天地わたる手帖

ほがらかに、おおらかに

ああプロレスの好々爺たち

2019-03-12 00:26:19 | 格闘技


日テレジータスに感謝である。
2月19日、両国国技館 で開催された「ジャイアント馬場没20年追善興行〜王者の魂〜」を10日(日) 14:30から放映した。

試合としては棚橋弘至とヨシタツ、宮原健斗と関本大介が組んだタッグマッチが目玉と思った。棚橋と宮原は動きも勘もいいカッコよさが売りのオールラウンドプレーヤー。新日本の棚橋から見て全日本の宮原は自分の道を追ってくる弟と感じているはずで、この二人のからみはやはり光った。
しかし、それよりもぼくの注目したのは「黒い呪術師」アブドーラ・ザ・ブッチャーの引退セレモニーであった。78歳、足を故障していて車椅子で登場した。「生ける記念碑」である。
日本のプロレスにあまた悪玉がやって来たがその筆頭はやはり彼。「白覆面の魔王」ザ・デストロイヤーはブッチャーの前の時代を席巻した大物だが流血と縁遠かったため悪玉感ではブッチャーほどではない。

そのザ・デストロイヤーは3月7日、88歳で死んだ。老衰である。この大会へ来ることができずメッセージを届けた。早死にするレスラーが多い中(ジャイアント馬場、享年61)老衰で逝ったのは幸福であろう。

 
「不倶戴天の敵」を演じて見せたドリー・ファンク・ジュニア(右)


ブッチャーのもとへ往年の名レスラーたちが花束を持って次々登場した。
「荒鷲」坂口征二(77)、「テキサスブロンコ」ドリー・ファンク・ジュニア(78)は背が屈み、足取りがおぼつかなかった。弱弱しくはかないことよ。「転ぶよな」と思ってはらはらした。

ブッチャー・シーク組とファンク兄弟といえば1977年12月15日、東京・蔵前国技館で行われた「世界オープン・タッグ選手権」があまりに有名。ブッチャーがテリーの右上腕をフォークでめった刺し。怒ったドリーがブッチャーの額を殴りに殴りペンキをぶちまけたように血だるまにした。
しかし二人は頬を合わせて懐かしみ敬愛の情を交し合った。二人とも好々爺であった。
現役のとき彼らは「不倶戴天の敵」を演じて見せた。それは承知していても嘘を本当のことと錯覚して興奮した。ゆえにプロレスは凄くすばらしい。


まさに好々爺のスタン・ハンセン(右)

「不沈艦」スタン・ハンセン(69)も好々爺の極みであった。ドリーやブッチャーより10歳ほど若いこともあってよぼよぼ感はなかった。
「仮面貴族」ミル・マスカラス(76)は年齢の割に背筋がシャンとしていて立ち姿がよかった。マスクしていて顔が見えないせいか。弟ドスカラス(68)とそろってかっこよかった。


マスクと背広がマッチして身のこなしのよかったミル・マスカラス(右)





武藤敬司(56)、秋山 準(49)ら現役はえらく若く感じた。プロレスでこの年齢は円熟期。そこが一般のスポーツと大きく違うところ。体力は落ちても修練した技と内面の充実で味を出すあたり、歌舞伎などの舞台芸術に通じる。
実況席にいた川田利明(55)も武藤、秋山と同世代でなつかしかった。

ザ・デストロイヤーのみならずダイナマイト・キッドも最近死んだ、60歳。マサ斎藤が去年7月に死んだ、75歳。「皇帝戦士」ビッグバン・ベイダーも去年6月に死んだ、63歳。総じて長生きはしていない。
彼らを見て青春の血をたぎらせた小生も68歳。
退場するときが近づいているが好々爺にはならない。