黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

この機会に反TPPを考えよう。

2012-11-19 22:53:31 | 時事
 朝日新聞にこんな記事が出ていました。 

「亀井静香前国民新党代表は19日の記者会見で、新党「反TPP・脱原発・消費増税凍結を実現する党(略称・反TPP)」を結党することを発表した。代表は民主党に離党届を出した山田正彦元農林水産相。亀井氏は幹事長に就任した。」
http://news.goo.ne.jp/article/asahi/politics/K2012111906320.html

 国民の生活が第一(略称は「生活」に落ち着いたらしい)に続き,今度は反TPP党ですか。キラキラネームの政党第二弾ですね。
 とはいえ,さすがにこの一言だけで記事を終わらせるのも物足りないので,今回はTPPの問題点について,黒猫の持論を語ることにします。とはいえ,一部は以前の記事で書いたことがあるかも知れませんので,重複があり得ることはご了承下さい。

1 TPPとは
 「TPP」とは,環太平洋戦略的経済連携協定(Trans-Pacific Partnership)の略で,簡単に言えば参加国間の自由な貿易を促進するために,自由貿易を妨げる関税やその他の障壁(非関税障壁)を撤廃し,経済的な国境をなくそうとする協定のことです。
 TPPは,現在シンガポール,ブルネイ,チリ,ニュージーランドの4カ国で発効していますが,これを拡大しようとする動きがあり,今のところアメリカ,オーストラリア,ベトナム,ペルー,マレーシア,カナダ,メキシコが交渉に参加しているほか,タイも交渉参加を検討しているようです。
 以上に対し,韓国や中国,インドネシアなどは一時参加を検討していたものの,メリットがないとして参加を見送っています。交渉参加国の顔ぶれを見ても分かるとおり,アメリカ以外にはあまり経済規模の大きな国が交渉に参加していません。

2 TPPのメリット・デメリット
 TPPへの交渉参加が日本にとってメリットになると主張する論者は,とにかく自由貿易を促進すれば日本製品の輸出が活性化され,景気が良くなるといったことを強調していますが,その具体的根拠は明らかではありません。日本製品の輸出が伸び悩んでいるのは,日本企業が諸外国の低価格競争に付いて行けなくなっていること,技術面での優位も怪しくなっていること,急速な円高が輸出にあたり不利に働いていることなどが主な原因であり,生産拠点の海外移転も人件費などの節約が主な原因です。
 日本がTPPに参加したところで,上記のような輸出阻害要因が何ら解決されるわけではありません。アメリカの対日関税が2.5%からゼロになったところで,アメリカへの自動車輸出台数が飛躍的に伸びることはあり得ないでしょう。
 また,本当にTPPが参加国にとって経済的メリットの大きい協定であれば,日本の産業界にとってのライバルである韓国が参加しないはずはありません。中国はまだしも,日本と立場が比較的似通っている韓国にとってもメリットのない協定であれば,日本にとってもメリットがないという強い推定が働くでしょう。
 これに対し,日本の農業分野は確実に,壊滅的な被害を受けることになります。日本の農家は個別所得補償で守ればよいという論者もいますが,主要国中で最悪と言ってよいほど財政状態が悪化している日本には,もはや個別所得補償などをする財政的余裕は残されていません。
 また,日本でも質の高い農産物を作れば国際競争にも勝てると主張する論者もいますが,農産品に限らず今の世界は全体的に経済成長が伸び悩んでおり,贅沢品はどんどん売れなくなっているのです。仮に日本の米が10キロで4千円,これに対し外国産の米が10キロで3千円程度というのであれば,まだ品質が良く信頼できる日本の米を買うという消費者は多いかもしれませんが,700%を超える関税が一気にゼロになり,外国産の米が10キロ500円くらいで入ってくる,しかも日本人の平均所得は下がり家計は苦しくなる一方ということになれば,日本の米が国内市場でほとんど売れなくなることは誰が見ても明らかでしょう。
 狭い日本の国土では,アメリカやオーストラリアのような効率の良い大量生産ができるできるわけもなく,構造改革で競争力を付ければよいという主張も非現実的です。
 さらに,TPPでは関税の撤廃のみならず,自由貿易すなわち外国企業の参入を妨げている関税以外の障壁も撤廃を目指すものとされていますが,非関税障壁の内容は極めて曖昧で,日本の国民皆保険制度も外国(特にアメリカ)の保険会社にとって非関税障壁であるとして廃止を求められる可能性があるほか,遺伝子組み換え食品に関する表示制度なども廃止を求められる可能性があります。
 さらに極端なことを言えば,日本の裁判所で英語の使用が認められていないのも非関税障壁であるとか,アメリカの法律では特許権の侵害にあたる行為が日本で特許侵害と認められないのも非関税障壁であるとか,「非関税障壁」の解釈如何によっては,それこそTPPによって日本の法制度があらゆる分野で干渉されかねないのです。
 しかも,参加国がTPPの協定に違反した場合には,第三者機関の判断により参加国が法外な金額の損害賠償を支払わされるような制度の構築も検討されており,その第三者機関が,アメリカの強い影響を受けた団体になることは,アメリカが締結した他の経済協定の例を見てもほぼ間違いありません。日本はTPPに参加したが最後,関税自主権どころか自主立法権すらも奪われてしまうのです。

