黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

「予備試験本道主義」の現実

2012-12-28 17:09:17 | 法曹養成関係(H25.1まで)
 二弁フロンティア2012年12月号,データで見る「法曹志願者の激減」に関係する記事の第2弾です。
 この記事では,法曹志願者が予備試験に流れているという二弁フロンティアの指摘をなぞっていく形になりますが,著作権法の関係でこの記事が主,二弁フロンティアの引用は従という関係を維持しなければなりませんから,表現的には二弁フロンティアの数倍くらいの過激さでお送りすることになると思います。

1 予備試験に流れる法曹志願者たち
 このブログでは過去に触れたことのある話ですが,法科大学院の入り口である適性試験の受験者数は,平成24年度が5,967人とついに6千人を割り込んでおり,2003年に行われた第1回試験の受験者数(JLFが18,355人,DNCが35,521人)と比較すると寂寥の感があります(2010年までは適性試験の運営主体が2つあり,2011年からJLFに一本化されるなど制度自体も変遷しているので,実受験者数の単純比較は難しいのですが,それでも激減していることは確かです)。
 一方,予備試験の受験者数は平成23年が6,477人であったところ,平成24年は7,183人と増加し,いまや適性試験の受験者より予備試験受験者の方が多いという事態が発生しています。二弁フロンティアは「受験生の間で「法科大学院より予備試験」という風潮が広まりつつあるように見える」と指摘しています。
 そして,平成23年度予備試験の最終合格者数は116人でしたが,そのうち40人が大学生,8人が法科大学院生でした。二弁フロンティアの記事は平成24年度予備試験の最終結果発表前に執筆されたものであるため同試験の結果には触れられていませんが,同試験の最終合格者数は219人,そのうち大学生が69人,法科大学院生が61人となっています。
 出願者数ベースで見ると,平成23年度試験では272人,平成24年度試験では667人もの法科大学院生が予備試験に出願していることになります。彼らはわざわざ予備試験など受験しなくても,いま籍を置いている大学院を修了すれば司法試験の受験資格を手にすることができるはずのに,敢えて予備試験に出願しているのです。この事実は,現役法科大学院生の中にも「司法試験の受験資格さえ得られれば法科大学院から早く離脱したい」と考えている者が相当数いることを示すものに他なりません。
 二弁フロンティアでは,このように法曹志願者が法科大学院ではなく予備試験に流れる原因として,前々回の記事で指摘したような法科大学院ルートの時間的・経済的負担の重さについて触れた上で,最大の理由はこのような時間的・経済的負担を嫌ったショートカットであろうと分析しています。平成24年9月24日の日経新聞朝刊社会面では,「法科大学院に通う金銭的・時間的負担を考えると,何としても大学在学中に合格したかった。弟2人が大学,高校への進学を控えている我が家には厳しい」という東大法学部4年生の切実なコメントが紹介されていたということであり,経済的理由により法科大学院に進学できない者に対しても司法試験への門戸を開くという予備試験制度の趣旨に照らしても,このような予備試験合格者を非難することはできないでしょう。

2 予備試験合格者の積極的な優位性
 しかし,二弁フロンティアは志望者が予備試験に流れる理由について,上記のような「経済的・時間的負担を回避する」という消極的な理由にとどまらず,予備試験を受験することはそれ自体に積極的な優位性があると受け止められている,と指摘しています。
 具体的に指摘されている「優位性」の内容は,①倍率の高い試験に挑戦した経験は,その後における法科大学院の入試や司法試験においても有利に働く,②就職に有利,③早く実務に出られるのでその分早く実務経験が積める,④大学在学中や会社在職中でも受験を続けられるので経済的負担が軽いというものですが,④は既に書いたとおりであるため,残る①~③について若干補足して説明します。

