東京芸術劇場で開催された名曲リサイタル・サロン第28回辻󠄀本玲を観に行ってきた。2階席、2,400円。11時開場、12時過ぎ終演。1階席はかなり埋まっていたが2階席、3階席は空いている席も多かった。客層は中高年の女性が多かったようにみえた。
出演
辻󠄀本 玲(チェロ)
吉武優(ピアノ)
出演を予定していたピアニスト沼沢淑音は怪我のため出演できなくなり、代わって吉武優が出演となった
プログラム
- S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番よりプレリュード(4分)
- フランク:チェロ・ソナタ(28分)
- ピアソラ:ル・グランタンゴ(12分)
アンコール
- ラフマニノフ:ヴォカリーズ
ナビゲーター:八塩圭子
この公演の良いところはナビゲーターがついていて出演者にいろいろ質問して出演者の人となりがわかるところである。今日も八塩さんが二人にいろいろ日頃の活動のこと、リハーサルの模様、二人の初共演のきっかけ、好きな食べ物などを聞き出していて、面白かった。辻󠄀本氏はN響の首席チェリストであるとともにチェリストだけの6人のグループを率いていることなど知らなかった。二人とも焼肉が好きだと言っていたのはまだ若い証拠だろう。今日の公演の選曲方針を質問され辻󠄀本氏は、これだけ大きなホールで室内楽の公演なので盛大な(と言ったと思うが)雰囲気の曲を選んだと説明していた。
さて、演目だが、今日のメインはフランクのチェロソナタであろう。私はこの曲が好きだ。NHKのクラシック倶楽部でもこの曲を取り上げるバイオリニストが多いのでよく聴く機会があるのだ。当日配布されたプログラムノートの説明によれば、フランクはベルギー出身だが19世紀から20世紀にかけてフランスで活躍した。そしてこの曲はベルギー出身のバイオリンの名手ジェーヌ・イザイの結婚祝いに1886年に作曲された作品である。
このチェロソナタはバイオリンソナタとして作曲されたものであったが、その美しい均整の取れた音楽はチェリストにとっても憧れで次第にチェロでも演奏されるようになったとのこと。チェロで演奏されるのを聞くのは初めてだ。確かにこのように当初作曲家が意図した楽器と違う楽器で演奏されるのは良くあることなのだろう。例えば、私の好きなシューベルトの「アルベジオーネ・ソナタ」はアルベジオーネという弦楽器で演奏される前提で書かれた曲だが、現在ではバイオリンやチェロで演奏されている。
全体は4楽章から構成されているが、私が好きなのは第4楽章だ。チェロとピアノのかけ合いのような緊張したメロディーが続き、最後に向って盛り上がるからだ。辻󠄀本氏が言っていた大ホールで演奏するに相応しい音楽とはまさにこれだと思った。
さて、今日の公演ではこのチェロソナタの第2楽章が終わったところだと思うが、客席から盛大な拍手が起こったのでびっくりした。「あれ、今日は2楽章で終っちゃうの?」と思ったが、辻本氏らは冷静に第3楽章に移っていった。途中で拍手してはいけないと言うことはないので問題はないのだが・・・
あと、今日の辻󠄀本氏の演奏だが、曲を演奏しているときに右足でトントン床を叩いてリズムをとっていることがあった。その音が結構大きく、2階席にいる私にも聞えてきた。私は気になるのだが、これも必ずしも非難されるべきことではないのだろう。ピアニストなどでも同様な人はいるし、声を出して弾く人もいると思った。
最後のピアソラであるが、ご存知アルゼンチンタンゴの作曲家兼バンドネオン奏者である。タンゴだけでなく、クラシックの演奏家に依頼されて作曲した作品の数多くあるようだ、今日の演目もそうだ。これはチェリストのロストロポーヴィチに依頼して作曲したものだ。ピアソラらしさが随所に出ていた曲だと思った。
1時間ちょっとの昼休みの公演だが、最後はアンコールまで弾いてくれたのはサービス精神旺盛で感心した。また、ピアニストの吉武優氏はピンチヒッターにもかかわらず、素晴らしい演奏を披露してくれた。インタビューを聞いていると、どうも辻󠄀本氏の方が大先輩のような感じで遠慮していたようにみえたが、演奏の方は堂々と難しいチェロソナタを弾きこなしていたように思う。今後の活躍を期待したい。
楽しめました。