3 TPPの手続的問題点
 日本がTPPの拡大交渉に参加しようとする場合,他の参加国・交渉参加国の同意を得る必要がありますが,特にアメリカは,日本の交渉参加を無条件で認めるつもりは毛頭無く,あらゆる分野での市場開放を約束しなければ交渉参加を認めない,という立場を採っています。
 そのため,日本はTPPの交渉に参加した時点で,アメリカに対し(日本にとって著しく不利なものも含め)あらゆる分野での市場開放を約束させられることになり,交渉に参加してからTPPの具体的内容が日本にとって不利であると分かったとしても,批准を拒否すれば国際公約違反ということで,諸外国(特にアメリカ)から猛烈な非難を浴びることになってしまいます。
 TPPは,ひとたび交渉に参加したら,もはやそこから逃げることは許されないのです。
 それだけでなく,TPPの交渉に関する議論の内容は,一切公開が許されていません。日本政府がTPPの交渉に参加したとしても,国民は交渉の経過を一切知ることができず,交渉がまとまって条約を締結するという段階では,上記のとおりそれを拒否する選択肢は事実上残されていないのです。
 日本維新の会では,TPP推進派の橋下氏と反対派の石原氏が協議した結果,TPPの交渉には参加するが日本の国益に沿わないものであれば反対するという方針を打ち出したようですが,TPPというものをこれほど分かっていない議論もありません。TPP交渉に参加してしまったが最後,後になってそれが日本の国益に合わないから反対するという余地は残されていないのです。

4 TPP交渉参加に対する各政党の態度
 主要な各政党のうち,まず民主党はTPP交渉参加を公約に掲げ,選挙の争点とする方針を明らかにしていますが,党内には反対派も根強く残っているため,今後もTPP反対派の離党者が増える可能性が高いでしょう。みんなの党もTPP推進派で,日本維新の会は石原氏などの参加で若干態度が曖昧になりましたが,基本的に推進派と考えてよいでしょう。
 これに対し,自民党と公明党,社民党,共産党はTPP参加に反対しており,「国民の生活が第一」もたぶん反対派でしょう。
 次の選挙で民主党がかなり議席を減らすことはほぼ確実であり,維新の会やみんなの党が大幅に議席を増やすとも考えにくいので,次の政権がTPP交渉参加の方針を示すかどうかはかなり微妙なところですが,仮に交渉参加を決めてしまったら,日本の経済的破滅はもはや決定的なものになるでしょう。

