黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

告発される「法科大学院教育」

2012-12-19 23:44:28 | 法曹養成関係(H25.1まで)
 選挙結果に関する感想は,まだ自分の考えがまとまっていないので,ひとまず司法関係の記事に行きます。

 法曹養成制度検討会議については,第4回の議事録が既に公表されています。
http://www.moj.go.jp/content/000104976.pdf
 第3回までと同様,弁護士出身の和田委員が現行制度に批判的な発言をして,それを他の委員が袋だたきにするという構図になっているのですが,和田委員の発言内容(議事録10~12ページ)は読んでいるだけで戦慄すら感じます。法科大学院教育の実情に関する部分を要約すると,以下のような指摘がなされているのです。

○ ある法科大学院では,ある学者教員が実務から遠い自分の研究分野を集中的に取り上げ,レポートの課題もそこから出題されて学生にとって大きな負担となったため,勉強熱心な真面目な学生らが,学者教員の関心に偏らない授業を要望したところ,その学者教員から『それは予備校主義だ。』と拒否されたそうである。

○ ある法科大学院の民法の授業では,出席強制で学生は数多く出席しているけれども,その学者教員が自分の研究分野,つまり司法試験にも実務にもおよそ関係がないようなことですけれども,それしか授業で扱わないために,教室の最前列の学生しか授業を聞いていない。それ以外の学生は自分で司法試験の勉強という内職をしているという話です。そういう状態を教員も学生も知っていて,互いに何も言わない。そういう授業でも,教員が学生に内職をやめろと言わないだけ,まだ学生にとっては有り難い授業だということのようです。

○ 今年の7月5日の東京新聞,あるいは今年の8月24日の日経新聞にも,法科大学院の授業は司法試験にも実務にも役立たないものであった,という修了生らの感想が報じられています。他方で,学生としては,>学者教員の科目の単位も取得しないといけませんので,司法試験対策や実務にも直結しないような中間試験,期末試験の過去問を研究して,何とか留年しないように気をつけなければならない,という状況にもあるわけです。

○ (和田委員が)ある法科大学院の研究科長と雑談した際,法科大学院教育の重要性を具体的にいろいろと話したところ,その研究科長は,「和田さん,なぜ教育,教育とそう熱くなるんだ。法科大学院の教授といえども研究だけしていればいいんだよ。学生が司法試験に合格するかどうかは,本人の元々の資質と本人の努力によるものなんだよ。」と言っていました。和田委員は驚いて,「じゃ,法科大学院は何のためにあるんですか。」と言ったところ,返事はなかった。

 このブログは,法科大学院生などの読者が多いようですから,このあたりの事情はむしろ読者諸氏の方が詳しいかも知れませんね。コメント欄への書き込みは特に制限していませんので,情報交換などの場として活用していただければ幸いです。
 それはともかくとして,このような和田委員の痛烈な批判に対し,学者出身の井上委員は懸命に反論されていますが,和田委員の指摘するような教員の存在を全否定することはできないようです。ただ,そのような教員はあくまで「ごく一部」であると主張する一方,実務家教員でも問題のある例は少なからずあったと指摘していることから,第三者の目から見ればやはり法科大学院教育は全体的にかなり問題があるという印象を抱かざるを得ない議論になっています。

 また,議事録の25~26ページでは,田島委員もかなり痛烈な批判をしています。

○ 個人的にもいくつかの法科大学院を見学したところ,それで驚いたこと,共通していたことは,先生方から,合格率が非常に低いということについて,恥ずかしながらという言葉が一回も出てこないのです。どこの大学へ行っても,自分のところはこんなにやって,こんなに努力していると,いいところを一生懸命お話しはいただいたんですけれども,だって,合格率15%とか20%以下で法科大学院と名乗っていることがどんなに恥ずかしいことかということを,その先生たちが思っていないんです。そういうところは,自浄作用で70%とか80%に上げていくなんていうことは到底無理だと思いました。今はこういうことだけど,自分たちは少しでも学生のためによりいい教育をやって,合格率を上げたいということであれば,将来に対する楽しみみたいなのはあるんだと思います。ただ,ないです。私が回ったところはありませんでした。現状を反省して教育内容を全面的に改善しようという意欲は全く感じられませんでした。

○ それから,学生さんたちにいろいろ御意見も聞いたんです。事務局でセットしていただいたところに行って,6人の学生さんたちに聞いたんです。「この学校は6人のうちの1人しか合格しないんですよ。あなたたちの中で,5人は落ちる,法曹界に入れないんだと思うんだけど,それについてどうですか」と聞いたら,みんなきょとんとしていました。自分たちの学んでいる学校は合格率が低いわけですから,自分が法曹界に入れないかもしれないという危機感が学生にもないのです。これには非常に驚きました。

○ もう一つは,未修コースのところで驚いたのは,一橋大学は非常に合格率も高くて,授業を見ても,さすがというぐらいしっかりした,生き生きとした雰囲気がありました。ところが,未修の人たちに聞いたら,どこどこ大学,法学部出身ですという人がぞろぞろといるんですね。しかも,偏差値の非常に高い,大学の法学部を出た人たちが未修なんです。

