矢嶋武弘の部屋

風林火山
日一日の命 日々新たなり

かぐや姫物語(1)

2017年07月21日 04時45分37秒 | 「かぐや姫物語」、「新・安珍と清姫」

空想、夢想、幻想、妄想の物語。 2013年4月30日スタート>

むかしむかし、かぐや姫という美しいお姫様がいました。かぐや姫は竹取の翁(おきな)というお爺さんに見つけられ、その妻の嫗(おうな)の手元で健やかに育てられました。かぐや姫が見つかったいきさつは、以下のとおりです。
竹取の翁は野山に入り竹を取っていましたが、ある日のこと、根元が光る竹を一本見つけました。不思議に思って近寄って見ると、竹の筒の中に、3寸ぐらいのとても可愛いらしい赤ちゃんが座っていたそうです。それが、かぐや姫と翁の出会いでした。
翁は朝な夕なに姫に会いに行きましたが、やがて、この子を自分の子にしようと思い、手の平に入れて家に持ち帰りました。そして、彼の妻に預けたのですが、とても小さいので籠(かご)の中に入れて育てました。それにしても、かぐや姫はこよなく美しく可愛かったそうです。

 ところで、竹取の翁はかぐや姫を見つけてからは、不思議なことに“黄金”の入っている竹を見つけることが多くなりました。このため、翁はいつの間にか裕福に、金持になっていったということです。
かぐや姫はすくすくと成長し、3カ月もすると人並みの背丈になりました。ずいぶん、早いですね(笑)。そこで、髪を結い上げたり着物を着る儀式を行なったのです。この頃になると、竹取の翁はすっかり金持になっていたので、何人もの下男や下女を使っていました。
さて、竹取の翁らの身の回りの世話をする下男に、藤吉(とうきち)という者がいました。藤吉は翁の友人の息子ですが、その頃20歳ぐらいの若者でした。彼はこの家の雑事をこなしていましたが、そうこうする内に、かぐや姫の美しさにすっかり魅了されたのです。
藤吉はかぐや姫に近づきたかったので、下女のする雑事にまで手を出しました。人出が何人いても足りないくらいのこの家では、藤吉のような“働き者”は重宝がられたのです。事実、美しいかぐや姫の評判を聞いて、この家には多くの男性客が訪れました。千客万来の忙しさです。
さて、先ほどの髪結いなどの儀式ですが、大変賑やかで盛大な儀式となり、3日にわたって詩歌や舞などの祝宴と酒盛りが続きました。この席で、由緒ある家の主人が、姫に「なよ竹のかぐや姫」と名付けたのが最初です。
ただ、かぐや姫はいつも帳台の中にいて、客の前には姿を現わさなかったそうです。それがかえって皆の想像力をかき立て、彼女への好奇心を増幅させたのでしょう。

 かぐや姫は誰が見ても“絶世の美人”でした。肌は雪のように白く、美しい顔(かんばせ)は緑の黒髪に包まれていました。竹取の翁は彼女を目に入れても痛くないほど可愛がり、また大勢の人に自慢していたのです。かぐや姫のいる所はいつも光に満ち、彼女を見ていると、誰もが苦しみや悩みを忘れました。
また、これは身近な人しか分からなかったのですが、かぐや姫がいる所はいつも芳(かんば)しい香りが漂いました。これは下男の藤吉も認めることですが、彼女が行くと台所でも厠(かわや)でもどこでも、芳しい香りに包まれたそうです。
多くの男性が家の中を覗き込んだり塀をよじ登ったりして、かぐや姫を一目見ようとしましたが、彼女は滅多なことでは人前に現われません。それでも、かぐや姫に会いたくて夜となく昼となく日参する貴公子が5人いました。人々は彼らを色好みの5人と呼びましたが、さすがに竹取の翁もある日、かぐや姫に対し次のように述べました。
「わしももう七十の齢(よわい)を超え、今日とも明日とも知れない命となった。ついては、わしの言うことを聞いてもらいたいが、あの5人のうち誰か好きな人と結婚してくれないか。これがわしの最後の望みなのだ」
竹取の翁がそう言うと、かぐや姫もさすがに感じるところがあったのか、次のように答えました。
「私はあなた様を本当の親と思い今日までやって来ました。どうして、あなた様のおっしゃることをお聞きしないことがあるでしょうか。でも結婚だけは、別のことだと思います。相手の深い心も知らないまま、結婚などできるものではありません。どうか私の気持を察していただきたいと思います」
かぐや姫がそうはっきり答えたので、竹取の翁はびっくりしました。まだ子供だとばかり思っていた姫が、ずい分しっかりした答え方をするものですね。

