武弘・Takehiroの部屋

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文化大革命(5)

2024年05月18日 03時20分17秒 | 戯曲・『文化大革命』

第八場(6月中旬。 武漢市内の某所。毛沢東、陳伯逹、江青)

毛沢東 「全てはだいたい上手くいっている。 彭真を北京市長から引きずり降ろしてやったし、小うるさい陸平も、北京大学学長をクビにしてやった。 林彪の息のかかった解放軍は、すでに北京周辺を制圧し、劉少奇らにニラミをきかせている。

 わしが先月十六日に党幹部に出した通知によって、中央文革小組の成立は揺るぎないものとなった。 すでに北京大学では、聶元梓らが目覚ましい活動を始めたし、清華大学の付属中学にも“紅衛兵”が誕生している。

 水が高きより低きに流れるように、全てが順調に進んでいるようだが、一つ気になるのは、劉少奇らが紅衛兵運動を弾圧するために、工作組というやつを各大学や学校に派遣していることだ。 あいつらは工作組をますます増強して、われわれの“奪権闘争”を妨害しようとしているようだな」

陳伯達 「あちこちの大学や学校で、工作組と革命派学生との間で、激しい攻防が繰り広げられています。 しかし残念ながら、今のところ工作組の力の方が強くて、革命派は各学校から閉め出されているのが現状です。これは“白色テロ”であり、放っておいては大変なことになります。

 このままでは、せっかくできた中央文革小組が活動しようとしても、文化大革命を進めていくのは難しい情勢になってしまいます。 なんとか早く、強力な対抗手段を取らないと駄目ですね」

毛沢東 「分かっている。 時機を見て、わしは工作組廃止の処置を取ろうと思っている。今はもう少し、劉少奇らのやりたいようにやらせて、敵の動きを十分に観察しておくことだ。 その間に、こちらも態勢を整えて、大反撃に出るチャンスを待つのだ。

 戦いは、まだ始まったばかりだ。あわてることはない。打つ手は着々と打ってある。 じっくりと腰を落ち着けて、こちらの力を養っておくことだな」

江青 「そんなに悠長に構えていて大丈夫でしょうか。 王光美は引っ切りなしに清華大学へ行って、工作組を指導しているし、劉少奇、登小平までが師範大学の付属中学に出かけて、革命派を弾圧しているのですよ。

 こうして武漢にじっとしていることが、私には耐えられません。 私は一時も早く、戦いの真っただ中に飛び込んで、王光美らに、火のような革命の鉄槌を打ちおろしてやりたいのです」

毛沢東 「まあ、待て。 あわてて手を出して、犬にかまれてはいけない。犬をゆっくりと袋小路に追い込んでから、ドブに叩き落としてやるのだ。 工作組を学校に送るなということは、わしが二度、三度とここから通達を出してやる。そうしておいて、敵の出方や状況を暫く見守るのだ。

 これは、あくまでも前哨戦の段階であり、わしがいずれ北京に乗り込んでから、本格的な戦いを開始する。 その時には、はっきりと工作組を廃止し、紅衛兵という赤い孫悟空の大軍によって、一挙に勝負を付けてやる。 この戦いは、必ずわしが勝つ。わしは今、英気を養って、来るべき革命戦争に備えようと思っているのだ」

江青 「それでは、ここで暫く作戦を練るということですか」

毛沢東 「うむ。それもあるが、部屋の中でじっとしているのも面白くない。 揚子江を泳いでやろうと思うのだ」

江青 「えっ、揚子江を泳ぐんですって?」

陳伯達 「主席。 いくらあなたが水泳が好きだとはいえ、そのお年で揚子江を泳ぐのは危険です。大事の前のお身体には、十分に気をつけて頂かないと困ります」

江青 「そうです。もしものことがあったら、大変です。長江の水泳は止めて下さい」

毛沢東 「なにを言うか! 偉大な文化大革命の戦いを開始しようという時に、その位いのことができなくてどうする。 しかも世間では、毛沢東は七十歳を超えて衰え、墓に片足を突っ込んで死を待っているかのように噂さされているのだ。

 ここでわしが、揚子江を遠泳してみろ。 毛沢東は健在なり、中国の“赤い太陽”はなお輝いているということになる。 これは、文化大革命を始めようという時に、紅衛兵達革命派をどれほど勇気づけ、鼓舞するか計り知れないものがあるんだぞ」

