黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

無理矢理作り出される「法科大学院教育の成果」

2013-01-16 14:17:33 | 法曹養成関係(H25.1まで)
 「ロー進学,ダメ。ゼッタイ。」キャンペーンの一環として,しばらく法曹養成関係の記事が続くことになると思います。それ以外にも品川再開発計画の問題など書きたいことはあるのですが,平成25年度における法科大学院商法の被害者(法科大学院入学者のこと)を少しでも減らせるかは今が勝負時なので,それ以外の記事は当分後回しにせざるを得ません。
 なお,法曹養成関係では,他にも鹿児島大学など淘汰される寸前の底辺ローがシンポジウムを開くとか,あの久保利英明弁護士が「大宮法科で「三振」した人を紹介してほしいとの依頼が多く、間に合わないぐらいだ」などとほざいているといった話題もあるのですが,このブログでは取り上げる余裕がありませんので,詳しくはSchulze先生のブログを読んで下さい。貸与制の申請状況に関する話題は,このブログでも別の機会に取り上げる予定です。

 これらの話題を差し置いてこの記事で取り上げるのは,法務省のHPで最近公表された,『平成24年司法試験の採点実感等に関する意見』です。この資料は,考査委員の目から見た司法試験受験生の傾向として重要なものであり,このブログでも例年取り上げていますが,今年も例年どおりの辛口コメントが並んでいます。主なものを以下に抜粋してみましょう。

○ 公法系科目第1問(憲法)
法科大学院における教育の成果を感じられる答案もあったが,全ての法科大学院における憲法の授業で扱われているはずの問題であったにもかかわらず,良いレベルにある答案が多くはなかったことを直視すると,各法科大学院における憲法の教育自体を今一度点検し,見直していく必要があるように思われる。」

※ 司法試験の憲法は,例年定型的な論証パターンでは解けない最新の問題意識を踏まえたような出題が多かったのですが,平成24年の憲法の問題は,寺への公金支出(政教分離関係)という典型論点からの出題でした。まともな受験生であればひととおりのことは書けるだろうと思われる問題であっただけに,それでも全体的な出来が良くなかったというのは,受験生の質の低下が深刻な状況にあることを示す一例として指摘しておくべきだろうと思います。

○ 公法系科目第2問(行政法)
誤字・当て字が多く,中には概念の理解に関わると考えられるものも少なくなかった(例えば,換置処分,土地収容,損失保障など)。このような誤字の多用は,書面作成の基本的能力についても疑問を抱かせることになる。
ほぼ全ての答案において,基本的事項については知識として定着していることがうかがわれ,法科大学院教育の成果を認めることができた。しかしながら,各問において単に条文を羅列するだけであったり,逆に,条文を離れて抽象論を展開する答案が数多く見られた。実務家に求められるのは,法律解釈による規範の定立と,丁寧な事実の拾い出しによる当てはめであり,こうした地に足のついた議論が展開できる法曹を育てることを求めたい。」

※ 引用されている誤字は,×換置処分→○換地処分,×土地収容→○土地収用,×損失保障→○損失補償ということですが,これらはいずれも法律の基本概念に属するものであり,このような誤字(しかも手書き)をすることは,法律家として基本的な知識が身に付いていないことを示すものです。弁護士としての就職後にこんな間違いをしたら,もはや即刻事務所をクビにされても文句は言えないレベルですね。なお,憲法の問題では「訴訟代理人」を「弁護人」と誤記する例もあったそうですが,これも素人レベルのひどい間違いです。

○ 民事系科目第1問(民法)
「答案の中に,少数ではあるが,受験者の極めて優れた分析能力や考察能力をうかがわせるものが見られる。旧司法試験の制度の下で見られたように,法学教育は学部までで終了し,その後の司法試験受験のためには,受験者の関心が受験準備のマニュアル的な訓練ばかりに向かいがちであった仕組みの下では,このような答案は現れなかったものと思われる。
 半面において,細かく観察すると,法律家として将来において実務に就くという目的意識とは距離のある文章作成の感覚も,遺憾ながら見られる。(後略)」
「本年試験においても,題意が与える事実関係を精密に分析して,それについて民法が用意する規範を適切に運用してみせた答案がある半面において,題意にない事実を付加したり,題意から想定し難い仕方で事実関係を理解したりして,殊更特殊な問題を論ずることに時間を割く答案も見られた。後者の思考態度は,法律実務に就く者の仕事の姿勢として,あり得ないものである。

※ 民法の設問1は,本来遺産共有や時効取得に関する問題であったにもかかわらず,民法94条2項の類推適用というかなり非常識な論点に相当の分量を割いたり,漫然と要件事実を列挙してそこへの当てはめに堕していたりという答案が目立ったということです。

