12月16日の衆議院議員選挙を控え,安倍総裁の言及した「インフレターゲット」が話題になっています。
安倍総裁の考えとしては,現在の経済不況はデフレ(物価下落)が原因であり,日銀の金融政策で年率2%程度の「インフレ目標」を定めさせて大胆な金融緩和を行っていく,来年で改選される日銀総裁には「インフレ目標」政策に賛成する人物を据える,さらには日銀の目的に「雇用の安定」を明記するなど日銀法の改正も検討する,ということらしいです。
こういう主張は,自民党だけではなくみんなの党も行っているようであり,日本維新の会も橋下市長がテレビで「日銀の独立性が金融政策を歪めている」といった趣旨の発言をしていたところを見ると,おそらくこのような考え方に賛成するつもりなのでしょう。
このような「インフレ目標」を設定すべきという主張は,従来から一部の経済学者によって行われており,これに安倍総裁をはじめとする野党の政治家が乗った形のようですが,このような「インフレ目標」を設定する考え方は重大な欠陥を抱えているため,これまで経済界でも主流派になったことはありませんでした。
もう少し具体的に説明すると,現在のデフレ状態を克服するために金融政策でインフレを起こすということは,要するに通貨の流通量を大幅に増やして日本円の価値を下げ,強制的にインフレにするという意味です。確かにこれをやれば円安にはなるでしょうが,同時に日本国債の価値も下落して金利が上昇します。
平成24年度予算では,90兆円余りにのぼる歳出のうち国債費(国債の元利払いに充てられるお金)が21兆円を超えており,これを賄うための歳入のうち租税・印紙収入は約42兆円と全体の半分にも満たず,歳入のうち半分近くを公債金収入(国債等の発行によって得られた収入,要するに新たな借金)によって賄うことが予定されています。
これだけでもかなりの異常事態ですが,さらに国債費の中の内訳をみると,「利払費等」が9兆8546億円となっており,実に税収の4分の1近くが,国が背負っている借金の利払いに消えているわけですが,財務省HPの資料によると,平成24年度末時点で日本国が抱える公債残高は709兆円,それ以外にも利払・償還が主として税財源で賄われる長期債務が存在しており,それらを含めた日本国の実質的な借金は,平成24年度末には940兆円に達する見込みとなっています。
もっとも,国の実質的な借金が940兆円もあるのに,その利払費がその1%余りである9兆8千億円台という数字にとどまっているのは,要するにデフレ状態で長期金利が極めて低いからです。仮にインフレ目標政策を採って日銀に国債を引き受けさせ,日本円の流通量を増やして無理矢理インフレを起こせば,国債の市場価値は下落し,要するにもっと高い金利を付けないと市場は日本国債を買ってくれなくなります。
現在,日本国債の長期金利は0.8%前後で推移しているようですが,これが仮に1%上昇すれば,それだけで国の負担する利払の金額が倍以上に増えてしまう計算になります。
インフレ目標推進派の経済学者たちは,インフレになれば景気が回復して税収が増えるとか,国の負債も実質的に目減りするなどと主張しているようですが,仮にインフレで税収が多少増えたとしても,その程度ではとても賄い切れませんし,利払いの増加分にも耐えられない日本の財政状況では,もはや負債が目減りする前に破綻してしまいます。
そもそも,日本のデフレは今に始まったことではなく,消費税引き上げによる一時的なものを除けば実質的に1995年から続いていると言われています。つまり,安倍総裁が総理をやっていたときには,既に日本の長期デフレが深刻な社会問題になっていたわけですが,今になって「インフレ目標」なんて政策を言い出した安倍総裁が,なぜ総理時代に自ら「インフレ目標」政策をやらなかったか。答えはただ一つ,「インフレ目標」政策自体が,上記のような理由により非現実的なものだったからです。
自ら国政を預かる与党の党首としてできなかったことを,なぜ野党の党首になると途端にできると言い出し,しかもそれに反対する民主党を非難することができるのか。おそらく,安倍総裁には自分の考えというものがなく,周囲のいかがわしい経済学者たちの意見に引きずられている上に,そもそも責任感というものが欠けているのでしょう。
なお,安倍総裁の発言で市場は円安・株高傾向に動いており,この傾向を安倍総裁自身は自らの政策が市場で高く評価された結果だと胸を張っているようですが,ウォール・ストリート・ジャーナル紙の評価はこれと異なり,むしろ日本がインフレ目標に向けた国債濫発という無茶な経済政策を採ることを恐れた投資家が円売りに動き,円安の影響で輸出関連株が一時的に値上がりしているだけであると評価しているようです。
