黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

司法試験予備校が廃れる原因は・・・?

2008-01-02 01:40:05 | 法曹養成関係(H25.1まで)
 黒猫が司法試験やCFPを受験するときお世話になった早稲田セミナーが,経営不振で事業譲渡されたという風の噂を聞いたので調べてみたら,平成19年7月2日付けで大日本印刷という会社に事業譲渡されたようです。
 良くも悪くもあの予備校の名物学院長であった成川豊彦氏も,いつの間にか経営から身を引いてしまったようですね。早稲田セミナーにはしばらく行っていなかったので気付かなかった・・・。
 さらに,早稲田セミナーの池袋校が高田馬場校に統合されたそうなので,経営不振というのもおそらく本当なのでしょう。

 法科大学院が出来る際,大方の予想では司法試験予備校が法科大学院予備校に代わるだけで,予備校がなくなることはないだろうと思われていましたし,黒猫自身もそう思っていました。
 早稲田セミナーが廃れていったのは,おそらく黒猫が在籍していた時代には感じられなかった,経営の内部的事情もあったのかもしれませんが,司法試験関係に限って言えば,市場が大幅に狭まったことも大きな原因ではないかと思います。
 すなわち,旧司法試験の出願者数は平成15年の50,166人がピークで,その後は法科大学院の創設と合格枠の減少で出願者数が減り,平成19年は28,016人となっています。
 もっとも,この中には単なる大学法学部生の記念受験組も相当数含まれていますが,それでも旧司法試験受験者の大半は司法試験予備校の利用者でもあり,司法試験には予備校ができるだけの「市場」があったわけです。
 しかし,法科大学院・新司法試験時代になると,法科大学院の人気は第1期がピークで,現在では相当低下しており定員割れのところも出ているので,予備校へ行かなくてもどこかの法科大学院には入れるでしょう。一方,新司法試験の合格率は今のところ40%台なので,予備校が介入する余地もなくはないのですが,法科大学院自体が予備校化している上に,受験者が4千人から5千人程度しかいない試験なので,市場規模はあまり大きくありません。
 新司法試験の予備試験が実施されると,多少は事情も変わってくるのかもしれませんが,人気が急落した法科大学院中心主義の状態が変わらなければ,司法試験予備校も生き残る術を探すのは大変かもしれません。

 ただ,話がこれだけであれば,法科大学院設置の目的である「予備校潰し」は達成されたというだけのことかもしれませんが,仮に法科大学院の入学志望者が年間5,000人前後ということになると,旧試験時代に比べ法曹志望者は単純計算で10分の1に減ってしまったということになります。
 弁護士業務について未開拓の分野を切り開いていくには,当然それなりの才覚を持った人が法曹になってもらわないと困るわけですが,司法試験に合格しても就職すら難しいという実態が明らかになるにつれ,法科大学院への志願者が減少していけば,当然そのような才覚のある人は法曹など見向きもしなくなる(わざわざ何百万円もの学費を払って法科大学院に行かなくても,ベンチャー企業などでお金儲けをする方法は他にいくらでもあるでしょう)わけで,身も蓋もない言い方をすれば,むしろ法曹志願者はクズばかりになっていきます。しかも志願者の質がどんなに落ちても,そのうち年間3,000人は必ず合格させなければならないというのであれば,この先どうなりますか?
 最近,先輩の弁護士からも,企業に就職した大学の先輩からも,最近の新人弁護士は使い物にならないという声を聞くようになりましたが,新人を採用しても基礎が出来ておらず,一人前の弁護士として育成するのに多大な費用と労力がかかるということになると,多くの法律事務所は新人の採用自体を控えるようになってしまうのではないかと思いますし,企業の新人弁護士採用数も伸びないでしょう。
 そうなると,現行制度下で合格者数を3,000人にまで引き上げたところで,弁護士資格を取得しても弁護士の仕事をしない人が増え,結局は法曹人口が拡大するどころか,実質的にはむしろ縮小傾向に向かうのではないかという気がしてきます。
 このような状態は,現役の弁護士が「既得権益」を維持するにはむしろ有利で,以前は自分の事務所を子供に継がせたくても,子供が難関の旧司法試験に合格してくれないと無理でしたが,現行制度なら金を積んで子供を何とか法科大学院に入学させ,新司法試験合格まで漕ぎ着ければよいので,子供への事業承継はしやすくなります。
 おそらくはそのために,司法制度改革への反対派は弁護士業界でもなかなか多数派にならないのでしょうが,黒猫自身,今の自分の地位を維持したいのであれば現行制度のもとでも一向に差し支えはありません。
 黒猫の現行制度に対する不満は,むしろマクロ的な視点で言えば「このままでは法曹界全体がぶっ壊れる」,ミクロ的な視点で言えば「司法制度改革のせいで,まともな新人弁護士が取れず事業拡大ができない。どうしてくれる。」といったところにあります。

