楽しいブログ生活

日々感じた心の軌跡と手作りの品々のコレクション

海野十三の「十八時の音楽浴」

2018-02-01 23:30:04 | 
年の所為にしたくはないが明らかに年の所為だろうと思われる。
最近とみに考えたり、書いたりが面倒くさい。
以前には映画を観に行けば簡単な感想ぐらい書いてたのが、まったくスルーし出したし、読書会のレポートもサボっている。身内の入院とか歯医者にかかってるとかプライベートな出来事も、人様におもしろく読ませる文章力があれば、ネタにも出来ようが、それも望めない。しかし、ここはひとつ己に鞭撃って、1月末に仲間に提出した「十八時の音楽浴」のあらましだけでも、遅ればせながら、ご紹介ということで、重い腰あげました。


初出 「モダン日本」昭和12年(1937年)4月増刊号
 
収録本 「十八時の音楽浴」早川文庫、早川書房  1976(昭和51)年1月15日発行

時代設定 近未来

作品舞台 究極の統制国家を目指した近未来の某国

登場人物
・科学者コハク 
・コハクの助手ペン 
・コハクの助手バラ(ペンの妻) 
・ペンの友人ポール 
・ミルキ大統領 
・大統領夫人 
・女大臣アサリ 
・人造人間アネット 
・天文部長ホシミ

あらすじ

ミルキ大統領の治める国ではコハク博士の発明した音楽洗脳装置により国民は統制されていた。
ある日、大統領夫人に呼び出されたコハク博士は誘惑され、現場を目撃した大統領に夫人共々処刑されてしまう。

それは大統領と密通していた女大臣アサリの陰謀であったが、アサリは大統領をも支配下に置き、コハク博士の研究施設の主任に納まると、博士が研究していた人造人間製造室に赴く。

同行していた大統領はそこにいた美しいアネットという人造人間にぞっこんとなるが、嫉妬したアサリにアネットは殺されてしまう。

そうしたある日、火星からロケット襲来の危機が迫るが、迎え撃つミルキ国民はアサリ大臣が強行した音楽浴時間増加の弊害により、心身共に疲弊し絶望的状況である。

最後には大統領も大臣も初めて自ら音楽洗脳装置の力を借りて戦おうとするが、やがて彼らも地に伏し動かなくなった。

しかし、地底深く何物かを引きずるような怪しき物音が聞えてくる。それは・・・。


みどころ

半理想世界を描いた作品であるが、カリカチュアライズされた登場人物(特に頼りない大統領)のお陰で、全体に滑稽で、性転換や人造人間というガジェットを気楽に楽しめる。



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海野十三の「三人の双生児」

2017-10-21 23:25:23 | 



これは海野の代表作として挙げられる割とその筋では有名な作品だと思う。
この度、読み返してみたら映像がカラフルで映画で観てみたいものだと思いました。

初出 「新青年」 1934(昭和9)年9、10月号
 
収録本 「海野十三全集 第2巻 俘囚」三一書房1991(平成3)年2月28日第1版第1刷発行

時代設定 作品発表時と同時代程度

作品舞台 東京に住む資産家の未亡人の屋敷

登場人物 ・主人公、西村珠枝 
・女流探偵、速水春子 
・青年、安宅真一 
・珠枝の妹と名乗る静江 
・お手伝い、キヨ 
・曲馬団団長、銀平 
・医学博士、赤沢貞雄

あらすじ

資産家の未亡人、西村珠枝は幼い頃分かれた双子の姉妹に呼びかける新聞広告を出す。

後日現れたのは、姉妹探しを請け負おうという女探偵・速水春子と曲馬団でその特異的身体を見世物にしていたという青年、安宅真一であった。

記憶にある座敷牢に寝ていた姉妹は赤いリボンを結んで喜んでいた幼女だったはずだと思っていた珠枝は、わたしがその双子のかたわれだと名乗り出てきた安宅にあきれるが、何となく気がかりな気持ちのままにその青年を屋敷に留め置く。

その後、女探偵の速水春子は彼女こそ探していた姉妹に間違いないと珠枝にそっくりな静江と名乗る女性を連れて来るが、静江を見た安宅は彼女は曲馬団にいた仲間の八重で探偵は珠枝をだまそうとしているという。

