映画「九龍ジェネリックロマンス」を映画館で観てきました。
映画「九龍ジェネリックロマンス」は眉月じゅんの人気漫画が原作のラブロマンス。原作は未読。主演は吉岡里帆で監督は池田千尋だ。解体された九龍城砦がなぜか再び現代に姿を現すという設定である。香港好きの自分からすると、九龍の地名が題名にあるだけでワクワクする。しかも主演が吉岡里帆となると気になる存在だ。池田千尋監督作品では青春モノの「君は放課後インソムニア」が良かった。
映画館の観客を見ると、なぜか自分のようなオジサンが目立ち女性が少ない。女性層からすると、吉岡里帆が可愛すぎるゆえにやや警戒してカップルで行くのを避けた結果、客席の男女比が極端に男性寄りになったのかもしれない。不思議な現象を映画館で垣間見る。
活気あふれる九龍城砦の不動産会社に勤める鯨井令子(吉岡里帆)は、九龍城砦に住み勤務する暮らしを気に入っている。街を知り尽くしている同僚の工藤(水上恒司)からお気に入りの場所に連れ出してもらい徐々に距離を縮めていた。
工藤と立ち寄った金魚茶館の店員タオ・グエン(栁俊太郎)に工藤の恋人と間違われる。さらに、令子がみつけたポラロイド写真には、工藤と一緒に自分と同じ姿をした恋人が写っていた。周囲の証言から自分と似た存在に疑念を抱くようになる。
映画としては普通、幻の九龍城砦とチャイナスタイルの吉岡里帆の魅力を味わう。
幻の九龍城砦をVFXで再現した映像は見応えがあった。似たような建物を台湾のロケハンで探し出してきて「生活感ある古い街並み」をロケで実写できたのが良かった。「失われた街が幻のように復活する」イメージが根底に流れて、現実と虚構の狭間を映画で味わう。
最後エンディングロールの後におまけがある。一瞬のシーンではないのでお見逃しなく。映画オリジナルの加筆らしい。
⒈吉岡里帆の魅力
吉岡里帆の存在感は抜群だ。いつもながらメガネ姿がかわいい。自分が好きな「ハケンアニメ」でのメガネ姿に近い。30過ぎて魅力が徐々に増している。直近のハリウッド女優もピークは30代だ。
チャイナ風シャツを幾度も着替える姿で香港感を強調している。『花様年華』のマギー・チャンを思わせる反復だ。 60年代の香港が舞台の「花様年華」では何度も色・柄の異なるチャイナドレスを着替えて視覚的に楽しめた。吉岡里帆自身の素材の良さが前面に出ているので救われているが、もう少し衣装のレベルが上がったらもっと良かったのにと思う。
⒉香港としての違和感
香港ロケがなかったのが残念。現代の香港は超高層ビルや再開発が進み、90年代の九龍の雑多な町並みが残っていないのかも?九龍城砦の周辺も公園や整備された街に変わっており、ロケに適した「混沌とした雰囲気」を見つけにくいだろう。
それでも、建物の密集具合、雑多な路地、ネオン、屋台や市場などは「解体前の九龍城砦」を彷彿とさせる。台湾でのロケハンには成功していると言える。
90年代からの香港リピーターとしては地震や言語表現、喫煙習慣などに違和感もある。気になるところだ。建物が揺れているシーンがあっても香港では地震は起きないはずだし、広東語では「ありがとう」は「多謝(ドーチェ)」で「謝謝」と言われるのは違和感を感じる。タバコの値段が高く喫煙率の低い香港で主人公2人がタバコをふかしているのも現実とはかけ離れている。飛行機が九龍城砦の真上を飛ぶシーンも、実際の啓徳空港の航路からするとありえない。
まあ仕方ないだろう。香港らしさを求める観客には、不満は残るかもしれない。
⒊映画「慕情」
映画では「借り物の街」というセリフが使われる。とっさに香港を舞台にした1950年の名作「慕情」でジェニファージョーンズの使った「借り物の場所、借り物の時間」を連想する。今から75年前の香港が実写でわかる「慕情」へのオマージュを感じてうれしい。その言葉は失われた九龍城砦への哀悼とも感じられる。この映画はまさにジェネリック「現実を借りて創った幻影」でもある。