黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

問われる「法学部」のあり方

2013-01-15 22:59:36 | 法曹養成関係(H25.1まで)
 昨日の雪はすごかったですね。黒猫は横浜在住ですが,ご近所では小さなかまくらを作っている家もありました。横浜でかまくらを作れるほど雪が降ったというのは,あまり記憶にないですね。

 今日の記事は,二弁フロンティア(2012年12月号の特集『データで見る「法曹志願者の激減」』という記事のこと。以下同じ)による指摘のうちこのブログでは積み残しになっていた,法学部の人気低下という問題に関するものです。法科大学院制度の破綻に伴い,大学では法科大学院のみならず法学部の人気まで低下しているというのは以前から指摘されていたことですが,弁護士の中には「理高文低というのは全体的な流れであり,法学部だけが悪いんじゃない」などと反論する人もいるようです。
 二弁フロンティアでは,このような反論を封じるだけでなく,最近の「理高文低」という現象はむしろ法学部が作り出しているという,実に衝撃的な指摘を行っています。

 国公立大学の志願状況については,大学入試センターのホームページ(http://www.dnc.ac.jp/modules/center_exam/content0473.html)で詳細を確認することができますが,いわゆる文系学部である「人文・社会」系と理系学部である「自然」系の競争倍率を見ると,平成20年以降は以下のように推移しています(ついでに,法学部全体の競争倍率も載せておきます)。

       法学部    人文・社会   自然    
平成20年  4.50倍  5.31倍  4.64倍
平成21年  4.24倍  5.09倍  4.58倍
平成22年  4.13倍  5.21倍  4.65倍
平成23年  4.25倍  5.12倍  4.92倍
平成24年  3.94倍  4.81倍  4.93倍

 上記を見れば分かるように,文系学部である人文・社会系が理系学部(自然系)に競争倍率で抜かれたというのは,ようやく昨年起きたばかりの現象に過ぎません。もっとも,平成20年の段階では文系の競争倍率が理系を大きく突き放しており,文系の競争倍率が下がる一方で理系の競争倍率が次第に上がることで,平成24年にはついに両者が逆転されるに至ったわけです。
 理系の競争倍率を押し上げているのは主に医歯系と薬・看護系の学部ですが,逆に文系の競争倍率を押し下げているのは,どう見ても法学部です。残念ながら平成19年以前のデータは見つからなかったのですが,10年くらい前の法学部といえば文系の看板のような学部でした。それが年々人気を落とし,いまや人文・社会系の平均を大きく下回って,人文・社会系全体の競争倍率を大きく引き下げる要因となっています。
 なお,二弁フロンティアは国公立大学の入試競争倍率をデータとして上げていますが,私立大学の法学部はもっとひどいようですね。かつては競争率10倍くらいが当たり前だった早稲田大学の法学部も,最近は競争率3倍くらいまで落ちることすらあるみたいですし,二流以下の大学では競争率2倍をも下回り,ほとんど「全入」みたいなところもざらみたいです。さらに,ほとんどの私立大学では入学者数を確保するため一般入試以外にも推薦・AO入試といった怪しげな入学者選抜が実施されており,これが学生の質をさらに押し下げていることも問題視すべきところです。
 また,国公立・私立を問わず,最近の法学部は学生の就職率も文学部並みに低下しており,東京大学の法学部でさえも定員割れに陥っているなど,いまや法学部が文系屈指の不人気学部になっているということは,他にも様々なデータによって立証することができるでしょう。
 「法学部の人気低下が理高文低という全体の流れの中で起こっている」という認識は全くの誤りであり,むしろ「法学部の急激な人気低下が理高文低という全体的な現象を引き起こしている」というのが正確な認識というべきです。

 法学部の人気がここまで低下した原因もはっきりしています。司法改革では「法曹養成の中核的機関」として法科大学院を設置することになりましたが,その際法学部の問題は完全に放置されたのです。
 司法改革以前においても,大学の法学部は大人数のマスプロ授業が中心で,学生の能力を測ることができるのはほとんど期末試験のみ,しかも授業の内容は教員が学者のオタク的な知識を一方的に垂れ流しているだけで実務の役に立たないものが多い,そのため法学部の卒業生でも社会一般の期待に応えるほどの法的素養を身に付けているとは言えない,法学部生でも法曹を目指す者は別途予備校で勉強しなければならず「ダブルスクール化」の傾向が進んでいるなど,法学部の実態については深刻な問題点が指摘されていましたが,司法制度改革審議会では,法学部教育の改善はほとんど話題にもなりませんでした。
 そして,各大学に法科大学院が設置されるにあたり,法科大学院の教員は当然ながら従来の法学部教授が大半を占めることになりましたが,これによって法学部教員の多くが法科大学院に引き抜かれ,法学部の教育がさらに手薄になってしまったことは言うまでもありません。
 また,司法試験の合格者数を増やしすぎたせいで,法学部卒業生の主要な就職先であった法曹という仕事も魅力がなくなり,司法試験に落ちた人はおろか合格した人さえ就職難にあえぐ時代になり,これに公務員の大幅な採用減も重なって,法学部生全体の就職率が低下しました。
 実社会に必要な法律をきちんと教えてくれない上に,就職も見込めない「法学部」など学生は見向きもしませんから,必然的に法学部の人気も急低下して法学部生の質も下がる,学生の質の低下はさらなる就職率の低下と人気低下をもたらす,という悪循環が続いているのです。