江青 「それは分かります。しかし、陳同志も言われたように、大事の前のお身体にもしものことがありますと・・・」

毛沢東 「ええい、止めるな! わしは衰えてもいなければ、もうろくもしておらん。お前達の心配こそ、杞憂というものだ。 わしは今まで、何度も揚子江を泳いできた。わしは、偉大な揚子江が好きだ。とうとうと流れる長江の大河は、わしの人生のように何ものにも屈せず、何ものにも妨げられない、勝利の栄光に輝く偉大な大河なのだ。

 文化大革命という、いまだ中国民族が体験したこともない大事業をやろうという時に、なにを恐れ、なにに怯えることがあろう。 わしの人生の総決算が、文化大革命の成否にかかっている時に、揚子江で浩然の気を養ってなにが悪いというのか。 お前達も“てん足”の老婆のように、下らんことをぶつぶつ言うのは止めろ」

江青 「そうですか。 あなたは、とめても止めるような方ではありませんね。見事、長江を泳いで、天下に毛沢東健在なりと、知らしめてやって下さい」

陳伯逹 「主席の言葉を聞いていると、私どもよりずっと若く、たくましい気性の持ち主であることが分かりました。 私も文化大革命を前にして、一段と勇気づけられ、身も心も奮い立つ思いがします。 主席、どうか頑張って、揚子江を泳いで下さい。ご成功をお祈りします」

 

第九場(7月初旬。 北京・中南海にある劉少奇の家。劉少奇、登小平、彭真、楊尚昆、王光美)

彭真 「まったく、なんて馬鹿げた話しだ! 毛沢東が揚子江で、十五キロの長さを一時間余りで泳いだんだって? 馬鹿な。こんな出たら目なニュースを、新華社が流すとはひど過ぎる。ひど過ぎる!

 河の流れに乗って泳いでも、どんな水泳の天才だって、そんなに速く泳げるもんか! まして、あの老いぼれが十五キロも泳ぐなんて、信じられるか。ちょっと揚子江に浸かっただけで、こんなに大々的に報道されるんだから、たまったものではない」

王光美 「毛一派の言論、報道機関を使った宣伝攻勢は、まったく目茶苦茶です。 聶元梓の大字報は、人民日報にも大きく掲載されるし、『全ての妖怪変化を退治しよう』とか、『フルシチョフのような、反革命修正主義分子を全部一掃しよう』とか、われわれを、まるで極悪人のように非難し、蹴落とそうとしているんですから」

登小平 「たしかに、あの連中の言論攻勢には目に余るものがある。 しかし、われわれだって、工作組を各大学や学校に派遣して、毛一派の“騒乱分子”を封じ込めているし、それは多くの所で成功している。 

 表向きは文化大革命に賛成するように装いながら、毛一派の学生を上手く押さえ込んでいる。 工作組の活動をもっと強化していけば、あいつらの運動は、いくらけたたましく跳ね上がっても、必ず鎮圧することができるはずだ」

楊尚昆 「しかし、こうした状態が続いて混乱が大きくなると、それこそ敵の“思う壺”ということになるだろう。 早く十一中全会を開き、公式の場で、毛沢東と林彪を葬ってしまわなければならないと思うが・・・」

劉少奇 「同感だ。 ソ連共産党が緊急中央委員会を開いて、フルシチョフを失脚させたように、われわれは十一中全会で、多数の力で毛沢東らを罷免するのが一番良いと思う」

登小平 「そうです。今月二十一日をメドに、十一中全会を開くよう手筈を取りましょう。 問題はそれまでに、われわれが中央委員の多数を確保できるかどうかということです」

彭真 「私は北京市長を解任されたし、羅瑞卿同志も逮捕されている。 同志の多くが圧迫されている現在、会議を開いても勝てるかどうか分からない」

楊尚昆 「しかし、十一中全会を先に延ばせば延ばすほど、毛一派の圧力がさらに強まり、われわれの方が不利になっていくのではないか。 現時点ではまだ、われわれの方が優勢だと思うので、ここは一日も早く会議を開いて、毛一派を打倒しなければならないでしょう」

王光美 「私もそう思います。日一日と、敵の圧力は強まってくるでしょう。 放っておいたら、中立系の多くの中央委員が敵の圧力に屈して、われわれから遠ざかってしまいます。楊同志が言われるように、一日も早く十一中全会を開くべきです」