混乱する珠枝だったが、その安宅が突然死んでしまう。当日、お手伝いのキヨによれば珠枝によく似た紳士が訪ねて来ていて、後に彼はいとこの医学博士の赤沢貞雄であることが判明する。


みどころ

座敷牢に寝ていた赤いリボンの幼女、曲馬団の見世物、という前時代的でおどろおどろしい雰囲気とは対照的に医学博士の赤沢博士の登場で超近代的な展開がなされ、謎解きの解答に結びつくあたりがSFの祖たる海野の筆の冴えと言える。


写真は読書会の会場、丁字堂さんで目に入った写楽のお人形。
写楽研究家のTさんに新聞社の催しが済んだ際、プレゼントしてくれたそう。素敵 ♡

コメント (2)
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海野十三の「西湖の屍人」と手芸「サンタ」

2017-09-16 23:52:50 | 


初読時には何か怪しい雰囲気に、気持ちがざわざわした記憶があったのだが、今回読み直してみたら設定に無理のあるこじつけ的ストーリーで、ちょっと興ざめしてしまった。それでも、やっぱり、よく奇想天外なアイディアをひねり出して来るなぁと感心はしてしまう作品である。

初出 「新青年」博文館 1932(昭和7)年4月号

収録本 「海野十三全集 第1巻 遺言状放送」三一書房 1990(平成2)年10月15日第1版第1刷発行

時代設定 作品発表時と同時代程度

作品舞台 銀座かいわい

登場人物 ・探偵、帆村荘六 
      ・荘六友人 
      ・カフェ“ドラゴン”女給マリコ 
      ・曽我貞一 
      ・神田仁太郎 
      ・漢于仁 
      ・孫火庭 
      ・霊媒師、大竹女史・

あらすじ

飲み屋帰りの探偵、帆村荘六と友人はその日「僕は生きているでしょうか」と尋ねてくる怪しい青年に会う。

意味不明な言葉を投げかけた後、駆け出した青年は麝香の香りのする洋服の上着だけを残して路地に消える。

上着のポケットには痔薬が入っており、事件の匂いを感じた帆村たちは怪青年を追って「カフェ・ドラゴン」にたどり着く。

そこは隣家の二階の屋根がすこし膨れていてカフェの煉瓦壁に迫っていた。

他日、霊媒師の元に曽我貞一と神田仁太郎と名乗る客が現れ、彼らは死んでしまった人間がその自覚なしに生きているつもりの霊魂もあることを目の当たりにする。

一方、青年漢于仁は故郷であるところの浙江省、杭州の郊外に立つ楼台にあって、幽体である我が身を家扶の孫火庭の手配した使用人に世話させていた。

幽体でありながら、食事もし、痔に悩まされるというのは不思議な話ではあったが、ひどくなってきた痔に我慢できず、漢于仁は孫火庭に治療を要請する。

そして、やってきたのが、口が利けず、耳も聞こえないという医師だった。

みどころ

種明かしを聞いてみると多少無理があり、わざとらしい伏線が気にかかるが、全編、主人公の強迫観念的というか視野狭窄的精神のありようが、読者に不穏な心持ちを抱かせ、不可思議な雰囲気の漂うお話である。
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海野十三「くろがね天狗」

2017-08-19 23:12:56 | 

今月は珍しく時代小説の短編。といっても、やはり海野の世界です。

初出 「逓信協会雑誌」 1936(昭和11)年10月

収録本  「海野十三全集 第4巻 十八時の音楽浴」三一書房 1989(平成元)年7月15日第1版第1刷発行

時代設定 江戸時代

作品舞台 旗本、国賀の屋敷かいわい、市中広域に面妖な辻斬りが横行する

登場人物  ・岡引、虎松 
      ・旗本、国賀帯刀 
      ・国賀の友、高松半左衛門 
      ・半左衛門一子、高松半之丞 
      ・帯刀の愛娘、お妙 
      ・若侍、千田権四郎

あらすじ

岡引の虎松は旗本の国賀帯刀より国賀の朋友、高松半左衛門一子、高松半之丞の出奔後の行方探索を打ち切ってもよいとの沙汰を得る。

半之丞は帯刀の愛娘、お妙を恋敵の千田権四郎に奪われた失意のあまり屋敷を出たまま杳としてその行方がしれなかったのである。

その頃市中では夜な夜な不可解な辻斬が出没し、懸命な捜査が行われていたが、半之丞探索打切を皮切りに晴れてお妙を妻とした千田権四郎は朋輩のやっかみ半分、辻斬り退治の先鋒として担ぎ出される。

