映画とライフデザイン

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フランス映画「あさがくるまえに」 カテル・キレヴェレ

2017-09-24 19:15:14 | 映画(自分好みベスト100)
フランス映画「あさがくるまえに」を映画館で観てきました。


ついに今年一番好きな作品に出合いました。当分の間おすすめと言える映画です。
心臓移植の話という先入観で映画館に入りました。ドキュメンタリー色が強いかというとそうでもない。それぞれの登場人物のキャラクターを丁寧に浮き彫りにする。セリフでというより映像で見せる。このあたりは抜群にうまい。

フランスの女流監督カテル・キレヴェレによる作品だ。フランス映画でも観念的なセリフが続く難解な映画ではない。映画音楽の名手アレクサンドラ・デプラによる静かなピアノの響きに合わせて、じわりじわり着実にストーリーをすすめる。心臓移植の手術を写すリアルな映像やサーフィンを映し出す映像だけでなく、ドナーが走らせる自転車やサーフボードの移動撮影も巧みである。しかも、それぞれのキャラクターに感情移入することができるので、今年もっとも好きな映画となる。

まずはル・アーヴルに暮らす17歳のシモンが彼女の家の窓から早朝飛び出してサーフィンに向かうシーンを映し出す。3人で楽しんだ後、車で帰る途中に事故にあう。少年は助手席にいてシートベルトをしていなかった。頭を強く打ってこん睡状態で病院に運ばれる。


知らせをうけた母親のマリアンヌ(エマニュエル・セニエ)は息子の惨事に驚く。夫は別居中だ。呼び寄せて主治医から一緒に話を聞くと、すでに脳死状態だという。移植コーディネーターのトマ(タハール・ラヒム)からシモンの臓器提供を持ちかけられた夫婦は、息子の脳死を受け入れることができず断る。

一方、パリでは、2人の息子をもつクレール(アンヌ・ドルヴァル)が、心臓の難病に苦しんでいた。容態は日に日に悪化し、臓器移植しか選択肢はないと言われている。女流ピアニストの元恋人のコンサートに行ったあと、レズビアンの彼女と2人で過ごし告白するが、若くない自分が他人の命と引き換えに延命することに悩んでいる。
そんな中、シモンの両親は臓器提供を受諾するのであるが。。。


1968年札幌医大の和田寿郎教授による日本初の心臓移植成功の時は、日本中大騒ぎであった。自分もまだ小学生だったが、あの時のことは今でも記憶に残る。でも、その反動も大きく、和田教授もドナーの死亡確認で窮地に陥った。和田教授と同じ大学に所属する作家の渡辺淳一もいくつか書いている。でもこの騒ぎで日本における心臓移植の進歩が遅くなったのは確かであろう。

そんな心臓移植のリアルな映像が映し出される。実際の手術を映し出したのであろう。再度患者に移植して動き出す瞬間はなかなか感動ものだ。


1.映像で示すセリフにしない表現
この映画では、臓器提供する人、移植をする人だけでなくそれぞれのプロフィルを丹念に短い時間で映し出す。露骨なセリフで説明するわけではない。

特に印象に残ったのがドナーのシモンのエピソードだ。
以前から気になっていた同じ学校の彼女をずっと遠目で見つめ街中で声をかける。彼女は帰宅中で、山の上にある自宅に帰るためケーブルカー乗り場で別れる。シモンはそのあと自転車で懸命に坂を走る。山の上の停留所についたとき、彼女を出迎え感動させる。この間、余計なセリフはない。このエピソードでドナーであるシモンの心臓がいかに頑丈だということを示しているのではないか。実にうまい。


2.美しい映像
サーフィンのあと、風車がまわる田園風景を車を走らせる映像が美しい。そのあとアイスバーンに入り込み、事故に結びつくときのシーンもなかなかだ。シモンが自転車やボードで走る姿を移動撮影で撮るのも見事で撮影の巧みさも楽しめる。単に心臓移植の話だけでない。クレールのレズビアン話、別居して心離れている夫婦が再度結びつく話などディテイルにも凝っている。


いざ心臓を移植する際、手術中に移植コーディネーターがドナーの好きな波の音を聞かせる。素敵なシーンである。


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