黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

『民法改正』に反論する(1)

2011-10-18 21:41:13 | 民法改正
 今年の10月10日,今次の民法改正を主導している内田貴法務省参与(前東京大学教授)が,『民法改正 -契約のルールが百年ぶりに変わる-』という本を筑摩書房から出版しました。
 定価(本体価格)760円の小冊子なのですが,今次の民法改正における第一人者の最新メッセージということで,法曹関係者などからの需要は相当あったらしく,アマゾンで購入しようと思ったら在庫がなく,古本にプレミアがついている状態でした。仕方ないので別のネット書店で購入して今日届きましたが,いざ読んでみると何だコレは・・・?
 今次の民法改正に関しては,既に学界・実務界を問わず多方面からの批判がありますが,内田氏はこれらの批判に正面から答える代わりに,どうやら批判論者を「時代遅れで内向きな石頭」呼ばわりする作戦に出たようです(もちろん,上記の著書にはっきりとそう書いてあるわけではありませんが,同著には改正反対論者に対する批判が随所で繰り広げられており,それらを総合すると上記のような趣旨であると理解するしかありません)。
 黒猫は,今次の民法改正自体を不要と考えているわけではありませんが,従来からこのブログでも改正批判をやっていましたし,内田氏による批判の曲解や強引な論法には正直怒りを覚えましたので,今後数回を使って,同著による内田氏の主張に対する本格的な反論を試みたいと思います。
 その第一回となる今回の記事で取り上げるのは,同著の12~13頁に関する部分です。小見出しを付けるなら「会社法の実態」といったところでしょうか。

 内田氏は,同著において,わが国の民法典(財産法に関する部分)は100年以上にわたり抜本的改正がなされていないという事実を指摘した後,12頁以下で次のように述べています。
『制定以来一〇〇年余りの間の社会の変化の大きさを考えれば,誰しも,時代に合わなくなっている部分も多かろう,と想像するのではないかと思います。そろそろオーバーホールを行なって,新しい時代に適した民法に改めることに,誰も違和感を持たない,と思われるでしょう。
 ところが,現在進行している契約法の改正に対しては,根本的な疑問を提起する人たちが,法律家の中に少なくありません。(中略)
 その次にくるのが,「会社法みたいになるのか」という反応です。あの法律は読みにくい,また条文の中の文字数も多くて,何を書いてあるのかよくわからない,というのです。会社法はもともと商法という法律の中のひとつの編として置かれていて,一九九〇年代に入ってからは,毎年のように頻繁に改正されていました。条文番号にも枝番号が付いて,例えば「二六六条の三」などという番号が付いていました。それでも,当時の商法に慣れ親しみ条文番号で内容を覚えていた法律家からすると,条文の数字を聞いただけでただちに内容がわかったわけです。
 ところが,二〇〇五年から施行された会社法は,商法から独立して単独の法律になりましたので,条文も一条からはじまって番号がずれましたし,そのうえ,法律の中の構成がすっかり変わってしまいました。このため,たとえば,かつて二六六条の三という条文番号で覚えていた「取締役の第三者に対する損害賠償責任」に対応する規定が,新しい会社法のどこにあるのかを探すには,新しい構成を頭に入れないと容易ではなくなりました。そのために大いに迷惑をこうむったというのです。
 年配の弁護士の中には,会社法関係の仕事を受けるのはやめたという人もいるといいます。「会社法ならそれでも何とかなったが,民法についてそんなことになると,もう弁護士廃業だ」と冗談とも本音ともつかない言葉を耳にします。
 もっとも,これだけを聞けば,時代についていけない古い実務家の繰り言に聞こえるかもしれません。実際,どんな理由であれば,現在ある法律を変えるという提案は,どこの国でもいつの時代でも,つねにこの種の反対に遭遇するのが現実です。』

