ホイッスルバード あいざわぶん

忘れられないお握り

帯広市では一泊朝食付きで税込3800円と激安の「こやど」に
宿泊した。
主は私よりも10歳年上の面白いオヤジ。
私が到着したと知るや玄関の外まで出てきて、「俺もこのバイク
にすっかなぁ」とじろじろとベンリーを観たり、宿泊に関して守る
べきことを念を押されながら聞かされた。デリ絶対禁止令!

部屋に入って直ぐに気付いたのは、この建物は「元ラブホテル」
ということ。
風呂場と部屋を仕切る壁に透明なガラスが入っていて、それを
布で隠してはいるけれど風呂場に行けばバレバレなのだ。
だもの、そりぁ~デリ嬢を呼びたくなる客も居るだろうねぇ。

も一つ驚いたことがある。部屋に不釣り合いな短歌が書かれた
額縁が飾られていたことだ。

 トンコリの音を聴きつつ酒酌めばポロロンポロロン肋骨が鳴る 則雄



ん゛っ!則雄って、まさか・・・時田則雄じゃあるまいな。
階下に戻って主に訊いたら、その時田則雄が書いてくれた、と
いうので、私は驚いた。
歌人・時田則雄と主は帯広畜産大学時代の学友で、主はその
帯広畜産大学で教鞭を執っていたのだそうな。
主は主で驚き、「そんなことを言ってきたのはアナタだけだよ~。
いや~たまげたなぁ。則雄に言わなくっちゃ~、あはははは」と
豪快に笑いながら、次の一首をすらすら口にした。

 トラクターに千個の南瓜と妻を積み霧に濡れつつ野をもどりきぬ

歌人・時田則雄の有名な一首で、嗚呼、実に感動的な一瞬!
時田則雄君を知らなきゃ、それは短歌の世界ではもぐりなのだ。
【トンコリ アイヌの五弦楽器】

さて、翌朝、食事のため食堂に降りて行った。
そしたら、(嘘でしょう)と目を見張るほどの御馳走が並んでいた。
記憶の儘に書いてみると・・・。
白飯の上にホッカイ海老。そして粒こそ小さいが紅鮭のイクラ。
野菜サラダと目玉焼き。鰊の煮物。松前漬け。西瓜。

他のお客二名は仕事の為の宿泊らしく、食事を終えると早々に
部屋に戻り、主と私と、食事を作ってくれた熟々女の三名に。
そしてなんと「昼用に」とお握り二個が入っていると思しき包みを
私に渡してくれたのだった。
本音を言うと、(お昼はラーメンにしよう)と思っていたので、その
お握りを欲しいとは思っていなかった。
でも私は、昼にお握りを食べながら鼻の奥がつ~んとなった。

「こやど」をゆっくり出発して、太平洋と並んで走る国道に出た。
すると砂の海岸で投げ竿を4本立てている釣り師が見えたので、
興味津々に話を伺いに行くことにした。
顔を見ると(80歳になっているのでは)と思える人で、話し掛け
易い雰囲気を出していたので色々と話を伺った。
狙っていたのは「カジカ」で、「一匹釣っているから見てみたら」
と、クーラーボックスを指さした。
無論、興味津々なんだから箱を開けたら、50cmもある真っ黒
な魚体が窮屈そうに躰を曲げて収まっていた。
そして、頭の上にある目玉が開き、私の顔をギロッと見たのだ!

「悪いけど腹減ったから御飯を食べるよ」と、鞄の中からパンを
取り出したので、「私もここで御飯を食べさせて下さい」と、あの
お握りを取り出した。
すると、余りにも豪華なお握りなので、私のお握りを見た老人が
「いやいや、随分と優しい宿に泊まったんだねぇ」と笑い出した。
一つは、大きな紅鮭が入って海苔で包まれたもの。
一つは、大きな鱈子が入って海苔で包まれたもの。
どちらも、生涯忘れられないお握りになった。
で、鼻の奥がツ~ンとなったのだった。

「こやど」には近々、短歌を添えてお礼の葉書を出すつもりだ。

次の写真は、ホッカイドウ地方競馬場近くの牧場での一齣。
安心しきっている姿が愛らしくてカメラを取り出した。

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