HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

ノベルティにみる戦略差。

2017-03-22 07:12:35 | Weblog


記念品1号はクロワッサンのペン

 今ではすっかり少なくなったが、中小のアパレルメーカーでも記念品やノベルティを作っていたことがある。といっても、狙いは顧客にブランドバリュを浸透させ、シーズン商品の販促につなげるグッズの感覚だ。そのため、数枚セットの「ポストカード」が定番で、製袋したオリジナル封筒に入れたDMにした。これを商品期初注文分の納期時には、パッキンに同梱して取引先に配っていた。

 筆者は重衣料が主体の秋冬シーズンで、このポストカードを何度か制作した。簡単なラフスケッチを描き、撮影用の絵コンテに落とし込む。モデルを選定し、カメラマンやヘアメイクを手配して、ロケをした。ラボから届けられたポジフィルムをヴュワーで選定し、使うフィルムにはダマトで印をつける。写真をトリミングし、タイトルやコピーを付けて入稿指示する。後はフィニッシュ、印刷に回せばOKだった。

 ポストカードはカッコ良く言えば、ファッションフォトである。初めてモデル撮影のロケを見たのは高校生の時だ。スタッフ陣がカメラのフレームに入らないよう脇に控えるのが印象的だった。アシスタントはレフ板を持って被写体に当てる光を調整する。ヘアメイクは風でセットが乱れるとすぐに直し、モデルの肌に少しでも汗が滲むとすぐに押さえる。「ファッション雑誌の写真はこうして撮影しているんだ」と知った。

 日曜早朝の表参道は、ほとんど人通りがなく撮影隊のメッカだった。その光景を見て、いつか自分がやってみたいと思っていたら、アパレルメーカーで運良く実現するチャンスを得た。ただ、仕事でやるとなると、大違いである。中小アパレルにとっては、あくまで洋服そのものの企画が秀逸であることが前提で、カッコいいイメージビジュアルはその次になる。記念品やノベルティを配布する以上、経費負担がバカにならないからだ。

 販促費はシーズンの売上げ予算から弾き出される。その枠で最高のパフォーマンスを上げるのがクリエイティブワークだ。デザインは自分で行っても、撮影や印刷は外注になるから、経費はかかる。コスト管理は重要で、経費抑制のためにモデル撮影をやめ、インスタレーション風にしたり、ボディ着用に切り替えたシーズンもあった。写真をモノクロにすれば印刷費は押さえられるが、カードの紙質を変えてもコストカットは高が知れ、かえって質感が落ちることも学んだ。
 
 ブランドの売上げ予算を多く見積もっても、販促費以外に営業などの経費が嵩むと、利益率は下がる。だから、筆者が記念品やノベルティの制作に携わることができたのは、3シーズンほどだった。販促をそれほど意識しないでいい春夏シーズンには、純然たるノベルティとしてブランドロゴを入れた「ブロックメモ」を作ったり、こ洒落た「シートソープ」をDMに同封したこともある。こちらは自社の商品を仕入れてくれるショップやバイヤーさんには好評で、それなりにいい経験となった。

 一方、本格的にプレスプロモーションの仕事を始めると、アパレル関連の広告制作やパブリシティに加え、取材依頼も舞い込んだ。広告制作だけなら雑誌の入れ広がメーンだから、記念品やノベルティの企画には携わらない。でも、ブランドショップが新店、小売業が新業態、デベロッパーが新物件をオープンする時には、プレスプレビューに参加する。これはアパレル側にいるのとは違って、別次元の体験となった。

 意外にも、初めて新店オープンのプレビューに行けたのは学生の時だった。大学3年の夏、博多で同窓会があり、同級生の女の子が南仏料理と豆腐を融合したパブレストランに連れて行ってくれた。そこで、後に福岡で「フレンチ雑貨店」をオープンするオーナーのY氏と知り合った。

 Y氏は飲食業の傍らフランス文化にも造詣があり、独自業態を開発する前に雑誌クロワッサンが手掛ける「クロワッサンの店をFCで経営しようと思う」と言っていた。そして、1981年、東京町田の東急百貨店に出店される1号店を見学するから、一緒に行かないかと誘ってくれたのだ。その時、どんな記念品をもらったかは記憶にないが、Y氏はめでたく福岡の新天町に開店した時、オリジナルの「ボールペン」を送ってくれた。



 Y氏が作ったのは真鍮製の重厚なものだが、三角形で持ちやすく、長時間使っても疲れない。フレンチ雑貨につながるセンスには感激で、ノベルティと言えど決して手を抜かないこだわりに敬服した。2000年頃、雑貨と豆腐料理を組み合わせた新店をオープンされた時にその話をすると、「スタイリストの吉本由美さんも同じようなことを言ってたよ。うちの商品を気に入って雑誌でも、取り上げてくれたし」と話していた。


お香からカステラ、鬼瓦、ギフト券まで

 1989年頃から雑誌の仕事を始めると、プレビューに行く機会が増え、プレスキットと一緒に何らかの品をいただくようになった。東京では89年の東急文化村、94年の恵比寿ガーデンプレイスなど、そしてニューヨーク滞在を挟んで、九州でも96年のキャナルシティ博多を皮切りに都市部、郊外を問わず個店から百貨店、駅ビル、ショッピングセンターまであらゆる業態に伺った。この30年近くで書いた記事と並行して、もらった記念品やノベルティも相当の数、種類になる。

 もちろん、筆者は記者が専門でも本職でもないし、もらった物で書く記事に手心を加えたことなどない。まあ、本業の記者さんもそうだろうが。ただ、記念品やノベルティの内容で、商業施設がどんな戦略を描いているかは想像できた。例えば、1996年秋にオープンした「岩田屋Zサイド」では、スタイリッシュな「インセンス(お香)」をいただいた。その時は「選り抜いた記念品が象徴するような店にしたい」のだろうと思った。



 岩田屋は来るべき天神流通戦争を勝ち抜くために、MDをライフスタイル・テースト別に編集し、買い取り・自主販売という画期的な取り組みに挑戦した。ところが、思うように売上げは伸びず、Zサイドオープンから6年後の2002年には私的整理ガイドラインのもと、伊勢丹に傘下入りして再建の道を歩むことになった。

 記念品を選定した担当者のセンスと裏腹に、商品政策はお客のマインドをつかみきれなかったのだ。ただ、筆者の目には成りもの入りのMDも、百貨店系アパレルをむりやり集積し、手当たり次第に取引可能なブランドをかき集めたとしか映らなかった。品揃えは豊富でも、これといって買いたいものがない。

 アテンドしてくれた担当者は「バーニーズを目指す」と宣っていたが、前年にニューヨークに居た人間からすれば「どこが?」って印象だった。 岩田屋Zサイドは単にメーカー企画の商品を買い取っているだけだから、素材やデザイン、仕様におけるオリジナル提案がなく、ブランドショップと比べても価値訴求が弱い。結局、昨今の惨状をみれば、必要なノウハウを蓄積していない中で、かけ声だけの戦略ではなかったのかと思う。

 開業がZサイドの翌97年秋だから、それが影響したのではないと思うが、「福岡三越」のプレスプレビューでは、某老舗菓子舖の「高級カステラ」をいただいた。メディアを集めたレセプションパーティでは、司会を務めた岩田屋のN社長がえらくカステラを自慢していたが、三越という百貨店の格式に合わせただけで、百貨店としての戦略はそれほど感じなかった。

 その後、三越は伊勢丹と経営統合して持ち株会社制に移行したが、大西洋元HD社長が構造改革に乗り出す中で、福岡三越はターミナル百貨店としての収益性からか、リストラの俎上には上がってはいない。ただ、カステラ同様に特別に珍しくもなく、そこそこの味わいというだけで、可もなく不可もない百貨店のままである。

 同じ年に開業したショッピングセンター「ダイヤモンドシティ熊本南」(現イオンモール宇城)は、いかめしい形相の「鬼瓦」が記念品だった。ダイヤモンドシティは当時、三菱商事とイオンが共同出資しており、施設開発では地域密着を貫く意思を表明し、地元テナント、地元産品に販売にも注力していた。出店先の小川町は瓦の産地でもあることから、記念品に採用したと広報担当者は語っていた。



 99年に開業した「トリアス久山」は、ダイエーの副社長、九州ダイエーの社長を歴任した平山敞氏がコンサルタントに転身し、開発を手掛けた物件である。団子三兄弟を唄った女性歌手の実父らをパトロンにして資金を集め、テナントにはコストコ日本1号店やヴァージンシネマを誘致するなど新機軸を打ち出した。

 内見会は冒険家で有名なリチャード・ブランソン・ヴァージン会長が来日するなど盛大なもので、記念品の次元をはるかに超える5000円の「JCBギフト券」をいただいた。デベロッパーとして、参列者には本気度を見せたかったようである。でも、1社1枚という決まりがあったようで、東京からも多くのメディアが駆け付け、複数の記者、報道スタッフが受け取ろうとした時、広報担当者があわてて回収する一幕もあった。


公開は顧客となる住民やカード会員を先に

 他にも、ゆめタウン筑紫野、セキアヒルズ、博多リバレイン、ソラリアステージ、ゆめタウン博多、リバーウォーク北九州、モラージュ佐賀、ダイヤモンドシティ・ルクル(現イオンモール福岡)、ゆめタウン佐賀、ミーナ天神、天神VIORO、福岡パルコ、イオンモール筑紫野、JR博多シティ、木の葉モール、イオンモール福津、博多マルイ等々、毎年のように商業施設が開業した。そのほとんどで、いろんな媒体からの取材依頼があったものの、とてもすべてに伺うことはできなかった。

 もっとも、近年では施設側が顧客を囲い込むためにメディアより先に地元住民やカード会員に公開する傾向を強くし、プレスプレビューはあまり重視されなくなったように感じる。そのため、プレビューに参加した施設の記念品やノベルティが何だったかは、ほとんど記憶にない。端からプレスキットのみのところもあったと思う。

 ミスターマックスは、新店オープンの記念品にはPB商品を活用しており、消耗品の乾電池などをもらうと、非常にありがたく印象にも残る。中には新開発の試供品もあり、H社長自らメディアから利用者の意見を聞かせてほしいと語るなど、マーケティングの参考にする狙いも受け取れた。

 2011年に開業したJR博多シティでは、「ロディア」のメモ帳とレザーカバーをいただいた。一番小さいサイズだったが、地元九州はもちろん、東京からもテレビ、雑誌が取材に来ており、その数は優に100社を超えていたのではないか。 ロディアの調達先はたぶんキーテナントの東急ハンズだろうし、JR九州としては上場益を見越してのプレ配当感覚とすれば、高く付かないとの判断だったのかもしれない。

 昨年オープンした「博多マルイ」では、粋な記念品をいただいた。テナントとして入居するビルが日本郵便が運営する「KITTE博多」ということで、丸井は自社のロゴマークと博多織をモチーフにした「記念切手」を作成。これがメディア関係者に配られたのである。記念切手は単なるノベルティとは違い、受け取る相手には実用性とプレミアが同時に伝わる。郵便で使用すれば消印が押されるものの、デザイン的に独特の趣きが生まれる。嵩張らないので、ずっと残しておくのも可能だ。