 その他の発言については,性懲りもない法科大学院擁護の発言を繰り返すもの,単に司法試験の合格率を上げればいいなどと主張するもの,大規模校の定員を減らすか地方の下位校を減らすかで不毛な論争をするものなどが多く,わざわざ取り上げる気にもなれませんが,検討会議の事務局としては,文科省はこれだけ頑張っているんだという資料を一生懸命作って,とにかく法科大学院制度維持という結論に持って行きたいという意図がありありと感じられます。
 もちろん,法曹養成制度のあり方に関する最終的な結論は,有識者等による検討会議ではなく閣僚会議にゆだねられることになりますので,安倍新政権の閣僚たちがどう判断するかは現時点では分かりません。ただ,法曹養成制度の崩壊をただ座して待つ理由はありませんし,検討会議では来年の2~3月くらいにパブリック・コメントを実施することが予定されているようなので,法科大学院制度や現行の法曹養成制度に不満のある人は,積極的に意見を出すのが望ましいでしょう。また,実際に法科大学院の授業を受けられた方については,問題のある授業の実態なども書き送るのもよいと思います。
 いくら官僚たちが厚顔無恥であっても,パブコメで批判的な意見が殺到するようであれば,さすがに動揺はするでしょうし,閣僚たちもそのような意見を無視することはできないでしょう。

 衆議院の総選挙は終わりましたが,有権者の役割は本来投票だけではありません。今の政治家が国政全体に目配りをするのは限度がありますから,自分の身近にある不合理な制度については積極的に「告発」していく必要があり,それは法科大学院制度に限ったことではないと思います。

11 コメント

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Unknown (甲南ロー出身の弁護士)
2012-12-20 00:55:52
以前、甲南ロー出身の修習生と名乗っていましたが、二回試験に合格しましたので、甲南ロー出身の弁護士と名乗ります。

私も、和田委員に、以前黒猫先生のblogで書いたとおりの、私の母校の実態を、報告しました。

また、ある団体のパブコメで、給費制復活に合わせて、ロースクール制度の廃止を投稿しました。

それにしても法科大学院推進者は本気で改善する気がないと思いますので、給費制廃止違憲訴訟と合わせて、ロースクール受験資格要件強制違憲訴訟の提起も検討する必要があると最近考えています。
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ignorance (noga)
2012-12-20 04:02:52
サムライ日本・能足りん

日本人には、現実と非現実が分けられない。
日本語には時制がないので、非現実 (過去と未来) の内容も現実の形式で語られる。
次元の違う世界の内容を区別しないで話す矛盾を克服できない。だから、議論が成り立たない。
最悪のシナリオは、非現実・存在しないものとして無視されている。知的遊びにも叡智にも資することがない。

揚げ足取りを駆使して相手を消去する方策に徹する態度は、不毛の議論以外の何物でもない。
あるべき姿、未来像を堅持していなければ、建設的な議論は成り立たない。
建設的な意見は、理想に向かうための現実対応策である。

意見発表は、歌会形式になる。
「だって、本当にそう思ったのだから、仕方がないではないか」と言うことになる。
話は聞き流すしかない。あえて議論の価値を説く者はいない。
「議論をすれば、喧嘩になります」と言う。
‘問答無用・斬り捨て御免’ となるか。

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Unknown (井上晃宏)
2012-12-21 08:57:06
医学畑の人間です。

どういう教育が適切かは、議論や調査では決着がつかないので、複数コースを併設して、どちらの出身者が優れているかを事後的に評価するという方法でやればよろしいんじゃないでしょうか。

例えば、司法修習の2回試験の点数で評価する。

予備試験組の方が点数が高ければ、予備試験組の司法試験合格定員割合を増加させる。逆なら減らすという方向で改革すればいい。

法科大学院組の司法修習成績が悪ければ、司法試験合格定員割合を減らす。どうやっても成績が改善しないなら、法科大学院は自然消滅するでしょう。
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Unknown (Unknown (通行人))
2012-12-21 09:37:26
>Unknown (井上晃宏)さん
>どういう教育が適切かは、議論や調査では決着がつかないので、複数コースを併設して、どちらの出身者が優れているかを事後的に評価するという方法でやればよろしいんじゃないでしょうか。

もっと簡単な方法があります。
司法試験で,法科大学院卒業者と予備試験合格者で差を設けず,合格点の高い上位者から順番に合格させて,合格者店員に達し次第切ればいいのです。

法科大学院卒業者の方が予備試験合格者より,司法試験の合格者数が多ければ,法科大学院に行く意味があるので,法科大学院は生き残るし,少なければ,かれらは淘汰され,市場から消えるだけでする。

何故これをしないのかは,他のblog等でさんざん言われていることであり,クドくなるので書きませんが。
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Unknown (通りすがり)
2012-12-22 00:30:42
>司法試験で,法科大学院卒業者と予備試験合格者で差を設けず,合格点の高い上位者から順番に合格させて,合格者店員に達し次第切ればいいのです。

