黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

現実を見ないロー教授,現実を見ている受験生

2013-01-18 20:32:27 | 法曹養成関係(H25.1まで)
 一時期ブログを休止されていた「ろぼっと軽ジK」さん(菅藤浩三弁護士)がブログを再開されたようです。
http://ameblo.jp/kantokozo/entry-11450054806.html
 こちらのブログで,『検証・司法試験と予備試験』という日弁連主催シンポジウムの概要が紹介されていたので,簡単ながら黒猫の感想を述べたいと思います。

<菅藤弁護士によるシンポジウムの概要(同弁護士の意見と思われる部分を除く)>
第1、司法試験と予備試験の問題はそれぞれ適切か?
 1、司法試験の憲法はLS教育に整合した適切な出題である。
 2、司法試験の行政法は、受験者に問題点を発見させるのでなく、設問中に誘導が見られるなど、法的思考力を問う出題として疑問がある。
 3、予備試験の問題は旧司法試験のように問題文が短く法律知識のみを問う傾向がみられ、LS修了と同等程度のレベルとして相応しくない。

第2、予備試験合格者(東大法学部在学中と中央LS在学中)の実情報告
 1、東大生「LSに進学した場合の経済的負担のほか、国家公務員など他の進路の選択を考慮して受験。難易度に差はあれ、司法試験と予備試験の出題やそのための勉強に本質的な違いは存在しない」
 2、中央LS生「予備試験の準備とその受験対策は、司法試験本試験の対策につながる」

第3、予備試験のあり方はいかがか?
 松本恒雄一橋LS教授+中川丈久神戸LS教授
=「予備試験には旧試験への先祖がえり現象が見られる」
=「予備試験の水準は既修者認定試験に等しく、LS修了よりも相当低い」
 森田憲右筑波LS教授
=「予備試験は基本的知識の理解を重視し、科目や論点を絞るべき」
他方、別のパネラーから「予備試験の科目に展開先端科目を追加すべき」という意見も出ていた

★「予備試験合格者の多くは、学部生・LS生であり制度趣旨に反するばかりか、予備試験勉強のためにLSの授業を欠席するなどの弊害も生じている。予備試験の受験資格や合格者数に何らかの制限を設けるべきである。」、最後こんな感じのまとめになってたみたいです。

 ・・・・・・ということらしいです。カエサルの言葉に,「人間ならば誰にでも,現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は,自分の見たいと欲する現実しか見ていない」というものがあるそうですが,ついその言葉を思い出してしまう内容ですね。

○ 第1の2(司法試験の行政法について)
 新司法試験の行政法では,たしかに論文試験で設問中の誘導などがみられますが,それは行政法に関する受験生のレベルが一番低いからであり,しかもその原因は法科大学院にあるからです。
 行政法は,旧司法試験時代には選択科目の1つでしかなく,しかも選択科目の中では分量が多いため受験する人の少ない科目でした。その上,平成12年以降の旧司法試験では選択科目も廃止されたということで,もともと学者・実務家ともに行政法を適切に教えられる人材は不足しているのですが,法科大学院では行政法の授業に4単位くらいしか割り振っていない,法学既修者試験でも行政法を出題対象としていないなど,行政法を不当に軽視している例が目立ちます。
 おかげで,受験生の多くも行政法を非常に苦手としており,新司法試験でも条文の正確な引用といった当たり前のことに配点したりするなど,受験生の「救済」をやらざるを得ませんでした。問題文の中に正解への誘導を入れて,適切に解答できる受験生を一人でも増やそうという試みもその一環です。
 実際には,法科大学院ではなく予備校の講義で基本的な知識を補っている人が多いと思われますが,法科大学院生の中には経済的事情により予備校の講座を受けられない人も相当数いますから,やはり法科大学院の教え方があまりにまずい科目については,受験生全体のレベルが大きく下がってしまうことになるのです。
 行政法については,法科大学院側の教育方針に重大な問題があるのに,それを棚に上げて問題内容を「法的思考力を問う出題として疑問がある」と法科大学院関係者が指摘するのは,もはや怒りや呆れを通り越して「滑稽である」と評するしかありません。

