蓬峠へ向かって喘ぐ僕。
あと少しで避難小屋へ出られるところ、最後のつづら折りを無心で攻めているその時でした。
激しく薮を駆け下りる黒い影。
そして低く重厚な唸り声。
間違いなく熊でしょう。
通算6回目の目撃でした。
今日は会いたくなかったな⋯。
なにせ誰もいないし、熊スプレーもない。
武器といったらキャップを外してあるストックと足蹴りぐらいなもんです。
でもね、いつも熊は僕に襲いかかって来ることはなく、6回中5回は逃げてくれました。
つづら折りに登ってくる僕に対して、どちらに逃げたら僕に会わないか熊も落ち着かなかったことでしょう。
睨み合ったあの時も熊は何故か僕を避けようとしていた気がします。
本来、熊は臆病な生き物なのだと思います。
小熊を危険から遠ざけるためや、自分の食糧であるタケノコや山菜、木の実などを盗られている時に覚悟を決めて一撃を食らわせてくるように思います。
彼らも必死なのですね。
とにかく出会い頭にならないように自分の位置を熊に知らせることが一番の防衛かと思います。
突然の出来事でしたが、あまり驚くこともなく僕はさらに上へと向かいました。
避難小屋のあたりで休憩したかったのですが、腰掛けられるようなところもなく、そのまま進みました。
登山道の真ん中に腰掛けやすそうな岩がありました。
ここで冷えたコーヒーをポットからカップに注ぎ、グイグイ飲みました。
1杯のつもりが2杯、3杯⋯
結局7杯も飲んでしまいました。
貴重な水分なのに。
やがてルートは小さな雪渓を渡り、ガレ場のトラバースに出ました。
その雪渓の雪を削って、中の綺麗そうなところをペットボトルに詰めようとしましたが、かなり汚れており、さらに硬くて中の方を取り出せませんでした。
雪渓の下を流れる雪解け水をペットボトルに詰め、手酌で何回も水を飲みました。
少し土臭く、あまり飲むとお腹を壊しそうだったのでほどほどにしておきました。
このあたりは落ちたらタダでは済まない箇所が多く、一歩一歩を確実に歩きました。
危ないところは決して急がず、安全なところでスピードを上げるのが僕の決め事の一つです。
慌てない事。
もうすぐ稜線に出られるというところで、熊の足跡をいくつも見つけました。
大きなものは人間の掌ぐらい、小さなものは鹿より少し大きいぐらいでした。
爪の跡まではっきり分かります。
雨のあとなので下が柔らかく、今朝つけられたものだと思います。
人間熊鈴を鳴らします。
9時20分、やっと蓬ヒュッテに到着しました。
ヒュッテには誰もいませんでした。
ここはA202コースポイントになります。
ヒュッテの前にある道標にマークが付けられていました。
あたりはニッコウキスゲやヨツバシオガマ、ショウジョウバカマ、ハナニガナなどの高山植物が僕を迎えてくれました。
風が汗で濡れた身体を急激に冷やしていきます。
しばらく休憩をとりました。
LINEで女房に現在地を報告していると、それに混じって2件の仕事の予約が飛び込んできました。
休みの日はいつもこうです。ありがたい事です。
10時25分、シシゴヤノ頭に到着。
ここでも少し休憩します。
ここまで朝食べたおにぎり1個とブルーベリーのパンを半分食べたきりです。
お腹がベタンコですが、調子は悪くないです。力が出なくなりそうになってきたら一口食べるという感じです。
10時33分、腰を上げて下山に入ります。1時間ほど下ったところに水場がありました。
岩場の割れ目にパイプが挿入してあるので目立ちます。
ここで、ペットボトル1本を満タンにしました。
これで下山完了まで水の心配はなくなりそうです。
11時51分、林道出合いに到着しました。
素晴らしく早い時間に着きました。
天気もいっときパラパラっときただけで、あとは雲多めながらも晴れが続いてくれました。
一般コースタイムでは9時20分のつもりでしたが、実際は休憩含めて7時20分でした。
相変わらず登りは苦手だけど、下りは得意みたいです。
砂利道だった林道は途中から舗装路となり、少しずつ生活圏に近づいて行きます。
大源太山(だいげんたやま)登山口に着いたのが12時45分です。
大源太キャニオンのバス停にやってくるバスまでまだ40分あります。
なるべく岩原スキー場前駅の近くまで行きたい。
1つずつバス停を詰めて行こうと継続して歩くことにしました。
ところが、反対側にはバス停があるものの、こちら側には無い。
調べてみると、行きと帰りの路線ルートが違うじゃないですか。
『参ったなぁ、どこで合流するのかな?』
調べてみるとかなり先でした。
小坂というバス停なら乗車出来そうなのですが、どうみても間に合いそうにないのです。
『最悪、駅まで歩きか⋯』