○ 民事系科目第2問(商法)
「株主や監査役による差止請求権,利益相反取引に係る取締役の会社に対する責任とその追及,監査役の選任についての意見陳述権に関する規律は,会社法の基本的な規律であると考えられるが,これらについての理解に不十分な面が見られる。また,設問1や設問3のうちで議案①に係る「否決の決議」が決議取消しの訴えの対象となるかという問題などについて,自分の頭で論理的な思考をして解答を導くという点に不十分な面が見られる。会社法の基本的な知識の確実な習得とともに,論理的思考力を養う教育が求められる。」

○ 民事系科目第3問(民事訴訟法)
「採点実感に照らすと,受験者の大半は,民事訴訟法の教科書に記載された基本的事項に関する知識はそれなりにあるといえるものの,なお,基本的な概念を正確に,かつ,条文・制度等をその趣旨から理解することの重要性を繰り返し強調する必要があると思われる。」

○ 刑事系科目第1問(刑法)
「事案から具体的事実を拾い出し,法規範に当てはめ,妥当な結論を導き出し,それを的確に論述する能力が重要であるところ,各考査委員からは,「総論に比較して各論の問題点について的確に論述する能力が欠けているのではないか。」との感想や「各犯罪類型に該当する典型的事案をイメージできていないのではないか。」との感想も寄せられている。」

※ 刑法の学習分野は,学者の関心が高い「総論」と,学者の関心が低く学説によって結論にあまり差が生じない「各論」とに分かれるのですが,考査委員からは総論に比較して各論の学習が不足しているのではないか,という感想も複数寄せられたということです。法科大学院で学者の問題意識に引きずられ,実務家として真に必要が学習が出来ていないことを示す一例でしょう。

○ 刑事系科目第2問(刑事訴訟法)
抽象的な法解釈や判例の表現の意味を真に理解することなく機械的に暗記し,また不正確な知識を事例と関係なく断片的に記述しているかのような答案も相当数見受けられたほか,関係条文からの解釈論を論述・展開することなく,事例中の事実をただ書き写しているかのような解答もあり,法律試験答案の体をなしていないものも見受けられた。
「このような結果を踏まえると,今後の法科大学院教育においては,刑事手続を構成する各制度の趣旨・目的を基本から正確に理解し,これを具体的事例について適用できる能力,筋道立った論理的文章を記載する能力,重要な判例法理を正確に理解し,具体的事実関係を前提としている判例の射程範囲を正確に捉える能力を身に付けることが強く要請される。

※ 基本的な知識や理解力を重視せよという指摘は,上記のほかほぼすべての選択科目においてなされています。

 その他,すべての必須科目及び一部の選択科目において「字が乱雑過ぎて判読困難な答案が多い」「読み手を意識した答案作成を」といった指摘がなされています。パソコンの普及により手書きの能力が落ちているのは分かりますが,法科大学院生であれば期末試験や答練で手書きの訓練も行っているはずであり,判読できないような文字の答案を書いて良いという言い訳は成立しません。さらに民法では,債務のことを「債ム」,平成のことを「H」と略記するなど,答案を個人的なメモの類と混同しているような例もあったということであり,受験者の意識不足が窺えます。
 採点実感に関するこれらの記述を読むと,やはり法科大学院修了者(法務博士)といえどもその質は玉石混淆であり,そもそも法律に関する基本的な知識がない,断片的な知識はあっても具体的な事例に当てはめる能力がない,といった「問題児」が目立つことが分かります。しかも,旧試験時代と異なり合格率が20%を越えているのに,その中で「三振博士」になってしまう人は基礎的な法的知識や理解力に根本的な問題があるということであり,そのような人の紹介依頼が多いという久保利弁護士の主張は到底信用できない,と言わざるを得ないでしょう。

 ただ,今年の採点実感で気になるのは,引用部分のうち青字で示した部分です。一部の科目について「法科大学院教育の成果を認めることが出来る」という趣旨の記述が若干あり,特に民法では優れた分析能力や考察能力をうかがわせる答案もあった,旧試験のシステムではこのような答案は現れなかったという趣旨の記述まであります。
 もちろん,「採点実感等に関する意見」全体を読めば,そのような優れた答案はごく少数であり,全体として法科大学院教育の成果が極めて不十分であると評価されていることは明らかなのですが,最近の政府・文部科学省はとにかく「法科大学院教育の成果」なるものを強調する傾向にあり,この採点実感等に関する意見も,法曹養成制度検討会議など政府の審議会では青字の部分だけが恣意的に引用されて「法科大学院教育は成果を挙げている」といった強弁に使われかねないという懸念があります。
 また,法科大学院教育の成果という記述は,平成23年までの「採点実感等に関する意見」ではあまり見られなかったものであり,平成24年版からこのような記述が入ったということは,司法試験管理委員会にも「法科大学院制度を擁護するために,受験生の批判ばかりではなく法科大学院教育の成果としてプラスに評価できるようなことを書け」という圧力がかかっているのではないでしょうか。特に,民法における過剰なまでのリップサービスは,そのような圧力に屈して書かれたものではないかという疑いが強いように思われます。
 もはや,法科大学院制度は悪質な出会い系サイトの類と大差なく,サクラを使った誇大広告・虚偽広告をやり続けなければ存続できないものになっているのですね。

