黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

「多重債務問題解決のためのカウンセリング」シンポジウムについて

2007-06-17 02:56:44 | 司法一般
 6月16日,東京・渋谷の国連大学ビルで,金融庁主催の「多重債務問題解決のためのカウンセリング」シンポジウムが開催されました。
 こういったシンポジウムの類に気軽に参加できるのは今くらいしか無いので,黒猫も参加して話を聴いてきました。

 講演は,まず生活経済ジャーナリストで,貸金業制度等に関する懇談会及び多重債務者対策本部有識者会議のメンバーを務める高橋伸子氏が基調講演を行い,金融庁の職員による『多重債務者相談マニュアル(案)』の説明,長野県職員の青木淳氏,及び盛岡市消費生活センター主査の吉田直美氏(注:男性です)による自治体の取り組みの報告が行われました。
 その後,「親切なカウンセリングで多重債務の解決へ」というテーマでパネルディスカッションが行われ,高橋氏がコーディネーターを務め,パネリストには上記青木氏及び吉田氏のほか,弁護士の宇都宮健児氏,横浜国立大学教授の西村隆男氏が加わり,参加者からの質問に対する回答などが行われました。
 宇都宮先生は,債務整理関係の第一人者と言ってよい人物であり,債務整理をやっている弁護士で宇都宮先生のことを知らない人はほとんどいないでしょう。西村先生は,消費者教育問題を専門に研究している経済学者で,10年ほど前に『クレジットカウンセリング』という著書も執筆されています。

 今回のシンポジウムは,実践的なカウンセリングの手法などに関する者というよりは,今後行政が多重債務者対策にどう取り組んでいくかということが主なテーマで,どうやら参加者も各自治体関係者がかなり多かったようです。
 これまで,行政における多重債務者対策については,盛岡市が約20年前から多重債務者に対する相談対応業務に取り組んでおり,講演資料を見ても相当ノウハウの蓄積があり,ここでは岩手信用生協による多重債務者のための低利融資制度や,弁護士会と連携して多重債務に関する当番弁護士制度まで設けられているそうですが,他の自治体の多くでは,具体的な対策はまだあまり進んでいないというのが実情のようです。
 平成19年4月20日,内閣の多重債務者対策本部で決定された「多重債務問題改善プログラム」において,各自治体において多重債務者への相談対応体制の充実強化を図り,金融庁などにおいてそのバックアップを行うこととされ,その決定に基づき金融庁が各自治体向けの多重債務者相談マニュアル(案)を作成し,今回のシンポジウムも上記プログラムによる政策の一環として開催されたわけですが,このシンポジウムを通じて,行政による多重債務者対策については以下のような問題点のあることが分かりました。

1 多重債務者問題に関して,まだ行政側のノウハウ自体がかなり少ない。
 金融庁の相談マニュアル案は,どうやら金融庁の職員が,先進的な取り組みを行っている自治体の資料などを必死にかき集めて作ったようなのですが,内容については「すべての職員に理解できるもの」を目指したこともあり,初歩的なものにとどまっていると言うしかありません。
 また,参加者の中には「これから初めて多重債務者の相談を受けるが,具体的にどのように対応したらよいのか」といった質問をする人もあり,金融庁では今後具体的な相談例に関するDVDを作成し,各自治体に配布することを予定しているようです。
 要するに,ほとんどの自治体では,多重債務者への相談対応体制はまだ始まったばかりであるか,あるいはこれから始めようという段階に過ぎないわけです。
 西村教授は,多重債務者問題に関する専門家を育成するため,「生活支援カウンセラー(仮称)」という新たな資格制度を導入し,資格認定を受けた専門家を全国に配置することを提言されていますが,これについても賛成意見がありました。
 なお,生活支援カウンセラーの基礎となる学習項目は,消費者法に関する知識,心理学に関する知識,社会福祉に関する知識,家計管理に関する知識,家族関係に関する知識,職業訓練に関する知識,カウンセラーとしての技能などであり,有資格者に対する一部科目免除や実務経験者の資格取得に対する考慮も提言されています。
 余談ですが,黒猫の場合,弁護士とファイナンシャル・プランナーと産業カウンセラーの資格を既に持っていますから,この資格を取るときにはかなりの科目が免除されそうだなという気がします。もっとも,今後も債務整理の仕事をすることになるかどうかは,今のところ未定ですが。

