HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

後発の強みはない。

2020-03-11 06:55:38 | Weblog
 商業界オンラインが3月4日に「ワークマン包囲網が形成されている!」という記事を配信した。(http://shogyokai.jp/articles/-/2526)同社の媒体でチェーン店ビジネスのノウハウを提供する「販売革新」(以下、販革)が2020年2月号で掲載した記事のネット版だ。販革は定期購読しているわけではないが、目下注目のワークマンはメディアが取り上げるとつい目がいってしまう。

 販革の記事にある通り、ワークマンの潮目が変わったのは、建設技能労働者などプロ客に向けて作業服や安全靴、作業用品が団塊世代の引退で減少したことだ。これを機に戦略の見直しを余儀なくされ、2014年には中期業態変革ビジョンを策定。それまでのベンダー(納入業者)からの商品供給を改め、ウエアを主体としたPBの開発をスタート。ここで生まれた商品の防寒・防暑・防風・防水、動作性といった秀逸さがSNSなどで話題になり、ターゲットをプロ客だけではなく一般消費者にまで広げる戦略にシフトした。

 16年からはPBを用途別にアウトドアウエアの「フィールドコア」、スポーツウエアの「ファインドアウト」、釣りやバイク乗車時にも使える防水ウエアの「イージス」の3つに編成。19年からは一般客向けに3PBを軸にした新業態「ワークマンプラス」の展開を始めた。その後の快進撃は、各メディアがたびたび取り上げる通りだ。

 では、タイトルの「包囲網」はどうなのだろう。記事は「スポーツ・アウトドア系の高機能ウエアの低価格帯市場は空白で、その潜在市場は4000億円とにらんで、同社はワークマンプラスで参入。1000億円、25%のシェア獲得を目指している」。「土屋専務は『今期は主力3PBとPB『ワークマンベスト』で売上高400億円、10%のシェアになりそうだ』と言う」との上で、「他社も黙ってはいない。すでにその兆しが表れている」と、書いている。





 その一つが筆者の地元福岡のホームセンター(HC)「ナフコ」だという。ルーツは深町家具という家具店で、今もTWO ONE STYLEという家具業態を展開し、出店先によってはナフコとの複合展開もある。筆者はDIYが趣味なので、同じHCのハンズマンと並び工具の物色、ネジやサンドペーパー、ペンキなどの購入で、ナフコは月2〜3回は訪れる。確かに昨年12月に福岡県筑紫野市にオープンした「フィールスカイ」では「高機能リーズナブルウエア」を販売していた。また、記事には書かれていないが、ナフコ自体でも冬の間は同ブランドの防寒衣料の一部を店頭展開していた。

 筆者が福岡市近郊の店舗で見たのは、10坪にも満たない売場で展開された「モノクロ迷彩のダウンジャケット」や穿きやすそうな「暖パン」だった。一目でガテン系のおっさん向けにしてはあまりにこ洒落ていたので、「ナフコもワークマンプラスをかなり意識したな」と思った。ダウンジャケットはワークマンの同等アイテムに比べると、表地がしっかりしシックな色合いでファッション性も高い。タウンユースにもぴったりだと、ユニクロより好感が持てた。暖パンは光沢のある素材(多分ポリエステル)で、目もつまり防寒性は十分。冬場の屋外作業だけでなく、物流センターの低温倉庫でも、通年で着用できるとの印象を受けた。

 フィールスカイの全アイテムを細かくチェックしたわけではないが、レギュラー店に展開されていたアイテムは、それほど動いている様子はなかった。やはり、業態がHCだから半径10km程度の広域商圏でも、来店動機はプロ客が道具や資材で、一般のお客は家庭用品や収納、生活家電、文具類、種苗、あとは消耗品の購入に止まる。毎冬にはヒートテックを睨んだ防寒用の下着や靴下を展開しているが、これらも好調に売れている風には見えない。

 ナフコの客層はプロか、一般消費者で、資材や消耗品の購入がメーンだから、衣料品にそこまで目が行くとは思えない。ついで買いも難しいだろう。だから、ワークマンとの勝負するのは、あくまで新業態のフィールスカイそのものになる。ただ、ここもまだわずか2店舗しかない。商品はワークマンより優るものもあれば、劣るものもある。だが、カテゴリーの広さや奥行き、カラーバリエーションではワークマンには遠く及ばない。

 ナフコは北は宮城県から南は鹿児島県まで全国359店舗を展開する。プロ客を固定化し、カード会員も獲得している(筆者も)ので、そうした顧客にいかにフィールスカイをアピールするか。フィールスカイの店舗数が10店、20店と増えていくまでは、並行してレギュラー店での展開やアピール策などが必要ではないか。

 販革の記事は、同じく福岡に本部を置く「Mr.Max」が「アクティブウエアの取り扱いを拡大する」ことも取り上げている。ジーンズカジュアルの「ジャックコーポレーション」(金沢市)が既存店を業態転換した高機能、低価格の「ジャックワーク」(昨年10月で25店)、作業着の「たまゆら」(大阪府枚方市)がイオンモール鶴見緑地店に出店した「たまゆらアスレ」と合わせ、「『ワークマン包囲網』が形成されつつある」と、結んでいる。