しかし、くろがね天狗と噂されるようになった謎の辻斬りの剣の腕は尋常でなく立ち合った辻斬りに家中第一の武芸達人である権四郎もあえなく殺られてしまう。

その後も殺戮は続き、どうやら、黒装束の下に、鉄の鎧を着込んでいるようだと見られた謎の怪人に鉄砲も使われたがまったく歯がたたず、住民は恐怖のどん底に落とされる。

そのうち、くろがね天狗はお妙を横取りされた半之丞ではないかという噂が立ち始めたが、岡引の虎松は権四郎がくろがね天狗と対戦していた時に少し離れた場所で半之丞と会っており、それはありえないと否定するも、果たしてそれではくろがね天狗の正体とは。

みどころ

珍しく舞台を江戸に持ってきた時代小説ではあるが、海野らしいSFガジェトが盛り込まれた不思議物語である。
テレキネシス(念力)のアイデアが描かれた作品で、本体が弱った状態で果たして念力だけが独立して作用し得るものかどうか疑問はあるのだが、殺人狂という殺伐としたテーマを扱っているにもかかわらず、暗く深刻にならないのは、そうした理屈を超えた娯楽性重視のサービス精神が発揮されているせいだろう。
自分の意のままに疾走する自分の分身の機械人間の姿は爽快である。
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海野十三の「金属人間」

2017-07-29 23:43:38 | 
先月は田中富雄の作品の読書会はあったんですが、チャリティを控えてわたくしの海野の調査票はお休みしました。
で、2ヶ月ぶりの海野の中篇怪奇SF推理小説だったんですが、今回も読み応えがあり、楽しめる作品でした。

初出 「サイエンス」 1947(昭和22)年12月~1949(昭和24)年2月号

収録本 「海野十三全集 第12巻 超人間X号」三一書房 1990(平成2)年8月15日第1版第1刷発行

時代設定 作品発表時と同時代程度

作品舞台 

今は家族もなく、孤独な境遇でわずかな雇い人たちと暮らす代々医学者家系の針目家当主、針目左馬太の邸内で家政婦の女が殺されるという事件が起きる。しかも、どうやら状況は密室殺人のようである。

登場人物 ・探偵、蜂矢十六 
     ・蜂矢の助手、小杉二郎少年 
     ・理学博士、針目左馬太 
     ・針目家家政婦、谷間三根子 
     ・長戸検事 
     ・川内警部 
     ・田口警官 
     ・大学生、雨谷金成

あらすじ

理学博士、針目左馬太の邸内で家政婦の谷間三根子が殺されているのが発見される。
密室殺人事件である。鋭利な刃物で頸動脈を切られたと見られるが凶器も見当たらない。
しかし、現場にいた川内警部や田口警官も本人がそれと気付かぬうちに出血を伴う怪我を負い、狐につままれた態である。
当然、雇い主である、針目を聴取しようとする警察にしぶしぶ応じた博士は自分の研究室を案内する。
生命の誕生を研究テーマとする博士の研究室は奇奇怪怪、グロテスクな生物がいくつものガラス槽に押し込められ、さしもの捜査陣も卒倒寸前という有様である。
また、奥の部屋には三重の扉で厳重な管理をする試作生物の実験室があり、ずかずかと入り込んだ警官たちの不注意が原因だったか「この部屋にねむっていた大切なものの目をさましてしまった」という博士の叫び声がしたかと思うと、その第二研究室は、大爆発を起こし吹き飛んでしまう。
他日、大学生の雨谷は露店商から買った釜がからくりもないのに自分でかってに動くことを発見し、二十世紀文福茶釜の興行で世間を賑やかせていた。

みどころ

偏屈者の針目博士が「金属Qを創造する見込みがついた」と記した日記が伏線になっているのは容易に想像がつくが、その動く金属がなかなかの役者である。最初は動く釜としておもちゃ的存在であるが、だんだんと進化してゆく。針目博士に変装して、敏腕探偵すら欺き、人間よりもすぐれた思考力を持つスーパー生物となるのだ。
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