。
 予備校の普及により,司法試験を受験する法学部生は,法学部の授業を次第に軽視するようになりました。法学部の授業に一切出なかったという知人は極端な例であり,大半の学生はそれなりに学部の授業も受けていたようですが,例えば憲法の授業では,司法試験の役に立つ基本的人権などの講義は多くの学生が受講するが,司法試験に出ない天皇制や戦争放棄の話になると途端に受講者が減るといった感じで,学生たちに軽視されている大学教授達は,その自尊心を大きく傷つけられました。
 その打開策として,大学の教授たちはアメリカのロースクール制度を日本に導入し,法科大学院の修了を司法試験の受験資格にすべきであるというロビー活動を,相当期間にわたって繰り広げてきました。学者たちは,アメリカのロースクールでは理論と実務の緊密な連携が図られており,様々な出自の学生がロースクールに入ることによって多様性が図られているなどと,口を揃えてアメリカのロースクール制度を絶賛し,これをわが国にも導入すべきだという主張を繰り返していました。
 もっとも,大学法学部のこのような主張だけで法科大学院制度が実現するわけもありませんが,当時はアメリカが年次報告書で司法試験合格者数を年間3,000人に増員するよう求めており,経済界も法務コストを削減する思惑から法曹増員を求めているという状況にあったところ,司法試験の合格者数を一気に6倍にするような改革には,当然ながら質の低下をもたらす危険がありました。そこで,大学教授たちは法科大学院制度を導入すれば法曹の質を維持したまま合格者数を増やすことができると訴え,自民党の議員たちも次第にその気になって行きました。
 そして,司法制度改革審議会の席では,弁護士出身の故中坊公平委員が,法科大学院構想を支持した上で,司法試験合格者数を年間3,000人に増やすべきであると主張し,日弁連の総会では反対意見を封殺して強引に推進決議を挙げたことから,これで法科大学院制度に反対する意見は政府内では皆無となり,平成13年の司法審意見書によって,法科大学院制度の導入は決定的となりました。

3 法科大学院制度の悪影響
 法科大学院の入学者数や競争倍率は激減し,もはや制度が崩壊状態であることは既に何度も書いてきたので繰り返しませんが,制度自体の最大の弊害としては,ほとんど役にも立たない授業に2~3年間も拘束され,何百万円もの学費を負担しなければ司法試験を受験できなくなった結果,優秀な人材が法曹界からどんどん逃げて行くということが挙げられます。
 法曹への道を諦めた人の多くは司法書士を目指しているものと思われますが,経済的理由から法科大学院の受験を諦めた司法試験受験者は司法書士全体のレベルアップに大きく寄与しており,また彼らは認定司法書士の業務拡大にも積極的です。
 日司連は司法書士の名称を「司法士」に改め,家裁や執行手続きなどの代理権を与えることなども要求していますが,その要求の口実にされているのは法科大学院制度に伴う司法試験の質の低下であり,弁護士は数ばかり増えているけど役に立っていないので自分たちが法の担い手になる必要がある,といった主張しています。
 また,一時は年次報告書で合格者数3,000人を主張していたアメリカは,まだ合格者数は2,000程度の段階であるにもかかわらず,既にこのような要求はしなくなり,わが国における外国法事務弁護士の権限拡大要求にシフトを移しています。これは,合格者数3,000人という要求自体,日本の司法を良くしようと考えての要求ではなく,わが国における弁護士の質を下げて給料水準も低下させ,アメリカの弁護士が参入しやすい環境を作るための要求であり,合格者数2,000人でもアメリカ側の目的は既に達成されたのです。