 上記のうち「もっとも」以下の部分は,「結論としては古い実務家の繰り言ではないという趣旨なのでは?」という文脈にも読めますが,その後を読み進めてもこの部分に対する否定は全くみられないので,要するに内田氏は,「会社法のことを持ち出して今次の民法改正を批判する人たちの主張は,要するに時代についていけない古い実務家の繰り言だ」と主張しているのであり,そのように読むしかないのです。
 新しい会社法の制定・施行は,多くの法律実務家にとってトラウマのような出来事になっており,今次の民法改正に対する批判論・慎重論を大きくする原因になっていますが,それは単に内田氏が指摘するような,条文番号が変わって規定が読みづらくなったなどという浅薄な問題に由来するものではありません。一般の方には具体的に説明しないと分からないと思いますので,会社法の制定経緯とその問題点について,ここで若干の整理を試みることにします。
 現在施行されている『会社法』は,旧商法の第二編「会社」にあった株式会社に関する規定のほか,有限会社法,株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(監査特例法)の3つを整理統合して,新しい単行法としたものです。当時の商法は,明治時代から続く古文のような漢字カタカナ表記であり,毎年のように行われる改正で新たに追加された条文も,それに合わせて漢字カタカナ表記にせざるを得ませんでした。
 黒猫が弁護士登録をした平成15年当時,弁護士会ではちょうど会社法制の現代化(上記のとおり,商法第二編などを整理統合して現代語表記に直し,「会社法」という新たな単行法を制定するとともに,一部の実質改正も行うというもの)に関する議論が行われており,実質改正の論点については色々な議論があったものの,条文の表記を現代語化して会社法という新たな単行法を制定するという方向性自体に反対する意見はほとんどなかったと記憶しています。旧商法の条文が時代遅れのカタカナ表記で相当読みにくく,しかも改正に次ぐ改正で枝番があまりに多くなり整理の必要があることは多くの実務家が認識しており,会社法の施行で条文も少しは読みやすくなるものと誰もが期待しただろうと思います。
 しかし,実際に会社法の条文が出来上がってみると,そのような期待は見事なまでに裏切られました。

(1) 必要以上に読みにくい条文
 これは,実際に条文を見てもらわないと理解できないと思いますので,いくつか例を挙げてみます。
<会社法第309条第2項>
「前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。
一  第百四十条第二項及び第五項の株主総会
二  第百五十六条第一項の株主総会(第百六十条第一項の特定の株主を定める場合に限る。)
三  第百七十一条第一項及び第百七十五条第一項の株主総会
四  第百八十条第二項の株主総会
五  第百九十九条第二項、第二百条第一項、第二百二条第三項第四号及び第二百四条第二項の株主総会
六  第二百三十八条第二項、第二百三十九条第一項、第二百四十一条第三項第四号及び第二百四十三条第二項の株主総会
七  第三百三十九条第一項の株主総会(第三百四十二条第三項から第五項までの規定により選任された取締役を解任する場合又は監査役を解任する場合に限る。)
八  第四百二十五条第一項の株主総会
九  第四百四十七条第一項の株主総会(次のいずれにも該当する場合を除く。)
イ 定時株主総会において第四百四十七条第一項各号に掲げる事項を定めること。
ロ 第四百四十七条第一項第一号の額がイの定時株主総会の日(第四百三十九条前段に規定する場合にあっては、第四百三十六条第三項の承認があった日)における欠損の額として法務省令で定める方法により算定される額を超えないこと。
十  第四百五十四条第四項の株主総会(配当財産が金銭以外の財産であり、かつ、株主に対して同項第一号に規定する金銭分配請求権を与えないこととする場合に限る。)
十一  第六章から第八章までの規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会
十二  第五編の規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会」
 旧商法第343条に規定されていた株主総会特別決議の要件ですが,旧商法の規定をそのまま現代語に直せば,定款変更などの特別決議をするには「発行済み株式総数の過半数にあたる株式を有する株主が出席し,その議決権の三分の二以上の多数をもって行わなければならない」などと書けば済むところを,余計な括弧書きが加わったため,かえって旧商法より読みにくくなっています。
 括弧書きなどが加わったのは,要するに定款で特別決議の要件を加重することはできるが,軽減することはできないという意味なのですが,法律の専門家でない人が条文を読んでそこまで理解できるのでしょうか。
 また,具体的に列挙されている株主総会の種類についても,旧商法では定款の変更には株主総会の特別決議が必要だということが書いてあって,それ以外の特別決議を要する事項についても「第343条の決議を要す」という形で表現されていたのですが,会社法だと特別決議を要する事項が上記のように条文番号だけで列記されていて,条文を読んだだけでは何のことだかさっぱり分かりません。
 一方,ここで引用されている各条文では,特別決議が必要だということは一言も書かれていませんので,第309条第2項の規定と対照しながら読まないと,株主総会の普通決議で足りるものと誤読するおそれがあります。
 もっとも,この条文は,会社法の規定の中でもまだ分かりやすい方です。いわば初級編です。