 筆者は丸井で数々の買い物経験がある。その丸井に再び博多で出会い、記事を書かせてもらったのも何かの縁である。コレクターではないが、その思い出として切手は大事にとっておこうと思う。ただ、記念品やノベルティはあくまで「心づかい」の域を出ないし、相手方のご厚意にもらう側がとやかくいう立場ではないのは承知の上だ。

 されどである。 丸井は百貨店からテナントビルに戦略転換しただけに、没個性にならないようにとの狙いもあったのだろう。やはり記念品やノベルティにも企業戦略における考え方や方向性が滲み出るのだ。だからではないが、自分の立場に当てはめると、いただくよりも企画する方が性に合っている。
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ビジュアル以上の軽薄さ。

2017-03-15 07:11:58 | Weblog
 3月18日から26日まで開催されるファッションウィーク福岡(F.W.F)の公式サイト(http://fwf.jp/2017/)がアップされた。テーマは「オシャレボリューション!」。マップではじまるライブコミュニケーションアプリ「Pass!」、360°くるっと一周スタイリングを撮影することができる「360° FASHION SHOOT」などコンテンツが登場するという。

 昨年12月、「街のあちこちにオンリーワンコンテンツを創る」との目的で募集された参加者企画は、どこの誰に決まり何が催されるのか。それともPass!や360° FASHION SHOOTをコンテンツと呼ぶくらいだから、これがそうなのか。でも、オンリーワンかどうかの説明は何もなされてはいない。開始まであと3日だが、果たしてどんなイベント週間になるのか。年度末だからと予算消化のためにやっているようでは、継続する理由は何も見えて来ない。

 そもそも、F.W.Fは福岡市の高島宗一郎市長が「3月にも集客イベントを」とのかけ声で2013年に始まった。今回で5年目を迎えるが、初回から一貫したコンセプトが見えず、企画も場当たり的な内容に終始している。

 当初に掲げられた目的には「福岡に買い物に来てもらう」があったが、それを実現するための販促企画は実効性が乏しく、客寄せにもほど遠い内容だ。いつの間にか、方向性は集客よりも「参加」型にすり替えられている。でも、賛同の裏付けとして参加店・企業を募ればエリアは拡大するわけで、中心への集客目的とのギャップが生じるのは否めない。

 実際、主催者の福岡商工会議所、福岡アジアファッション拠点推進会議が報告する参加店&参加企業の実数にしても、全く詳細が明らかにされておらず、誇大計上ではないかと思われるほどだ。

 事業の全体像は、代理店に丸投げされた企画と、商業施設が単独実施するものをシンクロさせて、規模を整えているものである。しかも、自治体からの公金支援には限りがあるから、F.W.F単独に割ける予算枠はあいまいで、企業スポンサーに支援を頼らなければならないのが実情だ。

 第1回、第2回は、代理店がガイドブックをスポンサー向けの「広告枠」にして、ポスターやフリーペーパーの制作・印刷費を捻出した。ただ、デザイン事務所や印刷会社に仕事が流れるような媒体計画を主催者の福岡商工会議所、代理店のどちらが主導したのか。どちらにしても資金が集客目的ではなく、広報宣伝に使われるようでは「業者利権が絡みのイベントで、ファッションは口実に過ぎない」と言われてもしかたない。

 結局、プリント物のレスポンスが悪いのは火を見るより明らかで、第3回以降、経費が抑えられるWebによる広報、情報発信にシフトし、現在に至っている。

 メーンイベントにしても、第2回に開催された「ファッションマート」は、 前年10月から出店者の募集が始まったものの、「1日限り」「屋外というリスク」「法外な出店料」で、思ったような応募が集まらなかった。

 だからなのか、出店要件の「バザーではありません。洋服・雑貨・アクセサリーなどのファッション発信の場となります」はあっさり反故にされ、専門学校生が堂々と「古着」を売ることが許されている。これが福岡アジアファッション拠点推進会議の企画運営委員長がファッション部長を務める学校なのだから、大上段の企画で大見栄切ったところで、恥の上塗りでしかなかったのがハッキリする。

 第3回目は、福岡市が国から受けた「特区」事業を活用して屋台を集めたはいいが、せっかくの集客を各商業施設に還流させきれてはいない。おまけに地元ローカルテレビ局の情報番組(深夜3時半頃に再放送)「枠」を買い切って事業をアピールしたところで、どれほどの効果を実証できるのかは甚だ疑問である。

 第4回とて使える予算が限られた。3回目から参加商業施設に「買い物ポイント」を付与してもらう販促策が見られたものの、効果の有無は全く検証されていないし、何の報告もない。結局、参加型イベントがメーンとなるも学生が中心で、内容は学園祭の域を出ないものだ。これでは集客も一般客でなくて、大半が友人や親族ではなかったのかと言われてもしかたないのである。

 事業を所管する福岡市の経済観光文化局は、年度の決算報告(27年度版http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/55163/1/281014kkb1.pdf)でファッションウィーク福岡の成果・実績を「参加した店舗や企業」の「実数」というかたちで発表している。それによると、第3回(26年度)は260店・社、第4回(27年度)は302店・社となっているが、この数値は主催者である福岡商工会議所から提出されたデータをそのまま流用したもの。具体的な社名や成果の内容までは検証されていない。

 ファッション事業者の参加がどれほどの数に上るか、具体的にどのくらいの販促効果があったのかまでは全くわからないのである。第一、2016年のF.W.F公式サイトに掲載された「参加店」は、天神や博多駅地区のに位置する商業施設、服飾雑貨の個店を除けば、圧倒的に「飲食店」が多い。イベントが展開される天神や博多駅から3km近く離れた南薬院のレストランが参加して、はたして相乗効果が得られるのかは理解に苦しむ。そこまでして参加店を増やし、規模を嵩上げしようという主催者の姑息さが見え隠れするのだ。

 第5回目も年度末で残された予算額には限りがある。今回は「街のあちこちにオンリーワンコンテンツを創る」の目的で、「参加コミュニティ」が公募され、地場の企業・団体にスポンサー支援が求められた。

 参加コミュニティは「ファッションアイテムの企画制作・販売、ショーの制作出演他、関係する活動を行っている個人・法人・学校」を条件とし、企業・団体に「スペースの貸出及び付帯費用、協賛金15万円の負担、マッチングミーティングへの参加、プレゼン審査、実施費用の検討」を求めるものだった。12月21日にマッチミーティング及びプレゼンが行われたはずだが、結果がどうだったのかは発表はされていない。

 公式サイトで公表されたF.W.F独自のイベントは、前回と同じ「FUKUOKA STREET PARTY -Fashion Anenue-」のみである。他は協賛する商業施設がそれぞれ単独で行うものを組み合わせただけだ。アプリの「Pass!」と「360° FASHION SHOOT」は技術的なコンテンツであって、無理矢理イベントと定義付けるにしても、技術のアピールやテスト程度にしかならない。

 他には公式サイトに描かれたイラストの「F.W.Fモデルバッグ」プレゼント。こちらもベタ付けではなく、「期間中、イムズ・岩田屋本店・大丸福岡天神店・博多阪急・博多マルイで税込5,400円以上ご購入のお客様に『抽選』でプレゼント」というしろ物だ。ほとんどが集客にも販促にもそれほど貢献しそうにない「しょぼい」企画である。

 参加コミュニティとしてイベントに参加したい個人や学校が存在しないはずはない。ただ、スペースと協賛金を提供し、なおかつ費用まで負担する企業や団体が現れたのかと言えば、やはり厳しかったと思う。というより、募集企画そのものがあまりに稚拙だったからだ。

 応募したのが専門学校生や駆け出しのデザイナーであれば、「フリマのようなイベント」になるのは目に見ている。ほとんど集客も販促も期待できないコンテンツにスペースや資金を提供する奇特な企業や団体が現れるとは思えない。結局、「街のあちこちにオンリーワンコンテンツを創る」は、絵空事で終わったのである。

 まあ、すでに福岡ファッションビル(FFB)が地元の若手デザイナーにステージを提供し、ショーが催されたわけで、これ以上、企業や団体に支援を請うのは虫が良すぎるというものだ。

 ただ、今回も企画運営委員長の学校だけは、ちゃっかり単独でイベント参加にこぎつけている。それが「岩田屋本店FWFコラボイベント始まりました!」(http://fwf.jp/2017/iwataya/99/)で、今回は写真の展示に止まるようだ。オープンイベントでのパフォーマンスではなく、単なる展示なら集客力のバロメーターにはならない。だから、うまく逃げたと考えることもできるが、所詮その程度の浅知恵ということである。

 今回、新たに登場したPass!、360° FASHION SHOOTはクリエイティブ関連事業のネット事業者を支援する予算が使われたと思われる。イベント週間はこうしたシステムをテストするには絶好のタイミングと言えるが、ファッション業界として販促効果がどうなのかは現段階で評価できる由もない。

 一方、ファッションウィーク福岡の最終日には客寄せ興行の福岡アジアコレクション(FACo)が開催される。この資金はF.W.Fを含めた市のクリエイティブ関連事業予算の中でちゃんと確保されており、それはもはや「聖域」化した感じさえする。

 昨年、JR博多駅前で起きた地下鉄工事の陥没事故の数日後にも、台湾で「TAIPEI IN STYLE~FACo in TAIPEI~」が開催されている。この影響で高島市長がこのレセプション参加をキャンセルしたか、当初から予定になかったかは定かではない。ただ、RKB毎日放送というローカルテレビ局の収益事業には、福岡市から「民間主導」とのお墨付きが与えられ、税金で資金が拠出されているのも事実だ。

 今回のファッションウィーク福岡では、公式サイトにNONCHELEEE(ノンチェリー)のイラストが描かれている。これをモチーフにしたオリジナルバッグをどれだけの人が欲しがるのか。タッチからして岩田屋や福岡大丸、博多阪急、博多マルイの客層とは合致しない。まして5400円以上の購入客がどれほど注文行動までとるか。懸賞の応募数はイベントの価値や情報発信力のレベルを表すのは間違いない。

 結局、予算がもらえるからと利害関係者が自分たちの思惑だけで、企画を実行しようとする。できないものは代理店等の外部依存で切り抜けようとしていく。コンセプトなどは微塵も無く、事業そのものが曖昧だから、手段が目的化してしまって運用が全くできていないのだ。

 「福岡に買い物にきてもらう」と地元志向を謳いながら、実際には利害関係者の自社優遇志向になっている。そんな事業ばかりやってて、社会的使命など果たせるはずがない。ファッションも小売りもわかっていない人間が口先で、「情報発信」だの、「地元振興」だのと唱えるだけなら簡単だ。

 批判すれば「弱虫の証拠」とかと、いかにも勝ち誇ったように言って来るが、所詮情緒的で中身のない反論に過ぎず、凡庸で知能の程度がはっきりしている。「クリエイティブ」という言葉を用いて、悦に浸るのは勝手だが、そんなもんで地元のファッション振興になるはずもない。

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序でにトライオンナウも。

2017-03-08 07:21:25 | Weblog
 知り合いのメーカーがファッションウィーク東京に来ないかと誘ってくれたが、年度替わりで結構忙しく流動的だ。

