黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

言い逃れのできない「勝利」

2013-07-21 13:51:04 | 時事
 この記事を書いている時点で,まだ参院選の投票結果は判明していませんが,おそらく自民党の一人勝ちという結果になることは,もはや結果を見なくても分かります。
 それはそれで良いのだろうと思います。自民党のやり方にいくら不満があろうが,他の野党がここまでバラバラ・ボロボロの状態では,政権与党をやれるのは自民党しかありません。
 それに,国会のねじれ状態を解消した安倍政権には,今後凄まじい苦難の道が待っています。アベノミクスの効果(経済的効果ではなく,経済が良くなるだろうという根拠のない期待を国民に抱かせる政治的効果)は長くても今年いっぱいくらいで終わるでしょうし,今年の年末くらいにはTPPの交渉が終わり,おそらく日本への農産品輸入はすべて関税ゼロ,アメリカへの自動車輸出は関税そのままなどといった,あからさまな不平等条約を批准させられることになるでしょう。来年と再来年には消費税の増税も待っています。今年の8月くらいには富士山が噴火するのではないかという噂もあります。そして日本の財政は,もはやいつ破綻してもおかしくない状況にあります。
 ねじれ国会が解消され,国の法律はすべて自民党(+公明党)だけで決められるのですから,安倍政権の下で悪いことが起きたら,すべて自民党の責任です。これからは,被災地の復興が進まないのもすべて自民党の責任であり,経済が良くならないのもすべて自民党の責任であり,国の財政が破綻するのもすべて自民党の責任です。ねじれ国会だからという言い逃れはもはやできません。
 特に財政問題は,長年にわたる自民党の放漫財政で借金を積み上げてきたものですから,財政破綻は自民党政権下で起こさせ,自民党にその政治的責任を負わせるのが筋というものでしょう。黒猫は政治家になるつもりはありませんが,仮になるとしても,こんな時期に政権を取ろうとは考えません。これから政権与党になるということは,借金で破産寸前になっている会社の社長を敢えて引き受けるようなものであり,仮に政権を取るなら実際に財政破綻が起こってからにします。

 読者の皆様の中には,先日の閣僚会議決定以来,黒猫が急に自民党批判を始めたことに驚いている方も少なくないと思いますが,これには深い事情があります。
 野党時代の自民党は,河井克行議員などが痛烈な法科大学院批判を続けており,その自民党が政権与党に戻れば,法科大学院問題についても何かやってくれるだろうという期待がありました。自民党・司法制度調査会の中間報告でも,検討会議とはかなり異なる見解が示されており,検討会議が法科大学院を守ることしか考えていないでたらめな取りまとめをしても,自民党の閣僚ならこれをひっくり返してくれるのではないかという淡い期待がありました。
 しかし,7月16日の閣僚会議決定によって,そのような期待は完膚無きまでに裏切られました。自民党という政党は,票に結びつかないことはまじめにやろうとしない政党であるということを,改めて思い知らされました。むろん,自民党の中にも,現在の法曹養成制度に対し強い危機感を抱き,法科大学院制度を問題視している議員はいるようですが,票に結びつく問題にならない限り,それが自民党の執行部を動かす原動力にはなり得ないのです。
 自民党政権になってから,アベノミクスや原発など自民党の政策に黒猫は強い不満を持っていましたが,司法制度問題を何とかしてくれるという期待があったので,このブログでもあからさまな自民党批判は避けてきました。しかし今となっては,これは逆効果であったことを認めざるを得ません。愚かな法科大学院制度をやめさせるには,むしろ積極的に,法科大学院批判を政府・自民党批判に結びつける必要があったのです。
 法曹養成制度に関する政策に次の転機が訪れるのは,次の検討体制で一定の結論が出される2年後のことになると思いますが,そのときにまともな政策が出されなかったらそれは自民党が悪い,司法改革で質量豊かな法曹を育てると言っておきながら,実際には法務博士の学位を持つ失業者を大量に育てているだけの状態になっているのは自民党の責任だ,という論調を今から作っておく必要があります。
 実際,司法改革は自民党の小泉政権下で決まったことですし,その失敗を未だに改めようとしないのも自民党である以上,司法改革の失敗はすべて自民党の責任であるという論理は十分に成り立つわけですが,自民党の議員たちに司法改革の失敗は自分たちの責任である,これ以上問題を放置すれば自民党のイメージダウンにつながるという危機感を持たせないと,法科大学院や法曹養成制度が現状よりもっとひどい状態になっても,自民党の議員が重い腰を上げることは決してないでしょう。
 今の自民党は,参院選に勝ってふんぞり返っている状態なので,おそらく何を言っても聞く耳を持たないでしょうが,次の衆院選・参院選は3年後ですから,ちょうど2年後くらいには,自民党も次の選挙のことが心配になってくるはずです。また,今は50%台の支持率を維持しているらしい安倍内閣も,TPPや消費税増税などの影響で,2年後には支持率をかなり落としているでしょう。
 また,現在はバラバラになっている野党勢力も,今後2年間もの準備期間がありその間に自民党の支持率が急低下すれば,これに乗じて再度の政権交代を起こすため,何とか自民党に対抗できるような勢力を作ろうとする可能性が高いでしょう。
 そういう状況の下で,法曹養成制度に係る事態の悪化は自民党の責任だという批判が高まれば,さすがに自民党も政権に対する批判をかわすために何かやらざるを得ないだろう,というのが黒猫の考え方です。
 法曹界は利害関係者の人数が少なく組織としてもまとまりが悪いので,いくら頑張っても農業団体や医療関係者のような集票マシンにはなり得ず,集票+陳情という形で自民党の政治に影響力を与えることはほとんど不可能です。影響を与えるとしたら,それは知識人としてのペンの力によるしかないのです。