もっとも,最近の世論調査によると,これほどいかがわしい政策を堂々と主張している自民党が支持率ではトップであり,このような政策を実質的に支持しているとみられる日本維新の会も,相変わらず高い支持率を維持しています。民主党政権があまりにだらしないという理由もあるでしょうが,あるいは日本国民の多くも,こうなっては財政破綻してもやむを得ないと考えているのではないでしょうか。
仮に,インフレ目標政策で国の財政が行き詰まった場合,考えられるシナリオは①正面から債務不履行を宣言し財政支出を止めてしまう,②財政資金を捻出するため国債を乱発して日銀に引き受けさせハイパーインフレが起こる,の2通りが考えられるわけですが,どちらでも国の年金や生活保護などに頼って生きている人の生活を直撃することは確実です。端的に表現すれば,そういった日本人の多くは,年金が支払われなくなるか貯金が全部紙くずになるか,あるいはその両方といった事態に直面して,もはや食糧すらも買えなくなります。おそらく数千万人単位の人が文字どおり餓死することになるでしょう。
そういった状況の下で,比較的生き残る可能性が高いのは,その気になれば国などに頼らず自分で生活していける若い人たちです(ただし,若者でも生活手段を持たない人は,必ずしも生き残れるとは限りません)。
しかも,ハイパーインフレで国の財政赤字が高齢者の貯蓄とともに消え去り,高齢者の大半が餓死することによって財政負担からも解放されることになれば,その後の経済政策も採れる選択肢が増え,景気回復に向かう可能性すらあります。橋下市長は,明治維新と戦後復興に続く「第三の改革」をやろうと提唱していますが,明治維新は政体が変わったのを良いことに旧幕府時代の借金を新政府がすべて踏み倒し,戦後復興時には,戦時中の国債濫発によるハイパーインフレで,やはり事実上借金を踏み倒しています。
少子高齢化が急激に進行し,現役世代の力で高齢者を支えることが不可能に近くなりつつある現状において,それならばいっそ借金を踏み倒し高齢者を切り捨ててしまえという過激な選択を現代の若者たちが採ったとしても,それは全く不思議なことではありません。
実際,日本維新の会が主張している政策というのは,日本の年金制度が破綻することを前提とした年金制度の再構築,支給開始年齢の更なる引き上げなど,高齢者や社会的弱者を露骨に切り捨てるようなものが目立つのですが,世代別の統計では日本維新の会は20代の若者から概ね3割以上の高い支持を受けているのに対し,60代以上の支持は伸び悩んでいます。
このように考えると,一見単なる無謀に見える「インフレ目標」政策は,一部の政治家だけが暴走しているのではなく,長引く経済不況と財政赤字で行き場の無くなった国民の不満が,むしろ積極的な借金の踏み倒しと高齢者の切り捨てに向かって暴走しているようにも感じられます。
資源やエネルギーの大半を輸入に頼る日本が,財政破綻またはハイパーインフレに陥った場合,長期的には借金がなくなって経済再生の道が開かれるかも知れないといっても,それは数十年後の話であり,短期的にはどちらにせよ会社や銀行が次々と倒産するばかりでなく,輸入物資の価格が急騰し,食糧や電気の供給も滞ることになります。現在とは比較にならないほど日本の経済はひどい状態になります。貧困で治安が大幅に悪化すれば,その後も経済再生が進まないまま発展途上国に転落する可能性もあります。
果たして,豊かな文明生活に慣れきった今の日本人がそれで生きていけるかという問題はありますが,事ここに至っては,もはや少数者が何を叫んでも効果はないのかも知れません。
なお,国政全体から見れば細かい話になりますが,もはや国政全体が財政破綻またはハイパーインフレに向かって暴走しつつあるのであれば,司法修習の貸与制を維持するか給費制に戻すかという議論は,もはや大きな意味を持たなくなりますね。
貸与制といっても利息は原則的につかない以上,貸与制でも返済期日が来る頃には,ハイパーインフレで実質1円以下の金額にまで借金が目減りすることになる一方,国庫から日本円でお金を受け取ってもそれで生活していけるわけではありませんので,修習生の生活を維持するためにはむしろ食糧や住居などの現物支給を要求することになるかも知れません。もっとも,そんな状態では司法修習自体が実施不可能になる可能性も高いわけですが。
これまで,このブログでは司法制度改革の誤りについて散々書いてきましたが,もはや国政全体がおかしな方向に暴走しつつあるのであれば,司法制度についてだけまともな政策転換を求めること自体に無理があるのかも知れません。
安倍総裁の考えとしては,現在の経済不況はデフレ(物価下落)が原因であり,日銀の金融政策で年率2%程度の「インフレ目標」を定めさせて大胆な金融緩和を行っていく,来年で改選される日銀総裁には「インフレ目標」政策に賛成する人物を据える,さらには日銀の目的に「雇用の安定」を明記するなど日銀法の改正も検討する,ということらしいです。