 ファッションウィーク東京には、昨年から通販大手のアマゾンが冠スポンサーに付き、コレクション直後に商品を販売する仕組みを先鋭化させようとしている。まだまだ一部のブランドに限定されるが、今回はアマゾンが選んだ3ブランドで、サイト内に開店する「アットトーキョーストア」とも連動する。スポンサーとして開催資金を拠出する以上、自社にとってのマーケティングや販売スタイルの進化を探る狙いが窺える。

 この「シーナウ・バイナウ」は、昨年春のロンドンファッションウィークでバーバリーが全商品に取り入れ、同秋のニューヨークコレクションでもバナナ・リパブリックが一部の商品で採用していた。

 コレクション後の営業体制は、基本的にBtoBだ。招待したショップのバイヤーなどからショー後の展示会で評価や意見を聞き、マーチャンダイジングに反映するなどしてオンシーズン向け商品化する。それをインポーターや商社、あるいはショップに卸売りするのだ。ところが、シーナウ・バイナウはコレクション直後にお客=C(顧客)に直接購入してもらうというBtoCになる。当然、卸業者や小売店はオミットされる仕組みだ。

 コレクションを直に見る(ライブ動画を含め)お客はテンションが上がっている。雑誌掲載やショップ陳列とかのワンクッションを置くより、ショー直後の方が商品残像が鮮明で購買意欲をかき立てる。ブランド側も売りにつながる可能性が高くなると踏んだのだろう。もちろん、粗利益も高い。逆にショーの直後でもお客から引き合いがなければ、半年後に店で販売するにしても売れない可能性がある。VOIDにしたり、修正に注力するタイミングも測れるわけだ。

 コレクションを開催するようなブランドは、「流行の先端をいきたい」「他の人よりおしゃれでありたい」「満足感やステイタスを得たい」という顧客に支持されて来た。卸やバイヤーもショーを見る時点で、「これなら売れるぞ」「あの店なら好むかも」「このお客さんに勧めよう」と、管理データを頭に浮かべ、仕入れに反映させていく。

 だが、激化するグローバル競争を戦っているコングロマリットや上場している有名ブランドの中には、ショーから店頭展開までにタイムラグがあり、ショーにかけた資金を回収できるかの見込み売上げより、Show now , Sell itの確実性を選択し始めたところがあるのだ。コレクション直後に売れると、商品が現金化され、キャッシュフローが進むメリットがある。また極端すぎるクリエーションは敬遠されるだろうし、より売りにつながるプロダクトが要求される。そのためには販売する商品は、コレクションの段階で生産を完了し在庫しておくことが前提になる。

 一方で、インポーターや卸に小売りまでの流通を頼らなければならないところは、簡単に移行できない。元来、高級ブランドであっても独立系のところ、あるいはセレクトショップと取引するようなファクトリーブランドは、ショーを開催してブランド情報をメディア露出させ、さらに全国各地のバイヤーを集めた展示会で受注を取り、そこからMD計画に落とし込んで生産している。長らくこうしたシステムにどっぷり浸かることで、在庫リスクを持たずに確実に卸売りして来たのである。

 世界中の店舗に商品を行き渡らせ、顧客が手にするには、一ブランドアパレルだけの力では自ずと限界がある。各地に点在するブランドファンに商品を購入してもらうには、毛細血管のような流通網が必要だ。血管の細部まで血流をコントロールする=開拓したルートに沿って物流量を捌く中間の卸業者なくしては、成り立たないのが現状である。

 インターネットの時代に入り、店舗販売とECを組み合わせたオムニチャンネル戦略は待ったなしと言われる。しかし、それに対応するには、生産・在庫管理からデリバリーまでを一元化したグローバルな流通体制を整備しなければならない。シーナウ・バイナウを行っているのがバーバリーなど一部のブランドに止まっているいる点を見ると、こうしたイノベーションは容易くはないのである。

 加えてアマゾンなどネット通販の拡大により、ヤマト運輸では業務量が増えて現場から「悲鳴」が上がり、労組から荷物の扱いについて改善要求がなされる始末。物流が追いつかなくなっており、このままではイノベーションどころか、配送態勢すら破綻しかねない。急成長するECにも死角も生じているわけで、アパレル業界としてオムニチャンネル戦略に与する上では、痛し痒しといったところだろうか。

 結局、シーナウ・バイナウと言っても、有名ブランドがとる手法は作った商品を売り減らすのではなく、ある程度アイテムや型を絞り込んだ上で流通させていくのではないか。それもサンプルの段階で、バイヤーなど市場に近い人々の意見も参考に取り入れ、売れ残りロスを出さないものを製造していくのではないかと思われる。

 もっとも、シーナウ・バイナウの背景には、半年先にコレクションを行うことがビジネス的に見てどうなのかと、仮説と検証がされ始めた点には注目すべきだ。1年前にテキスタイル展が行われ、2年前には流行色が決まっている。色から生地、企画デザインまですべてを前倒しで行く業界慣習がビジネス重視の時代に合わなくなっている面もあるだろう。

 ファッションは気候や景気の影響を受けやすい。市場はグローバルで、自然災害やテロ事件などの社会不安はもちろん、米国大統領の「つぶやき」さえ世界経済に与える影響は小さくない。市場は変化に晒されると、そこかしこでシュリンクする。誰も2年後に売れる色、1年後に売れる生地、半年後に売れるデザインを言い当てることはできない。

 だから、出来るだけ企画から販売までのスパンを短くして、オンシーズンに近づけて販売していこうという試みは理解できる。ただ、半年前からのショー、展示会、生産、販売といった仕組みが崩れてしまうと、独立系の高級ブランドメーカーやファクトリーブランドは完全に駆逐されるかもしれないのだ。

 今回、アマゾンが開店するアットトーキョーストアは、これから東コレ系のデザイナーブランドにもシーナウ・バイナウを勧めていく布石と見ることができる。しかし、彼らが卸やバイヤーの存在の抜きに、またコレクションの段階で在庫を抱えるほどの資金力、与信力を持てるはずはない。スポンサーとてそこまでのリスクを持てないだろう。とすれば、日本ではまだまだ現実的とは言い難い。

 それでなくてもネット購入の増大に伴い、オークションやユーズドのマーケットも拡大している。シーナウ・バイナウに向き合うお客は一方で、買い物に対する冷静さを失っているかもしれない。そうしたマインドでは衝動買いが確実に増える。アマゾンとってはマーケットプレイスの市場が増えるからいい事かもしれないが、ブランド側には価値を下げるリスク要因でもあり、一長一短はあると思う。

 今もそうだが、コレクション後の展示会では、男性バイヤーでもレディスの商品について自分で袖を通したり、羽織って姿見に映す姿が見受けられる。直に触れて質を良さを確かめてから仕入れることは、服作りを行う側への敬意であり、デザイナーとの暗黙のコミュニケーションでもあるのだ。それさえ、無くなってしまうシステムに一抹の寂しさは拭えない。

 個人的にはシーナウ・バイナウだけでなく、ショーが終わった後に別室でトライオン・ナウくらいのサービスを行ってもらえたらありがたい。ブランドであるからこそ、質感や着心地は確かめて買いたいのがやまやまだからである。
 
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提灯記事でネタ作り。

2017-03-01 07:32:14 | Weblog
 福岡は小売り主体の街だが、卸が全くないわけではない。筆者が生まれ育った博多部でも店屋町にはかつて卸商が集まっていたし、九州各地から仕入れに来る人々の利便性を考え、博多駅周辺にメーカーが支店を出していた。その後、モータリゼーション、高速道路の発達で東区の福岡インター近くに流通センターが開業した。

 博多駅にほど近い「福岡ファッションビル(FFB)」も、卸やメーカーを集めた専門ビルだ。ここは小学生の頃、プールにスケート、ボウリングと楽しんだ福岡体育館があった場所。地元を離れている間に閉館し、建て変わったようである。それも今年で開業36年というから、誕生は1981年のこと。そんな前だったんだと、改めて思ってしまう。

 東京や大阪を拠点を置く知り合いのメーカーが九州展を行う時に借りるので、たまに覗かせてもらっているが、常時入居するのは度・コンサバのメーカー。マーケットが縮小してジリ貧の一途を辿り、訪れる度に一つまた一つ退去しているように感じる。まあ、卸やメーカーの事務所ビルだから、来客が多いのは展示会の時くらいだろう。それでもシーンと静まり返って活気はなく、唯一、来店客が多いのが中洲で働くお兄ちゃん御用達のオーダースーツ屋なのだから、卸を集めたビルにとしては全く皮肉な話である。

 先日も知人が働くメーカーが秋冬物の展示会を開催した。「今の時代に半年先のトレンドがわかるの?」と思いつつ、企画した商品についてアドバイスがほしいとのことで、忌憚のない意見を言わせてもらった。その時も「テナントが歯抜け状態」との話になった。知人は「福岡では若手がアパレルを創業しないの?」と聞いてきたが、「小売りの方が東京や海外に仕入れにいくから、よほどの企画力や独自性がないと目に止まらない」「このビルの雰囲気じゃ、テンションが下がるし、創作意欲がわかないだろうし」と答えた。

 知人はビルの関係者から聞いたのか、「地元の若手デザイナーがここでショーイベントを開くらしいよ」という。その時は「これだけテナントが撤退したら、オーナーだって賃料を下げてでも埋めたいだろう。そのための懐柔策じゃないの」と答えたが、よくよく考えるとビルを1軒挟んだ西側には福岡商工会議所がある。

 ここに事務局を置く福岡アジアファッション拠点推進会議は、発足当時から学校生向けのインターシップを FFBに入居するアパレルに打診していた。それがスムーズにいったとの話は聞かないが、過去のファッションウィーク福岡でもイベントに利用したし、人材育成という目的でショーイベントを開催できないことはない。問題は資金である。

 そんなことを考えながら数日たった2月21日、繊研PLUSが若手デザイナーのショーイベントについて報道した。http://www.senken.co.jp/news/startup/fukuoka-ffb/

 記事によると、福岡ファッションビル運営会社のエフ・エフ・ビーは、「博多駅からすぐという立地もあり、オフィスとしての需要も高まっているが、『ファッションの軸はぶらしたくない』と、若いデザイナーを支援し、FFBや福岡ファッション全体の活性化を狙っている」とある。

 加えて「ショーと連動し、3月1~17日には、福岡パルコの『ウォール』で3ブランド(ショー出展)の期間限定店を開く。同18~26日のファッションウィーク福岡期間内には、FFB1階で展示もする」とのこと。

 さらに「福岡市は地方創生の一環として、クリエイティブ関連産業の振興に力を入れている。デジタルやIT情報技術分野が主だが、ファッションも対象の一つだ。FFBも「市の方針とリンクし、今後も若手ブランドのショーを継続していきたい」という。

 なるほどである。補助金は福岡市のクリエイティブ事業予算から引っぱり出したようだ。この事業は記事にあるようにゲームクリエーターやWebデザイナーが支援の対象になるが、予算割当や執行についてそれほど明確な根拠はない。担当部局へのアプローチ次第で、割り振りはどうにでもなるように感じる。

