黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

総選挙の差止めと無効提訴について(その他の雑感含む)

2012-11-16 22:26:10 | 時事
 一票の格差是正がなされないまま衆議院の解散・総選挙が行われることになり,二つの弁護士グループが,総選挙の差止め及び選挙無効確認の訴えを提起する動きを見せているそうです。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121116-00000016-jij-soci

 選挙区の定数是正訴訟というのは,参加しても誰から報酬をもらえるというわけでもなく,むしろ訴訟の経費は弁護士の自腹という状況の中,有志の弁護士グループによって長年続けられてきたものです。このような運動が,ともすれば放置されがちな選挙区の「一票の格差拡大」という現象を食い止める役割を担ってきたことは事実であり,その社会的意義自体を否定するものではありませんが,今回の弁護士グループが拠り所としている最近の最高裁判決は,あまりに論理がずさんなものと言わざるを得ないので,いかに司法関係者の端くれといえども,黒猫としては彼ら弁護士グループの意見に賛同できるものではありません。
 最高裁判決の問題点について,詳細は以前の記事でも書いたことがあるので,今回はなるべく簡潔にまとめますが,最高裁は前回の選挙当時最大で約2.3倍になっていたという,衆議院における「一票の格差」自体を憲法違反としているわけではありません。このような較差が生じているのは,小選挙区の区割りを決める際,(地域間の均衡等に配慮して)まず人口に関係なく各都道府県に一議席を割り振り,残りを人口比に応じて各都道府県に割り振るという方式が採られているのですが,最高裁はこの方式自体を「憲法に違反する状態だ」と言っているのです。
 なお,参議院の選挙区についても最高裁は違憲判決を出していますが,その理由も似たようなものです。参議院では,各都道府県を1つの選挙区として,人口に関係なく各都道府県に定数1を割り振り,残りを人口比に応じて割り振るという方式を採っているところ,最高裁はそのような方式自体を憲法違反だと判断しており,さらに各都道府県を1つの選挙区とする方式についても,参議院において1票の較差が大きくなる原因の一つとなっており憲法上問題がある,という趣旨の判断をしています。
 もっとも,最高裁は現在の選挙制度が施行されてから一貫してこのような判断をしてきたのではなく,衆議院では現行制度下における2回の選挙について,現行制度は合憲である旨の判断をしています。それが3回目の選挙に至ると,上記のような現行制度はこれを認めないと選挙改革自体が実現しなかったという事情に基づくものであるから,合憲とされるのは制度施行から10年以内に限られる,だから今の選挙制度は違憲状態である,といった趣旨のことを突然言い始めたのです。
 これに対し,政府側は人口の変動により拡大した「一票の格差」自体は是正する必要があるものの,人口に関係なく各都道府県に一人を割り振るという現行制度の仕組み自体には合理性があり憲法違反ではない,という立場を今でも崩しておらず,今日国会で法律が成立した衆議院の0増5減も,最高裁が指摘するような方式自体を根本的に変更するものではありません。
 黒猫としては,過度に広がった「1票の格差」を是正するという役割を超えて,このように最高裁が選挙制度の根本的なあり方についてまで口を挟むのは司法の越権行為だと思いますし,このような判決には余所からも様々な批判があるようで,特に「どうせ最高裁も,違憲だけど選挙は無効にしないという事情判決を繰り返すだけだ」という批判に対しては,判決で一部の裁判官が選挙を無効にする場合もあるという趣旨の意見を書いています。ただし,選挙が違憲となった場合の処理については要するに法律で定めてくれという,かなり失笑ものの意見もありますが。
 外国では,裁判所が選挙自体を無効とし裁判所の主導で選挙をやり直させた例もあるそうですが,基本的に裁判所の力が強い国というのは,裁判所が強力な宗教的権威といったものを持っていますからね。日本の最高裁は,現行憲法の制定に伴い天皇の権威と切り離され,それに代わる権威もないばかりか人事的にも財政的にも独立性が担保されていない中で,三権の一翼という役割だけを与えられた存在に過ぎません。今回の選挙に関しては,最高裁としては立場上違憲判決を出すしかないと思われるものの,選挙の無効を宣言する勇気はとてもないでしょう。
 特に,今回の総選挙で自民党中心の政権に戻った場合,最高裁が違憲判決を出してもあからさまに無視するだけでなく,最終的には定年に達した裁判官を政府の方針に忠実な裁判官に順次入れ替えることで問題を「解決」してしまう可能性が高いですが,上記のとおり論理的にかなり無理のある最高裁の判断は,このように処理されてしまってもやむを得ないほど馬鹿げたものであると言うしかありません。
 一方で,今回の件は政府によって最高裁の違憲判決が無視され抹殺されるという前例を作ってしまうことを意味しており,わが国における司法の権威は失墜し将来にわたって憲政史上の汚点を残すことになるのは避けられません。
 黒猫としては,今回の総選挙について訴訟を起こしても司法の自滅を招くだけなので,できれば最高裁に判断する機会を与えないでほしい,訴訟はおこしてほしくない,というのが本音ですね。

 なお,今日は衆議院の解散に伴い政治上の重大事件が目白押しでした。せっかくなので,他の事件についても一言ずつコメントしておきたいと思います。

○ 野田総理による衆議院の解散について
 解散自体は正しい判断だったと思いますが,民主党は今後解体に向かう可能性が高いですね。なお,黒猫自身はこれまでどちらかというと民主党を指示していましたが,農業どころか日本そのものを破滅に導くTPPには大反対なので,今回の選挙では民主党には投票しません。

○ 日本維新の会と太陽の党が合流の見通し
 この両者は,政策が正反対といえるほどかけ離れていると思っていたのですが,それでも合流できるということは,そもそも政策なんて真面目に考えていないのでしょう。脱原発派だと思って投票したら,一転して原発維持派に鞍替えされることもあり得ることになります。有権者は一体何を基準に投票しろというのでしょうか。

○ 自民党の安倍総裁が金融緩和を求める発言,円続落
 安倍総裁は,ゼロ金利どころかマイナス金利にすべきだとか発言しているらしいですね。マイナス金利で銀行にお金を預けたらお金が減ってしまうような世の中になったら,日銀以外は誰もお金を貸さない,預けないという事態になりかねないですし,諸外国との金利差をこれ以上広げたら,中長期的には円高圧力が強まって日本企業の首を絞める可能性もあります。
 安倍総裁が,小手先の金融操作で日本の景気が良くなると思っているのであれば,それは大変な間違いですよ。

○ 侍ジャパン,2-0でキューバ下す
 結局,今日の明るい話題って,これくらいしかなかったような気がします。

2 コメント

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Unknown (Unknown)
2012-11-16 23:09:41
この記事には賛同します。
サムライジャパンは面白かった。
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Unknown (ひとこと)
2012-11-19 10:03:51
橋下氏は選挙に勝てば白紙委任といっていましたから、選挙中の政策にはあまり意味がないのでしょう。
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