矢嶋武弘の部屋

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中国・文化大革命(6)

2017年07月01日 16時46分42秒 | 戯曲・『中国・文化大革命』

第十二場(7月20日。 北京・中南海にある周恩来の家。周恩来、江青のいる所に、登小平が入ってくる)

周恩来 「ようこそ、登同志。 さあ、こちらに座って下さい」

江青 「総書記、私も同席させてもらいます」(登小平が椅子に座り、3人がテーブルを囲む)

登小平 「総理、一体どういうご用件で、私を呼び出したのですか」

周恩来 「他でもない。 明日からの十一中全会の準備は整いましたか」

登小平 「ええ、おかげさまで。書記処としては、予定どおり明日から会議を開くことにしています。 総理にも、重ねてご協力をお願い致します」

江青 「その点についてですが、毛主席から、会議を延期せよという指示が総書記にあったはずではないのですか」

登小平 「ええ、数日前にありました。 しかし、その時にはすでに、二十一日開会の通知を全国の中央委員に出しており、変更はできない状況でした」

江青 「総書記。失礼ですが、それはおかしいのではないですか。党主席の指示に従うのが、総書記の義務ではありませんか。 会議延期の通知を、今から電報で出しても間に合うはずですが・・・」

登小平 「この時になって、それはまた随分無茶なことを言いますね。 だいたい、毛主席は七年前の廬山会議いらい、日常の仕事は主宰しないと言って、第一線の党務は全て、私に任せることになったではありませんか。 だから私は主席の言葉を守って、何事も自分の責任において、第一線の党務をやっているのです。

 それを今になって、急に横槍を入れられたのでは堪ったものではない! しかも、北京にはすでに、多くの中央委員が集まって、明日の開会を待っているんですよ」

江青 「しかし、会議延期の指示は、党の最高責任者である毛主席が出したのですよ。失礼ですが、総書記はそれに従うべきではないですか。 それに、例の鉄道爆破事件の影響や後始末で、林彪国防部長を始め多くの中央委員が、明日の会議には出られないと言っています。 それでも、総書記は明日、会議を開くというのですか」

周恩来 「まあまあ、江青同志、そう高飛車に言わなくても。 ねえ、小平同志、事態が極めて重大な局面にあることは、君もよく承知しているだろう。今や党は真っ二つに分裂している。 そこで率直に聞きたい。このまま明日、会議を強行して開けばどうなるか、君には十分な成算があるというのか」

登小平 「明日の会議は、私の責任において開くものです。それ以外には何もない。 十分な成算があろうがなかろうが、事態がどうなろうが、開くと決めたからにはそうせざるをえない」

周恩来 「事態がどうなるか、それはまったく予測がつかないではないか。 小平同志、冷静に今の局面を見て欲しい。党が真っ二つに分裂した以上、このままでは、どちらかが相手を打倒するまで、戦いは終わらないだろう。 どちらが勝つかは、今の段階ではなんとも言えない。

 しかし、事態がいかに深刻になっているかは、君も十分に分かっているだろう。人民解放軍の大勢は、林彪の指揮のもと、すでに毛主席支持にまわっている。 今度の戦いは、最後に軍事力が物を言うほど深刻なものだ。 もし明日、会議が開かれればどうなるか。鉄道爆破事件どころではない。どんな大事件が起きるか、予測もつかない状況になっているのだ。

 毛主席や林彪は、内戦も辞さない覚悟で今度の戦いに臨んでいる。 そうした中で会議を開けば、何が起きるか分からない。何かが起きれば、その場合の混乱の責任は、あげて会議を強行した君の双肩にかかってくるのだ」(周恩来、間を置く)

登小平 (無言)

周恩来 「小平同志、私の意見を率直に言わせてもらおう。 明日の会議は延期した方がいい。それは毛主席の指示であり、党主席の指示に従って、君はなんら恥じる所もなければ、人に後ろ指をさされることもないのだ」(周恩来、またも間を置く)

登小平 (沈黙)