 もっとも、事業におけるファッション振興関連の予算枠は、客寄せ興行の福岡アジアコレクションに注ぎ込まれている。そのため、ファッションウィーク福岡は予算が少なく、地元企業にスポンサーとして資金拠出を願い出る有り様だ。ファッション分野における「本来のクリエイティブ事業」で、駆け出しのデザイナーは蚊帳の外だっただけに、少しは事業の恩恵が受けられるようになったようである。

 それはともかく、記事には「ショーには、地元のファッション関係者やモデル事務所関係者、メディア、ウォールの顧客など約300人が来場した」とある。ここからの行はメディア向けの話題づくり、箔付けがみえみえに思えてならない。

 「地元のファッション関係者」とは、実に都合の良い言葉である。その範疇は限りなく広いから、誰でも関係者となってしまう。本来のショーならバイヤーが観覧してしかるべきだし、そう書かれないところがデザイナーが地元の評価を得ていない証左。それに「東京や大阪の専門店数軒と取り引きしている」というのなら招待してもいいし、来ないにしても店名ぐらい記しても良さそうなものだ。

 マイナーなデザイナーズものをお客に売るのはまだまだショップだし、有名店や敏腕バイヤーが見に来てこそデザイナーの格が上がる。それがファッション業界だ。もの作りは確かか、 お客の信頼を得られるクリエーションか、フォローはきくのか。その辺がハッキリしないのでは、記事を読んでも新規に取引する気にはならない。そもそも地元の有名店から地元デザイナーの話を聞いたことがないのだが。

 「モデル事務所関係者」は、一連のクリエイティブ関連事業でようやく地元の事務所も仕事をもらうことができたから、バーターで出席を要請されたのだろうか。福岡アジアコレクションが東京からタレントをつれて来るばかりで、地元に中々おこぼれが来ないのはわかる。しかし、ショーの写真を見る限りでは、抱えるモデルたちが東京の事務所からオファーがあるほどのレベルではない。それが現実だからしょうがないのだが、それでも少しはガス抜きになっただろう。

 結局、来場者300人というのは、ショーのレベルを取り繕うために嵩上げした評価数値と言わざるを得ない。アッシュペー・フランスが運営する「ウォール」の顧客もそれなりにいるだろうが、専門学校生もかなり含まれていると思われる。集客の人数を稼ぐために学生を動員するのは、以前から主催者の常套手段だった。ショーイベントをこの時期に開催したのも、後期の授業がちょうど終了し、頭数を確保しやすいからと考えられる。



 本来ならファッションウィーク福岡の期間中にショーを開催するのがベストなのだが、春休みに入ると県外出身の学生が帰郷してしまうので、この時期しかなかったわけだ。ととのつまりが、この行には「ショーには多くの人間が観客として訪れた」という「権威付け」の意図が透けて見える。これも主催者側はプレス活動と考えたのだろうが、見え透いた魂胆でショーの体裁だけ「パルコレ風」を装って記事を書かせても、どんなステイタスになるのだろうか。業界人が読めば、「提灯記事」以外の何ものでもないのがわかるのだ。

 デザイナーが本当に実力の持ち主なら、東京でも海外でも出て行くだろうし、メーカー側からもオファーがあるはずである。そうではないところに、福岡在住のデザイナーの実力が知れる。その証拠に記事中に登場しているデザイナーは、「香港のカットソーメーカーに呼ばれて半年間働き、帰国した後にブランドを本格的に始めました」とあるが、たかが半年で技術やノウハウを身につけられるわけがない。

 もし、海外メーカーから請われるほどの実力なら、メーカー側が半年で手放すだろうか。第一、香港の就業ビザが降りる条件は、専門性の知識や経験が必要になる。英語も中国語もできず、仕事の経験もない専門学校出が、簡単にビザ取得をできるとは思えない。それ以上に法令では「初回のビザ取得時は2年の就労が認められる」のだから、雇う側が半年で帰国させる方がおかしいというものだ。

 出身校名を見ると、その謎も何となく解けた感じである。福岡アジアファッション拠点推進会議の企画運営委員長の学校である。この御仁が卒業生に恩を売るためにショーイベントを仕切って、パブリシティを繊研新聞にゴリ押しするなど、水面下で申し合わせたのは想像に難くない。でも、記者がその辺のいい加減さを突っ込めないところに、提灯記事に成り下がった元凶があるとも言える。それとも、何らかのリターンでもあったのだろうか。ともあれ、税金でカネをバラ撒いて一過性のイベントをするくらいで、デザイナーが育つわけがないことは確かである。

 FFBが言う「博多駅からすぐという立地もあり、オフィスとしての需要も高まっているが、『ファッションの軸はぶらしたくない』と、若いデザイナーを支援し、FFBの活性化を狙っている」にも、首を傾げたくなる。コンサバメーカーがジリ貧状態の中で、なに浪花節をヌカしているのだろうか。今、アパレルに必要なのは発想の転換であり、活性化させるには異業種からの参入に他ならない。ベンチャー系など気鋭のビジネスを仕掛ける企業をどんどんテナントに迎え入れ、積極的に意見交換を行うなどで自社に足りないものは何なのかを検証しなければ、変わるきっかけすらつかめない。

 デザイナーが自分が好きなデザインの服を作って売ったところで、ビジネスの展望など開けるはずもないのである。ビルオーナーは駆け出しのデザイナーにイベントスペースを貸したくらいで、彼らが恩義にかられて将来店子になってくれるとでも思っているのか。営業力のない若手デザイナーを迎え入れたところで、家賃収入を得られる保証などないのである。今のデザイナーアパレルにはレップのような営業面のフォロー、マーチャンダイザーなどの態勢、さらにベンチャー的発想やITのノウハウが不可欠なのは言うまでもない。そうしたビジネスモデルを構築できてこそ、FFBにとっても魅力あるテナントになるはずだ。

 そのためにはデザイナー側も地元の店舗が売りたくなるような服を作って、実力を証明べきだと思う。ウォールにしても仕入れる側が小物や雑貨を主体にしたがるのは、店舗スペースが限られ、在庫負担が軽いからだし、服なら東京や大阪にもっと優れたデザイナーが大勢いる。こうした状況を知った上で、だったらどんな服を作ればいいのかを察知しなければ、地方のデザイナーなど注目されるはずもない。テレビ局の事業に税金を注ぎ込み、専門学校の学生集めに利用されるようでは、地元ファッション全体の活性化なんて、ほど遠い話である。

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我が儘に応えるAI。

2017-02-22 07:28:10 | Weblog
 業界では2月を決算月にしている企業が多い。結果が下方修正なら場合によって赤字事業の撤退や切り離しなどが必要になる。その上で、リエンジニアリングというか、売上げ回復の道筋を立てていかなければならない。

 最近、業績不振の企業経営者がこぞって口にし、中期計画にまで盛り込むのが「EC戦略」だ。マーケティング調査でも、「ネットで買い物する」のみ増えていることから、よほど魅力的に映るのだろう。

 そんなことを考えていると、取引先の社長が言っていた話を思い出した。実店舗しかない時代のことだ。「一現のお客さんが店に入って来たけど、何も買わずに去っていった。キミたち(店舗スタッフ)は、それを簡単に見過ごしてはいないか。実はここに大事なヒントが隠れているんだ」と。

 「お探しのものはございましたか」「見つからなければ何なりと申し付けください」と、声かけするのは当然である。スタッフもそれはわかっている。さらに加えるなら、「それが嫌なお客さんもいるから、POPに書いて目立つところに貼っておく」。「来店アンケートハガキを持って帰ってもらい、記入して投函してもらう」。そこまでしないと、店側はお客さんの気持ちがわからないし、戦略構築のヒントもつかめないんだと、熱っぽく語っていた。

 確かに実店舗では商品が購入されない限り、お客がどんなニーズなのかはわからない。お客は移り気だし、我が儘だ。来店したが何も買わないで帰ったのなら、それは探している商品が見つからなかったのか。置いている商品が気に入らなかったのか。またまた他に理由があったのか。

 EC全盛の今、そうした顧客管理は容易になったが、それを実店舗にリンクさせようというところはまだまだ少数派だ。だからこそ、ECと実店舗を上手く連携させて、お客が何を求めているかのデータを一元管理することが重要になるのである。

 例えば、「Webサイトでは濃紺のパンツが売れた」というデータがあるとする。それは「本当は黒が欲しかったけど、なかったから濃紺が売れた」のか、「端から紺系が求められた」のか。その理由をECならレビューなどを通じて確認できないことはない。ただ、実店舗のお客についてもよりきめ細かく探ってECと一元管理できていれば、より中身の濃い情報として蓄積できるはずだ。

 それらをビッグデータ化しておけば、お客の買い物動向や客層別で何を求めているかが探れることになる。商品づくりやフォロー、品揃えにも反映できるわけだ。もはや「無難だから、紺を揃えよう」という程度のバイイングでは通用しない時代である。さらにPOS頼みの手法からも脱却しなければならないのである。

 他にもICタグを用いれば、在庫の動き、購買行動の情報管理は有利になる。さらに映像を使うと、お客が買い物かごに入れた中身までチェックでき、AI(人工知能)で購買行動まで分析できる。手持ちアイテムからおすすめサイズで仮装試着が可能など、ECによる接客&販売手法は日進月歩である。EC戦略への注力は当然、莫大な投資が必要だし、それでどこまで糸へん、アパレル側が潤うのかと、逆に不安になってくる。

 お客の側から言わせてもらうと、筆者ですら実店舗よりECで衣料品を購入するケースが確実に増えている。理由は実店舗ではブランドやテナントの顔ぶれが決まっており、自分がイメージするような商品に出会えなくなっているからだ。また、そうした商品をどこが扱っているのかわからないし、探すには相当の時間と労力がかかってしまう。その点、ECはデザイン、素材、感度という服を購入する条件では海外のサイトまで選択肢が広がり、見つかる可能性が格段に高くなる。

 実際に買う買わないは別にしても、Webサイトへのエントリー=「入店」という行動は確実にあり、お目当てのテイスト、デザイン、色についてチェックしている足跡は、もの凄くあるはずと思う。そうしたデータに基づいでアドサーバーから、筆者が好みそうな商品のバナー広告が送られて来る。実際、サイトでの商品の購入履歴やクリックしてスペックなどを確認したエントリーデータも、確実に残っていると思われる。

 最近、そうしたデータを収集して解析し、客層別での品揃えに生かし、実店舗にしていくといった業態開発ができるのではないかと思うようになった。一言で言えば、究極マーケットインであり、お客が求めている、探している商品を実店舗で、実際に目で見て触れて着心地を確かめてから購入できる、EC+実店舗の進化型ともいうべきか。

 ブランドならネット購入でもいい。アバターによる試着体験ができれば買う人はいる。バーチャル試着ができればサイズ確認ができるので好都合だ。ECではいろんな購買動機が作り出されている。しかし、それは「欲しいものが揃っている」というものではない。まだまだすでにある在庫、売上げが鈍い商品、利益を取りたいアイテムを「いかに伝えるか」「いかに買う気にさせるか」の次元だろう。