楊尚昆 「私にいい考えがある。 華北の連中は大体、われわれの味方になっている。それに反して、華東や中南地区の中央委員は、ほとんどが毛一派の息がかかっている。 従って、問題は西南と西北地区の委員だが、そこを彭真同志と私が手分けして、オルグするのが一番良いと思うのだが、どうでしょう」

劉少奇 「それは、いい考えだ。西南と西北地区の委員多数を制してしまえば、こちらの方が断然有利になるはずだ。 そうすれば、われわれの思いどおりになる」

彭真 「ふむ、それしかないな。 よし、それじゃ、私が西南地区をオルグするから、楊同志は西北地区をまわって欲しい。そして、登総書記がさっき言われたように、今月二十一日に十一中全会が開かれるのをメドにして、それまでに、西南、西北地区の中央委員を全員、北京に連れてきましょう。 この方法しか、われわれが勝てる道は他にない」

劉少奇 「良く言われた、彭真同志。いつもながら、君の素晴らしい決断には感服する。 十一中全会で勝てば、毛沢東を党主席から解任、林彪も役職停止に、さらにできれば、二人を党から除名、追放することだってできる。 ただ、私がいま最も気掛かりなのは、周恩来の動きだ。

 彼は中立を保っているが、もし彼が毛沢東の側につくと、中立系の委員が相当こちらから離れていく危険がある。 なにせ周恩来は、国務院を中心に大きな影響力があるし、林彪などよりずっと人徳があるからな」

登小平 「周総理のことは、私に任せて下さい。 もう四十年以上も昔のフランスにいた頃から、私は周総理と二人三脚で一緒に仕事をしてきました。彼とは切っても切れない間柄です。 私がじかに話しをすれば、彼もきっと心を動かしてくれるでしょう。明日にでも、私が周総理の所へ行ってみます」

劉少奇 「そうしてもらおう。 彼の動向が、今後の事態の推移にとって重要な鍵になるからな。彼があくまでも中立を守ってくれるなら、こちらとしてもやりやすい。もし万一、彼が毛沢東の側についたら、大変なことになる。 登総書記、よろしく頼みますぞ」

登小平 「分かりました。私にお任せ下さい」

 

第十場(7月上旬。 北京・中南海にある周恩来の家。周恩来と妻の登頴超)

周恩来 「先ほど登小平が来て、二十一日から十一中全会を開くから、協力して欲しいと言っていた」

登頴超 「あなたはなんと答えたのですか」

周恩来 「こんな状態で会議が開けるのかと聞いたら、小平は、早く会議を開いて混乱を収拾しなければならないと言っていた」

登頴超 「でも、十一中全会を開くには、毛主席の同意が要るのではないですか」

周恩来 「そうだ。 党主席の同意がなければ開けないのではと言ってやると、小平は、総書記である私が会議開催の事務手続きを全て任されている、各地区の中央委員には、すでに会議招集の通知を出したと答えていた」

党頴超 「毛主席は何も言っていないのですか」

周恩来 「いや、毛主席は会議の開催を延期するよう、すでに小平に伝えてきたようだ。 小平は詳しいことを説明してくれなかったが、彼は劉主席の指示で二十一日に会議を開くことを、総書記の責任において決めてしまったようだ」

登頴超 「それでは、国家主席と総書記の独断で会議を開くことになりますね」

周恩来 「そのようだね。事態は中国共産党史上、前例を見ないほど深刻になっている。 実は昨日、毛主席から電話があって、二十一日からの十一中全会には協力しないでくれと言ってきた。私は分かりましたと答えておいたが、わが共産党は今や、毛沢東と劉少奇の二つの派に完全に分裂してしまった。最悪の事態だ。

毛主席は、路線の面でも政策の面でも、劉主席とは絶対に相容れないと断言していた。 ここ数年来の党内矛盾が、ついに爆発寸前まで来てしまったのだ。双方とも今では、死に物狂いで相手を打倒しようと鉾を構えている。もはや、収拾の道はないようだ。

どちらか一方が倒れるまで、血なまぐさい戦いが繰り広げられるだろう。そして、この戦いの結果は、わが共産党の将来に、計り知れないほど深い傷跡を残すことになるだろう」

登頴超 「それでは、あなたはどうしようと考えているのですか。 中立の立場から、戦いを傍観することになるのですか」

周恩来 「いや、傍観などしようとは思わない。できることなら、中に割って入って、調停でも仲裁でもなんでもしたい。しかし、もう全てが手遅れの状態になってしまった。 毛主席には林彪達がつき、劉主席には登小平らがつき、抜き差しならない羽目に陥ってしまった。