周恩来 「はっきり言おう。私は、今度の毛主席と劉主席の決着をつける戦いで、毛主席を支持する。 小平同志、君はいま、最後の決断を迫られているのだ。 毛主席や私と永久に袂(たもと)を分かつのか、それとも、私達の味方になってくれるのか・・・」

登小平 「・・・しかし、私は長い間、毛主席から“白い目”で見られてきた。また私も、毛主席を避けるようにして生きてきた。 毛主席が勝った場合、そうした関係が今さら良くなるとは思えない」

周恩来 「小平、後のことは私に任せて欲しい。 吹きすさぶ嵐の中で、私は君を全力で擁護する」

江青 「わたくしも、あなたを擁護することを約束致します。 総書記が会議の延期を通知してくれれば、毛主席もきっと総書記を見直すことになるでしょう」

周恩来 「プチトン(登小平の愛称)。 君と私は、四十年以上も前のフランスにいた時から、手を携えてやってきた仲ではないか。あの頃、私が書いた原稿を、君はガリ版で刷って出してくれたね。君はいつも心良く、私の助手役をやってくれたんだ。あの頃のことが忘れられない。

 あれから半世紀近くたってしまったが、君は今や、中国人民とわが共産党にとって、掛け替えのない重要な人物になっている。君の将来については、私が全責任をもって擁護する。 江青同志も、そう言っているではないか。江青同志と私がいま、お互いに“証人”となっているのだ。 だから安心して、会議延期の通知を今日中に出して欲しい」

江青 「わたくしからも、重ねてお願い致します」

登小平 (暫くの間、沈黙)「分かりました。今日中に、十一中全会延期の通知を、全国の中央委員に電報で知らせます」

周恩来 「有難う」

江青 「有難うございます」

周恩来 「小平、私は今日のことを終生忘れない。感謝している」(周恩来、登小平の両手を握る)

登小平 「それでは、私はこれから党本部に戻り、会議延期の手続きを取ります」(登小平、退場)

江青 「総理、有難うございました。 総書記にはやはり、総理から言って頂くのが、一番効き目があることが分かりました」

周恩来 「いやいや、あなたが側にいて“証人”になっていたことが、彼を安心させたのだろう。 これで会議が延期になったから、中央委員の多数派工作もじっくりとすることができる」

江青 「そうです。これから、巻き返しを図っていきましょう。 総理、今日は本当に助かりました。それでは、私も失礼します」

周恩来 「毛主席によろしく」(江青、退場)

 

第十三場(7月20日夜。 北京・中南海にある劉少奇の家。劉少奇、彭真、楊尚昆、王光美)

彭真 「西南、西北地区を中心に、すでに過半数の中央委員が北京に集結しました。明日の会議では、間違いなくわれわれが多数を制することができる。 主席、まずはおめでとうございます」 

劉少奇 「これも、君や楊同志らの不眠不休の努力のおかげだ。いろいろ有難う。 これで合法的に、毛沢東を党主席から罷免し、林彪も国防部長をクビにすることができる。北京市長を解任された君も、間違いなく復権することができるし、羅瑞卿同志も国防部長として返り咲くことになるだろう。 これほどの喜びはない。さあ、前祝いに皆で乾杯しよう」

楊尚昆 「共産党も中国も、新しく生まれ変わろうとしているのですね。毛沢東の独裁もこれで終わりだ。 これからは劉主席が、名実共に党と国家の支柱となり、党の民主化と国家の近代化を実現していくわけですな。 お目出度いことだ。教条主義の毒草が除かれ、豊かに成長した明日の中国が目に浮かぶようです」

王光美 「彭真同志、楊尚昆同志、ご苦労さまでした。 明るい中国の未来のために、劉主席や皆様のご健康とご繁栄を祈って、乾杯しましょう。(王光美、四つのグラスにラオチューを注いで、乾杯の準備をする。 その時、部屋の片隅にある電話のベルが鳴る) 