こういう主張は,自民党だけではなくみんなの党も行っているようであり,日本維新の会も橋下市長がテレビで「日銀の独立性が金融政策を歪めている」といった趣旨の発言をしていたところを見ると,おそらくこのような考え方に賛成するつもりなのでしょう。
このような「インフレ目標」を設定すべきという主張は,従来から一部の経済学者によって行われており,これに安倍総裁をはじめとする野党の政治家が乗った形のようですが,このような「インフレ目標」を設定する考え方は重大な欠陥を抱えているため,これまで経済界でも主流派になったことはありませんでした。
もう少し具体的に説明すると,現在のデフレ状態を克服するために金融政策でインフレを起こすということは,要するに通貨の流通量を大幅に増やして日本円の価値を下げ,強制的にインフレにするという意味です。確かにこれをやれば円安にはなるでしょうが,同時に日本国債の価値も下落して金利が上昇します。
平成24年度予算では,90兆円余りにのぼる歳出のうち国債費(国債の元利払いに充てられるお金)が21兆円を超えており,これを賄うための歳入のうち租税・印紙収入は約42兆円と全体の半分にも満たず,歳入のうち半分近くを公債金収入(国債等の発行によって得られた収入,要するに新たな借金)によって賄うことが予定されています。
これだけでもかなりの異常事態ですが,さらに国債費の中の内訳をみると,「利払費等」が9兆8546億円となっており,実に税収の4分の1近くが,国が背負っている借金の利払いに消えているわけですが,財務省HPの資料によると,平成24年度末時点で日本国が抱える公債残高は709兆円,それ以外にも利払・償還が主として税財源で賄われる長期債務が存在しており,それらを含めた日本国の実質的な借金は,平成24年度末には940兆円に達する見込みとなっています。
もっとも,国の実質的な借金が940兆円もあるのに,その利払費がその1%余りである9兆8千億円台という数字にとどまっているのは,要するにデフレ状態で長期金利が極めて低いからです。仮にインフレ目標政策を採って日銀に国債を引き受けさせ,日本円の流通量を増やして無理矢理インフレを起こせば,国債の市場価値は下落し,要するにもっと高い金利を付けないと市場は日本国債を買ってくれなくなります。
現在,日本国債の長期金利は0.8%前後で推移しているようですが,これが仮に1%上昇すれば,それだけで国の負担する利払の金額が倍以上に増えてしまう計算になります。
インフレ目標推進派の経済学者たちは,インフレになれば景気が回復して税収が増えるとか,国の負債も実質的に目減りするなどと主張しているようですが,仮にインフレで税収が多少増えたとしても,その程度ではとても賄い切れませんし,利払いの増加分にも耐えられない日本の財政状況では,もはや負債が目減りする前に破綻してしまいます。
そもそも,日本のデフレは今に始まったことではなく,消費税引き上げによる一時的なものを除けば実質的に1995年から続いていると言われています。つまり,安倍総裁が総理をやっていたときには,既に日本の長期デフレが深刻な社会問題になっていたわけですが,今になって「インフレ目標」なんて政策を言い出した安倍総裁が,なぜ総理時代に自ら「インフレ目標」政策をやらなかったか。答えはただ一つ,「インフレ目標」政策自体が,上記のような理由により非現実的なものだったからです。
自ら国政を預かる与党の党首としてできなかったことを,なぜ野党の党首になると途端にできると言い出し,しかもそれに反対する民主党を非難することができるのか。おそらく,安倍総裁には自分の考えというものがなく,周囲のいかがわしい経済学者たちの意見に引きずられている上に,そもそも責任感というものが欠けているのでしょう。
なお,安倍総裁の発言で市場は円安・株高傾向に動いており,この傾向を安倍総裁自身は自らの政策が市場で高く評価された結果だと胸を張っているようですが,ウォール・ストリート・ジャーナル紙の評価はこれと異なり,むしろ日本がインフレ目標に向けた国債濫発という無茶な経済政策を採ることを恐れた投資家が円売りに動き,円安の影響で輸出関連株が一時的に値上がりしているだけであると評価しているようです。
もっとも,最近の世論調査によると,これほどいかがわしい政策を堂々と主張している自民党が支持率ではトップであり,このような政策を実質的に支持しているとみられる日本維新の会も,相変わらず高い支持率を維持しています。民主党政権があまりにだらしないという理由もあるでしょうが,あるいは日本国民の多くも,こうなっては財政破綻してもやむを得ないと考えているのではないでしょうか。