① 予備試験受験者は,法科大学院入試や司法試験でも有利
 二弁フロンティアでは,「予備試験についてのLECの考え」を引用して説明に換えていますが,このブログでも過去に伊藤塾の記事を引用して似たような説明をしたことがあったと思います。
 すなわち,予備試験の受験生は数の限られた予備試験の合格枠を争いますが,そこで合格できなかった受験生の多くは予備試験に落ちた場合の滑り止めとして法科大学院を受験し,いずれは司法試験も受験するようになります。そして,仮に予備試験には合格できなかったとしても,予備試験というレベルの高い試験に挑戦し続けた努力の結果が法科大学院入試や司法試験でも有利に働くことは明らかであり,司法試験でもそのような層が次第に上位を占めることになると考えられます。
 このような状況において,予備試験を受験せず法科大学院と司法試験の対策しか行わない受験生は,やはり予備試験の受験生に比べ実力面の差は否めません。LECでは,「予備試験に向けて対策をしよう,と思わなかった時点で司法試験受験の競争の中では遅れを取っていると言っても過言ではありません」と指摘していますが,おそらく伊藤塾や他の予備校でも似たような指導が行われていることでしょう。
 なお,予備試験対策の勉強を行っている人が滑り止めで法科大学院に入ってくるようになり,法科大学院の内実も変化しているようです。やる気も能力もない学生が数合わせのため未修者コースに集められる一方で,でたらめな授業を行う学者教員に対し,もっと司法試験に役立つ授業をしろと抗議したり,基本的知識の誤りを指摘したりする学生もいるようですね。法科大学院内部でも予備試験を目指す人,目指さない人の二極化が進み,前者は法科大学院教員の意欲不足や能力不足に大きな不満を抱いている一方,後者が法曹になれる可能性は限りなくゼロに近づいているというわけです。
 学生にもダメ出しされる頭の悪い学者教員の中には,予備試験受験者のせいで法科大学院の授業に支障が生じている,予備試験の受験に年齢制限を設けるべきだなどと,もはや「盗人猛々しい」と評するしかない主張を堂々としている人もいますが,谷垣法務大臣は弁護士出身で野党時代には自民党総裁も務めているしっかりした人ですから,このような愚かな主張に耳を貸すことはないでしょう。

② 予備試験合格者は,就職でも有利
 二弁フロンティアは,「現に大規模事務所がこぞって予備試験合格者向けの就職説明会を開催している」と指摘した上で,大事務所が予備試験合格者に食指を伸ばす理由は若いこと(学生の場合),合格率1.8%(平成23年度)という旧司法試験並みの競争試験を突破した層であり,優秀である(地アタマがよい)という推定が働くこと,の二点にあると指摘しています。経営不振であるとは言っても,大事務所が経営ブランド力を維持するには若くて地頭が良い人材を絶えず迎え入れる必要がありますが,最高裁も質が玉石混淆であると認めている新司法試験合格者はとても信用できない昨今において,予備試験で選抜された若くて地頭が良い層は,大事務所にとっては喉から手が出るほど欲しい人材ではなかろうか,ということです。
 大体このようになっていると噂では聞いていましたが,いまや弁護士会の機関誌までもが新司法試験合格者の質は玉石混淆である,喉から手が出るほど欲しいのは予備試験合格者だと堂々と書く時代なのです。法科大学院が法曹養成の中核機関であるという建前(法科大学院本道主義)は全くの誤りであり,実態は予備試験こそが法曹の中核的ルートである(予備試験本道主義)という考え方が,既に現実のものとなりつつあるということですね。
 ただし,若くて地頭が良いという推定は,大学在学中か遅くとも大学卒業後すぐくらいに予備試験に合格した人に対して働くものであり,高齢合格者には当てはまりません。平成23年度予備試験合格者のうち,29歳以下で平成24年度の司法試験を受験した人は35人,合格者はそのうち34人とほぼ全員が合格しているのに対し,30歳以上は司法試験の合格率も急激に落ちています。これは体力的な問題もあるのだろうとは思いますが,予備試験合格者も30歳以上では雇う側にとっても魅力が低く,司法試験に落ちる可能性も高いので採用内定も出しにくい,よって就職でもあまり有利にはならないと考えられます。

③ 予備試験合格者の方が早く実務経験が積める
 例えば,現役大学生が在学中に予備試験に合格し,卒業後すぐに司法試験に合格して司法修習に入った場合,早生まれであれば23歳で法曹資格を取得できますが,同じ条件の学生が法科大学院(既修者コース)に入っても,法曹資格を取得できるのは最短でも25歳です。23歳で実務に出れば,25歳になるまでに2年の実務経験を積むことができ,良い就職先に恵まれればちゃんと給料ももらえます。新人の25歳と,2年の実務経験を積んだ25歳とを比較した場合,どう見ても法曹としての実力は後者の方が上であり,法曹界内部でも後者の方が2期上の先輩と見なされます。
 このような現実を踏まえて,二弁フロンティアは「法科大学院側が「それでも法科大学院に通った方がいい」と志望者たちに訴えるには,少なくとも「2~3年間の実務経験(収入あり)」よりも「2~3年間の法科大学院での勉強(収入がない上に授業料等の負担あり)」の方が価値が高いということを証明し,社会の理解を得なければならない」と指摘しています。
 二弁フロンティアの記事は,現状と原因の分析を目的とするものであるため具体的な提言には踏み込まないとして,このような証明が出来るかという問題については明言を避けていますが,誰がどう見てもこんな証明は不可能ですね。法科大学院の関係者だけは熱心に詭弁を弄していますが,同期間の実務経験に勝る価値を法科大学院の授業で提供することなど到底不可能だということは,少なくとも内心ではみんな分かっていることでしょう。

