風を紡いで

旅の記録と料理、暮らしの中で感じた事などを綴っています。自然の恵みに感謝しながら…。

(11)雪ふる暗い夜道をひたすら…

2005年06月17日 | 2005年コッツウォルズ母娘旅
「あ!この車両広くてゆったりしてる!」
「ん?ここじゃないよねぇ…。残念だねぇ~」

スタンダードと書かれた車両を求め、どんどん前方目指して歩く。
車内は通勤のサラリーマンが多く、結構込んでいる。
発車時刻を気にしながら、車両に沿ってホームを早足に歩く。
発車のベルが鳴ったら、すぐ飛び乗れるようなスタンスで…。
空席を見つけようと、車中の人々をねるようにして歩く。

「あった!スタンダードって書いてあるよ!」
「エコノミークラスだね」
「込んでて、席ないよ。お母さん!」

1人席はポツリポツリあったが、同じボックスで2人座れる席になると、なかなか見つからない。
しばらく歩いていくと、若い男性が1人で座っている席を発見。
断って同席させてもらうことにした。
仕事帰りの英国人のようだった。
ベルが鳴り響き、電車が走り出した。

しばらく走ると街並みが消えて、車窓からの眺めは田園風景になった。
若草色の農地や林や森が後方に走り過ぎて行く…。


外の景色が次第に色を落とし始めると、車内に明かりが点り活気を帯びてきた。
新聞や雑誌を読むサラリーマンやコーヒーを飲む若いOL、
パソコンで資料を作成する講師風の中年男性、
おしゃべりに夢中のカップル、
携帯で仕事の話をする営業マンなど…。

どこかで見た風景だなぁ…。
都会からベッドタウンに帰ってゆく人々…
どこの国も同じじゃないか…。
当たり前の日常風景なのにへんに感心してしまった。

食堂車から買ってきたコーヒーを味わいながら、さりげなく車中ウオッチング。
車窓を眺めていた娘は、よぽど疲れていたのか、気持ちよさそうに寝てしまった。
そのうち私の瞼も重くなり…うとうとする。
寝入り端だったが、ふっと目をさました。
娘はすでに起きていた。


「そろそろ、モートン・イン・マーシュに着くよ」
彼女の言葉に頷く。棚の荷物を降ろし、下車する準備をする。
電車の中もだいぶ空いてきた。
家族へ“カエル(帰る)コール”をするお父さんの姿もあった。
何人か降りる用意をする人にまじり、車掌のアナウンスに聞き耳をたてる。


午後7時。駅に着いた時は雪だった。
無人駅となったモートン・イン・マーシュー。
小さな駅舎には駅員さんの姿が見えない。
何人かが下車したが、家路に向かい足早に去っていく。
田舎の小さな駅は、寂しい色合いに包まれていた。
頼りにしていた構内のインフォメーションは、すでに閉っていた。

「B&Bに電話しょうか?」
私の心配をよそに、娘が言った。
「大丈夫!駅から歩いて15分だから。道も調べてあるし」
「雪も降り出したよ。そこに電話があるから、道を聞くだけでも…」
「いいよ。分かるから…」
「そ~おぅ…」

電話した方がいいとは思ったが、ここは娘に任せよう…。
旅のスケジュールは彼女が決めた事だし…。
結果はどうあれ、信じてついて行こう!


「駅を右に行ってから、広い通りを左かな…」
「こっちでいいの?」
と少し不安げに私が言った。

「う~ん。ちょっと待って!」
彼女はもう一度、メモに目を通す。
「こっちじゃないかも…。右だね」

「ん?右?反対の方向?ほんとに大丈夫?」
「今度は大丈夫だよ!」
自信たっぷりの娘。


降りしきる雪の中、1つの折りたたみ傘をさして歩き出す。
頼りは、B&Bの簡単な地図と標識だけ…。
娘は、古くて大きなボストンバッグをガラガラ押したり、引っ張ったりしながら夜道を歩く。

「Y字路になるけど、どっちに行くの?」
「道なりだから、こっちだよ」

標識で確認しながらひたすら歩く。
ゴォーという音がし、後方から来た自家用車が猛烈な勢いで走り去っていく。
次第に家並みが消え、田舎道になった。

時々、前方から、そして後ろからと爆音のようなうなり音で車が通りすぎる。
その明かりで道を確認する悲惨な状況だった。
英国コッツウォルズの田舎道を、たった2人でただただ歩く。
雪がひどくなり、寒さに震えながらB&Bを目指す。
あたりが真っ暗闇に包まれていった…。(つづく…)

 

※写真は雪のスノーズヒル
コメント (6)
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