仮に,インフレ目標政策で国の財政が行き詰まった場合,考えられるシナリオは①正面から債務不履行を宣言し財政支出を止めてしまう,②財政資金を捻出するため国債を乱発して日銀に引き受けさせハイパーインフレが起こる,の2通りが考えられるわけですが,どちらでも国の年金や生活保護などに頼って生きている人の生活を直撃することは確実です。端的に表現すれば,そういった日本人の多くは,年金が支払われなくなるか貯金が全部紙くずになるか,あるいはその両方といった事態に直面して,もはや食糧すらも買えなくなります。おそらく数千万人単位の人が文字どおり餓死することになるでしょう。
そういった状況の下で,比較的生き残る可能性が高いのは,その気になれば国などに頼らず自分で生活していける若い人たちです(ただし,若者でも生活手段を持たない人は,必ずしも生き残れるとは限りません)。
しかも,ハイパーインフレで国の財政赤字が高齢者の貯蓄とともに消え去り,高齢者の大半が餓死することによって財政負担からも解放されることになれば,その後の経済政策も採れる選択肢が増え,景気回復に向かう可能性すらあります。橋下市長は,明治維新と戦後復興に続く「第三の改革」をやろうと提唱していますが,明治維新は政体が変わったのを良いことに旧幕府時代の借金を新政府がすべて踏み倒し,戦後復興時には,戦時中の国債濫発によるハイパーインフレで,やはり事実上借金を踏み倒しています。
少子高齢化が急激に進行し,現役世代の力で高齢者を支えることが不可能に近くなりつつある現状において,それならばいっそ借金を踏み倒し高齢者を切り捨ててしまえという過激な選択を現代の若者たちが採ったとしても,それは全く不思議なことではありません。
実際,日本維新の会が主張している政策というのは,日本の年金制度が破綻することを前提とした年金制度の再構築,支給開始年齢の更なる引き上げなど,高齢者や社会的弱者を露骨に切り捨てるようなものが目立つのですが,世代別の統計では日本維新の会は20代の若者から概ね3割以上の高い支持を受けているのに対し,60代以上の支持は伸び悩んでいます。
このように考えると,一見単なる無謀に見える「インフレ目標」政策は,一部の政治家だけが暴走しているのではなく,長引く経済不況と財政赤字で行き場の無くなった国民の不満が,むしろ積極的な借金の踏み倒しと高齢者の切り捨てに向かって暴走しているようにも感じられます。
資源やエネルギーの大半を輸入に頼る日本が,財政破綻またはハイパーインフレに陥った場合,長期的には借金がなくなって経済再生の道が開かれるかも知れないといっても,それは数十年後の話であり,短期的にはどちらにせよ会社や銀行が次々と倒産するばかりでなく,輸入物資の価格が急騰し,食糧や電気の供給も滞ることになります。現在とは比較にならないほど日本の経済はひどい状態になります。貧困で治安が大幅に悪化すれば,その後も経済再生が進まないまま発展途上国に転落する可能性もあります。
果たして,豊かな文明生活に慣れきった今の日本人がそれで生きていけるかという問題はありますが,事ここに至っては,もはや少数者が何を叫んでも効果はないのかも知れません。
なお,国政全体から見れば細かい話になりますが,もはや国政全体が財政破綻またはハイパーインフレに向かって暴走しつつあるのであれば,司法修習の貸与制を維持するか給費制に戻すかという議論は,もはや大きな意味を持たなくなりますね。
貸与制といっても利息は原則的につかない以上,貸与制でも返済期日が来る頃には,ハイパーインフレで実質1円以下の金額にまで借金が目減りすることになる一方,国庫から日本円でお金を受け取ってもそれで生活していけるわけではありませんので,修習生の生活を維持するためにはむしろ食糧や住居などの現物支給を要求することになるかも知れません。もっとも,そんな状態では司法修習自体が実施不可能になる可能性も高いわけですが。
これまで,このブログでは司法制度改革の誤りについて散々書いてきましたが,もはや国政全体がおかしな方向に暴走しつつあるのであれば,司法制度についてだけまともな政策転換を求めること自体に無理があるのかも知れません。
資本主義もあらゆる面で病理化して限界露呈
してます。
聞くところによると、財政が苦しくなると、政府が中央銀行を支配するようになるのは、他の国家でもしばしば見られる現象らしいですね。仕方ないことなのかな。
円の信認が失われて経済活動がストップしたら、現状と比較にならないくらい、弁護士は仕事にならないでしょうね。多分、弁護士なんて何の役にも立たない・・・。有事の時の弁護士は恐ろしいほど無力な気がします。
さっさと足を洗おうかな・・・・。