黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

成功可能性ゼロの司法改革 ⑤中身不明の「実務教育」

2012-06-03 00:41:46 | 法曹養成関係(H25.1まで)
 ブログの記事であんなポカミスをやってしまうとは・・・。黒猫も年ですね。怖いから今後は他人の答案構成にコメントすることは避けることにします。

 今回は,法科大学院で行われている「実務教育」の内容についてです。法科大学院の教育内容についてそんな詳細に立ち入らなくても,このまま受験生が激減すればじきに潰れるという見方もあるかもしれませんが,今後の法曹養成制度を考えるにあたって法科大学院制度の失敗を教訓にする必要もありますので,議論する意味はあるかと思っています。

 文部科学省のホームページによると,法科大学院は,3年間で93単位以上の取得が修了要件とされており,法学の基礎を学んだ法学既修者は,1年以下・30単位以下を短縮することが可能とされています。そして,法科大学院の授業科目は,次の4種類を開設するものとされています。
一 法律基本科目    憲法,行政法,民法,商法,民事訴訟法,刑法,刑事訴訟法に関する分野の科目をいう。
二 法律実務基礎科目  法曹としての技能及び責任その他の法律実務に関する基礎的な分野の科目をいう。
三 基礎法学・隣接科目 基礎法学に関する分野又は法学と関連を有する分野の科目をいう。
四 展開・先端科目   先端的な法領域に関する科目その他の実定法に関する多様な分野の科目であって、法律基本科目以外のものをいう。
 そして,各法科大学院は,上記4種類のすべての授業科目を開設しなければならず,また上記4種類のいずれかに極度に偏ることのないよう配慮するものとされています。もっとも,具体的にどのような授業科目を設けるかは各法科大学院の「創意工夫」に任されており,具体的にどのくらいの割合が望ましいかの基準は,各認証評価機関が独自に定めています。

○日弁連法務研究財団 法律実務基礎科目が10単位以上,基礎法学・隣接科目が4単位以上,上記二から四まで(法律実務基礎科目,基礎法学・隣接科目,展開・先端科目)の合計が33単位以上履修されるように,カリキュラムや単位配分が工夫されていることを評価判定の視点としています。

○大学評価・学位授与機構 標準単位数が非常に細かく基準が設定されています。
 法律基本科目    公法系科目が10単位,民事系科目が32単位,刑事系科目が12単位。
           なお,必修単位数の上限は上記プラス8単位(未修者はプラス14単位)。
 法律実務基礎科目  法曹倫理2単位,民事訴訟実務2単位,刑事訴訟実務2単位。
           模擬裁判,ローヤリング,クリニック,エクスターンシップなどから4単位。
           法情報調査,法文書作成(ただし,単位認定は必須ではない)
 基礎法学・隣接科目 4単位以上
 展開・先端科目   12単位以上

○大学基準協会 留意事項として,法律基本科目の単位数が60%程度(70%を上回らないものとする),法律実務基礎科目の単位数がおよそ10%以上とされています。その他,「授業科目の内容が過度に司法試験受験対策に偏し,法科大学院制度の理念に反するものとなっていないか」,「授業内容が司法試験の答案練習等を中心とし,知識の蓄積・再生の訓練が大半を占めていないか」という基準や留意事項もあり,予備校的な教育をかなり敵視していることが分かります。

 大体こんな感じです。法科大学院の修了単位数は,93単位以上という枠内で各法科大学院が個別に定めており,実際には95単位前後で定めているところが大半のようですが,法律基本科目の単位数が概ね60単位を超えてしまうと,どの評価機関でもクレームが付いてしまいます。
 しかし,司法試験に合格するにも,法曹として実務で活躍するためにも,法律基本科目の授業はしっかり行ってもらわないと困るのですが,特に公法系科目10単位というのは明らかに不足しています。憲法で4単位使ったら,残る行政法を6単位で教える必要がありますが,行政法は法学部でも最低8単位くらいかけて教えるのが普通です。
 未修者に対し6単位の需要で,行政法を司法試験の合格レベルに引き上げるのは無茶な話ですし,法科大学院によっては,既修者コースでも入試で行政法を必須にしていないところがあったりするので,司法試験の必須科目であるにもかかわらず,行政法の教育はかなり手薄になっています。そして,認証評価機関も,なぜかそういうところは問題視しない一方,各法科大学院がこのあたりの手当てをするために法律基本科目を増やすとクレームを付け,ひどい場合は不適合判定にします。
 なお,日本大学法科大学院は,法律基本科目の必要単位数が93単位中74単位と多すぎるため不適合判定を受け,追評価の際には102単位中68単位となっていたものの,新設された展開・先端科目のうち相当数は実質的には法律基本科目の内容であり,やはり法律基本科目が多すぎるという理由で不適合とされました。