強固のフォーマットは崩せない

 確かに、ワークマンが好業績(既存店売上高は昨年9月が前年比16.1%増、消費増税の10月はさらに23.8%増)を上げているのだから、他社も指をくわえてはいられない。おまけにアパレル各社はジリ貧状態なので、新業態の開発には血眼になっている。ワークマンプラスがあれだけ一般客に売れているのを見れば、「うちにだってできなくはない」「それだけの市場規模があるなら、攻める価値はある」と、他社が色気を出しても不思議ではない。

 ただ、根本的な「格差」を見なければならない。ワークマンプラスが快進撃を続けているのは、プロ向けで培ったもの作りと値付けに見られる絶対的な競争力にある。常に市場調査から設定した売価を絶対基準とし、その売価を超える商品は作らないこと。また、原価が抑えられるなら、設定売価を下回る価格で平気で販売する。低価格商品なのに原価率は64%と非常に高いから、売れるのだ。これは原価を20〜30%に押さえて安く作り、売れ残りロスや広告宣伝費をかけて売るブランドアパレルとは大きく異なる。

 なおさら、原価率が高くても利益をあげられるのは、独自開拓した中国や東南アジアなど海外工場との「直接取引」にある。社内の海外商品部が中国や東南アジアなどの工場に自ら足を運び、取引先を開拓。商品は仕様書発注に基づき、それらの工場で生産する。また、取引を見直したベンダー約150社のうち、主力の国内ベンダー31社とはオンラインで直結。ワークマンが需要予測に基づいて毎週商品ごとの希望納品数を発注し、ベンダーはデータなどを参考にして数量を決め、自主納品している。

 海外商品部は、総勢30名のうち10名が社内デザイナーという陣容。企画担当には大手セレクトショップでMDを経験していたスタッフも加わっている。あのカラフルな色合いや女性受けするスタイリッシュなデザインは、セレクトショップの商品企画が生かされているのだ。

 加えて、広告宣伝費も最低限に抑えている。一般のアパレルの場合、原価に占める広告宣伝費の割合は3%前後だが、ワークマンは0.4%(19年3月期・営業総収入に占める割合)と非常に低い。そして、基本的にセール販売をしない。プロ向けの作業服や安全靴、作業用品は機能性を重視されるため、流行がない。そのため、在庫処分の必要がなく、常時定価で販売できる。端から売価を低くしても利益を確保できるのだ。

 つまり、ワークマンのビジネスモデルでは、企画から生産、管理、販売までの「強固なフォーマット」ができ上がっており、その競争力は絶大だ。それを真似事レベルの数社が取り囲んだところで、到底攻め落とせるとは思えない。ワークマンプラスは、ロードサイド店のスクラップ&ビルドを含め30店が新店。既存店の全面改装が27店。ワークゾーンと一般客向けゾーンを分けて買いやすくした改装は93店と、すでに157店にも拡大している。

 つまり、盤石な戦術と戦略ができ上がっているわけで、他社が参入してくれた方が却って攻め返す手応えを得るのではないか。そう考えると、高価格帯のナイキやアディダス、海外のアウトドアブランドにまで影響が出始めていてもおかしくない。2号店で関東に進出するデカトロンは、あくまで棲み分けを狙うのか。





 アパレルの歴史を振り返ると、快進撃を続けて好業績をあげる先発企業を後発はいろいろ研究できるため、優位にビジネスが展開できると、勘違いした例が多い。西友のPBからスタートした無印良品に挑んだダイエーの愛着仕様しかり、ユニクロの店舗デザインを真似したダイエーのPASしかりである。まあ、そのユニクロも香港のジョルダーノをパックったという見る向きもあるし、初期の店名「UNIQUE CLOTHING WAREHOUSE」や内装は、1980年代にニューヨークのソーホーにあったストリートファッションの店舗とそっくりそのままだ。

 もっとも、無印良品やユニクロを見ると、後発企業はどこもその牙城を切り崩せていない。ワークマンもそうだと思う。後発企業にベンダーがパクリ仕様の模倣商品を持ち込み、バイヤーが丸め込まれたところで、ワークマンの絶対的な戦力、戦略の前に歯が立つはずもない。ナフコがワークマンに挑むなら、商品政策でも店舗展開でもより優れたのものを見せなければならない。まして、Mr.Maxは過去にPBアパレルを投入した時期があるが、結局は軌道に乗せることができなかった。今回も小手先の企画のように思えてならず、売場の中での埋没する可能性が高いから、マーケットを掘り起こせるとは思えない。


 真似るだけなら包囲はできても、勝利することは難しい。ワークマンとは違った独自性のあるビジネスモデル、フォーマットを考えることが先決ではないかと思う。

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