3 司法試験合格者を京急の種別に例えたら・・・?
 以上を踏まえ,「予備試験本道主義」時代における司法試験合格者の序列を,戯れに京急線の種別に例えてみましょう。京急線を知らない人のために一応説明すると,京急線(京浜急行電鉄)は東京の泉岳寺から神奈川県・三浦半島の三崎口までを結ぶ大手私鉄であり,羽田空港へと繋がる支線もあり,地下鉄(都営浅草線)や京成電鉄等との直通運転も行っています。
 京急線には,伝統的に快特(もとは「快速特急」の略だが,今では「快特」が正式名称です)・特急・急行・普通という4つの種別がありましたが,JR線等との熾烈な競争もあり,今では一番速い「快特」が主力列車とみなされています(一部を除き,快特でも特急料金などは不要です)。特急は,現在では昼間の運転が廃止されており,朝夕ラッシュ時と早朝深夜のみの運転となっています。急行は,2010年のダイヤ改正で正式には廃止されており,現在では羽田空港発着の「エアポート急行」が一部に残っているだけです。
 そして,京急線の普通列車は,他の大手私鉄では類を見ないほどに軽視されていることで知られています。1つの待避駅で2本の列車の通過待ちを行うことも多く,所要時間が快特の2倍以上かかったりします。客も少ないのか,快特は8両または12両編成で運行されるのに対し,普通列車は4両または6両編成,使われる車両も概して古く,地下鉄との相互乗り入れもありません。震災後での節電ダイヤでは普通列車の本数が減らされました。待避施設が足りなかった頃は,普通列車が一旦回送になって引き上げ線や対向する本線などに待避し,特急などが通過した後で戻ってくるようなこともあったそうです。
 京急線はもともと路面電車や地方鉄道に由来する鉄道であり,途中停車駅が多すぎるという背景もあるのですが,とにかく「京急線の普通」は差別用語だと言いたくなるくらいにディスられています。
 話が脱線しましたが,このような京急線の種別を,司法試験合格者に当てはめるとこのような感じになると思います。

快特組(大学在学中に予備試験に合格し,司法試験にも当然のように合格)
 大手事務所や裁判官,検察官等では優先的に採用されるでしょう。特に優秀な人は引き抜き合戦に遭うかも知れません。
特急組(法科大学院在学中,または大学卒業後早期に予備試験に合格し,その後司法試験にも短期で合格)
 快特組には劣りますが,快特組の絶対数が少ないのでまだ需要はあるかも知れません。
急行組(予備試験を受験せず,法科大学院を卒業してストレートで,または早期に司法試験に合格)
 司法試験で上位100番くらいに入ったなら話は別ですが,基本的に就職はかなり厳しいと思います。
普通組(予備試験組,法科大学院組の別を問わず,司法試験合格時に概ね30歳を超えてしまった人)
 司法試験の順位に関係なく,既存事務所への就職は基本的にあきらめた方がよいと思います。

 もっとも,30歳を超えた人でも,社会人時代のノウハウや人脈を活かして即独でもやっていけるという人や,既存事務所にコネがあるから大丈夫だという人,元アナウンサーなどで知名度があり客が取れるから大丈夫だという人,といった個別の例外はあると思いますが,30歳を超えた人が「司法試験に合格すれば職にありつける」と考えるのは大きな間違いです。念のため言っておきますが,公認会計士試験は合格しても25歳以上はダメという世界ですからね。司法試験はこれでもまだマシな方です。
 また,予備試験本道主義が定着し快特組や特急組が幅を利かせるような時代に,法科大学院に安住し予備試験を受験しないような人は,たとえストレートで司法試験に合格してもまともな就職先は期待できません。それは東大や一橋など有名大学の法科大学院を出た人でも変わりません。ましてや,二流以下の法科大学院に入学し予備試験を受験しないような人は,もはや真面目に法曹を目指す気はないと見なされても仕方ありません。
 この「予備試験本道主義」を,遠い未来の現象などと考えてはいけません。少なくとも,平成25年以降に法科大学院へ入学した人が司法試験を受験する頃には,「予備試験本道主義」はしっかりと実務に定着していることでしょう。いや,既に定着しているという人もいるかも知れません。