GoogleMAPで調べてみると、到着予想はバスが来る時間の8分後でした。
それでもちょっと走ったりして頑張ってみます。
『あれ?いけそうだぞ』
最後に坂を登らせられるという悲劇も乗り越え、小坂バス停に着いたのがバスが来る2分前でした。
激しく肩で息をつき、汗で濡れた身体を拭きながら満足感に溺れていました。
やがてバスが来ました。
誰も乗っていません。
『岩原スキー場前駅に一番近いバス停はどこですか?』
そこで降ろしてもらい、料金150円を支払ってバスを降りました。
少し歩いて駅に行きます。ところが、駅前に何も無いのです。
食堂もコンビニも自動販売機すらないのです。
次の電車はなんと約2時間後でした。
駅の待合室で少し荷物を片付けたり汚れたウェアを拭いたりしていましたが、さすがにお腹が空きすぎたので、1時間早く来る下り線に乗って隣の駅「越後湯沢」に行きました。
ここならお店もたくさんあるでしょう。
最初に見つけた蕎麦屋に入ると決めながら電車に乗りました。
駅の改札を抜け、駅ビルのような商店街に入りました。
『あ、あったあった へぎそば かぁ、どんなだろ』入ってみます。
『ご注文お決まりになり⋯』店員さんが言い終わる前に『冷たいそばは、この へぎそば ですか?』
『はい、そうです』
『ではそれをお願いします。それとそば湯はそのまま飲むのが好きなので、そばと一緒にお願いします。あと湯のみもね』
歳のせいかだいぶ図々しくなりました。
1束ずつきれいに並べられたそばがやってきました。まるで卑弥呼のヘアスタイルのようです。
わさびと薬味をつまんでそばと一緒に「ずビビビビー」っとやります。
おっ? 食感が違うぞ?
束ねたカイワレを噛むように「ぶりっぶりっ」と口の中で切れていきます。
うーん、美味しい。
気に入りました。
そば湯もぜーんぶ飲んで、気分よく店の外に出ました。
お土産を買って下り電車に乗りました。
長いトンネルを越えて群馬側に向かいます。
怖いぐらいの疾走音を響かせながら、トンネルを抜けると土合駅はすぐそこです。
こうして2日間に渡る、スノーカントリートレイルのデビュー戦は無事目標を完遂することが出来ました。
2日目
歩行距離 26.7km
累計標高差 +1,417m-1,609m
所要時間 7時間20分
49,400歩
おしまい。
あと少しで避難小屋へ出られるところ、最後のつづら折りを無心で攻めているその時でした。
激しく薮を駆け下りる黒い影。
そして低く重厚な唸り声。
間違いなく熊でしょう。
通算6回目の目撃でした。
今日は会いたくなかったな⋯。
なにせ誰もいないし、熊スプレーもない。
武器といったらキャップを外してあるストックと足蹴りぐらいなもんです。
でもね、いつも熊は僕に襲いかかって来ることはなく、6回中5回は逃げてくれました。
つづら折りに登ってくる僕に対して、どちらに逃げたら僕に会わないか熊も落ち着かなかったことでしょう。
睨み合ったあの時も熊は何故か僕を避けようとしていた気がします。
本来、熊は臆病な生き物なのだと思います。
小熊を危険から遠ざけるためや、自分の食糧であるタケノコや山菜、木の実などを盗られている時に覚悟を決めて一撃を食らわせてくるように思います。
彼らも必死なのですね。
とにかく出会い頭にならないように自分の位置を熊に知らせることが一番の防衛かと思います。
突然の出来事でしたが、あまり驚くこともなく僕はさらに上へと向かいました。
避難小屋のあたりで休憩したかったのですが、腰掛けられるようなところもなく、そのまま進みました。
登山道の真ん中に腰掛けやすそうな岩がありました。
ここで冷えたコーヒーをポットからカップに注ぎ、グイグイ飲みました。
1杯のつもりが2杯、3杯⋯
結局7杯も飲んでしまいました。
貴重な水分なのに。
やがてルートは小さな雪渓を渡り、ガレ場のトラバースに出ました。
その雪渓の雪を削って、中の綺麗そうなところをペットボトルに詰めようとしましたが、かなり汚れており、さらに硬くて中の方を取り出せませんでした。
雪渓の下を流れる雪解け水をペットボトルに詰め、手酌で何回も水を飲みました。
少し土臭く、あまり飲むとお腹を壊しそうだったのでほどほどにしておきました。
このあたりは落ちたらタダでは済まない箇所が多く、一歩一歩を確実に歩きました。
危ないところは決して急がず、安全なところでスピードを上げるのが僕の決め事の一つです。
慌てない事。
もうすぐ稜線に出られるというところで、熊の足跡をいくつも見つけました。
大きなものは人間の掌ぐらい、小さなものは鹿より少し大きいぐらいでした。
爪の跡まではっきり分かります。
雨のあとなので下が柔らかく、今朝つけられたものだと思います。
