HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

創るならこんな店。

2019-05-01 06:29:50 | Weblog
 令和元年、最初のコラム。と言っても、構成や内容は平成をそのまま引き継いでいくつもりだ。ところで、EC、ネット通販の隆盛は新時代も衰えを知らないだろうから、実店舗の役割がますます問われていくと思う。いろんな識者の言説を見ると、いかにしてお客に来てもらうか。それにはネットにはない「リアルな購買を含めた体験」がカギになるという点でほぼ共通する。ただ、現状ではそんな方向性しか見出せていないようだ。

 筆者のように「現物の商品に触れて、色、素材、質感を確認したい」。そして、「試着をしてフィット感や肌触りを確かめたい」「服だけでなく、身につけるものはすべてで」は、もはや少数派。お客がサイトで商品を見つけ、実店舗などで受け取って試着しても、「やはり何か違う」「これじゃ、買う気になれない」となれば、EC部門も店舗も経費は発生するのに売上げがつかず、全くの徒労に終わってしまう。

 ネットビジネスはそれをいちばん嫌うだろうし、そうしないためにはどうするか。事業者はそこに頭を使っているはずだ。ただ、実店舗しかなかった時代にもお客が店頭で商品を確かめ、接客、試着後に気に入らないので、購入しなかったケースはあった。商品は店舗まで配送しているわけだから、当然コストはかかっていたことになる。

 ECは商品が売れないのに店舗、人にコストがかかっているのは、「無駄」として極力排除したい。流通させる商品はできる限り消化する。そのためにAIまで活用してデータを洗い出し市場に流す在庫量を最適化して、利益を最大化したい。そう考えると、ECは、リアルな店でしかい味わえないこと、そして、お客のマインドに訴えるサービスといった数字に表れないものは、重視しないということか。

 ECを主力販路とすれば、企業にとって実店舗とは試着する場や注文の受け取り、他店売り切れの場合の引き当て、宅配出荷という拠点でしかなくなってくる。言い換えれば、実店舗はECにはない体験をいかに提供するかにかかってくるわけだ。では、この「体験」とは何かである。すぐに思いつくのはテーマパークのようなアトラクションだろうか。まあ、ストアレベルで大がかりな仕掛けは無理だから、まずはハード面でお客を魅了する店を作り、楽しい空間で体験を演出するか。そんな店舗が先日、出現した。

 あのティファニーが渋谷にオープンした「ティファニー@キャットストリート」がそれだ。高級宝飾店の敷居を下げ、誰もが気軽に入れるようにし、これまでにはない購買体験を提供することで、ティファニーを知らなかった人々にも商品に触れて買い物してもらうのが狙いのようだ。

 店内はティファニーブルーで統一され、香水が購入できる自動販売機があり、ティファニーTやホームウエアも揃う。宝飾品しか扱っていないというイメージをここで完全に覆している。もちろん、ネックレスやペンダントにつけるチャームには、iPadで書いたメッセージを刻印できるサービスも導入。ジュエリーを手に取って試着できるスタジオまで完備する。さらにカフェまで併設して、コーヒーやドーナツを楽しめるというから、「ティファニーで朝食を」ならぬ、Coffee break at Tiffany’sを地で行く店と言ってもいいだろう。まさにカジュアルで、時流に合わせたショップだ。



 筆者は1980年に初めてニューヨークを訪れて以来、5番街57丁目南東角のティファニー本店は何度となく覗いて来た。店舗は映画に出て来るあの格式ある作りだが、1、2階に並ぶショーケースをくまなく見ると、低価格のシルバーアクセやガラス器もラインナップされていた。その中から「三色三連リング」や「オープンハート」が日本でもリプロされ、免税上限の39800円でヒットアイテムになった。ティファニーは80年代にカジュアルライクなジュエリーのトレンドも創っていたのだ。

 高級宝飾店のブランドを維持しながら、MDとプライシングでは幅を広げて市場を攻略する。90年代半ば、現地にいた時は日本はバブル経済が崩壊し、宝飾品の売上げが下降していた。それでもティファニーは小規模店を百貨店に開設して、さらなるブランド浸透の手を緩めることはなかった。おかげで、知り合いから日本に売っていないアイテムを買って来て頼まれたこともある。まさにグローバルブランドの目ざとさがある。

 すっかりニューヨーク慣れし、ティファニー本店の構造もレイアウトも頭には入ったつもりで店内を回っていると、誤って奥の従業員用エレベーターに乗ってしまった。上がった先にあったのはスタッフが作業する工房。恥ずかしまぎれに「I was lost . Sales floor ?」と告げながらも、 ジュエリーの加工やリフォームに当たる現場の様子を確かめられたのは、実にいい経験となった。