 あら、電話ですわ。(王光美、受話器を取り上げる) もしもし、ああ、総書記ですか。ちょっとお待ち下さい・・・あなた、登同志からです」

劉少奇 「おお、彼もここに来てもらって、一緒に乾杯したいところだな。(劉少奇、王光美に代って受話器を取る) もしもし、ああ、私だ。ご苦労さん・・・・・・なに、そんな馬鹿な! 君はどうしてそんなことをしたのだ。馬鹿な真似はやめたまえ!・・・もしもし、もしもし! (劉少奇、受話器を置くと、椅子にぐったりと座り込む) 一体、なんということだ! 登小平が、明日の会議開催の延期を、全中央委員に電報で知らせたというんだ」

彭真 「そんな馬鹿な!」

楊尚昆 「信じられん、裏切りです! 登小平の裏切りです!」

王光美 「ああ、今はの時になって、なんということでしょう・・・だから、あの人の動きには十分注意しなければと言っていたのに」(暫く、沈黙が続く)

劉少奇 「私が、彼を信頼していたのが間違っていた。残念だ、なんということだ・・・彼は圧力に屈したのだ。 しかし、会議が延期になったからといって、われわれが敗北すると決まったわけではない。なんとしても、今度は勝たなければならない」

楊尚昆 「あのチビ猫には、まったく腹が立つ。どうして今頃になって、われわれを裏切るのか! われわれの努力も“水の泡”ではないか・・・」

彭真 「“一世に聡明なるも、一時に愚鈍なり”とは、あの男を言うんだな。馬鹿な奴だ・・・いずれ近い内に、国務院総理にもなれるというのに。 これで毛一派についたとしても、あの男は所詮、冷や飯を食わされることが分かり切っているのに、馬鹿な奴だ。情けないのにも程がある」

王光美 「でも、私達はまだ負けたわけではありません! 中央委員の半数以上は、私達を支持してくれるはずではありませんか。 十一中全会が延期されたからといって、気を落としてはなりません。

 工作組の活動だって大いに成果を上げているし、林彪が解放軍の一部を北京に進駐させようというなら、こちらも、新彊軍区司令の王恩茂(おうおんぼう)の部隊を動員すればいいではありませんか。彼は私達の味方です」

劉少奇 「そうだ。われわれはここで、腰砕けになってはならん。 彭真同志、楊尚昆同志、北京に集まっている中央委員のオルグを更に徹底してもらいたい。 王光美、お前は私と一緒に、各工作組の活動を一層強化させていこう。

 戦いには有利な時もあれば、不利な時もある。決して諦めることなく、戦いを続けていこうではないか。 今度の戦いに、もし敗れるようなことがあれば、それこそ、われわれは毛一派の生け贄となり、党から永久に追放されてしまうのだ」

彭真 「分かりました。こうなったら、死に物狂いで戦うしかありません」

楊尚昆 「今夜の乾杯はお預けとしましょう。 先に延びれば延びるほど、乾杯の味も旨くなるというものだ」

 

第十四場(7月27日。 北京・中南海にある毛沢東の家。毛沢東、陳伯達、康生、江青)

毛沢東 「登小平のやつ、周総理が脅しをかけて説得したら、とうとう寝返って十一中全会を延期してしまった。 あの男も、自分が可愛いと見えるな。これで、劉少奇らは大変なショックを受けたわけだ。 それにしても、周総理は相変らず大したものだ。あれほど事態の推移を見極め、大勢の赴く所を洞察できる人間は、わが共産党にはいない。

 彼は私に忠実であるというより、私の力と権威を利用して、政治を一定の方向に持って行こうとしている。 私から見れば、彼は政治の“芸術家”だ。あのような人物がいる限り、中国の行政は、調和と均衡を失うことはないだろう。 彼はカメレオンのように色鮮やかに変貌しながら、最も大切なものは決して変えないという男だ」