 黒猫の考え方に賛同してくださる方は,今後ご自分のブログやツイッター,フェイスブックなどで法科大学院や法曹養成制度に関し言及するとき,一言でもいいので「自民党の責任だ」「自民党は何をやっているのか」などという文言を入れて下さい。一人一人の力は弱くても,今後2年間で自民党の責任を問うような意見がネット上に氾濫すれば,政府・自民党といえどもさすがに何らかの策を打たざるを得ないと思います。
 逆に,司法制度がいくら悪くなっても,それによる自民党の責任論が一切浮上しないのであれば,おそらく自民党は官僚の言いなりになって何もせず,下位ローは疑うことを知らない学生を地獄に落とし続ける,法学部で勉強する人も法曹になろうとする人も減り続ける,裁判官や検察官の質が下がり続けて冤罪事件等が増える,一般市民が消費者被害に遭っても弁護士はとても信用できず,むしろ悪徳弁護士による二次被害,三次被害を心配しなければならないという社会は一向に良くならないでしょう。
 これまで,司法制度は政権交代に伴う混乱に巻き込まれ,誤った改革に伴う政治的責任の所在が不明確な時代が続いていましたが,いまや自民党が衆参のねじれを解消し国政の全責任を負うことになった以上,司法改革の全責任も自民党に負わせるべきなのです。

11 コメント

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自民党様、法科大学院を廃止してください (Unknown)
2013-07-21 14:39:09
法科大学院制度改革をなおざりにするなら、必ずそのつけは自民党に反ってきます。
 受験資格廃止案をちらつかせても、その効果がほとんどないということで、一筋縄ではいかない団体であるということがもうわかりませんか?
 せめて、学年一桁台のローをなくしていただきたいです。
どう考えても、それで法科大学院の理念教育、正当な評価の遂行、全国水準が保てるとは考えられません。
そのような税金無駄遣い施設に投資するくらいなら、被災地の方の支援をしてあげてください。
ローが存在しないことで、人生設計を狂わせる人も減少するのですよ。
 みなさん、法科大学院制度改革を無視する自民党を支援するのですか?
 今日の投票も考えようと思います。  
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シンポジウムや討論会へ行くべき (井上晃宏)
2013-07-21 20:21:00
直接会って話さないと、何も伝わらないことがあります。メールや手紙だと、言い逃れや無視が可能です。

キーパーソンを、公衆の面前で捕まえて、議論をふっかけるしかない。
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動かすべきは、まずは、大学当局です (Unknown)
2013-07-22 08:35:43
各大学の学長、理事、評議員に訴えることが有効と考えられます。
 有力卒業生(有名、多学の寄付金)や学部学生の保護者が、法曹になれる確率の低いわずか数人の学生のために、主に学部生から徴収した学費、受験料を財源とする大学予算をローにつぎこむとは、どういうことだ、と訴えていくことです。数人のローを存立させていることは、大学のの不名誉だと訴えていくことです。

 そのためには、その方々がローは、大学にとってお荷物であることを認識できるよう働きかけていくことが必要です。

 「多様性」とか「豊かな人間性」とかもうインテリ詐欺はやめてほしいです。
 受験生にとっても学校にとっても、本試験に合格すること、それ以外に何があるというのです。
 合格してから人間性を高めることはできても、人間性を高めることによって、司法試験に合格できるというわけではありません。

 大学当局は、ローを創設させた責任として、学者を学部にひきとればいいだけのことです。
大学側にお願いしてみませんか?