 成熟した客層になると、探している欲しい商品が手に入るなら、現物確認までタイムラグはあっても構わない。実際に確かめて買いたいという意識=我が儘なお客もいるのはずだ。それに対応することも、ECビジネスの新たな形ではないだろうか。

 今は2月に麻のシャツを着て、9月にウールのジャケットを着るような時代ではない。より季節に即した実需が起こるため、小売りではそれに対応した商品投入が求められている。何かあれば買うということは決してないし、必要でないものは売れない。だから、お客にとっては欲しくて買いたい商品が手に入るまで1週間から10日程度のタイムラグがあっても、十分に許容範囲と言えるのではないか。

 つまり、実需前にお客が求めるイメージの商品を手配できるような業態が作れないのか。ゼロからの商品作りは不可能だろうが、アパレル在庫〜ピックアップ〜物流〜品揃え(編集)の連携がスムーズにいけば、店作りは可能になると思う。もっと長いスパンで考えると、アパレル、もの作りにも生かせるだろう。ECによるビッグデータを活用して、その辺のマーケット攻略をビジネス化する手もありそうだ。

 ECはお目当てのブランドを検索し、購入するには便利だ。しかし、あまりに情報が多すぎるため、イメージキーワードを入力しただけでは、お目当ての商品に辿り着くのは難しくなっている。

 例えば、現状の通販サイトでは「ジャケット」「ウール」「ネイビー」「きちんと」というキーワードを入力した時、トップには「紺ブレ」が続いて出て来る。そこからお目当ての商品を探すのはひと苦労だ。だから、AIの力を生かして、購入履歴や検索データからお客の嗜好を割り出し、ネイビーのウールジャケットでもピンポイントで探している人に向けた商品を揃える仕組みだ。

 米国の場合は、それをパーソナルスタイリストという「人間」が行っているのだが、「パーソナル」という意味合いは、「お客のファッション感性と同じ思考ができるか」「感覚や意識が共有化されているか」ということでもあり、PCやモバイルによるハード次元でもできなくはない。おそらくAIはそこまでの機能を持ち始めていると思うので、ビッグデータの解析〜MD構築〜販売といった仕組みを整備し、業態を開発することは不可能ではないと思われる。

 ECは実店舗を必要としない分、販売経費は大幅に圧縮でき、利益率を上げることができる。経営者の大半はここに目を付けていると思うが、価格が実店舗と同じならばコスト削減の分だけ商品の原価率を上げても良いのではとの理屈になる。そうはなっていないところにECの課題が見え隠れする。

 それならいっそうのこと、ECの次なるステップにパーソナルの意味を絡めながら、ビッグデータを活用したリアルタイムの市場開発&攻略というビジネスもあり得る。そうした部分にもっと踏み込んでも良いのではないかと思う。


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中身がないコンテンツ?

2017-02-15 07:29:53 | Weblog
 今年も3月18日から26日までの9日間、福岡市の中心部(天神や博多駅とその周辺)で「ファッションウィーク福岡(F.W.F)」が開催される。昨年12月には、週間の目玉イベントを展開すべく「福岡を拠点にファッションにまつわる活動を行うひとびと」を対象に「参加コミュニティ」が公募された。



 応募要件は、

①ファッションアイテムの企画制作・販売を行っている個人・法人・学校

②ファッションショーの企画制作・出演等を行っている法人・団体・学校

③その他、ファッションに伴う活動を行っている個人・法人・団体・学校など
F.W.F期間中に参加施設のスペースを使ってオリジナルコンテンツを発表いただける方
(原文のまま)

となっている。

 要項を額面通りに解釈すると、①は自ら創作したクリエーションを直販しているデザイナー、 アパレルや服飾雑貨のメーカー(卸)で直営店を持っているところ、卒業制作で試作品を作ったり、学園祭でバザーを行っているファッション専門学校などだろうか。

 ②はイベント会社やプロモーター、モデル事務所、ヘアメイクを束ねる美容組合、理美容専門学校が該当すると思われる。

 ③はファッションに伴う活動の範囲にどこまで含めるかということになり、「オリジナルコンテンツ」を発表できるところになると、洋服や小物のデザイナーから服飾製品を手作りする専門学校生、七宝アクセや草木染めの巻物などを作る工芸作家、さらにファッションフォトを撮るカメラマン、ドレスアップしたパフォーマンスアーチストまでと多彩になる。ファッションの解釈によっては、要は何でも公募要件には入ってしまうのだ。



 並行して参加コミュニティに対して「イベントスペース」を提供してくれる企業・団体も募集されていた。

 こちらの参加概要は、

①参加コミュニティの企画にあわせてスペースをお貸しいただく形となります。スペースの貸出費用及び付帯費用に関しては、ご自身の負担にてお願い致します。

②参加費用はFWF協賛費用として15万(税別)となります。

③2016年12月21日(水)に開催される、マッチングミーティングへのご参加をお願いします。また参加コミュニティより実施金額の提示(実費)があった場合、費用検討をお願いします。

④展開コンテンツ例:ファッションショー/ファッションにまつわるトークショー、及びイベント/POP UP SHOP等による商品の展示・販売/展示イベント等による商品・作品の展示/ファッションにまつわる情報を掲載媒体の制作/その他

④参加コミュニティとのマッチングが合意に至らなかった場合は、ご自身にてF.W.Fにまつわるイベントの展開をお願い致します。(原文のまま)

 となっている。


 ファッションショーと言えば、デザイナーズブランドがプロのモデルを起用して行うコレクションでない限りは、百貨店などが行うフロアショーか、専門学校生が卒業制作を披露するものくらいしかない。POP UP SHOPは卸先を見つけたい若手のデザイナーのものか、展示イベントはこれも専門学校生が手作りした作品くらいだ。

 ただ、フロアショーやトークショーレベルになると、百貨店なりファッションビルなりが単独のイベントとして行えばいいわけだ。披露するブランドやキャスティングされるゲストによって、そこそこの話題性や集客力をもつから、わざわざカネを払ってまでファッションウィーク福岡に協賛する意味はない。

 ところが、F.W.Fに参加する企業・団体には、スペースとその関連費用を負担し、さらに参加費用として15万円の協賛金を出し、かつコミュニティから要望があればイベントの必要経費まで面倒みてくれというもの。平たく言えば、ファッションに関わるイベントをやるので、「カネと場所を提供してくれ」とのこと。ずいぶんわがままである。こんな要求を突きつけられて、「喜んで」というところがあるのだろうかと思ってしまう。

 もちろん、応募した個人や法人、団体、学校も、フリーパスでスペースと経費をゲットできるわけではない。12月21日に実施されたマッチングミーティングの結果次第ということ。そこでコミュニティ応募者は参加希望企業や団体の前で簡単なプレゼンテーションを行い、合意に至らなければならない。企業・団体側も、合意に至らずもイベントに参加したいなら、自前で何かを行わなければならないことになっている。

 もっとも、「福岡でしか出会えないオンリーワンコンテンツを街中につくる」というのが参加コミュニティの大義のようだから、そんな簡単に参加が認められるはずがないということである。当然、スペースや資金を拠出する企業や団体側も、自らにとって集客や販促につながらなければあまり意味がないものと考えるだろう。

 2月15日時点で、12月21日にどれほどの応募者が集まり、誰とどこがマッチングしたかの公式な発表はなされていない。 F.W.Fの開催日が近づく2月末から3月上旬には概要が発表されると思う。

 イベント週間の最後に組み込まれている「福岡アジアコレクション(FACo)」は、チケット販売の関係からすでに詳細が告知済みだ。こちらは客寄せ興行としてプロデュースにあたるRKB毎日放送の収益事業になっており、福岡県、福岡市などから税金でおそらく2000万円近くの資金が拠出されているから、F.WF.とはずいぶん対照的と言える。

 F.W.Fに参加しようとする企業、団体にはスペースの提供どころか、協賛金、イベント経費まで要求されているわけで、この差はいったい何なのだろうか。企業や団体でなくても主催者に問いかけてみたくなる。税の公平な分配という見地からも、問題があると言わざるを得ない。まあ、裏ではいろんな利害関係者が蠢いているのだから、この件については県や市議会の聴聞に委ねるとしよう。


「若者に舞台を」と言えばいいのに

 ところで、問題はもう一つある。主催者が大義として掲げる「福岡でしか出会えないオンリーワンコンテンツ」とは何かである。公募要件では「オリジナルコンテンツ」となっているから、オンリーワンのオリジナルコンテンツということである。①〜③に含まれるものでは、洋服や雑貨、小物、工芸品、写真やアート、そしてパフォーマンスまでで、オンリーワンかつオリジナルになるわけだ。

 しかも、熟語には「街中につくる」とある。公共性の強いイベントだから、あからさまに物販=ものを販売し収益を上げるのは問題もあるので、ボカした表現にならざるを得ないのは理解できる。それでも期間が1週間程度だから、POP UP SHOPでの参加なら販売することも堂々と認められている。

 ただ、個人や法人の活動内容で、対象物のとらえ方が変わって来るはずだ。現に店舗をもって商品を企画販売しているのなら、わざわざ出店する必要もない。無店舗、新製品の紹介、新しい作品の展示とかならスペースが必要だろうが、オープンイベントの場合では対象客が限定されないので、集客という点ではかなり厳しいと思われる。結果的に対象者の友人や家族が見に来るという学芸会的にならざるをえないのは目に見えている。

 あれこれとそれっぽく要件を上げているが、「参加コミュニティの主な対象」は服や雑貨、小物などを手作りしている、写真を撮影したりアート(パフォーマンスを含め)を制作したりしている「学生」もしくは「駆け出しのデザイナー」「無名のアーチスト」に落ち着くのではないか。現時点ではあくまで限りなく現実に近い予測ではあるが。もちろん、企業や団体が独自でイベントを展開する場合は、この限りではないのだが。

 問題はその彼らが創作するものがオンリーワンのオリジナルコンテンツ足るかである。アートならオリジナルは言うまでもないし、パフォーマンスも創作演出を独自で行うならオリジナリティは出せると思う。しかし、写真は対象物、被写体が独自に創られない限り、オリジナルはともかくオンリーワンとは言いづらい。まして服や雑貨、小物といったファッションアイテムでどこまでオンリーワンかと言えば、手作りというだけで決してそうは言えないだろう。

 第一、福岡くらいの学生や駆け出しのデザイナーの認識において、服や雑貨、小物といったファッションアイテムで、オンリーワンのオリジナリティを出すために素材から創り出そうという発想はまずない。また、これまでに見たことのない素資材を探すためにパリやミラノなどの素材展示会に出向いているなんて話は聞いたことがない。百歩譲って大阪船場の生地問屋でデッドストックでもいいから探そう、尾州の機屋さんに残った布を買いに行こうという学生がどれほどいるのだろうか。学生自らではまずいないと思う。

 素資材すら地元の生地屋や手芸店で調達するのがほとんどではないのか。そんなものでオンリーワンとか、オリジナルとか言うようでは、あまりにファッションをバカにしている。今回の要件には「クリエーション」「クリエイティビティ」をいう言葉はどこにも出てこない。これは過去のF.W.Fではそういう要件を掲げながら、平気でルールを緩めてバザーを開催し堂々と「古着」を売った専門学生がいたからだろうか。その学習効果もあるだろうが、それにしても軽々しくオンリーワンだの、コンテンツだのを使い過ぎる。