私にできることと言えば、この戦いの結果、中国と党が受ける傷跡を、できるだけ小さく軽いものにするよう努めることだけだ。 少なくとも、国務院への影響は、身体を張ってでも最小限に食い止めなければならない」

登頴超 「それにしても、二つに一つを選ばなければならない所にまで、来てしまったのでしょうか」

周恩来 「そういうことだ。 君はもう気づいているだろうが、私は二者択一の場合、はっきりと毛主席の側に立つ。 あれから三十年以上たってしまったが、延安に至る長征の最中、遵義で行なわれた中央委員会総会で、私は毛沢東に共産党の指導権を委ねるよう発議し、そうなるよう党内をまとめた。 あの時から、私は一貫して毛主席を押し立てて今日に至った。

 毛主席にも、数々の過ちがあったことは認める。しかし、日本の侵略軍を撃退し、共産党を率いて中国革命を成功させ、新中国を建設した不滅の大事業は、毛主席の指導がなければ考えられないことだった。

また、社会主義中国の未来像については、誰にも負けない壮大な夢を持っている。彼は偉大な革命家であり、優れた思想家であり、夢多き詩人でもあるのだ」

登頴超 「でも、現実の問題として、この二十一日に中央委員会が開かれると、毛主席は不利な立場に追い込まれるのではないですか」

周恩来 「だから、私は手を打とうと思っている。 私は毛主席から言われたように、二十一日に会議を開くことに協力しない。登小平に、会議を延期するように説得するつもりだ」

登頴超 「総書記が、あなたの説得に応じるでしょうか」

周恩来 「応じてくれると思う。その自信はある。 いや、これは必ず彼を説得しなければならない。中国共産党の将来のためにも、また登小平自身のためにも、私は必ず彼を説得してみせる。 そうしなければ、中国は最悪の内戦状態になってしまうだろう。

 毛主席が不利な状況で十一中全会を迎えれば、彼と林彪は必ず、人民解放軍と奪権のためのゲリラ部隊を動員するだろう。 そうなれば、ことは合法的にはいかない。血みどろの武力衝突、内戦に突入する。私としては、そういう状態をなんとしても回避するようにしなければならない。

 だからいずれ、毛主席の有利な状況の中で十一中全会を開き、合法的に劉少奇国家主席に辞めてもらわなければならない。 天に二つの太陽は輝かない。両雄、並び立たずだ。 その後の混乱は、私が全力をあげて収拾していこう。私の考えは、分かってくれただろうね」

登頴超 「あなたの決意は分かりました。 これほどの危機は、本当に今までなかったような気がします。蒋介石の国民党軍と戦った時も、日本の侵略軍を迎え撃った時も、今から思えば、これほどの危機ではなかったでしょう。共産党が一致結束して、敵に当たることができたのですから。

 それに比べると、今度は共産党が真っ二つに分かれて争うのですから、こんなに恐ろしいことはありません。 でも、あなたは西安事件の時も、戦後の国共和平交渉の時も、見事な収拾役を演じて見せたのですから、今度もきっと上手くいくと信じています。頑張って下さい」

周恩来 「うむ、有難う」

 

第十一場(7月18日。 北京・中南海にある劉少奇の家。劉少奇と王光美のいる部屋に、彭真が急ぎ足で入ってくる)

 彭真 「大変です! 昨夜、北京と天津間の鉄道が爆破され、汽車の往来が遮断されました」

 劉少奇 「誰がやったんだ、けしからんにも程がある。 三日後の十一中全会の開会を妨害しようというのだな」

 彭真 「それも当然あるでしょう。 しかし、聞くところによりますと、林彪はこの鉄道爆破事件の混乱を理由に、北京の治安を守ることが解放軍の任務であると宣言し、軍隊を続々と北京周辺に集結させているということです。 鉄道の爆破は、林彪一派の解放軍の仕業に間違いありません」

 劉少奇 「林彪め、あのやせ犬野郎が・・・狂犬は何をしでかすか分からん。今に見ていろ、十一中全会で国防部長をクビにしてやるからな」

 王光美 「でも、あなた。彭真同志と楊尚昆同志のおかげで、西南地区や西北地区の中央委員は、ほとんどがわれわれの味方になってくれました。 このまま、中央委員会を開けば、われわれが勝つのは間違いありません。 敵は焦っているのです。こんな鉄道爆破事件など、大したことではありません。 人を不安や混乱に陥れ、その機に乗じて情勢を有利に導こうという、ありふれたやり方です。そんなことに動揺していては、敵の思う壺です」