19 コメント

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Unknown (法学部2年生)
2013-01-16 14:49:10
現在国立大学の法学部2年生で、ロー進学を視野に入れている者です。
某予備校のHPでは、東京大学のローに進学すれば、バラ色の弁護士ライフが待っていると取れる旨の宣伝がなされています。
一方、黒猫先生のブログをはじめ、現場の弁護士の先生方の現状を憂う声が様々聞こえて来ます。
弁護士業界を全体として見たときに、現在置かれている状況、及びこれから置かれるであろう状況を客観的に考えると、ローが東大だろうが、予備試験合格者でもない限り、とても将来性を期待することのできる状況ではないように思われます。
この点如何でしょうか?
お答え頂けると幸いです。
長文駄文失礼しました。
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Unknown ()
2013-01-16 15:56:08
少なくとも,東大・京大のローを修了し,司法試験の短答で300点超(350点満点)を取得すれば,合格発表を待たずして就職が決まり,年収1千万円超,語学研修などが保証され,その後に留学してパートナーになり一生安泰なのは事実です。

なお現場の弁護士の先生方の,現状を憂う声は,まともに意見を聞いてはいけません。そういうことをいいつつ,弁護士として高額な会費を払い続けるだけの稼ぎがあるのです。本当に現状が厳しければ,現状を憂う前に,弁護士登録を抹消し,別の道に進むことになります。

結局,なんだかんだで,バラ色の弁護士ライフが待っているのです。
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Unknown (Unknown)
2013-01-16 17:39:37
ってパンフに書いてあるんだ。
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Unknown (休業中Z)
2013-01-16 18:11:57
> 東大・京大のローを修了し,司法試験の短答で300点超(350点満点)を取得すれば

ということは、東大・京大ローの定員数に収まらない新人弁護士はどうなるのでしょう?

> その後に留学してパートナーになり一生安泰

留学させてもらえてパートナーに残れるのは、何割でしょう?

この文面からだけでも重の絞りがかかっているのに、バラ色の弁護士ライフが待っているなどと良く言えますね。

資本主義・市場経済をナメ過ぎです。

あ、パンフレットに書いてあることか!真に受けてごめんなさいね。
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Unknown (元東大ローの66期)
2013-01-16 19:37:32
確かに今年の採点実感を見ていると、どの科目にも黒猫先生が青字で引用されている文が引用されており、目を引きましたね。抽象的な説明に終始していることから、リップサービスなのでしょうね。私は幸運にも2ケタ順位で合格できましたが、刑法で問題ある間違いと指摘されているミスを一つしています。一個ぐらいは大目に見てもらえたのでしょうか?

>法学部2年生さん

バラ色の定義次第ですし、予備試験経由の方が修習開始したのが今年(といっても大学4年新司法試験合格の方はいません。)からなので、今後採用市場がどうなるかはよく分かりません。ただ弁護士が需要を超えて増えているのは事実です。また予備校は、受講者を囲い込みたいという動機を当然有しています。さらに予備試験合格者のみを対象にした懇親会を開く事務所も結構あります。
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失礼しました。。。 (元東大ローの66期)
2013-01-16 19:40:05
誤×
黒猫先生が青字で引用されている文が引用されており

正○
黒猫先生が青字で引用されている文が書かれており
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Unknown (Unknown)
2013-01-16 21:49:34
四大で留学しても研修先を世話してもらえないとか帰っても椅子がないとか、留学後にやめる人が多いです。無事にパートナーになっても事務所内の弁護士とクライアントの奪い合いだったり、安泰なんてないですよ。
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黒猫先生への質問 (初心者)
2013-01-16 23:43:47
お初です。(新人)弁護士数の激増、就職難やロースクール制度の様々な問題点については素人ながらも理解できました。ただ、この問題に隠れているせいか、あまり世間で議論になりませんが、司法書士。こちらの業界はどのような現状なのでしょうか?自分は、たまたま法務省の統計を目にしたのですが、登記件数は不動産商業ともに年々減少しています。数字だけをみると、近年は、ものすごい落ちこみぶりといっていいと思いますが?だからこそ司法書士で認定資格がある方は、債務整理分野にこぞって進出したのだと思いまが?登記の仕事をとるのが難しいからです。弁護士業界は、現状、様々な問題がある。若い人たちは、なら司法書士になろう。そう考える人が私は結構おられるのではないか。そう推測する次第です。なので、黒猫先生の主観で構わないので、こちら、つまりは司法書士業界についてのお話をもして頂きたいと希望いたします。よろしくお願い申し上げます。
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Unknown (芳賀)
2013-01-17 09:32:42
法科大学院のパンフは、あこぎな先物取引商品
と同じであろう。

客殺しとは、このことだ!
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Unknown (Unknown)
2013-01-17 09:40:09
最近の話は知りませんが,銀河鉄道999(古いですが)のように,留学して帰っても椅子がないという話は,昔からありますよ(そもそも,留学前に,「帰ってくるところはないからね」と告げられていたはずです)。
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