○ 予備試験のレベルについて
 予備試験(論文式試験)の問題文は,旧司法試験に類似した比較的短いものが多く,長文の事例問題を中心とする新司法試験の形式とは大きく異なりますが,同じ科目である以上求められる法的知識の内容に大差はなく,対策のための勉強方法にも本質的な違いが生じないのは当然のことです。
 そして,平成24年度の予備試験には法科大学院修了者626名が出願し,うち492名が実際に受験していますが,そのうち最終合格者はわずかわずか26名(合格率約5.3%)に過ぎません。この一事を取っても,一般的な法科大学院修了者と予備試験合格者とのレベルを比較してどちらが高いかという問題は,もはや答えるまでもないことです。
 報告者のうち,実際に予備試験を受験して合格した学生達は,当然ながら現実が正確に見えているわけですが,予備試験の水準が法科大学院修了より低いなどと主張する教授達は,証拠に基づく事実認定という法律家の基本すら出来ておらず,法律家としての資質に重大な問題があると言わざるを得ないでしょう。
 なお付言すると,素人目には予備試験の方が論文の問題文が短いので簡単な問題に見えるのかも知れませんが,毎年2000人以上を無理矢理合格させている新司法試験では,法的知識も事案分析能力もかなり残念なレベルの答案が「一応の水準」(他の科目の出来によっては合格する可能性もある答案)と評価されている一方,予備試験は合格率が低く,しかも問題文中に誘導を設ける余地もないため,法的知識が相当のレベルに達していなければ合格できないのです。
 二回試験もそうでしたが,一般的に法律学の論文試験は,問題文が短いものの方が難しいのですよ。そのような基本的常識すらも知らない人間が法科大学院の教授をやっているというのは,法律実務家の一人としては到底信じがたいものがありますが,黒猫は法科大学院の教授達とは違いますから,ちゃんと見たくはない現実も見ます。司法試験に合格したことさえもなく,一般人から見ても到底法律を教える資格などないと思えるような人間が,平然と教授の肩書きを帯びて幅を利かせている異常な空間,それが法科大学院なのです。

 仮にも大学教授とあろう人達が,シンポジウムであからさまに客観的事実と異なる報告をしてしまうのか。そのような疑問には,既にカエサルが答えてくれていますね。法科大学院関係者や日弁連は,法科大学院擁護・予備試験排除という結論先にありきで物事を考え,自分達が見たいと欲する現実しか見ようとしないため,自分達の頭の中で客観的事実に反する「現実」を作り上げてしまうわけです。
 このブログの読者さんの中には,黒猫がくれぐれも法科大学院には入学しないようにと散々警告しているにもかかわらず,コメント欄で今年法科大学院に入学すると表明されている方も若干おられるようですが,法科大学院に入学してもそれに見合う経済的メリットが全く得られないというだけでなく,法科大学院に入学した人はその時点で法科大学院の利害関係人になってしまい,それは上記の教授達と同様法科大学院にとって都合の良い現実しか見えない人間,つまり第三者からは単なる視野の狭い愚か者にしか見えない人間に成り下がってしまうことを意味しています。
 わざわざ何百万円もの高い学費を払って,司法試験にも実務にも役に立たない授業に延々耐え続け,しかも一般人からも馬鹿にされるような視野の狭い人間に成り下がるというのは,もはや変態のやることです。覚せい剤などの中毒者は,薬物の幻覚効果によって現実逃避し,頭の中で自分達の見たい架空の「現実」を作り出して悦に入っているわけですが,法科大学院の教授やその言うことを信じている学生がやっていることもそれと大差ありません。立法論としては,覚せい剤取締法と同様に『法科大学院取締法』を制定し,現実離れした空想に浸るばかりかそれを世間に押しつけようとする有害な人間を厳罰に処すべきでしょう。