4 数よりも質が大事
 黒猫は,法科大学院制度を存続させた上でその数を減らせとは言っていません。法科大学院制度の下では,一部の予備試験合格者を除き,大変なお金持ちか金銭感覚の麻痺している人しか法科大学院に入学せず,その質も期待できません。TPPの批准に伴い,アメリカの弁護士がわが国の法務市場に参入してくる可能性も高くなってきましたが,その際にわが国の弁護士業界を守れるのは優秀な人材だけであり,法的素養や実務能力にも問題があり自力では食べていけない弁護士がたくさんいても,アメリカの進出を阻むには何の役にも立ちません。
 黒猫は,法科大学院制度を早期に廃止し,旧試験のように門戸の広い司法試験制度に戻した上で,(法科大学院修了者に限らない)様々な人材に司法試験を受けてもらい優秀な人材を選抜することで,少数でも精鋭の弁護士をしっかり育成する必要があると主張しているのです。
 アメリカが年次報告書で合格者数3,000人を要求してきたのは,少数精鋭型の日本の弁護士がアメリカの参入にとって邪魔だったからであり,少数でも優秀な法曹を確保することは,アメリカの参入を阻む有効な障壁となり得ます。
 また,総務省の行政評価で行われたアンケート調査の結果でも,法曹人口の激増を高く評価している一般市民は少なく,むしろ質の低下が懸念される,大都市偏在の傾向は変わっていないといった回答が多数を占めていたことから,司法試験合格者の激増政策を廃し少数精鋭主義に戻すことは,社会のニーズにも適合しているものと考えられます。

19 コメント

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Unknown (Unknown)
2013-05-15 01:37:21
1 古き良き時代の司法試験受験
  ~受験新報・真法会答練、早大法職課程、小金井司法研究会、西戸山ゼミナール
2 成川豊彦・近藤仁一による司法試験予備校の創成
  ~予備校による手作り教育という実験
3 相次ぐ小規模司法試験予備校の乱立
  ~NES・東京法科学院・中央法律研究所・城南司法ゼミナール・法曹同人
4 反町勝彦によるLECの設立と岩崎茂雄・伊藤真の参加
  ~論証ブロックというイノベーション
5 司法試験受験バブルと3大予備校群雄割拠時代
  ~司法試験受験産業の企業化
6 早稲田セミナーの拡大路線と個性的な学院長の暴走
  ~売りは数々の基礎講座とオプション講座
7 辰巳法律研究所とリーガルフロンティア21、そして突然の代替わり
  ~近藤所長から後藤所長へ受け継がれた本格的な受験指導
8 LECに現れた葉玉匡美という奇跡
  ~史上最高の合格率
9 LECに反旗を翻した伊藤真
  ~憲法教育の理想と受験生信者の誕生
10 司法試験予備校の相対的安定期
  ~予備校テキストの出版ラッシュと夥しい数の新規参入者
11 司法試験予備校に突如訪れた冬の時代
  ~法科大学院教授の高笑いと受験生の予備校離れ
12 早稲田セミナー、事実上の倒産とスクール東京
  ~DNP・TACへの売却と成川豊彦・最後のあがき
13 辰巳法律研究所の独り勝ちと固定信者が支える伊藤塾
  ~苦しい台所事情という現実
14 LECと早稲田セミナーの混迷
  ~単なる資格試験予備校への転落
15 新司法試験受験生の予備校回帰の兆し
  ~法科大学院の悪すぎる効率と高すぎる代償、加えて三振の恐怖と重圧
16 司法試験受験界全体の地盤沈下
  ~就職難による司法試験離れの加速と法科大学院教授の能天気
実務経験があっても (井上晃宏)
2013-05-15 07:31:52
医学教育も、ほとんど学生は相手にしてないです。適当に教員のご機嫌をとって単位をもらうだけが目的です。