<会社法第461条>
「次に掲げる行為により株主に対して交付する金銭等(当該株式会社の株式を除く。以下この節において同じ。)の帳簿価額の総額は、当該行為がその効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならない。
一  第百三十八条第一号ハ又は第二号ハの請求に応じて行う当該株式会社の株式の買取り
二  第百五十六条第一項の規定による決定に基づく当該株式会社の株式の取得(第百六十三条に規定する場合又は第百六十五条第一項に規定する場合における当該株式会社による株式の取得に限る。)
三  第百五十七条第一項の規定による決定に基づく当該株式会社の株式の取得
四  第百七十三条第一項の規定による当該株式会社の株式の取得
五  第百七十六条第一項の規定による請求に基づく当該株式会社の株式の買取り
六  第百九十七条第三項の規定による当該株式会社の株式の買取り
七  第二百三十四条第四項(第二百三十五条第二項において準用する場合を含む。)の規定による当該株式会社の株式の買取り
八  剰余金の配当
2  前項に規定する「分配可能額」とは、第一号及び第二号に掲げる額の合計額から第三号から第六号までに掲げる額の合計額を減じて得た額をいう(以下この節において同じ。)。
一  剰余金の額
二  臨時計算書類につき第四百四十一条第四項の承認(同項ただし書に規定する場合にあっては、同条第三項の承認)を受けた場合における次に掲げる額
イ 第四百四十一条第一項第二号の期間の利益の額として法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
ロ 第四百四十一条第一項第二号の期間内に自己株式を処分した場合における当該自己株式の対価の額
三  自己株式の帳簿価額
四  最終事業年度の末日後に自己株式を処分した場合における当該自己株式の対価の額
五  第二号に規定する場合における第四百四十一条第一項第二号の期間の損失の額として法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
六  前三号に掲げるもののほか、法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額」
 慣れていない方は条文を読むだけでうんざりしてくると思いますが,規定の各所に「法務省令で定める」という文言が出てくるため,それに対応する法務省令(次に掲げる会社計算規則第156条から第158条まで)を読み比べないと,条文の真の意味は分かりません。
(臨時計算書類の利益の額)
第百五十六条  法第四百六十一条第二項第二号 イに規定する法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額は、臨時計算書類の損益計算書に計上された当期純損益金額(零以上の額に限る。)とする。
(臨時計算書類の損失の額)
第百五十七条  法第四百六十一条第二項第五号 に規定する法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額は、零から臨時計算書類の損益計算書に計上された当期純損益金額(零未満の額に限る。)を減じて得た額とする。
(その他減ずるべき額)
第百五十八条  法第四百六十一条第二項第六号 に規定する法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額は、第一号から第八号までに掲げる額の合計額から第九号及び第十号に掲げる額の合計額を減じて得た額とする。
一  最終事業年度(法第四百六十一条第二項第二号 に規定する場合にあっては、法第四百四十一条第一項第二号 の期間(当該期間が二以上ある場合にあっては、その末日が最も遅いもの)。以下この号、次号、第三号、第六号ハ、第八号イ及び第九号において同じ。)の末日(最終事業年度がない場合(法第四百六十一条第二項第二号 に規定する場合を除く。)にあっては、成立の日。以下この号、次号、第三号、第六号ハ、第八号イ及び第九号において同じ。)におけるのれん等調整額(資産の部に計上したのれんの額を二で除して得た額及び繰延資産の部に計上した額の合計額をいう。以下この号及び第四号において同じ。)が次のイからハまでに掲げる場合に該当する場合における当該イからハまでに定める額
イ 当該のれん等調整額が資本等金額(最終事業年度の末日における資本金の額及び準備金の額の合計額をいう。以下この号において同じ。)以下である場合 零
ロ 当該のれん等調整額が資本等金額及び最終事業年度の末日におけるその他資本剰余金の額の合計額以下である場合(イに掲げる場合を除く。) 当該のれん等調整額から資本等金額を減じて得た額
ハ 当該のれん等調整額が資本等金額及び最終事業年度の末日におけるその他資本剰余金の額の合計額を超えている場合 次に掲げる場合の区分に応じ、次に定める額
(1) 最終事業年度の末日におけるのれんの額を二で除して得た額が資本等金額及び最終事業年度の末日におけるその他資本剰余金の額の合計額以下の場合 当該のれん等調整額から資本等金額を減じて得た額
(2) 最終事業年度の末日におけるのれんの額を二で除して得た額が資本等金額及び最終事業年度の末日におけるその他資本剰余金の額の合計額を超えている場合 最終事業年度の末日におけるその他資本剰余金の額及び繰延資産の部に計上した額の合計額
二  最終事業年度の末日における貸借対照表のその他有価証券評価差額金の項目に計上した額(当該額が零以上である場合にあっては、零)を零から減じて得た額
三  最終事業年度の末日における貸借対照表の土地再評価差額金の項目に計上した額(当該額が零以上である場合にあっては、零)を零から減じて得た額
四  株式会社が連結配当規制適用会社であるとき(第二条第三項第五十一号のある事業年度が最終事業年度である場合に限る。)は、イに掲げる額からロ及びハに掲げる額の合計額を減じて得た額(当該額が零未満である場合にあっては、零)
イ 最終事業年度の末日における貸借対照表の(1)から(3)までに掲げる額の合計額から(4)に掲げる額を減じて得た額
(1) 株主資本の額
(2) その他有価証券評価差額金の項目に計上した額(当該額が零以上である場合にあっては、零)
(3) 土地再評価差額金の項目に計上した額(当該額が零以上である場合にあっては、零)
(4) のれん等調整額(当該のれん等調整額が資本金の額、資本剰余金の額及び利益準備金の額の合計額を超えている場合にあっては、資本金の額、資本剰余金の額及び利益準備金の額の合計額)
ロ 最終事業年度の末日後に子会社から当該株式会社の株式を取得した場合における当該株式の取得直前の当該子会社における帳簿価額のうち、当該株式会社の当該子会社に対する持分に相当する額
ハ 最終事業年度の末日における連結貸借対照表の(1)から(3)までに掲げる額の合計額から(4)に掲げる額を減じて得た額
(1) 株主資本の額
(2) その他有価証券評価差額金の項目に計上した額(当該額が零以上である場合にあっては、零)
(3) 土地再評価差額金の項目に計上した額(当該額が零以上である場合にあっては、零)
(4) のれん等調整額(当該のれん等調整額が資本金の額及び資本剰余金の額の合計額を超えている場合にあっては、資本金の額及び資本剰余金の額の合計額)
五  最終事業年度の末日(最終事業年度がない場合にあっては、成立の日。第七号及び第十号において同じ。)後に二以上の臨時計算書類を作成した場合における最終の臨時計算書類以外の臨時計算書類に係る法第四百六十一条第二項第二号 に掲げる額(同号 ロに掲げる額のうち、吸収型再編受入行為及び特定募集(次の要件のいずれにも該当する場合におけるロの募集をいう。以下この条において同じ。)に際して処分する自己株式に係るものを除く。)から同項第五号 に掲げる額を減じて得た額
イ 最終事業年度の末日後に法第百七十三条第一項 の規定により当該株式会社の株式の取得(株式の取得に際して当該株式の株主に対してロの募集により当該株式会社が払込み又は給付を受けた財産のみを交付する場合における当該株式の取得に限る。)をすること。
ロ 法第二編第二章第八節 の規定によりイの株式(当該株式の取得と同時に当該取得した株式の内容を変更する場合にあっては、当該変更後の内容の株式)の全部又は一部を引き受ける者の募集をすること。
ハ イの株式の取得に係る法第百七十一条第一項第三号 の日とロの募集に係る法第百九十九条第一項第四号 の期日が同一の日であること。
六  三百万円に相当する額から次に掲げる額の合計額を減じて得た額(当該額が零未満である場合にあっては、零)
イ 資本金の額及び準備金の額の合計額
ロ 新株予約権の額
ハ 最終事業年度の末日の貸借対照表の評価・換算差額等の各項目に計上した額(当該項目に計上した額が零未満である場合にあっては、零)の合計額
七  最終事業年度の末日後株式会社が吸収型再編受入行為又は特定募集に際して処分する自己株式に係る法第四百六十一条第二項第二号 ロに掲げる額
八  次に掲げる額の合計額
イ 最終事業年度の末日後に第二十一条の規定により増加したその他資本剰余金の額
ロ 最終事業年度がない株式会社が成立の日後に自己株式を処分した場合における当該自己株式の対価の額
九  最終事業年度の末日後に株式会社が当該株式会社の株式を取得した場合(法第百五十五条第十二号 に掲げる場合以外の場合において、当該株式の取得と引換えに当該株式の株主に対して当該株式会社の株式を交付するときに限る。)における当該取得した株式の帳簿価額から次に掲げる額の合計額を減じて得た額
イ 当該取得に際して当該取得した株式の株主に交付する当該株式会社の株式以外の財産(社債等(自己社債及び自己新株予約権を除く。ロにおいて同じ。)を除く。)の帳簿価額
ロ 当該取得に際して当該取得した株式の株主に交付する当該株式会社の社債等に付すべき帳簿価額
十  最終事業年度の末日後に株式会社が吸収型再編受入行為又は特定募集に際して処分する自己株式に係る法第四百六十一条第二項第四号 (最終事業年度がない場合にあっては、第八号)に掲げる額