 法学部の人気低下がここまで深刻な状態になっているのに,政府の「法曹養成制度検討会議」では,法科大学院教育の改善策については(ほとんど無益ながら)あれこれと議論されていますが,法学部教育の改善については検討予定(案)でも全く触れられておらず,そもそも議論する気は全くないようです。しかしながら,平成24年度の法科大学院入学者について見ると,入学者数全体の実に81.2%を法学部出身者が占めており,いまや既修・未修を問わず法学部が法科大学院生の主要な供給源となっている以上,法学部の質を抜本的に改善しなければ法科大学院教育の改善も不可能であることは自明の理です。
 では,政府・文部科学省は法科大学院教育の質を改善するといいながら,その「土台」である法学部教育の質を改善しようとしないのか。その理由もはっきりしています。もともと,法学部・法科大学院の双方において教育内容を充実させるには,それに必要な「優れた研究者教員」の数が圧倒的に不足しており,現実にはどちらかを犠牲にせざるを得ないのです。
 法科大学院関係者の中では,そもそも法学部と法科大学院の併存には無理があり,法科大学院(正確には法学専門大学院)の設置にあたり法学部と法科大学院の併設を認めないものとした韓国の例を理想とする意見も有力ですが,韓国の法学専門大学院制度も決して上手く行っているわけではない上に,今の日本で法学部と法科大学院の併設を認めないといった政策を採ることは,現実にはできません。
 いまや法科大学院はどこの大学でも明らかな赤字部門であり,制度自体にも将来性のないことは明らかとなっています。多くの法科大学院では大幅な定員割れが続いており,法科大学院の赤字を法学部や他の学部等の収益で埋めている状況にありますし,一応定員を確保しているところも,入学者の主要な供給源は自大学の法学部生です。しかも,法科大学院では少人数教育が義務づけられており,入学定員も法学部に比べれば大幅に少ないのが一般的である上に,標準在学年限も法学部の4年に対し法科大学院は2年ないし3年に過ぎません。
 このような状況の下で,法科大学院を残すために法学部を潰したりすれば,大学そのものが潰れかねません。仮に文部科学省が各大学に法学部を残すか法科大学院を残すかの二者択一を迫った場合,どこの大学でも法学部を残す(法科大学院を潰す)方を選択するしかないでしょう。これは東大や一橋といった有名国立大学でも例外ではないと思います。
 したがって,「法学部教育の再生」を真剣に考えようとすれば,どうしても法科大学院制度の廃止を考えなければならないが,文科省としてはせっかくの既得権益が台無しになるのでそれだけはやりたくない。でも,法学部を廃止させることは各大学の実情に照らし無理があるので,結局法学部については崩れ放題のまま放置,ということになっているのです。
 今の法学部は,いわばうち捨てられた廃墟のようなものであり,人気が落ちるのも当然です。そして,法学部の荒廃をこれ以上放置すれば,法学部生を主要な供給源としている法科大学院もいずれは潰れます。事態がこのままで推移すれば,将来の日本には法学部も法科大学院もなくなり,法律学を学ぶ公式な学問の場は消滅してしまうのです。
 実務と乖離した机上の空論ばかりを振り回す法律学者については,むしろいなくなった方がよいと思うこともありますが,大学の法学部が実質的に消滅し,高等教育を受けて社会に出た人のほとんどが法律を勉強したこともないというのは,法治国家においては危機的状況と言わざるを得ないでしょう。

 もはや「崩壊大学院」と揶揄される法科大学院と異なり,法学部の方はまだ国公立全体で4倍近くの競争倍率を維持している状態ですから,真剣に教育内容を改革して立て直そうと思えば,法学部を再生することはまだ可能でしょう。ただし,法学部を再生するには,法学部からお金と教員を吸い取っている法科大学院を早期に廃止することが不可欠です。
 そして,大学の多くが未だ法科大学院にしがみついているのは,法科大学院を廃止すると自大学の法学部が負け犬だということが世間に知れ渡り,法学部にも学生が集まらなくなってしまうということを心配しているためであり,少なくない数の法科大学院関係者は,むしろ早く制度自体を廃止してほしいと願っています。
 ただし,法科大学院の教授として招聘された弁護士などの実務家教員はその限りでなく,彼らは法科大学院が廃止されると大学を逐われてしまうため,日弁連を動かして必死に法科大学院の存続運動を続けています。入学者数も激減し,司法試験の合格者もほとんどいない地方や夜間の法科大学院については文科省すらも既に見捨てており,このような法科大学院の存続を唱えている主な団体は,当の法科大学院を除けばいまや日弁連だけです。
 谷垣法務大臣の会見内容を読む限り,法科大学院や法曹養成制度の方向性については,未だご自身の考えを整理できていないということですが,法学部を含む大局的な見地から現実を直視して冷静に検討すれば,やはり法科大学院制度は早期に潰すしかないという結論に行き着くはずです。
 まあ,司法制度改革を推し進めてきた張本人であり,政権を奪還するや否や国債を大増発して無駄な公共事業を復活させようとしている自民党政権にどこまで期待できるのかという疑問はありますが,法学部さえも立て直せない政権に「日本を立て直す」ことは到底不可能でしょう。

2 コメント

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たしかに (社会人)
2013-01-16 00:18:34
5年くらい前に一橋の法学部に在籍していました。
大学側がローに人材を投入している分、法学部の扱いが軽くなっていることは、学生の間で広く認識されていたと思います。

私は単位が楽に取れて嬉しかったですが 笑。

今がどうなのかは知りません。
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Unknown (京大)
2013-01-16 10:22:36
たしかに、学部生の扱いも軽かったですね。ローに進学しそうな学生なら丁重に扱っていたけど、それ以外はお客さんとして切り捨てていました。ちなみに同窓会では法曹絶対主義で、弁護士バッジを付けていなければ人ではないという雰囲気でした。
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