 そして,法律基本科目をかなり犠牲にした上で,どの評価機関でも重視されているのが法律実務基礎科目であり,日弁連などは
「法科大学院では充実した実務教育が行われている」ことを法科大学院の意義として強調していますが,その内容について十分な検討はされていません。
 一般的に法律実務基礎科目として開講されているのは,大学評価・学位授与機構が掲げているような科目ですが,それぞれ以下のような問題があるように思われます。

●法曹倫理 一般論として不要とまでは言いませんが,弁護士職務基本規程などの解釈問題が含まれており,少なくとも民事・刑事に関する基本的な知識がないと,何が悪いのか理解できない可能性があります。また,実務に就いてからか,少なくとも近い将来法曹としての実務に就くという実感がないと教育効果は期待できず,法科大学院の段階で4単位もかけて教える必要性は低いように思われます。

●民事訴訟実務 要件事実教育が非常に重視されており,実務教育=要件事実教育と誤解されている節があります(要件事実教育の弊害については,過去の記事でも書いたことがあり,詳論すると非常に長くなるためここでは省略します)。
 その結果,例えば平成24年度の司法試験では,不動産売買の意思表示が取得時効の要件を論ずる上で「法律上の意義を有するか,また,法律上の意義を有すると考えられるときに,どのような法律上の意義を有するか,理由を付して解答しなさい」と聞かれているだけなのに(第1問・設問1(2)),受験界ではこの問題が「要件事実」の問題であると曲解されているようです。
 黒猫としては,上記の問題は不動産の売買に関する意思表示が「所有の意思」を基礎づける事実及び「占有の開始」にあたる事実であるか否かを説明させるにとどまる趣旨だと解釈していますが,この問題について取得時効の要件事実論を延々と並べ立てるような答案が続出したら,おそらく考査委員たちは頭を抱えるでしょうね。

●刑事訴訟実務 民事のように極端な思想的偏りは無いようですが,弁護士にならない人や,弁護士になっても刑事事件をやらない人にはほとんど意味のない科目であり,しかも刑法や刑事訴訟法の理解も不十分な段階で2単位の授業をやったところで,効果の方はかなり疑問視されます。司法試験でも,実務に即した出題は必ずしも出来が良くないようですし。

●法情報学 「法情報調査」「法律情報」「リーガル・リサーチ」など法科大学院によって微妙に名前が違うのですが,最近は書店にこの関連の書籍も並ぶようになりました。黒猫も一応読んでみましたが,単に主要な文献や検索サイトの案内が並んでいるだけでした。法科大学院の存在意義として法情報学の授業を挙げる論者もいるようですが,文献調査のテクニックやパソコンの使い方程度であれば,実務に入ってから学んでも特に支障はありません。他にやるべきことはいくらでもあるはずです。

●法文書学 法文書作成と称している法科大学院もあるようですが,その実態はかなり不明瞭で,実際には司法試験の答案練習が行われているところもあるようです。黒猫個人としては,法科大学院で答案練習を行うこと自体の意義を否定するつもりはありませんが,法科大学院では司法試験の答案練習が行われているから存在意義がある,とはお世辞にも言えないでしょう。

●実習科目 法律に関する知識が不十分な段階で法律相談などの実習を行わせても効果は乏しいと考えられる上に,法律相談の見学などは,実際には依頼者が来ないなどの理由で事実上空洞化する例も少なくないようです。司法修習でさえ,最近は実際の事件が来ないため実務修習でも白表紙の教材に基づく起案練習が行われ,

 ちなみに,文部科学省サイドとしては,法科大学院の存在意義を強調するために,法情報調査をむりやりにでも「学問」に引き上げようとしている節が見られます。
 例えば,愛知学院大学では従来「法情報調査」の科目を開講していたところ,判例・法令・学説などの検索技術のみを独立して開講することの意義は乏しいということで2009年からこの科目を廃止したのですが,そのことについて大学基準協会は,認証評価で次のようなクレームを付けています。
「法情報調査は、単に判例学説などの文献資料収集のための検索方法を知ることがその内容ではない。例えば、医療事故にかかる法情報としては、「医療倫理」と関連して医療行為の分担の構造、構造上の問題、医療行為にかかる制度と実体法上の制度などの
調査も含まれる。分野ごとに、実態、法制度、その全体像をも見据えたうえでの法情報調査が必要なのであり、単に現存する判例や学説文献のスピーディな入手を目的とするものではない。法律問題の考え方を踏まえた法情報調査の意義について授業を設けるといった方策をとることが望ましい。」
 言葉だけは立派ですが,別にこのような学問分野で,単位のつく講義を設けて法科大学院生に教える意義のあるようなものが実際に成立しているわけではありません。こんな学問あったらいいな,作れと言っているだけなのです。本末転倒の発想である上に,大学の自治に対する干渉にもほどがあるでしょう。
 余談になりますが,特に大学基準協会は,司法試験の答案練習に類する授業を厳しく取り締まっている印象が強いのですが,その傾向は下位ローに対して強いと言えます。逆に,慶應義塾大学法科大学院で,司法試験考査委員による情報漏洩問題が発覚したときには,不正の再発防止に対しては強く指導していますが,その前提として,法科大学院で事実上受験対策の指導が行われていること自体については,問題にしている形跡がありません。