 黒猫は司法修習生時代に日商簿記の1級を取ったので,会社の会計のことも並みの弁護士よりは詳しいと思いますが,さすがにこれを分かりやすく説明できる自信はありませんし,黒猫自身も解説書を読まないと意味が分かりません。また,会社法から法務省令に委任された事項は300を超え,その委任された事項についての細目を定める法務省令(会社法施行規則,会社計算規則,電子公告規則)も会社法の順番通りに配列されているわけではないので,六法のインデックスがないと自力で対応する規定を探すことすら困難です。
 この記事は分配可能額の算出方法を説明することが目的ではないので,規定の内容についての説明はしませんが,会社法の規定がいかに分かりにくいかということは,法律の素人でも実感して頂けるのではないかと思います。ちなみに,旧商法では第290条に配当可能利益の規定がありましたが,現行規定よりはかなりシンプルです。現に法科大学院や予備校などで会社法を教えている人も,会社法の条文から教えるのではなく,先に旧商法の規定内容を教えてそれが会社法でどう変わったかを教えるのが一般的であると聞いたことがあります。
 このように,会社法の規定は極めて条文が長くて細かく,しかも書き方がいちいち不親切なので,条文ではなく解説書に頼らなければ読めるものではなく(しかも解説書に誤りがないとは誰も保障できません),下手に会社法の事件を受任して条文の読み間違いなどを起こしてしまっては,弁護過誤で訴えられかねません。弁護士も,実務を通じてある程度複雑な条文を読むのには慣れているのが普通ですから,重要な企業法務の分野であり一般的にはお金にもなる会社法の事件を恐れて受任しなくなるというのは余程の事態なのです。
 また,会社法には何とか適応できたという弁護士であっても,現行の民法は条文に書かれていない不明確な事項が多いとはいえ,条文自体はかなりシンプルです。その民法までも会社法と同様に,複雑すぎて解説書に頼らないと意味の分からない条文になる,しかも民法の文言自体は既に現代語化されており,会社法ほど差し迫った改正の必要性はないというのであれば,実務家の多くが「そんな民法改正要らないよ! 今のままで十分だよ!」という意見になったとしても,誰が責められるでしょう(責められるという人は,自分で実際に会社法の条文を読んで,その意味を説明してみて下さい。解説書無しで)。