 
 
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Unknown (Unknown)
2013-07-22 13:51:07
>>
直接会って話さないと、何も伝わらないことがあります。メールや手紙だと、言い逃れや無視が可能です。

キーパーソンを、公衆の面前で捕まえて、議論をふっかけるしかない。

浜辺陽一郎とか鎌田薫、岡田ヒロミ、武本夕香子あたりは議論ふっかけるどころか、軽くどついて目を覚まさせたほうがいい。口で言っても通用しない。
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民主党にも責任はあるのでは? (Unknown)
2013-07-22 17:49:07
黒猫先生

黒猫先生のご主張に賛同する点も多いのですが、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」みたいな冷静でないご主張は理解に苦しみます。

民主党は2009年7月から3年半もの期間に亘って政権政党の座にあったわけですから、やる気さえあればこの間にできた施策もいろいろあったはずです。

結局、どの政権であっても官僚の言いなりなのは同じであり、この法曹養成制度改革無視に関しては自民党も民主党も同罪です。
独り自民党のみに責任を押し付けるのは酷だと思います。

黒猫先生のブログ2010年7/7にも「民主党は本当に無駄をなくせるのかという記事がありますが、法科大学院問題については、「もはや法曹界内部での自浄能力は期待できない状態になっているが、(中略)今の民主党には到底期待できないという絶望的な状況にある(以下略)」と書いておられます。
民主党も法科大学院制度改革を無視しているというご主張だったのでは?
当時こそブログに「不作為は民主党の責任だ」「民主党は何をやっているのか」などという文言を入れるべきだったと思いますよ。

法曹養成制度に関しては、もちろん自民党が改悪の張本人であり、政権交代を果たした民主党が自民党の官僚支配を世に問う格好の題材。それこそ民主党の大好きだった事業仕分けでやり玉に挙げればよかったのにと思います。


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Unknown (Unknown)
2013-07-22 20:02:02
10年位前、ロー制度に突っ込みを入れた枝野幸男氏に、
もう一度ロー関係者にいろいろ突っ込んでもらいたいです。
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自分に得がなければ人は動かない (Unknown)
2013-07-22 21:10:46
良心があっても、皆、敵は作りたくないから、声をあげないのです。
 自民党には、ロー問題の放置は、得票に悪影響を及ぼすことを。
 大学には、ローを存続させることは、財政と名誉に傷がつくことを。
 気付かせなくてはいけません。

 賛同してくださる方も少しづつですが、増えています。もう少し集団になれば、キーパーソンに議論をふっかけます。
「そのうち、降参するだろう。」というのは、甘いです。
今まで詐欺が成功していたのです。ここで、簡単に引き下がるやわな集団ではないのです。
 被災地の復興のごとく、可能だと思い込んでいます。 被害者は、貴方がたではないというのに。。。 
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Unknown (Unknown)
2013-07-22 22:34:40
志願者は予備試験受験という意思表示をすべきです
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票の問題なのでしょうか? (Unknown)
2013-07-22 23:13:32
黒猫先生の司法試験制度に関する主張には全面的に同意します。
ただ、今回の記事には若干の違和感を感じます。

自分の知る限りにおいてですが、現在のところ法曹三者の中で、組織の総意として現行制度に反対しているところはないと思います。特に法科大学院を卒業して司法試験に合格する者の大半が弁護士になっている状況下で、現行制度に一番反対すべき日弁連が反対を表明していないのです。法曹三者のいずれも現行制度に反対していない中、自民党が積極的に動く理由が見当たりません。

確かに法曹界の人数から考えると集票マシンとしての魅力は薄いでしょう。しかし、弁護士業界は司法制度の当事者です。弁護士業界が当事者として現行制度に反対し、状況を変えるべく政府に圧力をかけない限り、事態は好転しないと個人的には見ています。

今後、政府がどう対応していくか経緯を見守っていく必要がありますが、個人的には弁護士業界がどのように対応していくかが大きな意味を持っていると思っています。

法科大学院など無駄な存在でしかないので消えようがどうなろうがどうでもいいですが、
弁護士という職能集団は社会の中で重要な人的インフラです。このままずるずるいってしまってはダメでしょう。

弁護士業界の対応が、現状を変える契機となることを期待しています。
(もし今後弁護士の質の低下の影響で、国民が不利益を被ることがあったら、望む望まないに関わらず批判の矛先は政府ではなく、弁護士業界に向かうでしょう。その時に「いや、このような状況になったのは政府の責任」と言っても失笑を買うだけだと思います。)
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なぜ下位ローを放置してはいけないか (Unknown)
2013-07-23 09:15:41
下位ローの存在が法科大学院制度そのものに大きく影響していることをご存じでしょうか?

下位ローの実務家教員の顔ぶれをご覧ください。
東京の3弁護士会の上層部や有力者、地方の弁護士会の有力者等、
弁護士会を動かす権力者がローの実務家教員として君臨しているのです。
 このような状態で、弁護士業界が法科大学院を淘汰する方向へ向かうわけがありません。
 さらには、この弁護士会の有力者の息のかかった国会議員もいますから、下位法科大学院のひどい実態を国が正確に把握できるわけがないのです。

 数人の学生しかいないということももちろん大問題ですが、それよりも下位法科大学院に関わる有力弁護士の存在が問題です。

 下位ローに入学する人がいなくなることを心から祈ります。
 
 
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