2 多重債務者問題に対する関係者の理解不足
 多重債務者問題に行政が取り組むことに関しては,一部自治体の幹部や議員などから,「多重債務は個人の問題であり,行政が関与するべきことではない」とか,「行政が弁護士や司法書士を儲けさせるようなことをやってよいのか」といった意見があり,対応強化の阻害要因となっているようです。
 確かに,理屈としてはそのような考え方もできなくはないと思いますし,黒猫もこの4年間実際に債務整理の仕事をやってきて,思わず呆れ返るような行動を取る依頼者も少なからず見てきましたから,多重債務者の救済という仕事が必ずしも美しいものでないことは相当程度分かっています。
 然るに,なぜ多重債務者問題がこれほどまでに社会問題化し,政府も改正貸金業法で金利や過剰与信等に関する規制を強化し,さらに多重債務者に対する相談対応政策まで打ち出したのか。これを比喩的に言えば,消費者金融は一種の麻薬のようなものだから,ということが言えると思います。
 最近は,どこの街に行っても消費者金融の看板が嫌というほど見られるようになり,TVのCMでは女性タレントや子犬などを起用して親身なイメージをアピールし,実際に店頭に行けば無人契約機で簡単にお金を借りられますが,もともと完済までの計画を考えてお金を借りる利用者はほどんどない上に,しかも年率20%以上もの金利を付けられたら,いずれ支払いに窮することは目に見えています。
 そして,約定どおりの返済が滞ると,消費者金融からは矢のような電話督促などを受け,絶望的な資金繰りと督促への対応で精神的にもおかしくなり,果ては勤務先からの退職や家庭崩壊を余儀なくされたり,さらには自殺,犯罪といった極端な行動に走ってしまう人も少なくありません。
 盛岡市の資料では,多重債務者に対する行政の取り組みによって,市民生活の安心が確保されるほか,個人消費されるべき資金が戻る(貸金業者の手に渡ってしまうことを防ぐ)ことにより,市内の流通・経済に好影響をもたらすなど,地域の窮乏化防止に役立つといったことが述べられていますが,まさに麻薬中毒者の増加が社会経済の崩壊をもたらすように,多重債務者の増加も地域社会・経済の崩壊をもたらしてしまうのです。
 名古屋地裁の免責審尋に行くと,裁判官が免責制度の趣旨について,自己破産に至った多重債務者が,免責により多重債務から解放され,元通りの正常な社会生活を営めるようになれば,それは社会全体にとってもプラスになるといったことを説明してくれますが,まさにそのとおりだと思います。
 政府としても,多重債務者問題の本質や対策の趣旨について,関係自治体などへのさらなる周知・徹底を図ることが必要であると言えるでしょう。
 なお,多重債務者発生の抑止策として,高校の家庭科に金銭教育を取り入れるといった取り組みも考えられているようですが,高校によっては受験対策に走るあまりそもそも家庭科の履修自体が行われていないところもあるなど,多重債務者問題に対する世間の無理解という問題はかなり根が深いようです。

3 予算不足及び人員不足
 多重債務者に対する自治体の相談窓口としては,主に消費生活センターなどが予定されていますが,多重債務者に対する相談対応には長時間を要し,まともに対応していたら他の相談に対応できなくなってしまうといった意見もあり,また先進的な対応をしている盛岡市でも,最近は連日相談が殺到して相談窓口はほとんどパンク状態になっているそうです。
 多重債務者問題について各自治体が真剣に取り組むには,場合によっては専門の相談窓口を設置するなど人員体制の強化が不可欠になるでしょうが,各自治体とも多重債務者にも劣らぬ財政難の中で,多重債務者対策にどれだけ予算を割けるかという問題が生じそうです。