(2) 一般の理解と異なる法律用語の新設
 以上で,黒猫が言いたいことの大半を書いてしまった感じもありますが,会社法にはほかにも問題点があります。
 会社法では,定款による株式の譲渡制限がない株式会社のことを「公開会社」と呼んでいるのですが,本来「公開会社」とは証券取引所に株式を上場させている会社という意味で使われており,法律上の「公開会社」がこれと異なる定義となったことに関しては,施行当初かなりの批判がありました。
 もっとも,会社法施行後既に5年が経過し,この「公開会社」という用語も改めてもらえる様子はありませんので,仕方なく実務では「会社法上の公開会社」という呼び方が定着しつつあります。民法についても,仮に内田氏らが作成した検討委員会試案の考え方に沿って法改正が行われるのであれば,「新民法上の請負」とか「民法上のファイナンス・リース」といった言葉を使わざるを得ないでしょう。そんな言葉を使わなければ内容を説明できない民法が,内田氏らの主張する「国民にとって分かりやすい民法」であるとは到底思えませんが。

(3) 法務官僚の暴走
 会社法は,法制審議会会社法(現代化関係)部会で有識者による審議を経て,その答申である要綱に基づいて法務省で起草されたもののはずですが,実際の条文には必ずしも要綱どおりになっていないところがあり,特に法務省令(案)の内容は,部会の審議にも参加していた商法の研究者が激怒するほどのものであったと聞いています。実務上も解釈上の問題が頻発しており,会社分割など問題が目に余る部分については,現在法制審議会で見直しの議論が進められています。

 内田氏は,実務家の反応について「条文番号が変わるのは嫌だから改正に反対している」などと浅薄な理解をしているようですが,実務家はそのように安直な理由で民法改正を批判しているのではありません。実際,会社法の制定までは,各種法律の現代化自体に反対する声はほとんどありませんでしたが,その流れをおかしくしたのは,内田氏の在籍している法務省自身です。

2 コメント

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Unknown (58期弁護士)
2011-10-19 01:45:56
書籍は未読ですが、期待しております!
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Unknown (外食パーソン)
2011-10-20 13:08:28
法律はある程度難しくしておかないと、素人がプロを雇わなくなるので、簡単にしすぎるのをためらったのではないでしょうか(笑)
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