じじい日記

日々の雑感と戯言を綴っております

珍珍亭のラーメン

2014-07-24 12:32:09 | 日記的雑談
珍珍亭の駐車場は水浸しだ!!!



先日新潟県の南魚沼市へ遊びに行った訳なんだけれども、毎夜の宴会で呑み潰れ、酒を呑んだ以外に何の記憶も無いと言う旅になった訳であります。
その中で唯一、ラーメンを食いに行った事だけが一大イベントとして心に残り、数日たった今、あのチャーシューメンがやけに心に残り、ひょっとするとあのラーメンは今年の夏の一番の思い出になるのかと心に残る今日この頃・・・。
ラーメンの味が唯一の夏の想い出と言うのも寂しい気もするけれど、何故か忘れ得ぬチャーシューメンに人の世の詫びと寂びさえも垣間みた気がするのでありました。

あのラーメン屋は魚沼市小出にありました。
地元民以外には分かりようも無い辺鄙な場所にあるのですがその歴史は古く、50歳になるカブキチが生まれて初めてチャーシューメンを食ったのが此所だと言う事からも、由緒あるラーメン屋である事が伺えると思うのであります。

そうか、あの場所を辺鄙と言うのは間違いかも知れない。
何故ならば、全てが辺鄙で片付けられそうな地に有っては、あれを繁華街とは言わないまでも、集落の中である事は間違い無く、相対で言えば、人の来易い場所と言う事なのだろう。

珍珍亭の駐車場に車を入れると、憎い演出が為されていた。
昨日梅雨明したばかりだと言うのに、盆地となる魚沼の空気は熱を帯、既に真夏の暑さの中に有ったのだ。
容赦無いお日様に照らされた駐車場のコンクリートは、本来ならば灼けていて当然なのだが、消雪用の水を巻き、それを蹴散らし、涼を呼んでいた。

私は駐車場の粋な心遣いを見た瞬間に、このラーメン屋は美味いと確信した。

車を降りて歩いてみれば意外に邪魔な消雪用水の噴射に靴を濡らし、店内に入ると、見た目的にはあまり接客向きではない感じの、いわゆるラーメン屋のオヤジが無機質で愛想の無い「いらっしゃい」で客を迎えるのだった。

これは、美味いラーメン屋には絶対必要条件の無愛想もきちんと守られている、と更に確信を深めた。

食券を買う前にカブキチが一言、並み以外は頼むなよと小声で言った。
そうか、そう言う事か、田舎のラーメン屋にはありがちな事だと納得し、私は券売機に千円札を押し込み「チャーシューメン並」のボタンを押し、食券とツリせんの50円玉を取った。

ラーメン屋にしてはけっこう広く大きなカウンターの奥に座りラーメンが来るのを待った。
チラリと店内を流し見れば、由緒正しい田舎のラーメン屋には欠かせない漫画本と週刊誌も常備してあり、喰い終わったらサッサと出て行け式の店でない事が伺えた。

始めにカブキチの「ラーメン並」が運ばれて来た。
おお、あれで並みか、多めのネギの下には大振りのチャーシューが三枚も見えるではないか。
と、言う事は、チャーシューメンはどう言う事になるのか、期待と不安が一気に高まったのは言うまでも無い。

殆ど間をあけずに私の「チャーシューメン並」が運ばれて来た。
見た目は、けっして盛りつけが美しい今風のラーメンではなく、一目見た瞬間に、これが並みか、カブキチの助言が無ければ危ない所だったと息を呑んだ。

所謂一般的なラーメン丼とは違う、恐らくこの店の得特注であろう丼は底が深く、大きくは見えないのだが底知れぬ迫力が感じられた。

溢れんばかりの汁を受ける為に丼の下には皿が添えられていた。

私はラーメン喰いの作法通りにレンゲで汁をすくい口に運んだ。
レンゲが唇に触れようとする刹那、まず鼻腔に焦がし醤油の香りが先に届いた。

私はその香りに満足し、麺など喰わなくてもこのラーメンの素性を知ってしまった錯覚に陥っていた。
豚の脂の香りと焦がし醤油の相まった匂いが胃袋を刺激したのか、熱くて火傷しそうなラーメンを私はかなりの勢いで啜っていた。

豊富なラーメンの汁が麺を食べ易くする。
私は相当の汗を額に浮かべ、レンゲと割り箸を巧みに動かし、麺と汁を程良い割りで口に運び、熱さに怯む事無く食む(はむ)のだった。

珍珍亭のチャーシューは、昔通りの焼豚だった。
しかも、とろけるような脂身の肉と、これぞチャーシューと呼びたくなる、焼き締まって程良い堅さの肉の二通りが入っているのだ。

チャーシューは見事なまでに不揃いで、厚みも形もまちまちだった。
甘い脂身の多いチャーシューは薄く、麺の上に浮かせてあった。
そして、堅めの焼豚は丼の底に仕込まれていたのだ。

私は北の方の田舎ラーメンのほとんどがそうであるように、かなり塩っぱい汁で麺を流し込んでいた。
麺の量は平均的なラーメンの五割増程度であったが、メンマとネギの量も多く、全体の総量をかさ上げしていた。

水は飲まなかった。
時折、塩気と熱さに負けてコップの水に目が行くのだったが、この量を食べ切るには水を入れてはなら無い。
実際、ラーメンは油っこい物だから冷たい真水を口の中に含んでは味が変わってしまうので水は飲んではいけないものなのだと私は思う。

勢いを止めたら食べ切れなくなると思った私は一気に麺を食べた。
そして、大体底が見えたと思った時にまた驚きがやって来た。

何と、殆ど汁だけになった丼の底に厚切りのチャーシューが三枚隠れていたのだ。
と、言う事は、この丼には三段でチャーシューが仕込まれていた事になる。

一番上に浮かべられていた脂身の多いとろりとしたチャーシューと、中間で麺の間に隠されていた、これもやや薄めの、麺と一緒に食むのに程良いチャーシューと、そして、終わったかと思った後に丼の底を箸で探って掘り当てる、三枚の歯応えのある焼豚と、三段構えで周到に仕込まれていたのだった。

私は、最後のチャーシューを噛み締めつつ、もう喰えねぇ、と、カブキチに言った。

カブキチが、還暦前の半ジジイあれを喰っちまったかぁ、と、唸った。

珍珍亭のラーメンは、由緒正しい田舎の醤油ラーメンで、言ってみれば昭和の味だろう。
野菜の旨味で出汁をどうの、昆布がどうだとか、鰹節で出汁を引くなどと言う今風のラーメンではなく、ズントヴで鶏ガラを煮しめ、焼豚の脂で醤油垂れを作る、昔からのラーメンなのだと思う。

私以外の人の評価はどうか分からないが、あの、味の素たっぷり感のラーメン、私は花丸と「良く出来ました」を付けたいと思います。

なにっ? ラーメンの写真は無いのかですと? いや、一気に喰っちまったので撮るのを忘れました。

コメント (4)
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