そこで、竹取の翁は覚悟を決めてこう言いました。
「思ったことをはっきりと言うものだね。しかし、この世は男が女に婿入りするか、女が男に嫁ぐかのどちらかである。そうやって一門は大きく発展していくもので、姫が結婚しないまま終わるわけにはいかないのだ」
翁がもう一度はっきりと結婚を勧めたので、かぐや姫も覚悟ができたようです。しかし、彼女は次に思わぬことを口に出しました。
「あなた様がそこまでおっしゃるなら分かりました。結婚しましょう。ただし、条件があります。5人の求婚者はそれぞれ仏の御石の鉢蓬莱の玉の枝火鼠の裘(かそのかわごろも)、龍の首の珠燕の産んだ子安貝を持ってきて欲しいのです。そして、首尾よく持ってきた方に、私は妻としてお仕えしましょう」 <筆者注・5人の貴公子と宝物については、後でくわしく説明します。>
これを聞いて、竹取の翁はまた仰天しました。側にいた妻の嫗(おうな)もびっくりしましたが、いずれもうわさ話でしか聞かない珍しい宝物ばかりで、まだ誰も見たことがないのです。
しかし、かぐや姫のたっての願いなら、それを聞かないわけにはいきません。また、目に入れても痛くないほど可愛い姫ですから、それぐらいの宝物を持ってこなければ、嫁にやることはできません。しかも、求婚者は5人もいて激しい争いになっているのです。
「よし、分かった。姫がそこまで言うなら、わしがあの5人に話してやろう。きっと驚くだろうな。ハッハッハッハ」 翁は愉快そうに笑いました。
それから数日後、5人の貴公子が竹取の翁の館に集まりました。彼らは石作皇子(いしづくりのみこ)、車持皇子(くらもちのみこ)、右大臣阿倍御主人(あべのみうし)、大納言大伴御行(おおとものみゆき)、中納言石上麻呂(いそのかみのまろ)の5人です。

5人は笛を吹いたり和歌を詠んだり、口笛を吹いたり扇を鳴らすなど好き勝手なことをして楽しんでいました。そこへ竹取の翁と嫗(おうな)がかぐや姫を伴って現われましたが、今日の姫は一段と美しく、妖(あや)しげにさえ見えました。しかも、姫が座ると何とも言えない芳しい香りが漂ってきて、貴公子たちはその芳香に茫然としてしまったのです。
こんなに近くからかぐや姫を見るのは初めてです。5人はその妖しげな美しさに見惚れていると、竹取の翁が口を切りました。
「今日は5人お揃いでご苦労さまです。つきましては、わが姫よりたってのお願いがありますのでお聞きください」
翁はこう言うと、始めはかぐや姫の代弁ということでその要望を説明しました。これを聞いているうちに、5人の貴公子たちは又も茫然自失の状態になりました。仏の御足の鉢や蓬莱の玉の枝などの話を聞いていると、いずれもこの国にはない外国の物ばかりです。持ってくるのは無理に決まっています。この姫はなんと無理難題を押しつけるのか・・・5人は呆れ返りました。
しかし、かぐや姫の願いとあれば、聞かないわけにはいきません。貴公子たちが茫然としていると、今度は姫が口を開きました。
「どなた様であろうと、私の願いを叶えてくだされば妻としてお仕えいたします」
かぐや姫の声はか細いのですが、鈴の音のように座敷に響き渡りました。凜としたその声と態度に、貴公子たちは言葉もありません。おのおのが定められた物を持ってくるしかないのです。かぐや姫の声はまるで“天の声”と同じですね(笑)。
こうして5人の貴公子に難題が出され、彼らは真剣に思い悩みました。それも、かぐや姫を何とかして自分の妻に迎え入れたいためです。しかし、5人の前途は暗澹たるものがあるでしょう。
初めに紹介した石作皇子(いしづくりのみこ)は仏の御石の鉢、つまりお釈迦様が一生大切に使った鉢を手に入れてこいというものですから、たぶん遠く天竺・インドまで行かねばならず、その苦労は並大抵のものではありません。

 持ってくるのが難しいのは、仏の御石の鉢ばかりではありません。車持皇子(くらもちのみこ)が頼まれた蓬莱の玉の枝も、東の海の蓬莱という山にあるといわれ、根っこが銀で茎が金、実が真珠の木があって、それの一枝を取ってきて欲しいという極めて難しい要求です。
同じように、他の阿倍御主人(あべのみうし)らが頼まれた宝物も入手が困難な代物ばかりです。石作皇子などは仏の御石の鉢を求めるのに、少なくとも3年はかかると覚悟しました。かぐや姫に憧れる5人の貴公子たちは、来るときと全く違って暗澹たる気持で退席したのです。

 ところで、下男の藤吉(とうきち)が調べたところによると、右大臣の阿倍御主人や大納言の大伴御行は壬申(じんしん)の乱の時、大海人皇子(おおあまのみこ)の側に立って大活躍したそうです。 また、中納言の石上麻呂は始め大友皇子(おおとものみこ)側についていたものの、大友皇子が自殺した後は寝返って大海人皇子の方につきました。3人とも今や体制側の重鎮なのですね。
藤吉は亡き父が大友皇子側につき“没落”したので、壬申の乱には大いに関心がありました。竹取の翁は亡父の友人だったので、その縁で金回りが良くなった翁の世話になっているのです。ついでに言うと、竹取の翁も藤吉の亡父のように大友皇子の家臣でした。しかし、壬申の乱で敗れて共に没落したのです。
藤吉の亡父が悲嘆に暮れながら死去したので、竹取の翁は藤吉に同情しました。黄金が手に入り豊かになった翁は早速、藤吉の面倒を見るようになったわけですが、彼がかぐや姫に好意を抱き近づくのを大目に見ていたのです。
やがて、こうした人間関係が劇的な大団円を迎えるのですが、物語はまだ5人の貴公子たちの行状のところです。5人がどうなっていくかを見詰めていきましょう。

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小説
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