 一方、エンポリオアルマーニは期間限定ながら、いろんなゲームができるイベント「エンポリオ・アルマーニ・イーグルアーケード」を開催した。店舗ではアルマーニのアイコンでもあるイーグル柄のキャンディーがもらえたり、バイクの乗った感覚でタイムトライアルが楽しめたりするゲーム機を設置。缶バッジが入ったカラフルな容器が出て来るカプセルトイマシンまで据付けられたのである。

 イベントは参加者のタイムを記録し男女の優勝者を決定。賞品として時計などが贈られたという。ゴールデンウィーク中には博多阪急、連休明けには高島屋新宿店、5月末には高島屋日本橋店、6月には高島屋大阪店でキャラバン開催されるとか。筆者が住む福岡の岩田屋では4月末に開催されたが、デパ地下以外ほとんど百貨店に行かなくなっていたので、こんな体験型のイベントがあるとブランドショップのみならず、百貨店にも足を伸ばすきっかけになる。

 アルマーニはハイエンドのジョルジオ・アルマーニからバジェットのアルマーニ・エクスチェンジまで、グレードによる多ブランド構成になっている。ただ、店舗は大都市を中心にした展開だ。オフプライスストアでは並行輸入品が出回っているし、偽物をネット通販で販売し商標権を侵害する業者は後を絶たない。昨年も熊本の業者がエンポリオ・アルマーニなどの偽時計を販売し1億円以上を荒稼ぎしたとして、熊本県警に逮捕された。

 ウエアはディフュージョンラインのエンポリオとは言え、高額ゆえに現物確認なしでEC購入とはいかないだろう。しかし、精巧に作られた偽時計になると、ネット画像を見たくらいでは真贋がわからず、価格が手頃ならつい手が出てしまう。実店舗がない地方在住のブランド好きは、悪徳事業者の餌食になりやすいのだ。
 
 だからこそ、アルマーニ側にも「実店舗で現物の商品に触れてもらわないと」という危機感があると思う。そのためには高級ブランド然とした店舗のハードルを下げ、地方の若者でも気軽に立ち寄れるギミックが必要になる。それが若者が取っ付きやすいゲームだったわけだ。商品がアルマーニグッズならインスタ映えし、話題にもなる。



 もっとも、ゲーム機はそこらのゲーセンにあるようなしろものではない。機器全体をアルマーニのアイコンであるイーグル柄で覆うなど演出にも手が込んでいる。カプセルトイマシンに至っては、スタイルだけをみると単なるガチャガチャだが、縦2m横1mのアクリルケースにはほぼ満杯でカプセルが詰め込まれている。お客に「何が当たるんだろう」という気にさせ、インパクトは絶大だ。

 ECはすでに重要な販路で、ますます進化していくと思う。大手アパレルはECを主力販路に位置付ける中で店舗には試着、受け取り、在庫引き当て、宅配出荷などの役割を持たせようとしている。顧客に対してショッピングの利便性を追求しながら在庫の効率を高め、宅配外注費を圧縮するC&C(クリック&コレクト)の機能を充実させる狙いだ。また、ZOZOTOWNもPB事業、ZOZOARIGATOの失敗を受け、アパレルや小売りから在庫を預かり欠品した時の引き当てにする事業を秋から始めるという。

 ECがこれまで店舗で発生していた売り逃しという機会損失から脱却する役割をより強めていくなら、実店舗はますます商品を売る場、買う場だけでは成立しなくなる。ただ、日本企業では経営者がB2C、C2C、B2Bといった販路拡大、市場攻略に傾倒し過ぎることが、クリエイティブな店舗観を盲目にしているような気がする。

 米国ではECに押され、廃墟と化すショッピングモールが続出している。でも、単に小売店を集めただけなら、当然と言えば当然だ。そうは言っても、映画や音楽、スポーツなどお客を楽しませる術では、米国はまだまだ世界をリードする。ティファニー@キャットストリートは、まさにエンタメの本家、米国のなせる技と言える。エンポリオ・アルマーニ・イーグルアーケードにしても、イタリア人的というよりアングロサクソンのマーケティング&クリエイティブ発想のように感じる。

 実店舗だからこそ、実現できる店づくり。少なくとも旗艦店には、それが求められると思う。そこに行かないと味わえない体験。お客のド肝を抜くような思いきったアトラクションこそ、EC時代の店舗には必要なのかもしれない。

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