 ほかにも細かい問題はいろいろありますが,最後にこの問題に関してよく言われる,弁護士や司法書士の「敷居が高い」という指摘に関してコメントしておこうと思います。
 弁護士については,もともと東京や大阪などの大都市か,そうでなくても地方裁判所のある都市(県庁所在地)に事務所が集中しており,しかも自己破産事件などについて,いまだに何十万円もの着手金を一括で支払えなどと無茶な要求をする人がいることは確かです。
 また,これはむしろ世間一般には知られていない問題かも知れませんが,電車広告などで低料金を謳って多数の多重債務者を集め,内実は利息制限法による引き直し計算もしないようなひどい事件処理をしていたり,貸金業者と提携して依頼者に不利な事件処理をしていたり,あるいは事件処理体制が全然追いついていないのに新件の受任だけは続けるコムスンのような弁護士がいたりすることも,残念ながら事実です。
 ただ,「弁護士は敷居が高い」などと敬遠する人がいる一方で,何やら精神上の障害を抱えていると思しき人が「隣の家から電波が降ってくる」「周囲の人すべてから監視されている」「(ろくな根拠もなく)某大企業から継続的な妨害工作を受け続けている」などと狂気じみた相談を受けてしまうこともあるのが弁護士業務の実情です(しかも,なぜかこういう人に限って,敷居などものともせず平然といろいろな弁護士に相談しようとするから厄介なものです)。
 また,そこまで極端なケースでは無くても,仮にほとんどの場合免責が認められる自己破産事件にせよ,依頼者には自らが裁かれる裁判手続きを受けてもらう以上,少なくとも裁判上問題となるような行為は厳に慎んでもらわなければならず,むろん法律上依頼者の希望(わがまま)には添えないということもありますから,弁護士業は一般サービス業のように,必ずしも完全な客商売感覚でやればよいというものでもありません。
 むしろ,特に債務整理事件に関して言えば,依頼者が弁護士に事件を依頼しているという最低限の自覚は持ってもらわないと,自己破産事件などの受任後に新たな借り入れをしたり,受任後も借金の原因となった浪費を止められなかったり,あるいは事件処理に必要な書類をいくら催促しても提出しないなど,受任後に問題行動を起こす人が多く仕事にならないといった一面もあります。
 弁護士の敷居が高いといった問題については,なお弁護士の側にも改善すべきことが多々あるとは思いますが,一般市民の人たちにも普段から弁護士や司法制度について理解を深めてもらい,節度を持って弁護士や司法制度を利用してもらうといったことも必要なのではないかと思います。

4 コメント

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はじめまして (かおる)
2007-06-17 12:48:24
黒猫先生の辛口のブログ、いつも楽しく拝見しています。再来年受験予定の法科大学院生です。私は、以前
サラ金で5年ほど登記支配人として、破産債権の回収をしていました。1000件ほどしか担当しませんでしたが、債権者代理人としても、多重債務問題に対する行政の取り組みが遅れていることは痛感していました。勿論、石垣島や盛岡市生協のような例もありますが、貸金業者に対する行政処分も最近までほとんどありませんでした。私が実務に着く頃には過払い訴訟も一段落しているかも知れませんが、200万人以上いる既存の多重債務者の問題は今しばらく続くと思っています。資格が取れたらすぐにこの問題に精力的に着手しようと思います。弁護士会や国金等から融資を受けられたら、独立して仕事を始めるつもりです。最近
就職問題が取り上げられることが多いですが、元々、
自由業の弁護士志望者なのに独立の気概の希薄な人が
多いように感じます。島根の田上弁護士のように、普通に営業の努力をしていれば、何とかなるのではと思っています。京都の竹下義樹弁護士が、以前著書で、
独立当初から納税できるほどには仕事も順調に行き幸運であったと述解されていましたが、私も生活さえできればよいのではないかと思っています。
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こんにちは (memaido)
2007-06-18 08:52:51
はじめまして、楽しく拝見させていただきました。
またちょくちょく拝見させていただきます。
返信する
こんにちは (memaido)
2007-06-18 08:56:45
はじめまして、楽しく拝見させていただきました。
またちょくちょく拝見させていただきます。
返信する
借金の無料相談を受け付けています (ありま)
2008-02-06 20:14:39
多重債務で困っている人を助ける活動をしています。http://www.nijikabarai.com/mo
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