 街中の生地屋や手芸店、あるいはネット通販で素資材を調達する時点で、クリエーションはともかく、オンリーワンも放棄しているとしか言いようがない。プロならオンリーワン、オリジナルを創るために尾州などの工場まで足しげく通うのは当たり前のことだし、プロを目指すのなら企画開発力をもつテキスタイルコンバーターの展示会くらいには出かけて、まず自分のセンスから磨いていかないと話にならない。

 巷には企業というプロが創ったオリジナリティあるコンテンツが下は100円から上は数十万円まで溢れているし、お客はそのレベルを熟知している。それと比較し、それを超えられるようなものでない限り、オンリーワンだの、オリジナルだのと恐れ多くて言えるはずもないのだ。まして作る側の姿勢として、少なくともクリエイティビティを意識する人間としては、あまりにおこがましいはずである。

 筆者は過去に何度も専門学校生や駆け出しのデザイナーの作品に触れたことがあるが、共通して言えるのは使われている素資材があまりに陳腐で凡庸であることだ。柄に特徴があるからと、古くさいカーテン生地を堂々と服に使用したりするなど、服のデザインと生地の特性がマッチしていないもの多すぎる。要は作品が全く作り込まれていないのである。

 ショーやイベントに出展することが目的になっているため、創作のレベルがてんで上がっておらず、デザインやパフォーマンス重視になり過ぎていることもある。Tシャツにボロ切れを縫い付けて、顔に派手なメイクを施したプリミティブなパフォーマンスなんかを見せつけられると、こちらの方が気恥ずかしくなってくるのだ。

 学生や若手はカネがないから、素資材を手に入れることが出来ないのか。勉強の途中だから技術が未熟なのか。そんなことは言い訳に過ぎない。価格帯は別にして服も買っているし、海外研修という名の旅行にも出来かけている。そんな資金をプールしておけば、LCCを利用して世界中に素材調達の旅に出かけることできるし、その気になれば学校単位で機屋や生地メーカーに、糸屋、革のタンナーに発注できなくはない。

 技術についても自ら学んで磨いていくものは少数派でしかない。むしろ教えなくても上手い技をもつ人間がそれをどう生かしていくかが重要で、練りに練って創りに創ったところから、オンリーワン、オリジナリティあるコンテンツが生まれるのだ。

 学生や駆け出しのデザイナー、フリーランスの個人にとっては、「自分たちの作品やパフォーマンスを披露するにも資金や場所を持たないから、企業や団体さんスポンサーになってください」というのが本音のところではないのか。それならそれとはっきり書けば良い。過去のイベントでも「バザーではありません。洋服・雑貨・アクセサリーなどのファッション発信の場となります」と、大上段に言っておきながら、結果的に堂々と古着を売った専門学校生がいたのである。

 そんな「前科」がありながら、今度はオンリーワンコンテンツだの、オリジナルだのと言い換えられても、地元ファッション業界にとっては「またか」「大仰や」としか受け取れないのが本音のところだ。コンテンツと言うからには中身で勝負のはずなのだが、オンリーワンにもオリジナルにもほど遠いのであれば、まさに失笑もの以外の何ものでもない。

 ところで、ファッションウィーク福岡は過去に4回ほどしか行われていないが、福岡アジアファッション拠点推進会議による一連の事業は2009年から続いている。会議創立時の活動目的=大義には、「人材の育成」という項目が掲げられていた。これを「地元からプロとして活躍する人材を輩出するために何らかの支援をしていく」と解釈するならば、企業や団体にその資金を求めるのは筋違いである。推進会議及び行政の側が事業予算を正当に分配し、コンテストなどを開催して優秀な企画作品には製品化のための資金を援助する方が人材育成につながると思う。

 ところが、それをすべきトータルプロデューサーのRKB毎日放送は、今や福岡アジアコレクション(FACo)のみ活動しかしておらず、これを福岡市の「民間主導」をお墨付きにして自社の収益事業にしている。福岡県、福岡商工会議所(推進会議)からの補助金をあわせると、おそらく毎年2000万円以上が転がり込んでいる。福岡アジアコレクションは推進会議の事業の一つ過ぎないのだから、いかに事業全体の目的が形骸化して事業予算の使われ方がいびつで偏っているかがよくわかる。

 本来なら専門学校生や駆け出しのデザイナーが「福岡アジアコレクションにばかり予算をかけるのではなく、自分たちにも振り分けてほしい」と声を上げるべきなのだ。しかし、そうならないところに彼らの無能さが垣間見えるし、利害関係者がそれを承知で事業全体が利権化されている構図が浮かび上がる。

 今年のファッションウィーク福岡のイベントで、参加企業・団体が資金提供するスペースにどんな出し物が登場するのか。筆者の予感が当たって、専門学校生や駆け出しのデザイナー程度のクリエーションでしかなければ、どうだろうか。所詮、オンリーワンのオリジナルコンテンツなんて、戯言でしかないことがハッキリするし、要件に掲げている人間は人材育成の視点がズレた大戯けと言わざるを得ない。

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中間層の没落は吉か。

2017-02-08 07:25:36 | Weblog
 経済・金融情報の配信する米国のブルームバーグはさる2月3日、「家具・インテリアを販売するニトリホールディングス(HD)がアパレルチェーンの展開を検討している」と伝えた。1日に行ったインタビューで、創業経営者の似鳥昭雄会長が「衣料品の販売に販売に興味をもっている。チャンスがあれば挑んでみたい」と、語ったからだ。(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170203-60818568-bloom_st-bus_all)

 似鳥会長は現在のアパレル業界について、「10〜20代向けの商品が主で、30代以上向けで手頃な価格設定の商品をそろえた業者は、国内ではしまむらぐらいしか存在しない。ニトリHDが参入した場合、事業としての成功にものすごく自信がある」と語っている。これについてアパレル業界内部では賛否が渦巻いているが、ブランドのリストラや閉退店、希望退職者の募集ばかりが目立つ中、久々に希望をもてるネタと言ってもいいだろう。

 今の10〜20代は価格が安く、最新流行を次々と投入するファストファッションで十分だと言われる。若者からすれば百貨店やファッションビルに並ぶ商品は価格の割に「イケてない」のだ。もはやセンスとプライスはイコールではなくなり、それが値崩れを引き起こす要因にもなっている。結果として、NBはコストダウンに舵を切ってOEM、ODMによる外注化で企画の独自性を捨て去り、セレクトはオリジナル拡大による原価率の切り下げで、バイヤーの目利き商品は居場所を失う始末。こうした負の連鎖が業界を集団自殺に追い込んだとまで宣う人もいるほどだ。

 その元凶となったのが中間層の没落である。バブル景気が崩壊して以降、そうした層が恩恵を受けられなくなったことで、個人消費は低迷を続けている。この影響をもろに受けたアパレル業界では、若者がトレンドデザインを求める傍ら、素材、縫製という品質は二の次で良いと考えるようになった。一方、30代以降は流行にはそれほどこだわらない分、十分な機能と品質を備え、価格が手頃であることを求めている。ファッションでユニクロの台頭はそれを如実に表している。ジャンルは違うが、家具・インテリアでニトリが躍進したのも中間層が没落する中、機能や品質、低価格の商品を提案したからである。

 ニトリは2015年4月、プランタン銀座本館に売場面積450坪の「プランタン銀座店」をオープンし、東京都心に初進出を果たした。レギュラー業態は郊外展開の1500坪規模だが、プランタン銀座店は小規模な分、商品を厳選し、コーディネート中心の売場にするなどコンセプトを変えている。丸の内や銀座に勤めるOLからも、「ニトリは郊外にしかないから、車がないと行きづらい。都心部にあれば、買い物に行きたい」との要望も寄せられていた。

 皮肉にもプランタン銀座は昨年末で32年の歴史に幕を閉じたが、ニトリは本館改めマロニエゲート銀座2の6階で営業を続けている。ここでは家具は4割に抑え、雑貨を6割に拡大するなどホームコーディネーションが主体だ。色とスタイルのつながりを意識したルームプレゼンテーションに磨きをかけたことで、都心部でも攻勢をかける狙いと読み取れる。
 
 ニトリにはリーマンショック後に何度も値下げした結果、顧客層が年収200〜500万円ぐらいに偏ってしまったとの反省がある。そのため、価格が高いソファやマットレスを投入して客数減少を客単価の増加でカバーし、客層を年収800万円までに広げることに手応えを得ている。それが日本一の激戦区、高コスト立地と言われる銀座進出でも「行ける」と判断させたようだ。

 2016年2月期の連結業績は、 売上高 4581億円 (前期比9%増)、営業利益730億円(同10%増)と、最高営業益を更新。おそらく2017年も増収増益は確実だろう。ブルームバーグは、2日時点での似鳥会長の資産総額が30億ドル(約3400億円)と集計している。アパレルに進出すれば、ユニクロの柳井正社長と同じ土俵に上ると結論付けているが、果たして…。

 確かにニトリは家具・インテリアの分野で年商5000億円、営業益800億円にも照準を当てられる優良企業に成長した。しかし、それは限定された機能と品質、低価格というボリュームゾーンでの成功体験に過ぎない。アパレル、特にファッション衣料となると、全く未知の領域になる。報道によると既存店で販売するのではなく、「M&Aを通じて、100〜200店規模の衣料品チェーンを買収し、商品を入れ替えることを想定している」という。

 つまり、少なくとも商品の企画生産では、自社でノウハウを構築しなければならないということだ。ニトリが家具・インテリアで開拓した顧客とリンクさせるなら、アパレルでも30代以降をターゲットにするにしても、商品は機能と品質、低価格を併せ持つボリュームゾーンとなるのだろうか。

 一部メディアは、「パジャマ、Tシャツなどの販売をすでに始めており、繊維商品の比重は上がっている」と、アパレルへの参入障壁は高くないと見るが、そうなのだろうか。ニトリが企画販売している繊維製品は、ベッドカバーやカーテン、テーブルリネンといったテキスタイルや敷物などのラグが中心だ。パジャマやTシャツが加わったといっても、それはホームファッション、いわゆるデイリーウエアの域を出ない。

 こうした日用品、実用衣料とトレンドデザインを条件とするファッション衣料は明らかに異なる。ターゲットもマーケットも違うわけで、チェーンを買収したところで商品を簡単に企画できるほどアパレルは甘くない。個人的な意見を言わせてもらうと、ニトリで一度遮光カーテンを購入したが、ホームセンターに並ぶそれと比べると明らかに質が落ちる。やはり、顧客のマインドは「安いからニトリでも十分」ということだろう。この遺伝子がアパレルにどう作用するのか。中々難しいところである。