 劉少奇 「勿論そうだ。敵の術中にはまって、こちらが動揺することはない。 われわれの工作組だって、至る所で毛一派の奪権闘争を押さえ込んでいるではないか」

 王光美 「そうです。 清華大学でも萠大富という“跳ね上がり”が、私達を非難する大字報を貼ったため、工作組によって直ちに取り押さえられ、学生集会で断罪されました。 他の大学や学校でも、工作組は極左混乱分子を次々に摘発して、学園の秩序を保っています。状況は私達にとって、決して不利ではありません」

彭真 「十一中全会が予定どおり開かれれば、われわれの勝利は間違いありません。登総書記も、二十一日の開会を全国の中央委員に通知しています。 ただ気になるのは、毛沢東らが総書記に、会議を延期するようしつこく圧力をかけているということです。 しかし、総書記は勿論、予定どおり会議を開くはずですが・・・」

 劉少奇 「そのとおりだ。登同志がわれわれを裏切るようなことはないはずだ。 しかし、念には念を入れて、いま確認しておいた方がいいな。どれ、私が彼に電話をかけてみよう。(劉少奇が受話器を取り上げ、電話をかける) もしもし・・・ああ、総書記ですか、どうも・・・えっ、毛沢東が帰ってきた? つい先程ですか・・・あの男が何を言おうと、会議は予定どおり二十一日に開いて下さい・・・そうそう、よろしく。

 今の情勢から言えば、彭真同志らの努力で、中央委員の過半数はわれわれを支持していますからね。 会議を早く開けば開くほど、われわれにとって有利です。その点をお忘れなく・・・そうですか、安心しました。 それでは、よろしく頼みます。(劉少奇、受話器を置く) 毛沢東が今日、北京に帰ってきたそうだ。 あの男も、三日後の会議には素直に出ようということかな」

 王光美 「総書記は、予定どおり二十一日に、会議を開くことを確約してくれましたね」

 劉少奇 「ああ勿論、約束してくれた。これで大丈夫だ。 よほどの天変地異でもないかぎり、われわれが十一中全会で勝つことは間違いない。 毛沢東は、鉄道爆破事件などを理由に、登小平に会議の延期を迫るだろうが、彼はそんなことは絶対にさせないと、今はっきりと言っていた」

彭真 「総書記だって、現在の情勢がどうなっているかぐらいのことは、良くご存知でしょう。 もし万一、十一中全会でわれわれが敗北したら、自分も毛沢東や林彪から、どんなにひどい仕打ちを受けることになるか、百も承知のはずだ。 よほどの馬鹿でないかぎり、敵の圧力を受けて、会議を延期するようなことはしないでしょう」

 王光美 「でも、あの人は七年前の廬山会議の時に、われわれが彭徳懐同志を援護して毛沢東と対立した際、肝心な時に会議に出てこなかったという前例もありますよ。 あと三日しかありませんが、登総書記の動静は、なお十分に注意しておく必要があるかもしれません」

 劉少奇 「いや、大丈夫、大丈夫。そこまで疑心暗鬼にならなくてもいいだろう。 たしかに廬山会議では、肝心な時に彼が欠席したため、彭徳懐を支持するわれわれは拍子抜けしてしまったが、今度はそんなことはありえない。

 この七年間、登小平はわれわれとがっちり手を結んで、国の近代化や党の民主化に努力してきたではないか。 その結果、彼はすっかり毛沢東の機嫌を損ねてしまい、彼の方から“独裁者”に寄り付かなくなってしまった。 登小平はいずれ、周恩来に代って国務院総理になるべき人物だ。こんな大事な時に、自分の進むべき道を踏み誤るようなことはないはずだ。

 いよいよ、決戦の時が来たな。 私が進めてきた、現実に根ざした近代化の路線が勝つか、毛沢東の教条一辺倒の精神主義の路線が勝つか、道は二つに一つしかない。中国の将来の幸福も不幸も、今度の十一中全会にかかっている。  私は国家百年の大計を考えても、必ず毛沢東に勝ってみせる。毛沢東路線を倒さなければならない。 その方が中国の将来にとって、どれほど幸せかは歴史が証明してくれるだろう」


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