Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

自然保護から見るリニア

2009-08-03 12:51:39 | 自然から学ぶ
 妻が「やっと自然友の会でリニアを扱った」と口にした。8月1日発行の伊那谷自然友の会報144号に「リニア中央新幹線を考える」という伊那谷自然友の会事務局の記事が掲載された。わたしにしてみれば、確かに「やっと」なのかもしれないが、この会があまりリニアを批判できない裏があるのではないかという印象を持っている。なぜならばこの会には飯田市から補助が出ているはず。でなければ年2000円の会費で運営していくには厳しいと判断する。ようは飯田市美術博物館というバックがあって運営されている会であって、とくに地域が色めき立っている事業に対して、大々的に批判はできないという事情があるだろう。あくまでも問題提議程度の触れ方が常道ともいえる。故に記事の冒頭ではこう説明している。「建設によるインパクトは人間社会だけでなく、自然環境に対しても大きいものがあります。伊那谷の自然友をみつめてきた私たちとしても、リニア中央新幹線事業を無視することはできません。ここではリニア中央新幹線がもたらす調書と短所を概観し、とくに排出土砂がもたらす自然環境への影響を考えて見ます」というものだ。長所短所と言うどちらに着いているわけではないという宣言をした上で、その長所と短所はごく当たり前のものを掲げ、中身では残土について問題だと提議しているわけで、ルート問題ではなく、残土による自然破壊は想像以上のものだということを言いたかったわけである。それも簡単に説明して「率直な意見や感想をお寄せください」と読者に投げかけている。このあたりも立場を考えての投げかけであるという雰囲気を十二分に感じるわけだ。

 残土は確実に問題になるものであって、しばしば伊那谷自然友の会ではこの「残土」というキーワードを利用してさまざまな事業に批判をしている。ここで算出された残土は大鹿村釜沢と早川町新倉(あらくら)を結んだトンネルから排出されるもので、187万m3というものである。この量は187ヘクタールに1メートル盛土した量である。両坑口側に半分ずつ出したとして63.5万m3であるから20ヘクタールに3メートルほど盛土すれば処理が可能となる。実はこの程度の残土はたいした量ではないのだが、釜沢集落下にある平地はせいぜい4ヘクタールほど。ということは16メートルほど盛り上げると処理できる計算になる。危惧されている自然破壊や災害が起きたときに問題になる量とも考えられないがもちろん処理のしかたにもよる。おそらく投資額を押さえるためには坑口近辺に処理されることだろうから、釜沢集落下の平地に埋め立てられるのは必然のことで、災害はともかくとして、中世からの歴史の地が変貌してしまうことの方がわたしには複雑な思いである。釜沢の東側にそびえる山は「除山」という。このノゾキ山については二通りの伝承がある。釜沢の奥に御所平というところがあって南北朝時代にこの地とかかわった宗良親王の歌碑がある。「いずかたも、山のはしかき、しばのとは、月見るそらやすきなからずや」というものである。宗良親王の后であった紀伊の后が、せめてこの山が取り除かれたら吉野のように空が広くなって、月が長く見えるだろうといったもので、そこから除き山といわれたというのだ。

 いずれにしても記事ではこのトンネルでの排出土砂を事例にしたまでのことで、全線に渡ってこうした土砂が排出されことを懸念しているということになるのだろう。そして記事の末尾で「トンネル残土で自然破壊や災害が起こらないようにしたい」と暗にその対応を軽んじてはいけないということを示唆している。

 AkiさんがリニアCルート現地見学会について報告している。伊那谷の地質に詳しい松島信幸氏の案内があったようでこのことについてはニュースや新聞でも報道されている。中央構造線の谷を縦断してみれば解ることであるが、この谷には崩壊地があちこちにある。顕著な地すべり地帯でもあって、その対策に負われるのは止みそうもない。ようはこの釜沢の地で地上に顔を出すのは実現したとしてもリスクは負わなくてはならない。釜沢だけではなく中央構造線の谷に顔を出すということは同様ではないだろうか。Akiさんによれば「常識的にトンネルを掘るような場所ではない」と松島氏は述べたという。諏訪から南信濃にかけての谷の中でも大鹿村あたりはとくに崩壊地の多い場所である。

 「そもそもリニアそのものが必要なのか」という言葉を妻も発する。しかし現実的にはその議論が巻き起こって夢の話になるという可能性は低い。欲しいのは大都市圏に住む人たちであって地方にとってはほとんど雀の涙的なものであることは言うまでもない。建設費が安く済むからといって無人地帯を走らせ「そんなところに駅はいらない」と言っている都市圏の人間の言葉を聞いていると虫唾が走るわけである。やはり横暴というものだろう。
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