 アパレルの企画生産にはターゲット設定、素資材の手配調達、デザイン、MDの設計、製造、流通などの機能が必要になる。これは家具・インテリアでも同じだと思うが、ニトリの商品を見るとカラー、素材、デザインはかつてダイエーが販売していた愛着仕様、いわゆる量販店レベルにしか見えない。とてもファッショナブルとは言い難いのだ。それはあくまで業界人の見解に過ぎないが、売れているのだからアパレルでもボリュームゾーンを捉えられるという理屈には、やはり無理がある。

 このゾーンにはすでにユニクロや無印良品が君臨しているが、その二強ですら現状のマーケットでは飽和状態で、今後は売上げの鈍化が避けられない。しまむらにしてもただ安いだけではなく、商品企画力が売上げを左右している。ニトリがアパレルで競争力をもつには、30代以降をターゲットにする場合でも、中間層でありながらボリュームゾーンの商品では飽き足りな人々に対して、「こんな商品が欲しかった」と思わせるものを提案し、新たなマーケットを開拓できるどうかではないか。それはいったいどんな商品群で、それには誰が携わるかである。

 アパレルから必要な人材をヘッドハンティングするにしても、業界の良い時を知っている人間の多くは、以前の企業でスタッフやシステムが整っていたから、実績を積むことができたという意見もある。つまり、混沌とした今のアパレル業界で、成功体験が通用する保証はどこにもないのだ。加えて、新たなノウハウを構築するには、相当の時間とカネが必要であるのは言うまでもない。


裏の部分で問われる競争力

 ニトリほどの資金力をもつ企業なら、100〜200店のチェーン買収は難しくないから、アパレルに参入した場合にどうしても商品企画やブランディング、収益性を整備すれば事足りる、表のビジネスに目が行きがちだ。しかし、本当に重要なのは今のマーケットをじっくり分析し、そこで求められる商品製造のプロセスを設計し、計画化していく裏のビジネスモデルを構築できるかなのである。

 ユニクロでも自社開発を軌道に乗せ、フリースをヒットさせるまでには10数年を要したし、無印良品は西友のプライベートブランドから独立する過程において、広告クリエーターの力なくしてはあり得なかった。しまむらにしてもメーカーによる企画で自社開発のリスクを減らし、マーケットニーズに即した商品をタイムリーに投入するから収益が上がっているのだ。

 これらがボリュームゾーン、30代以降のアパレル市場を攻略し、他社の追随を許さないのは、そうした独自のビジネスフォーマットが高い参入障壁となり、他社がコピーしようにも素資材や生産体制、コスト競争力で強固な壁となって、簡単には破られないからである。

 話は少し脇道に逸れるが、バルスがインテリア雑貨に参入し、フランフランを作り上げた時のコンセプトは、「都会で一人暮らしをする女性」をコアイメージに、高感度で低価格で旬の商品を提案するものだった。その上の層を狙うJピリオドはうまくいかなかったが、フランフランはコンセプトが見事にはまりマーケットを攻略した。

 筆者も初期のフランフランで、エジプト綿を使用した肉厚なキャンバス地のカーテンを購入したことがある。量販店やホームセンターの商品にはないナチュラルな質感で、色が緋赤だったことが気に入ったのだが、共地のストラップをポールに通すタイプだったため、プリーツ仕様に縫い直して事務所のカーテンに使用した。余ったストラップも生地を解き、端から1cmほどをミシンで押さえてフリンジにし、コースターとして使っている。

 カーテンは遮光機能がなく経年により色褪せてしまったが、一間半ほどの幅広なので写真撮影のバック地として今でも十分通用する。ただ、当のフランフランは、渋谷109系ファッションの台頭で、テイストをカジュアルスタイリッシュから多少ギャル系を意識したものにシフトしている。開発する商品にもそうした層が好むロマンチックで、クラシカルなニュアンスも取り入れている。

 つまり、インテリア雑貨でも狙う客層の嗜好が変化すれば、商品づくりを変えていかなければならないのだ。ニトリはお客の嗜好にそれほど差異も変化もないボリュームゾーンを捉えて売上げを伸ばしてきた。ところが、アパレル、特にファッション衣料となれば、そうはいかない。

 今の顧客である中高年はやがて介護が必要になるため、衣料品にはさらなる機能性や利便性が求められる。一方、ファストファッションを着ている10代〜20代の若者が30代以降にどんなファッションを好むのか。単純にボリュームゾーンにシフトするのか、それとも機能と品質と低価格はもちろん、トレンドデザインまで求めていくのか。ターゲットをセグメントして商品を開発するのは容易ではないだろう。

 没落した中間層は必需品以外にはなかなか触手を伸ばさないと言われる。しかし、東京を中心にした首都圏全体では日本では異例の一人勝ち状態が続いている。とすれば、せっかく銀座に出店したのだから、「30代のOLをターゲットにしたファッション性の高いカジュアルファッションとは何か」のテストマーケティングを行ってもいいのではないか。プランタン銀座が閉店に追い込まれたのも、キャリア向けのコンサバ一辺倒で、カジュアル色が弱かったのが要因と言われている。

 丸の内・銀座界隈で働くOL向けのカジュアルを扱うのはユニクロと、ルミネやマロニエゲートのセレクトくらいしかない。目の肥えたOLともならば、それらで十分に満足とまではいかないはずだ。ギンザシックスが開業すると言っても高級ブランドが中心だから、センスと品質、価格のバランスが必ずしもOLのニーズにかなうとは思えない。

 だからこそ、30代OL向けのカジュアル業態で手応えをつかむことができれば、首都圏全体さらに全国の政令市まで拡大させるのは難しくはないと思う。100店規模ならすぐに埋まるはずである。せっかくアパレルに進出すると言うのなら、それくらいのレベルにはチャレンジしてほしい。

 逆に家具・インテリアの延長線で行くなら、現に手掛けるホームウエアを独立発展させる形態もあり得る。要介護者は今後も増えていくことが予測されるため、ユニバーサルデザインの実用衣料は一定規模で必要とされていく。

 家族がひと目を気にするためにオープンで買い物できないという課題もあるが、誰もが気軽に購入できる業態が登場すれば、そんなイメージも払拭されていくはずだ。それに利便性の高いランファン(シンプルでコンフォートなもの)を加えたデイリーウエア主体の業態であれば、開発の余地は十分あるのではないか。それはニトリが手掛ける実用性の高い家具・インテリア業態との親和性もあり、ポイント提携による顧客の囲い込みも可能になる。ジリ貧が続く地方百貨店もテナントとして欲しがるかもしれない。

 アパレル業界はとにかく新しい発想をもつ新規参入者が登場しない限り、閉塞感からは抜け出せないし、活性化のしようもない。中間層の没落で萎んでしまったアパレル市場に一石を投じて風穴を開けてくれるのか。ニトリの今後に注目していきたい。

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悦楽的意匠のススメ。

2017-02-01 07:31:40 | Weblog
 1992、93年頃に仕事でイタリアのミラノを訪れた。それまでニューヨークには公私で毎年のように渡っていたが、イタリアどころかユーロ圏すら初めてのことだった。マルペンサ空港からミラノ市内までシャトルバスに乗車中、ナレーションはすべてイタリア語。発音が博多弁に似ているなんていう人もいたが、早口でさっぱりわからない。そうこうしながらも、雄大なアルプル山脈を背に眺めながら、イタリア最大の都市と言われる街に着いた。

 ミラノはサンタンブロージョ教会、大聖堂、最後の晩餐などに代表される中世の芸術、建築物を今に伝える文化遺産が豊富だ。しかし、こちらは現代ビジネスのテキスタイル展やプレコレクションを覗くだけで精一杯で、観光どころかアルマーニの本店すら行けずじまいだった。滞在日数わずか3日のミラノアーカイブが仕事で撮った写真やプレスキット、帰国して作成するリーフレットだけではあまりに寂しい。帰りの飛行機まで少し時間があったので、街を散策した。
 
 その時、たまたまディスプレイが目に止まった時計があった。見たこともないドーム型ガラス、文字盤にカラフルな数字や柄を配したものだ。ブランド名はラテンのリズムを意味する「Ritmo Latino」。イタリアらしい宗教芸術とモダルニスモを融合したようなデザインに一瞬で心を奪われてしまった。ちょうど新しい時計を買おうと思っていたことも購買意欲をかき立てた。当時の為替レートは円高・リラ安で、この際だからと、いちばんシンプルな文字盤のボーイズサイズを即買いした。価格は日本円で3万円くらいだったかと思う。 Ritmo Latinoは筆者の感覚を満足させ、イタリア出張の最後に楽しい思い出を作ってくれた。

 もっとも、スタッフの説明は全くわからず、缶詰のような丸形のレザーケースに入れてもらって持ち帰った。しばらく周囲から「変わった時計ね」と言われていたが、日本にも輸入され始め、ファッション雑誌が取り上げた。ロレックスやオメガのような高級時計ではないので代理店制は取られず、イタリア物に強い「三喜商事も扱ったので」はと、だいぶ後になって聞いた。いろんな輸入卸やインポーターがこぞって買い付けたのか、 Ritmo Latinoは全国チェーンから百貨店までの売場に並んでいった。

 購入してから2年くらいを経過しても全く飽きがこない。そこで、94年頃に表参道ビブレで、黒の文字盤のクロノグラフを購入した。こちらも現代的なストップウォッチとクラシカルなムーフェイズが絶妙に配置されたものだ。それから2年おきくらいに買い足したので、いつの間にかRitmo Latinoだけで5本も所有するまでになってしまった。筆者は時計マニアではないし、蒐集癖すら全くないのだが、この時計だけはデザインが気に入っていつの間にか増えていったのである。

 同時期、時計のデザイナーが日本人であることを知った。何かの雑誌にイタリア在住の日本人女性の特集が載っており、その一人がこの時計をデザインしていることが記されていた。あの時、ショップスタッフが言ってたのは、このことだったのかもしれないと、思った。当方が購入したモデルは、初代デザインとルナシリーズのクロノ、ステラで、文字盤がいたってシンプルなものだ。他にはモザイコ、フィーノ、ドディッチ、ソーレ(スクエア)、ビアッジョがある。みなイタリアの遊び心と独特な世界観を感じさせるもので、ロレックスのような機能美とは全く異質なデザインになる。

 筆者は時計に高い精度や特別な機能は求めない。クロノグラフと言っても、ストップウィッチを使うことなど皆無だ。もちろん、高級時計など縁もないし、買おうとも思わない。それに対し、Ritmo Latinoは文字盤がアーティスティックで、メジャーなメーカーには発想すらないデザインに惹かれたのである。それを生み出したのがイタリア在住の日本人ということでは、どこかで感性が一致したのではないかと思う。セレクトショップもだいぶ経って扱い始めたので、今では全国のファッション関係者にも知名度は浸透していると思う。そうした経緯があったのかどうかはわからないが、昨年、Ritmo Latinoがアパレルに進出したことを知った。(最新記事はこちら。http://www.senken.co.jp/news/management/ladies-feature-6brands/5/)



 アパレル側としてはミラノ発祥のデザインモチーフなら、服にも生かせるのではないかと思ったのだろうか。もともと、ミラノファッションの神髄と言えば、パリの「着たい服」に対し「着れる服」。パターンやカッティング、シルエットは特別に奇を衒ったものではないが、英国やフランスにはない独特な風合いが高級感を醸し、日本でも受け入れられた。ただ、そうした特徴も成熟しデフレ禍が著しい市場では、いささか陳腐化した感がある。今では「イタリア製」と聞いても、それほど響かなくなってしまった。