 イギリス・フランス・ドイツの法曹養成制度では,法学部の段階における実務教育は行われておらず,実務教育は大学とは別の機関で行われています(アメリカでは,司法研修所のような実務教育機関がないので,ロースクールで実務教育も行われているというに過ぎません)。わが国における法科大学院の現状を見ても,実務教育がさほどの成果を挙げているとは思われず,少なくとも司法修習制度を前提とする限り,大学で実務教育を行う特段の必要性はないと言えるでしょう。
 ちょっと前の記事で取り上げた森山弁護士も,現行よりさらに実務基礎科目を増やすべきだという日弁連の提言案に対し,意見書で以下のように述べて強く反対しています。
「そもそも現在の法科大学院において実務教育の比重を増やすこと自体に問題があると言わなければならない。(中略)ただでさえ司法試験合格者(法科大学院修了者)のレベルが下がっており,法律学の基本的理解に問題がある人が増えていると言われているのである。この憂慮すべき事態を一刻も早く是正するためには,法律基本科目についての教育にこそ力を入れるべきである。実務科目に時間を割くことは,その妨げになるであろう。」

39 コメント

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Unknown (何様だよ)
2012-06-03 06:58:22
ポカミス?あんた本当に最低な人間だな。
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Unknown (Unknown)
2012-06-03 08:30:51
事実誤認があったからすいませんじゃなく、それによって心を傷つけたことについて謝罪しないといけないのでは?じゃないと多くの人は納得しないと思う
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Unknown (受験生)
2012-06-03 11:20:26
ポカミス?
単なるあなたの能力不足では?
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Unknown (正義感は満足しましたか?)
2012-06-03 11:51:22
ただ今、立派な人格者の皆さんによる糾弾タイムです。
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弁護士の精子たちの憂鬱 (Unknown)
2012-06-03 11:54:16
勝利条件は

ブログの閉鎖
または、
コメント欄の閉鎖ないし認証化

です。

期限は、1週間。
さあ、励んでください。
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Unknown (ぽこにゃん)
2012-06-03 12:02:16
黒猫先生、こんにちは。いつも楽しく拝見しています。
法科大学院の制度は、先生のおっしゃるとおり、司法試験の受験資格をお金で買っているようなものです。
メリットとは、色々な経歴をもつお友達が出来ることかな?
もう昨年から予備試験が実施されましたから、本当に優秀な生徒さんは、法科大学院なんて時間とお金がかかる手段は利用しませんよね。当たり前ですが。
黒猫先生は、東大法学部をご卒業されて、もう司法試験もとっくのとうに合格され、実務家でいらして、素直にうらやましいな!!
先生の文章は、非常に読みやすいです。
やはり東大法学部の方って、頭がいいですよね。そんな先生でもミスをするのですね、人間味を感じま~す。
でも、仕事の書類でお金にかかわることではないから、適当にさっと読んだだけだからですよね?
先生はもう合格されたから、司法試験の問題なんて、予備校の講師でもないのだから関係ないですものね☆
これからも記事、楽しみにしています☆


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Unknown (Unknown)
2012-06-03 12:19:34
「ブログの記事であんなポカミスをやってしまうとは・・・。黒猫も年ですね。」
ご本人様が一番よくわかっておられるかと思いますが、あの間違いは歳の問題ではありません。単純に、今の黒猫様に、司法試験に合格する力がないからです。

「怖いから今後は他人の答案構成にコメントすることは避けることにします。」
そうですね。そもそも司法試験合格レベルの力が無いのですから、コメントは避けた方がいいと思います。

あなたを反面教師にして、常に勉強しなければと思いました。ありがとうございました。
コメント失礼致しました。
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司法試験なんてのは (なめ猫)
2012-06-03 12:59:28
「棒高跳び」のようなものさね。

試験の時だけ,ハイジャンプして,バーをクリアーできたら,あとは,六法の知識なんて,高齢者の抜け毛のごとく,どんどん消えていくものなんだよ。

蓄積されて残るのは,真面目に取り組んだ専門分野の実務感覚くらいだな。
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Unknown (アカ猫)
2012-06-03 21:20:11
チンカスどもは、瑣末なミスの揚げ足とりくらいしかケチをつけることが見つからないのでしょう。
雑音は気にせず、これからも今の調子で正論をがんばってください!
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Unknown (Unknown)
2012-06-03 23:52:47
しかし出身学部なんぞ公開するなら、氏名もプロフィールに公開してくれませんかね。
弁護士と言ってもピンキリだし、東大卒もピンキリではあるけど、ちょっとキリすぎる気がするので。ボーダーを割るレベルで。
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