江青 「周総理には、本当にお世話になりました。 あの方が登総書記を“プチトン”と呼んで、じゅんじゅんと説得していくと、総書記も賢いお兄さんに諭される弟のように、聞き分けが良くなるんですものね」

陳伯達 「この時になって、中立と見られていた周総理がわれわれの側についてくれたことは、百万の味方を得た感じがする。 あの人は“不倒翁”と言われるように、何か争いごとがあった時、彼が味方した陣営の方が必ず勝ってきたからな。 これで、われわれの方が十一中全会で勝つことは間違いなしと言って良い」

康生 「ただ気をつけなくてならないのは、劉一派が死に物狂いで立ち向ってくることだ。 登小平が寝返ったことで、劉少奇は絶望的になり、何を仕掛けてくるか分からない。やつらは必死になって、中央委員の多数派工作をやっており、また、工作組の活動を強化している。

 左派学生による奪権闘争も今のところ、決して上手くいっているとは言えない。 各学校では、工作組による“白色テロ”が吹き荒れている。絶対に楽観はできない」

毛沢東 「康生同志、その問題については、わしの責任で片づけるつもりだ。心配は要らない。 わしは明日、党主席の名において、工作組を廃止する通達を全ての党幹部に出そうと思っている。わしの通達に従う者はわれわれの味方であり、そうでない者は敵だという色分けが、これではっきりするはずだ。

 そして、わしは全ての青年、学生に対し、マルクス主義の数ある真理の中でも“造反有理”こそ、最高の真理であると教えてやるつもりだ」

江青 「造反有理ですか。なんと革命的な、素晴らしい言葉でしょう」

陳伯達 「うむ、造反有理・・・劉少奇らの“実権派”から権力を奪い取る闘争においては、これ以上に説得力のあるスローガンは他にない」

康生 「さすが毛主席だ。これで工作組を叩きのめし、革命左派による奪権闘争を成功させることができる」

毛沢東 「造反青年や造反学生に何をやらせるか。 それは、古い思想、古い文化、古い習慣、古い風俗を叩き壊し、新しい思想、文化、習慣、風俗に置き換えさせるのだ。 これこそ文化大革命なのだ。これができなければ、今度の戦いの本当の意味はないのだ」

陳伯達 「それにしても、文化大革命を進めていけば、相当の混乱が予想されますね」

毛沢東 「それは、勿論そうだ。大混乱になるかもしれない。 しかし、各地域に革命委員会を樹立し、新しいコミューンを創っていくことこそ、社会主義中国を建設していく上で、絶対に欠かせないことだとわしは信じている。

 これこそ、わしの長い革命人生における最後の集大成だと思っている。 それによって、中国は真の社会主義国家として生まれ変わり、全世界の革命運動の指導的な地位をソ連から奪い取ることができるのだ」

康生 「主席の壮大なビジョンには、ただただ心を打たれるばかりです。 ところで、十一中全会の日取りはお決めになりましたか」

毛沢東 「来月一日に開く予定だ。そのことはすでに、周総理を通じて登小平に伝えてある。 あのチビ猫も今度ばかりは観念して、わしの言うとおりにするはずだ」

陳伯達 「私達も、中央委員の多数派工作は敵に負けないようにやっていますが、あと五日で開会というのは、早過ぎないでしょうか」

毛沢東 「なに、早過ぎることはない。 明日、工作組廃止の通達を出すから、あとはその勢いに乗って一気呵成に敵を押しつぶすのだ。 しかも会議には、北京の革命的な造反学生、教師らを多数“傍聴人”として出席させ、会議中は絶えず、劉一派や中立系の委員に圧力を加えるのだ。 そうすれば、中立系の委員は恐れおののいて、われわれの側に立たざるをえなくなるだろう」

康生 「しかし、党の規約では、中央委員会に一般の学生や教師を出席させることはできませんが・・・」

毛沢東 「何を言うか! 中国の運命を決する文化大革命を、十一中全会で採択しようとしているのではないか。 こういう時に、革命的な造反学生らを動員することこそ、文化大革命にとって最も意義のあることではないか! わしは党主席の権限と責任において、革命的な学生、教師の代表の出席を認めるのだ」