 なお,新試験組の任官についてですが,12月26日付け朝日新聞の記事によると,裁判官には新60期から66人が任官しており,旧60期の52人よりなぜか多いです。検察官には新60期から42人が任官しており,旧60期の71人よりは少ないですが,全体としては新旧ともにまんべんなく採っているという感じですね。
 問題はむしろ,法律事務所の方がこのように新旧まんべんなく採ってくれるかどうかで,既に弁護士業界では,「自分は旧試験出身者です」と名乗るような人も出てきていますし,何より弁護士会や日弁連自体が,未だに旧司法試験を「現行」司法試験,旧61期を「現行」61期などと呼んでおり(つまり,新司法試験は司法試験として認めないという見解を採っているわけです),むしろ新試験出身者に対する差別や偏見を助長するような態度を取っています。
 新60期あたりから不法行為に基づく損害賠償請求訴訟とか起こされたらどうする気なんでしょうねと思ってしまいますが,司法修習段階で優秀な人をスカウトできる裁判官や検察官と異なり,新試験組について弁護士への就職口が今後開けていくか,むしろ狭まっていくかは,新60期の人たちをはじめとする新試験組のトップランナーの人たちが,新試験組の評価としてどのくらいの評判を勝ち取れるかにかかっています。
 新60期の約1000人から,二回試験の不合格者と任官者を差し引いた800人余りの人たちのうち,どのくらいが法律事務所に就職できたかというデータはまだ出ていませんが,旧60期より確実に状況は悪化しているでしょうし,仮に運良く就職できても,出来が悪いとみなされれば待っているのは追放だけですからね(某先輩弁護士の事務所に就職した旧60期の人も,出来が悪い上に反抗的だということで,結局いじめ倒されてわずか3か月で辞めたそうです。新60期は,法科大学院で生意気なことを言うための知識を中途半端に教わっているので,こういう運命を辿る人がさらに増えるのではないかという気がします)。

27 コメント

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Unknown (しげもと)
2008-01-02 07:39:48
早稲田セミナー渋谷校もマークシティから、近所の雑居ビルに移りました。
また千葉先生の講義時間が、3時間30分 → 3時間15分、更にセミナー自体も年末年始に1週間程度の休校日が出来ました。
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Unknown (通りすがりA)
2008-01-02 08:22:51
この問題についてはぎーち先生が気になる文章を書いています。

早稲田セミナーの事業譲渡

http://d.hatena.ne.jp/attorney-at-law/20070530/1180536007

法科大学院制度になって法曹への経済的・時間的な敷居は相当高くなってしまったようですね。
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Unknown (通りすがり)
2008-01-02 15:26:40
 仮に運良く就職できても,出来が悪いとみなされれば待っているのは追放だけですからね(某先輩弁護士の事務所に就職した旧60期の人も,出来が悪い上に反抗的だということで,結局いじめ倒されてわずか3か月で辞めたそうです。新60期は,法科大学院で生意気なことを言うための知識を中途半端に教わっているので,こういう運命を辿る人がさらに増えるのではないかという気がします)。

