黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

安倍総理は何に抵抗しようとしているの?

2013-07-28 18:15:16 | 時事
 時事通信,7月27日付けニュース。
財政計画、消費増税前提とせず=改憲、アジア諸国に説明―安倍首相会見(時事通信) - goo ニュース

 この記事によると,安倍総理は財政再建の道筋を示す「中期財政計画」について,来年4月からの消費税増税を前提としない考え方を示したそうですが,黒猫としては一体何を考えているのか,と首を傾げざるを得ません。
 そもそも,民主党政権下において,野田総理が民主党を壊してまで消費税増税に踏み切ったのは,そうせざるを得ない事情があったからです。
 古い話なので忘れている人も多いと思いますが,民主党政権時代には,格付け機関による日本国債の格下げが相次いで行われています。具体的には,2011年1月,スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が日本国債の格付けを「ダブルAマイナス」に引き下げ,同年8月にはアメリカのムーディーズ・インベスターズ・サービスも日本国債の格付けを1段階引き下げて「Aa3」(ダブルAマイナスに相当)にしたほか,2012年5月には,フィッチ・レーティングスが日本国債の格付けを「シングルAプラス」に格下げしています。
 既に,日本政府の債務は約1000兆円近くに達しているようですが,このような状況下で格付けの低下を放置していれば,民主党政権下において早くも深刻な財政危機を発生させるおそれがありました(野田政権末期の混乱を思い出して下さい)。
 野田前総理も,国民に嫌われること明らかな消費税増税など本心からやりたかったわけではないでしょうが,早急に抜本的な財政健全化策を示さなければ,民主党政権下で早くも深刻な財政危機が発生するおそれがあったのです。
 そして,この傾向は自民党・安倍政権になってからも,特に改善されていません。

 http://www.asyura2.com/13/hasan79/msg/735.html
 上記の記事によれば,2013年4月,S&Pは経済成長の回復とデフレの終息が成功するかどうか不確実であるとして,日本国債の格下げを行う可能性が3分の1以上であるという見通しを示しています。
 もう一つの大手格付け機関であるムーディーズは,S&Pよりさらに厳しい見方を示していて,日銀の緩和策は,信頼に足る構造改革および財政再建計画を日本政府が実施するまでの時間稼ぎにしかならない,日銀の大胆な緩和にリスクがないとは言えず,成長を促進できなかったり,日本国債市場の不安定化につながったりした場合には,国債利回りの上昇をもたらす可能性もあると警告しています。
 念のため言っておきますが,これは民主党政権下で決まり,自民党も合意した消費税の引き上げが予定通り行われることを前提とした国債の評価です。今さら景気がどうのこうのと言って,安倍総理が消費税の引き上げを見送るようなことがあれば,日本国債の格付けはさらに低下し,日本政府は今年中に深刻な財政危機に見舞われてもおかしくない状況に陥ります。
 そして,格付け機関がさらなる格下げを行うかどうかを決定するための判断材料として重視しているのが,8月までに発表される日本の財政再建計画,つまり中期財政計画です。その際,日本政府が消費税の増税をためらっているようなメッセージを世界に発信したらどうなるか。おそらく,日本国債のさらなる格下げは避けられないでしょう。
 過去の例をいちいち挙げるまでもなく,今後3年間は続くとみられている自民党政権の下で,2回も消費税の増税を実行すれば,大幅な景気悪化と自民党の支持率低下は避けられません。しかし,景気が回復すれば財政も良くなる云々というのは,過去に自民党が散々言い続けては結局実行できなかった主張と同じであり,当然ながら国際社会では通用しません。
 このような状況下で,消費税増税による安倍政権へのダメージを最小限に食い止める方法は,消費税増税は民主党政権下でもう決まったことだから選択の余地はないとして,淡々と増税を実行してしまうことでしょう。
 下手に安倍総理が迷うような素振りを見せれば,国民は消費税増税の可否について安倍総理に決定権がある,言い換えれば消費税増税を実行したのは安倍総理だ,というイメージを抱くことになるでしょう。安倍総理にとって良いことは何もありません。
 中期財政計画に消費税増税を盛り込まないことによって,安倍総理が一体何に抵抗しようとしているのか黒猫には分かりませんが,抵抗しようとする相手が財務省の官僚であろうと国際社会であろうと,おそらく抵抗する意味はないでしょう。

 毎日新聞の7月27日付け記事『中期財政計画:根拠示さず「赤字半減」…概要判明』では,中期財政計画の概要が報道されていますが,これによると今回の中期財政計画は消費税増税を織り込まないだけでなく,歳入や歳出の具体的金額にも触れないで,特に具体的根拠も示すことなく,2013年度の赤字額約34兆円を2015年度には約17兆円に圧縮する,といった曖昧な内容にとどまるそうです。
 民主党政権下では,国債費を除く歳出は71兆円以下,新規国債発行額は44兆円以下などの枠を設けていた「中期財政フレーム」を国際公約として示していましたが,今回はこれに代わり,具体的な歳出の上限は示さず,「成長戦略を進めて税収増に努力する」とか「社会保障費を含む聖域なき歳出見直しを断行する」などといった抽象的な表現にとどまる「中期財政計画」を発表するというのです。
 これでは,「日本政府は財政健全化を真面目に取り組んでいない」と国際社会に評価されるのはほぼ確実でしょう。「アベノミクス」などという妄言で愚かな日本国民は騙すことはできても,国際社会は騙せない。安倍総理は,近いうちにそんな教訓を思い知らされることになりそうです。