陳伯達 「主席は恐るべき人だ。 これでは、劉少奇なんぞは、とても毛主席に太刀打ちできるわけがない」

江青 「しかも北京には、林彪将軍の人民解放軍が進駐して、ニラミを利かせるわけですね」

毛沢東 「そうだ。革命は銃口から生まれる。これが鉄則だ。 われわれは、文化大革命を実現しようとしているのだぞ。そのことを忘れるな。 革命のためには、どんな力でも、どんな手段でも使うことができるのだ」

 

第十五場(7月28日。 北京・中南海にある劉少奇の家。劉少奇、王光美、それに娘の劉濤)

劉少奇 「林彪の部隊が北京に入り、また、多くの学校で極左分子による破壊活動がエスカレートしてきて、北京は騒然とした雰囲気になってきた。 真夏の暑い空気がやがて来る大きな嵐を予感させるように、じっとりと不気味に身体に感じられる。

 ここにすでに集まっている、われわれの陣営の中央委員達も、今に何が起きるのかと不安におののいているようだ。 いよいよ、十一中全会も近づいてきた。やるべき準備は、全てやり尽くしたつもりだ。人事を尽くして天命を待つとは、私の今の心境を言っているようなものだ」

王光美 「あなた、私達は負ける気は毛頭ありません。打つ手は全て打ちました。 この七年間にし遂げたあなたの政治の功績が、どうして一朝(いっちょう)にして覆されることがあるでしょうか。

 登小平が裏切り、周恩来が毛一派に与したとはいえ、これまであなたが中国の政治や経済政策に果たしてきた数々の功績が、心ある中央委員の人達に忘れられ、退けられるようなことはありません。

 あなたと毛沢東のどちらが、中国の発展のために本当に貢献してきたでしょうか。そんなことは、冷静にものを判断する人達には直ぐに分かることです。 あの三年続きの自然災害や、大躍進政策の破綻を乗り越えて、中国経済の生産を高め、人民の生活を向上させてきたのは全て、あなたや登小平、私達の努力のお陰ではありませんか。

 たとえ万が一、私達が敗れるようなことがあっても、歴史は、私達の路線が正しく有効であったことを、証明してくれるはずです」

劉少奇 「私もそう自負している。 われわれのどこが、間違っていたというのだろうか。われわれの路線や政策が正しかったから、心ある多くの党幹部が、私達を支持してくれたのだ。 私達が力をつけて大きくなってきたことに、毛沢東は自らの権威が失墜したと思い込み、嫉妬を交えた権力欲から巻き返しに出てきたに過ぎない。 ここで、われわれの正しい路線が覆されて堪るか!」

王光美 「そうです。 私達は毛沢東思想を絶えず掲げながら、実際の政治の分野で着実な成果を収めてきたのです。 ところが、あの人は、いつも自分がナンバーワンでなければ気が済まないため、自分の失政を棚に上げて、私達を排斥しようと血眼になっているのです。

 そのために、野心に満ちた林彪や一部の極左分子、現実から疎外された不満分子を扇動して、狂犬のように私達に襲いかからせているのです。 なんという野蛮で、暴力一辺倒のやり方でしょう。こんなことが許されるなら、中国共産党の規律も秩序も滅茶苦茶に破壊され、恐怖政治だけが横行するようになるでしょう」

劉少奇 「恐ろしいことだ。 毛沢東は民主主義のルールでは勝てないと見ると、文化大革命などと号令して、暴力による権力奪取を企ててきたのだ。そのやり方は、秦の始皇帝やジンギスカンと同じものだ。 このまま毛沢東のテロを許せば、われわれが抹殺されるだけでなく、中国共産党の良き伝統である党内民主主義も、木っ端微塵に粉砕されてしまうだろう。 絶対にそういうことがあってはならん。(その時、電話のベルが鳴る。劉少奇、受話器を取る)