そもそも、人は試験のためにしか勉強をしないという冷徹な認識から始めるべきでしょう。
Unknown (Unknown)
2013-05-15 08:32:21
TPPで自動車のアメリカ側の関税を残すことをあっさり認めたり、尖閣で台湾漁業の権益拡大を認めた自民党の交渉力のなさや、これまでのアメリカへの迎合傾向からいえば、世間的には話題にもなってない日本の司法へのTPPによるアメリカの侵攻は防げないと思います。
そうすると、ビジネスローの分野は、アメリカの権益拡大、それ以外の分野は、優秀層は入ってこないが、他業種との競争や弁護士激増による低価格化で、何れにせよジリ貧。
普通に企業に入った方がいい未来が開ける気がするが、なぜ2500人もの人がロースクールに入るのだろう。アホなんだろうね。金持ちになりたかったり、社会的に意義のある仕事は他にもあるし、人を助けるのは、別に法律以外でも可能なのに(むしろ法律は事後処理が多い)、なぜそこまで法曹にこだわる?2500人は、弁護士でなく裁判官と検察官になりたいのだろうか?
Unknown (?)
2013-05-15 13:01:53
中山信弘先生はご存命のはすですが…
Unknown (Unknown)
2013-05-15 16:34:19
悪名高かった「丙案」導入のころ、司法試験に受かった方がいると思うが、ここまで司法試験が迂回しながら頓挫し、制度的保障?が行き届いていない学問の閉塞性こそ今のロースクールが世間に知らしめてくれたが、司法試験の短期合格などと「司法試験界諺?」が法学者の癪に障ったなら逆に謝罪をすべきなのは法務省と言えるだろう。司法試験に大量合格させておきながら、彼らの物差しで合わなければ任官(任検)拒否をし続け、裁判制度の刷新を図らなかったのは法曹一元を拒否した現れだ。冤罪事件というものも当然なくならない。

上の方が書いておられるが、私も高田馬場にある某予備校にお世話になったことがあった、ローラー答練問題集かあって、論点整理がよくできていて、これを数年分集めれば1人で合格答案を書ける訓練もできるくらい予備校はシステム的だった。

司法試験に短期で受かる人の基本書はうすい、その人の人生の目的が、司法試験合格というそれ自体ではないことが多かったように思う、旧試験はやはり損得なし、
公平によくできていた試験だったと思う。


Unknown (Unknown)
2013-05-15 17:01:56
(続きです)
※因み、丙案とは、司法試験の受験開始から3年以内の受験生を優先的に合格させ、合格枠制が取られていたために
受験開始から3年以上の受験生が780番であっても、3年以内の受験生が1500番でも合格させ、平成16年に廃止されるまで続けられていました。当時は、景気がよく、弁護士も売り手市場のバブルでした。この当時からロースクール構想が取りざたされ始め、

当時の丙案のほうが今の受験回数制限なんかより受験資格があるだけましかもしれませんが、日弁連も賛成でした。
この先も日弁連も法務省に妥協を続けるなら、崩壊も近いと思いたくなります。
Unknown (Unknown)
2013-05-15 17:04:34
>「法科大学院制度ができたら,法科大学院で高度な教育を受けた修了生に,旧試験の弁護士たちは絶対にかなわない」

いかにも世間知らずの学者らしい、お馬鹿な戯言ですな。
Unknown (Unknown)
2013-05-15 17:30:36
世間を知らんから、言えるんでしょうねえ。
Unknown (Unknown)
2013-05-15 20:06:10
永遠の中二病?
Unknown (Unknown)
2013-05-15 21:07:11
問題の捉え方がそもそも間違っている。食べていけるかどうかを法律家が考えるというのが間違っているのである。何のために法律家を志したのか。私の知り合いの医師が言ったことがある。世の中の人々のお役に立つ仕事をしている限り、世の中の人々の方が自分達を飢えさせることをしない、と。人々のお役に立つ仕事をしていれば、法律家も飢え死にすることはないであろう。飢え死にさえしなければ、人間、まずはそれでよいのではないか。その上に、人々から感謝されることがあるのであれば、人間、喜んで成仏できるというものであろう(成仏理論より)

学者さんて,本気で,自分が「人々のお役に立つ仕事をしている」と思っているのだろうか?
前々から疑問に思っていた。
自分のやっていることが,糞の役にも立たないどころか,人々に害をなしていると,ふと思ったり,考えたことはないのであろうか?
決して,自ら省みることはないのであろうか?