 法曹養成制度検討会議で,未修者教育の充実強化を図るとか呑気なことを言っている間に,時代はどんどん先に進んでいるのです。皆さんも,既に「崩壊大学院」の二つ名で呼ばれている法科大学院に入ったり法科大学院を擁護したりといった無益なことに時間を費やし,時代の波に取り残されないよう注意して下さい。

12 コメント

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Unknown ()
2012-12-28 18:43:08
伝聞に過ぎないのですが、上位ローの一角、Tの既修では、4大事務所に入るためローの勉強に専念する層と、そこまで必死になってGPAをあげる気にはなれないので予備試験を受ける層に分化しているそうです

あと、去年の予備合格者の中で、学部4年で合格した人の半数近くがT既修に進学したそうです。そして既修1年目で司法試験に受かって中退したわけです。
クラスにそんなすごいのがいるわけですから、相当な刺激になったかと思います。今年のロー在学中予備合格者大幅増加を引っ張った大きなファクターとなっているのではないでしょうか。
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Unknown (芳賀)
2012-12-28 19:24:56
要するに、スーパーエリート出なければ
意味のない資格なわけですよね。
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Unknown (ヒヨコ鑑定士)
2012-12-29 08:28:53
30歳以上の予備試験の合格者の司法試験合格率が20代より低いのは体力の問題では無いと思います。 働きながら受験する人が多いからですよ。 特に30代ではそんなに体力は低下しませんからむしろこういう優秀な人は文武両道が多くて体力が普通の20代よりあります。 優秀な高齢合格者は就職などせず即独すれば良いです。
若い人もハッキリ言って企業に人生を任せる時代は終りです。
国際化ネット社会これからは個人で稼げる人の時代です。
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Unknown (Unknown)
2012-12-29 11:09:20
予備試験に合格しながら法科大学院に進学、そしてすぐ中退ですか・・・
裕福な方も居るもんですね
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Unknown (yam)
2012-12-29 11:26:38
以前にコメント致しましたロー現役生のyamです。

記事の②に関連して、現時点で「H24年度予備試験合格者向け 事務所説明会・ウィンタークラーク」を開催したファームをご紹介します。

西村あさひ
長島・大野・常松
森・濱田松本
アンダーソン毛利・友常
TMI
シティユーワ
淀屋橋・山上合同(※ロー生と合同)
ベーカー&マッケンジー
ビンガムマカッチェン・坂井三村相澤
桃尾・松尾・難波
瓜生糸賀

6月~7月の採用シーズンよりも半年以上前のこの時期に、懇親会まで開いてお金かけて公募されているのは、まさに「青田買い」というべきですね。

当方も、予備試験合格者としていくつか参加して、採用担当に直接伺ってみると皆さま次のようなコメントを頂きました。

「予備試験組は優秀との評価が推定される」
「司法試験の合格を推定できるので、安心して内定オファーを出しやすい」
「500人時代に合格した私たちからすると、親近感がわくし、興味もある。ただ、司法試験にも500番以内でぜひ受かって欲しい」

なお、最近修習を終えた某塾の若手講師のお話によれば、「裁判官サイドも、どうやって予備試験組を採るか、関心を集めつつ議論も始めている」との事でした。今後の任官数に注目したいですね。
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Unknown (yam)
2012-12-29 11:31:31
恐縮ながら↑のコメントに漏れがありました。。
ポールヘースティングズさんも、H24年度の予備試験組にむけて「ワークショップ」を開くようです。
(ロー生との合同でもありますが)。

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Unknown (Unknown)
2012-12-29 12:53:58
Tの既修、闇でこっそりと選抜して予備試験の受験指導やってますよ。受験禁止の原則なんて建前です。
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Unknown (Unknown)
2012-12-29 16:26:13
合格者の多いローほど、受験指導をするなり、受験勉強に理解のあるセンセがいる。

そうでないローほど、そのことを意識していない。

そして、合格率で補助金切られる。

下位ローは、アホ。国で言えば後進国。
もしくは戦前の日本みたいなもんで、ヘンな宗教にかまけて変なナショナリズムを持っている。
科学的にやってる先進国と戦争して勝てる訳ないよ\(^o^)/
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Unknown (Unknown)
2012-12-29 16:40:59
そもそも受験指導禁止ってのは誰が言い出したんですか?
法務省令にでも書かれているのですか?
「してはいけない」のではなく司法試験に合格していない教員に受験指導など「できない」というのが真実ではないでしょうか
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Unknown (Unknown)
2012-12-29 20:48:00
法務省側ではなく文科省と大学の間での決まりでしょう。
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