 もしもし、ああ、私だ・・・・・・なに、そんな馬鹿なことが! あれは、党中央の機関で決まったことではないか!・・・・・・分かった、もういい。(劉少奇、受話器を置く) 彭真からの電話だ。 毛沢東が、工作組の廃止を党幹部に通達したそうだ。馬鹿な・・・こんなことがあっていいのか」

王光美 「そんな、無茶苦茶です。工作組の派遣は、党中央で正式に決まったことです。あの時には毛沢東は、反対するとは何も言っていなかったではないですか。 それを、党の中央機関に諮らずに、主席の独断だけで廃止してしまうなんて、あんまりです!」

劉少奇 「ああ、もう何もかも終わりだ。こんなことが許されるなら、わしはもう、共産党なんかにいたくない! ひどい、ひど過ぎる。これほどの暴虐、無法、無理無体があっていいのか。 党の上に毛沢東がいるのではない、毛沢東は党の下にあるはずだ。王光美、わしはもう、死んでしまいたいくらいだ・・・(劉少奇、ハンカチで涙を拭う)

 畜生、嵐が来るなら来い! わしを殺そうというなら殺せ! 真っ赤に染まった剣で俺を刺し殺せ! 俺をズタズタに切り裂いて、毛沢東の狂犬どもに食わせろ!」

王光美 「あなた、そんなに取り乱さないで」

劉濤 「お父さん、そんな言い方はなさらないで下さい」

劉少奇 「ええい、わしに構うな! どうせわしは地獄に堕ちるんだ。党を除名され、紅衛兵どもに殴り倒され、屈辱と汚名の炎の中で焼き殺されるんだ!(劉少奇、泣き崩れて暫く沈黙) せめて、お前達だけは助けてやりたい。 わしに最後の力と運があるなら、お前達だけは、なんとしても助けてやりたい」

王光美 「ありますとも! あなたには最後の力があるはずです。気を落とさないで下さい。 工作組が廃止されても、私達が負けると決まったわけではありません。ここまで、頑張ってきたではありませんか。 それを、あなたが全てを投げ出すような言い方をするなんて・・・私達はどうすればいいのですか」(王光美、泣き崩れる)

劉濤 「お父さん、私も悲しくなります。いつも威厳があり、堂々としているお父さんが、どうしてそんなに自暴自棄な言い方をするのですか。 私はこれまで、国家主席の娘ということで誇りを持って生きてきました。学校へ行っても誰からも可愛がられ、親切にしてもらっています。

 そうした私の生活が、もう駄目になってしまうのでしょうか。 もしそうなるなら、こんなに悲しいことはありません。お父さん、しっかりして下さい」

王光美 「あなたがいちいち、そう言わなくてもいいのよ。お父さんは分かっていらっしゃるのですから」

劉濤 「私が何か言うと、お母さんはいつもそんな言い方をなさるのね。お母さんは冷たいんだから・・・どうせ私は、お母さんの“実の子”ではありませんからね」

王光美 「まあ、又そういうことを言うのね。 私はいつもあなたを可愛がり、大事にしてきたではありませんか」

劉濤 「ええ、そうでしょう。でも、お母さんの可愛がり方は、いつも自分の都合のいいやり方なの。 本当に心から優しく、私を育んでくれたことがあるでしょうか。お母さんの親切は、どちらかと言うと押し付けがましくて、私をまったく子供扱いしているんですから。 母親と言うより、監視人という感じなの」

王光美 「まあ、この子は・・・私はいつもあなたを、実の子のように大切に育ててきたというのに」

劉少奇 「おい、二人とももう止さないか。 私が取り乱したのが悪かった。私はお前達を心から愛している。どんなことになろうとも、お前達二人を不幸な目に遭わせたりはしない。 私は国家主席だ。どんな苦境に陥ろうとも、誇りを持って立ち向っていく。 さあ、二人ともしっかりと私を見守っていてくれ。私は十一中全会で、やるだけのことはやってみせるからな」

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