今やってるのと違いますか?
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らく (Unknown)
2012-12-23 21:46:41
この記事を見て、2ちゃんねる等でも有名な広島の某ブラックロースクールを彷彿させました
有害教員の独善的な自己満足授業には戦慄を覚えます
そしてそのような教員を批判する者は「予備校主義だ!」と罵られ、容易に留年退学に追い込まれます
2ちゃんねるでもブラックローとして名を馳せている広島の某ロースクールであった実話です
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Unknown (ちん)
2012-12-24 09:14:18
広島修道ローですか?
最低ですね。
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Unknown (kn)
2013-01-05 18:15:37
ロー卒と予備合格者で合格者定員が別に設けられているというような事情はありません。ロー卒も予備もごちゃ混ぜにされてます。通りすがりさんの仰る通りです。
それを前提として、新司法試験の順位をみると、ロー卒上位層と予備合格者では前者に軍配があがっているような感じがします(ロー卒中下位は論外)。

去年の新司法試験については、blogなり予備校なりで情報を集める限り、予備出身者の最高順位は京大法の人の200番台っぽいですね(間違ってたらすみません)。3桁後半~4桁台が多数派のようです。
低い原因としては、まず選択科目の対策が間に合わず、足切寸前だったという話を結構聞きます。また、長文事例への慣れが足りなかったという話も聞きますね。判例学習や定期試験対策、自主ゼミなどで長文事例に多く触れているロー卒は長文事例に多くの時間を割いてますので、ここで差がつくのは当然ですね。

もちろん、ロー卒上位合格者は予備試験も余裕で合格できるレベルの基礎学力がありますので、ロー出たからいい順位、というわけではないのは当然です。早めに学習を始めていれば旧司なり予備なりに受かっているはずの優秀層が上位ローでしっかり勉強して伸びた、というだけです。
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Unknown (Unknown)
2013-01-06 14:11:12
ようするに、個人のポテンシャルが全てってことだね。
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Unknown (おでかけ)
2013-07-26 12:02:32
法科大学院制度に関する今日的課題として、とかく取沙汰されているのは合
格実績が低いところをどう統廃合させるかということ、ないし制度そのものの存
廃についても関心が高く、様々な意見が寄せられているところであるが、そうい
う焦点の当て方というものにはいささか疑問がある。
ところで医学では「臨床」から遊離して「基礎」も無く「病理」も無い。つまるとこ
ろ【医学は臨床実務家である医師の養成と表裏一体の関係】にある。だから医
学部は初めから医学研究と医師養成を包摂している。教えるほうのほとんどが
医師免許を取得している。
対して、法律学では【実務家の養成については大学内部に取り込まれることな
く】【大学の外側で行われてきたものを制度上野放しにしてきた】という経緯があ
る。学者・研究者は法律事務所や所轄庁に従事するエキスパートとは切り離さ
れていた。理論研究についても実務研究についても大学という場所が本丸とま
ではいえなかった状況があった。教えるほうのほとんどが法務従事者としての
国家資格(法曹資格)を持たなくても成り立ったのは大学(法学部)という傘のおか
げである。
そこで法律実務家(法曹)の養成を大学に取り込むための手始めとして今まで民
間の法律塾・専門学校などでやっていたことに対して法科大学院が設置され法曹
三者も教授として招き入れられて、そこを修了する事が司法試験の受験資格とさ
れたわけである。
ところが肝心の【講義や司法試験の内容が既往の陳腐なものに始終】したため
当初の目論見に対して大幅な乖離・齟齬が生じている。しかも【法学部とは切り
離されて別個に運営】されている。
法科大学院というものが医学部医学科と同様、将来的に【クリニカル・オフィスと大
学研究室とを連絡するようなブリッジ・デヴァイスと成り得るか】ということについて
は、どうもそういうことにはならないようだ。
時代の要請に適うべく、法学部・法科大学院でなされている教育や司法試験で問
われることの【中味から根本的に見直して再構成する必要がある】。そうしてドラス
テイックな変貌(構造改革)】を遂げさせた上で【一体化がなされなければ】そういう
ことにはならないだろうし【もし一体化を拒絶するなら】どちらかが不要なものとなる
に違いない。中味を変えないとするなら両方要らなくなる。
社会に生起する種々の紛争は小さな事件から大きなものまであり、そこには様々
な事情・境遇、価値観、人格、感情がせめぎ合う【人間模様】がある。法律実務家
としてこれにあたるときにはリアル具体的な生の事実を蒐集し調査・分析することか
らはじまる。
社会や制度、人間関係の疾患に対処し得る臨床医ともいうべきプロフェッショナル(
法曹)を養成し、そこから巣立った彼らからフィードバックされる報告例といったものを
積み重ねながら、理論研究や実務の改善が図られていくべきではないだろうか。
実務家養成やリーガルマネジメントと隔絶されたところに閉じこもったままで十年一
日の如く法律学の研究を謳い続けることは不毛であり、これからは難しくなるだろう。
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