 何もあなた方の世界に限った話じゃないですよ。もともと試験通っただけで仕事があった今までのん方が変ということを知ってください。
 臨機応変ということと全く無縁に仕事をしている人には大変重要なことなのでしょうね。黒猫せんせ。
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地方の弁護士会などの状況 (地方の弁護士)
2008-01-02 17:15:01
 地方の法律事務所では、まだ、旧制度に対する信頼感から、旧の方が新よりも受けはいいようです。
 ただ、ここ数年で、旧の司法修習生の中に、本当に司法試験を合格したのかと疑われるような人が、以前と比べ増えました。残念です。
 新については、1期については、東大や京大ローなどの有名ローであれば、昔の旧とさほど差がないという話を、渉外弁護士からうかがったことがあります。
 ただ、地元のロー生の姿勢や実務家教員以外の教員に対する評価は、かなり厳しいものがあります。
 質を担保する最後の砦は、司法修習だと思いますが、逆にそれは短くされています。
 地方の弁護士の場合、40歳以上の弁護士は、顧問先など経済的基盤があるため、弁護士の数が増えても、さほど、経営に影響がでるとは思われませんが、40歳未満の若手中堅弁護士は、今でも競争がかなり激しくなっていることを考えれば、収入的には大変になっていくと思います。
 また、黒猫さんがご指摘されるように、旧にしろ、新にしろ、合格者の数が増えたことにより、能力的に乏しい方が少なくない数司法試験に合格してしまうことが生じたことが問題で、現状を前提とするのであれば、司法修習期間を最低でも1年半とし、また、2回試験の合否の判断を厳格に行うということが必要だろうと思います。
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Unknown (Unknown)
2008-01-02 17:48:20
「現行」という呼称は司法研修所でも使われているので,不法行為と認められることはまずないでしょう。
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Unknown (60期)
2008-01-02 17:54:00
研修所で「現行」なんて使ってないけどね。
仮に旧の人がそう呼ばれたのなら,それは機嫌を取ってもらっているだけだよ。
いずれにしろ,昨今の新人弁護士の評判を落としているのは新旧60期ではなく,それ以前の旧組だってことをお忘れなく。
だって我々はまだそんな評価されるほど仕事してませんから(笑)。
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Unknown (旧61期)
2008-01-02 23:53:04
え・・普通に司法研修所では「現行」だよ?
こっちは普通に旧61期として入所するつもりだったけど、司研から配布される資料等は全て「現行61期」で統一されてる。
上の方、すごく主観的で一方的な見方しかできないようなので、私も一方的な意見を言わせてもらうと、最近の教官の中には新試験組には能力的な危機感をもつ人が少なくないですよ。
近年の合格者全般そうですが、特に新60期はひどかったと。
中でもP庁の教官は特に。
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Unknown (a)
2008-01-03 12:19:28
>近年の合格者全般そうですが、特に新60期はひどかったと。
中でもP庁の教官は特に。

それは刑法、刑訴の基礎的知識の欠如ということで
しょうか、それとも事実認定能力の欠如ということ
でしょうか。
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Unknown (Unknown)
2008-01-03 14:09:49
当然、実体法です。
そして、事実認定能力については、実体法の上に積み重ねるものなので、実体法の能力が欠ける者の事実認定能力については判定不能だと。

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Unknown (地方の弁護士)
2008-01-03 17:22:38
 新旧いずれが優れているのかということについては、新制度の法曹が誕生したばかりであり、現時点で論じるのは神学論争に近いような気がいたします。
 既存の法曹が心配しているのは、現在の新旧含めて能力不足の方が少なくない人数含まれているということです(それは新旧60期の2回試験などの結果からいえることです)。
 そして、新制度の大きな問題点は、予備試験はあるとしても、原則として、司法試験が誰もが受けられるものではないということです。
 受験生の層が薄くなることにより法曹界が受けるデメリットについてはまさに黒猫さんが指摘されることです。
 なお、法科大学院では、多額の授業料や入学金などで奨学金の負担されているかたが少なくないとうかがっていますが、地方の弁護士でも、現実問題として、会費滞納者が生じており、その対応に苦慮しているところです。
 弁護士になれば新人弁護士でもある程度の高収入が保証されるというのは、10年前の話で、最近では、年400万円の提示も珍しくなくなりました。
 くれぐれも、弁護士になってお金儲けをしようとする気だけはおこさないでください
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