野に撃沈

多摩地区在住の中年日帰り放浪者。ペンタックスK10Dをバッグに野山と路地を彷徨中。現在 野に撃沈2 に引越しました。

北陸山行②ーご来光

2006-08-15 | 登山
 隣の年配二人組がざわざわし始めたところで眼が覚めた。時計を見るとまだ三時半を過ぎたばかり。久しぶりのカイコ寝の山小屋泊まりだったのでよく寝付けなかった。睡眠不足で頭に靄がかかったようだ。暫くぼーっとしていると遠くでドンドンという小太鼓の音がする。夜明けの1時間前に鳴らされる、御来光登山を誘う太鼓だ。音に釣られて部屋の殆どの者が起き出した。私も寒さ対策のカッパを着込み、ポケットにペットボトルを無理やり押し込んで外へ出た。

 頂上で余り待たないようにと時間を見計らって出たのだが、それでもまだ早かったようだ。頂上に着いてもなお日の出の時刻5時05分まで二十分余りある。岩陰に座り風除けをしながら待つ。遥か遠くに北アルプスの稜線がくっきりと浮かび上がっている。次第次第に東の空が色を帯びてきた。
 
 不意に頭上から大声がした。岩の上に立った白装束の神職が、白山信仰の由来や遠く展望される北アルプスの山名等の話をし出した。これも御来光登山の式次第の一つなのだろうか。時折、吹きすぐ風が強くなり声が途切れがちになる。一瞬、アッという誰かの声がした。と同時に、双六岳の辺りから一筋の微小な光が放射された。

 何とも言い様のないどよめきが広がった。神職は更に何事かを話し続けているが、もう誰も聞いてはいない。次第に増す光の中で、私も夢中でシャッターを押し続けた。

 日はすっかり上がり、何かしら気の抜けたような空気が登山者たちに広がった。その時、まだ大岩の上にいた白装束の男が不意に万歳三唱の音頭をとり始めた。「平和日本万歳」と何度か連呼する。毎年3万人を越える自死者を出し続けている、いわば精神的内戦状態のこの国に平和などあるのだろうか。私は声にならぬ思いを胸にそっと場を離れた。西の空には注目されることの無かった十四夜の月が寂しげに沈もうとしていた。


最新の画像もっと見る