 そのような意味で,亀井さんあたりが反TPPを強く訴えたいという点は黒猫も理解できるのですが,だからと言って政党名を「反TPP」にしてしまうのはいかがなものでしょうか。何となく,政党というよりは社会運動グループの一つといった印象を受けてしまいます。
 今回の衆議院選挙では,民主党の分裂に伴ってかつてないほどに小政党が乱立する状況となったため,政党名も奇抜なものにしなければ注目されないという計算があったのかも知れませんが,奇抜すぎて日本人にも外国人にも呆れられるような名前の政党が連立与党の一角として国政に参加するというのは,日本にとって喜ばしい事態ではないように思います。

5 コメント

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12 years old (noga)
2012-11-20 02:11:45
消去法の達人たちは、’ああでもなければ、こうでもない’ と力説する。
無哲学・能天気であるから、自分は ‘どうであるか’ を述べることはできない。
過不足のない筋の通った世界観がない。空想になる。
哲学的な団結ができない仲良しクラブだから、日和見である。
つかみどころがない人物が多く、離合集散が激しい。

日本語には時制がないから、現実と非現実の区別ができない。だから、有意義な議論というものができない。
未来時制がないので、行き着く先の未来の世界を明らかにすることができない。
理想を述べると「そんなことを言ってもだめだぞ。現実は、そうなっていない」と返される。
それで、自己の理想に向かって生涯努力する態度が保てない。

未来時制の文章が書けないのでは、脳裏に筋の通った未来社会を構築することも困難である。
代議士といえども、議論のための代理人となることは難しい。

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聖域化したらむしろ滅ぶ (大多数の消費者)
2012-11-20 12:00:30
日本人の平均所得は下がり家計は苦しくなる一方ということになれば、外国産の米が10キロ500円で購入できれば大多数の消費者(国民)は歓迎すると思いますね。更に浮いたお金を他の使途に使えますから、当事者の農家以外の人(産業)も歓迎でしょうね。現状でも個別所得補償うんぬん以外にも米を高く買わされることで消費者は余分な負担をさせられています。構造改革で競争力を付ければよいという主張を非現実的といいますが、競争しなければ発展しないし、聖域化して農家を保護する姿勢には大いに疑問です。
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TPPは亡国政策 (teru)
2012-11-20 19:15:40
黒猫先生の司法制度に対する見識にはいつも首肯しておりますが、今回の記事については御意見申し上げます。

自民党の安倍総裁は、TPPに前向きな発言をしています。
また、公明党はTPPに慎重な姿勢のようですが、3党合意をしたということは、TPP参加を容認するということです。
民主党は、今回の総選挙についてTPP参加支持を公認の踏絵にするようです。

つまり、民・自・公3党ともTPP推進派ということです。
維新・みんなの党も同様に推進派です。

TPPは、現代版不平等条約です。これを推進する政党を先生はどうお考えなのでしょうか。少なくともわたくしは支持できません。

また、政治家にはネーミングセンスは必要ありません。国民のための政治を貫徹する胆力・勇気・知恵が必要なのです。

「キラキラネーム」などというマスコミから与えられたイメージだけの価値観で物事を見るのは、自分で考え行動することを放棄する端緒になるのではないでしょうか。

亀井氏が郵政民営化に反対したのはなぜか。国民新党を何故追放されなければならなかったのか。その真実を自分でお調べになりましたか。それもしないうちに政党名だけをもって異論を唱えるのはいかがなものでしょうか。

新聞・マスコミに与えられる情報を鵜呑みにすることなく、ネットを使って自分で調べて真実を追求していく姿勢がこれからは大切になるのではないでしょうか。

以上です。
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Unknown (Unknown)
2012-11-24 02:52:43
日本では、ディスカバリーが認められていないし、知的財産侵害の損害額が低すぎますが、TPPに入るとその点を改正しろとアメリカから言われる可能性はあるのでしょうか?
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反tpp (おさむ)
2012-11-24 08:51:45
反tpp、交渉もなぜ反対するのかとても勉強になりました。
では、なぜ?アメリカが日本をほぼ強制的にその後の交渉も封じ込めてしまうのか?それをハシモトさんに代わってお聞きしたい。
また、黒猫さんのつぶやきを読まさせていただきたいと思います。
その時、tppとアメリカの関係をお聞かせください。
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