人間熊鈴を鳴らします。
9時20分、やっと蓬ヒュッテに到着しました。
ヒュッテには誰もいませんでした。
ここはA202コースポイントになります。
ヒュッテの前にある道標にマークが付けられていました。
あたりはニッコウキスゲやヨツバシオガマ、ショウジョウバカマ、ハナニガナなどの高山植物が僕を迎えてくれました。
風が汗で濡れた身体を急激に冷やしていきます。
しばらく休憩をとりました。
LINEで女房に現在地を報告していると、それに混じって2件の仕事の予約が飛び込んできました。
休みの日はいつもこうです。ありがたい事です。
10時25分、シシゴヤノ頭に到着。
ここでも少し休憩します。
ここまで朝食べたおにぎり1個とブルーベリーのパンを半分食べたきりです。
お腹がベタンコですが、調子は悪くないです。力が出なくなりそうになってきたら一口食べるという感じです。
10時33分、腰を上げて下山に入ります。1時間ほど下ったところに水場がありました。
岩場の割れ目にパイプが挿入してあるので目立ちます。
ここで、ペットボトル1本を満タンにしました。
これで下山完了まで水の心配はなくなりそうです。
11時51分、林道出合いに到着しました。
素晴らしく早い時間に着きました。
天気もいっときパラパラっときただけで、あとは雲多めながらも晴れが続いてくれました。
一般コースタイムでは9時20分のつもりでしたが、実際は休憩含めて7時20分でした。
相変わらず登りは苦手だけど、下りは得意みたいです。
砂利道だった林道は途中から舗装路となり、少しずつ生活圏に近づいて行きます。
大源太山(だいげんたやま)登山口に着いたのが12時45分です。
大源太キャニオンのバス停にやってくるバスまでまだ40分あります。
なるべく岩原スキー場前駅の近くまで行きたい。
1つずつバス停を詰めて行こうと継続して歩くことにしました。
ところが、反対側にはバス停があるものの、こちら側には無い。
調べてみると、行きと帰りの路線ルートが違うじゃないですか。
『参ったなぁ、どこで合流するのかな?』
調べてみるとかなり先でした。
小坂というバス停なら乗車出来そうなのですが、どうみても間に合いそうにないのです。
『最悪、駅まで歩きか⋯』
GoogleMAPで調べてみると、到着予想はバスが来る時間の8分後でした。
それでもちょっと走ったりして頑張ってみます。
『あれ?いけそうだぞ』
最後に坂を登らせられるという悲劇も乗り越え、小坂バス停に着いたのがバスが来る2分前でした。
激しく肩で息をつき、汗で濡れた身体を拭きながら満足感に溺れていました。
やがてバスが来ました。
誰も乗っていません。
『岩原スキー場前駅に一番近いバス停はどこですか?』
そこで降ろしてもらい、料金150円を支払ってバスを降りました。
少し歩いて駅に行きます。ところが、駅前に何も無いのです。
食堂もコンビニも自動販売機すらないのです。
次の電車はなんと約2時間後でした。
駅の待合室で少し荷物を片付けたり汚れたウェアを拭いたりしていましたが、さすがにお腹が空きすぎたので、1時間早く来る下り線に乗って隣の駅「越後湯沢」に行きました。
ここならお店もたくさんあるでしょう。
最初に見つけた蕎麦屋に入ると決めながら電車に乗りました。
駅の改札を抜け、駅ビルのような商店街に入りました。
『あ、あったあった へぎそば かぁ、どんなだろ』入ってみます。
『ご注文お決まりになり⋯』店員さんが言い終わる前に『冷たいそばは、この へぎそば ですか?』
『はい、そうです』
『ではそれをお願いします。それとそば湯はそのまま飲むのが好きなので、そばと一緒にお願いします。あと湯のみもね』
歳のせいかだいぶ図々しくなりました。
1束ずつきれいに並べられたそばがやってきました。まるで卑弥呼のヘアスタイルのようです。
わさびと薬味をつまんでそばと一緒に「ずビビビビー」っとやります。
おっ? 食感が違うぞ?
束ねたカイワレを噛むように「ぶりっぶりっ」と口の中で切れていきます。
うーん、美味しい。
気に入りました。
そば湯もぜーんぶ飲んで、気分よく店の外に出ました。
お土産を買って下り電車に乗りました。
長いトンネルを越えて群馬側に向かいます。
怖いぐらいの疾走音を響かせながら、トンネルを抜けると土合駅はすぐそこです。
こうして2日間に渡る、スノーカントリートレイルのデビュー戦は無事目標を完遂することが出来ました。
2日目
歩行距離 26.7km
累計標高差 +1,417m-1,609m
所要時間 7時間20分
49,400歩
おしまい。
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