 ローマ人の物語を持ち出したついでに,自分達にとって都合の良い現実しか見ようとせず,教育者としての責任をまるで果たそうとしていない法科大学院の教授達には,同じローマ人による次の言葉を贈ることにします。

『責任を果していない者が報酬をもらいつづけることほど,国家にとって残酷で無駄な行為はない』(皇帝アントニヌス・ピウス)

17 コメント

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Unknown (休業中B)
2013-01-18 21:55:10
いや,またこの記事にもほとんど文句のつけようがないです。読み終えて唸ってしまいました。ただ,「もやは変態…」の部分は「金と時間が有り余り,自分の将来にも関心が薄く,馬鹿にされることも恥じない図太い神経の持ち主だけがしてよいことです」くらいにしてもいいのかなと思いました。あれ,あんまり変わらないか。
それにしても,「見たいと欲する現実しかみない」だけではなく,最近は,大戦末期の台湾沖海戦の虚報よろしき戦果を声高に叫ぶ幻覚的症状まで呈する人までとうとう現れたようですね。そういう人には,「敗走」を「転進」と取り繕うすべをこっちから与えてやるくらいの寛容な心で対処した方がよりスムーズに事が運ぶのかな,とも思いました。
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Unknown (付け足し)
2013-01-18 23:41:48
先日とあるパーティーで大手企業の人に弁護士ですと言って名刺を渡したら、「うちは既に使っている弁護士いるから、もう弁護士はいらないから」とあしらわれました。こちらが営業する気もなく、そのような態度も見せていないのに。これからの弁護士は、営業マンをあしらうような扱われ方をされるのでしょう。
弁護士になりたい人は、このように扱われてもプライドが傷つかないという素養があることも必要です。
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Unknown (Unknown)
2013-01-19 00:21:49
その大手企業の人が特殊なんじゃないですか?弁護士に対してじゃなくても失礼な対応だと思います。
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Unknown (Unknown)
2013-01-19 01:02:42
大手企業の人は逆に良心的だと思いますけど。複数のアメリカ法律事務所に対して、仕事を依頼する可能性があるような振りをしてご食事をおごってもらっている日本大手企業の人を何人か知っています。
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Unknown (Unknown)
2013-01-19 01:30:41
よほど、うんざりしてるんだろうね。
大手企業だったら、普通、お偉い人たちのネットワークに入ってるんだから、常識的に考えて、どこの馬の骨かもわからない連中には、いくら安くても頼むわけないよね。
そんなこともわからないで、プライドだけ高くて、よってくる勘違いさんが多いんじゃない?
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Unknown (Unknown)
2013-01-19 01:34:52
そういえば、行政法にアイデンティティーを見出そうとする、ロー関係の人って多いよね。
俺達は、行政法を勉強したんで、旧試連中とは違うんだって。
まあ、なんていうかなんだけど・・・。
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Unknown (Unknown)
2013-01-19 12:39:50
『弁護士になりたい人は、このように扱われてもプライドが傷つかないという素養があることも必要です』→わらた
どんだけぬるま湯な業界かがよくわかりますw
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Unknown (Unknown)
2013-01-19 18:41:38
>「うちは既に使っている弁護士いるから、もう弁護士はいらないから」とあしらわれました。

50期後半くらいで,準大手か準々大手の事務所のパートナーになった弁護士が,名刺に「パートナー」と刷って,パーティーとかで名刺を配りまくって,営業しているのを見たことがあります(トークが明らかに自己紹介のレベルを超えていました)。

事務所内での売上目標値達成のために大変なんだなと思いました。
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Unknown (Unknown)
2013-01-19 18:54:40
これだけ貴重な年代の時間と多額の金を使って、多少はぬるくなかったら、誰も来ないって。
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Unknown (Unknown)
2013-01-20 00:53:56
だからこそ志願者数(適性試験受験者数)が激減しているのでしょう。
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