 一方で、文字や柄を取り入れたテキスタイルや花鳥風月由来の極彩色を服作りに生かすのは、イタリアの系譜でもある。その辺を取り入れた時計デザインのエッセンス、ブランドがもつ世界観にアパレルメーカーが目を付けたのか。ファッションコングロマリットもLVMHがタグ・ホイヤー、リシュモンがボーン・メルシーやIWCなどを抱えている。ただ、それは成長力があるブランドを抱え込んで、ブランド展開に厚みを増した戦略を進めるためで、Ritmo Latinoのケースは異なるだろう。

 時計ブランドにとってもビジネスを拡大するには資金が必要で、自前で調達するより巨大グループの傘下にいた方が現実的だ。しかし、Ritmo Latinoはそこまでの高級時計ではないし、世界各地にショップ展開をしているわけではないから、それほどの資金は必要としない。言い換えれば、高級ブランドウォッチではないからこそ、デザインという一部分に惹かれる層をがっちりつかむこともできるのだ。それがある程度の手応えを得たのではないのだろうか。

 アパレル業界は今、非常に厳しい環境の直中にある。この閉塞感から抜け出すには、若々しい感性をもち、エイジレス化したお客にアプローチしなければならない。実際、今は40代にしても昔とは比べ物にならないほど若い感覚をもつ。それぞれのライフスタイルで、ファッションに対する嗜好も多種多彩になっている。マスにはならないけど、共感を得られると、ビジネスとしてペイしなくはない微妙なマーケットでもあるのだ。

 量産を旨とするアパレルでは、なかなかそうした多様化にアジェストするのは難しい。そこで異業種の発想を生かしてみること。時計のRitmo Latinoがもつイタリアンエッセンスで服づくりすると、意外なクリエーションが生まれるかもしれない。

 先日、ファッションライターの南充浩さんがFacebookで以下のことを仰っていた。

 「知り合いのデザイナーはアニメ、漫画、ゲーム、プロレス業界からの注文を専門に受け付けるようになったし、某靴下メーカーは自動車メーカーや自転車メーカーからの注文が増えている。アパレル業界からの注文は原価率低い、利益薄い、ロットまとまらないという三重苦のキツさしかないという状況。企画製造する側もアパレル業界、ファッション業界からの注文に魅力を感じなくなっている。これがアパレル業界、ファッション業界の置かれている状況」と。

 「異業種からの衣料品の企画製造が増えている点で、共通しているのは非常に高い原価率でも問題なく、企画製造側も十分に利益が取れること。異業種だと40%とか45%でも珍しくない」のだそうだ。

 つまり、服という概念にとらわれ過ぎなアパレル、ファッションの業界では、マーケット開拓の発想が非常に貧困であるとも言える。その意味では異業種の方が既成概念のとらわれず、別の角度で市場にアプローチできる。だから、価格競争に飲み込まれないで済むし、お客も服を買うのでじゃなく、趣味に投資するという感覚なのだろう。

 ならば、まずは異業種の力を借りることで、閉塞感が蔓延する状態から抜け出すきっかけをつかめるのではないか。発想の転換が難しいのなら、企画のアプローチを別の角度からやればいいのだ。その意味で、独特なデザイン感性のRitmo Latinoが服作りに参画することは、「こんな服を待っていたのよ」というお客さんのおしゃれ心を呼び覚ますかもしれない。

 従来の時計メーカーが発想もしなかったドーム型のガラス、カラフルな数字や柄を配した文字盤、それが醸し出す調和のとれたデザイン。何もかもが新鮮で心を奪われるのは、今の服作りにこそ不可欠だと思う。イタリアらしい悦楽的デザインのDNAをどんどん服作りにも注ぎ込んで、市場活性の芽を育んでほしいものである。
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流行はボトムから浸透?

2017-01-25 07:41:29 | Weblog
 今年のトレンドはどうなるのか。さらに売れるアイテムとなると、予測は難しい。アパレル業界が厳しい環境に置かれている中で、何とか抜け出そうという仕掛けがうまくトレンドになってくれると、儲けものと言った感じだろうか。

 デザイン面の傾向と言えば、一昨年にこのコラムで「太めが復活しそうな予感」と題して書いたが、昨年あたりからメンズでは、ヤングのトップスでワイドシルエットを取り入れる動きが出始めている。

 昨年の春夏はSPAを中心にビッグシルエットのTシャツが売り出され、秋物ではセレクトが打ち出したワッフルにも、リラックス系のシルエットが加えられた。MA-1の進化型としてパッデッドでドロップショルダーのジップアップジャケットも出てきている。ワイドなトップスなら、今年はヤングアダルトくらいまで広がる予感がする。

 細身一辺倒だったボトムでも、すでに「oversized」が散見されるようになっており、なおかつクロップドやロールアップしたものが登場している。雑誌メディアはスタイリング提案をし始めているが、実需レベルでいきなり上下とも太めにすると、上背があってよほどスタイルが良くない限り野暮ったく見えてしまう。まして一大トレンドになるかは別問題だ。今年のマーケットがゴロっと変わるかは、秋以降の商戦になるのではないか。

 戦略的、先行提案で考えると、商品にバリエーションを増やせるSPAなら、1アイテムが10型くらいあれば半分程度を太めにして様子をみることができるだろう。昨年のMDでその動きを見せたところもあった。おそらく今年はさらに顕著になるかもしれない。

 セレクトはどうだろうか。派生業態を持っているところなら、思いきって挑戦できなくはない。でも、オンリー業態がフェイスをいきなり変えてしまうのは、反動が大きさから二の足を踏むだろう。なおさら、仕入れオンリーの店舗になると、個々のメーカーがこぞって打ち出さない限り、打ち出しは難しい。

 そもそも日本セレクトは、根底にアングロアメリカンスタイルがある。それを日本人の体型に合わせて焼き直して売れたわけで、モード感漂うリラックススタイルとは相容れないはずだ。御三家にとっては太めのシルエットと言っても古き良きクラシックが本筋だろう。なおさらカジュアルに取り入れるのは容易ではないから、アメリカンスタイル本来のシルエットに回帰する方が妥当ではないのかとも思う。

 だが、後発、新興勢力のセレクトとなると、思いきってトレンドを仕掛けないと、市場もなかなか反応しないわけで、その辺の塩梅が今年の勝負所かもしれない。トップスは比較的受け入れやすく、ユニクロでもできるが、ガラっと変えて行くには、いかにカッコよく穿きこなすボトムを提案できるかだろう。

 平均的日本人の脚の長さ、ヒップラインという永遠のテーマに対して、スタイル良く見せるシルエット&着丈&裾幅の黄金比率があるかどうか、また導き出せるかどうかである。試着をしたお客に対し、ショップスタッフが「シルエット、きれいでしょう」なんて聞き飽きたフレーズではなく、姿見を見た瞬間に「いいじゃん」と思わせるような商品企画がカギになるのではないか。

 それを実現するには、コットンのギャバやツイル、麻といったワンパターン素材では「落ち感」がハッキリして、裾にかけてのストレートなラインはブルースリーのカンフーパンツのように見えてしまう。モード感を出すにはフラットな生地では難しそうだ。あまりに厚手だと春夏ものは熱さがネックだし、コストを考えると妙な小細工も難しい。デニムをはじめ、コードレーンやシアサッカー、ピケなどの定番生地で新鮮さを出せるか。リラックス過ぎずにタウンに堪えられる素材使いがどうなるのか楽しみだ。

 秋冬になるとツイードやホームスパンなどで、トラディッショナルなテイストの方が打ち出しやすい。さすがに70年代のバギーやパンタロンは難しいが、太めでも裾を細めにしたり、ロールアップしたりするクラシカルな穿きこなしだと、トップスとの相性も良くなるはずだ。

 思いっきりモードに振るなら、ジョッパーズを今風にアレンジしたり、ドローコードを使って脇や裾に脚にフィットさせるようにしたり、下にレギンスを穿くレイヤードスタイルとかの変化がほしい。それだとロングブーツやレースアップスニーカーと合わせられる。同じテイストのトップスとコーディネート次第では、近未来的でスポーティな着こなしになるのではないか。



 一方、レディスはトレンドだからではなく、痩せて見える方がスタイルがいいとの固定観念から、タイトシルエットは鉄板だ。それがトレンドとして定着し、ストレッチ素材の浸透もあって、ここ20年ほどは細身全盛だった。しかし、ファッションは体型をカバーしながらいかに自己を主張するかも大事で、シルエット変化がトレンドのカギを握る部分はある。バルーンやコクーンといったラインの登場がそうであり、ドメコンやモードエレガンスへの反転も後押しした。

 アワーグラスラインという女性服の基本形から脱却しつつ、決して太って見えない、ウエスト回りがダボッとしないという条件を克服できれば、太めは新鮮に見え売れていくだろう。ただ、ワイドでボクシーになると、メンズよりもなおさらトップスとボトムのバランスが重要になる。その答えとしては、シャツではヨークと切り替えで前身頃にしっかりドレープを入れたり、ウエストから下を異素材でフレアやフリル処理も考えられる。逆に後身頃の分量を多めにしてボリュームを出すのも手だ。スタイリングは何も正面から見られるとは限らないからである。

 ニットでは袖口や裾にかけて緩やかに広がるライズステッチ、ウォーベン切り替えなどを取り入れるとスッキリ見える。身幅はそれほど太めにしなくても、袖を思いっきりoversizedにするとか、ドロップドショルダーにすれば、かなり変化がつく。

 ボトムはワイドシルエットがずっと存在していたので、メンズほどの抵抗はないと思う。今年のトレンド感とすれば、レングスだろうか。くるぶし上ほどのクロップドパンツで、これをデニムやキャンバス地で仕掛けても行けるのではないか。ヒップラインから裾に広がるワイドラインで丈は短め、メンズテーラーのようなトラウサーズ、ウエストにプリーツを入れたもの、大胆に入れたサイドスリット等々は、タウンのみならずオフィスでも十分通用する。ワイドパンツは穿くと颯爽として見えるので、キャリア層の女性にはぜひ挑戦してほしい。

 モード感を出すなら、裾を極端に広げたカットソーのワイドレッグもありだ。鳶職の兄ちゃんみたいだけど、海外では暴走族スタイルもクールなのだから、穿きこなし次第だと思う。裾を絞らないからロングスカート風にも見えるし。これならSPAのジョガーパンツやガウチョパンツに飽き足りない層を開拓できるかもしれない。ボトムのワイドラインは、レディスの方がメンズより抵抗がないはず。どんどん打ち出して行けば、トレンドになっていく可能性は高い。細身は飽きたと感じている層にいかにアプローチできるかがカギになるはずだ。

 メンズ、レディスに共通することは、全体を完全に太めにするのではなく、パーツやディテールで変化を付けると、だいぶ変わったように見えて来ると思う。SPAなら無地が中心だから、1アイテムでいろいろと打ち出せるのではないか。NBや専門店系アパレルが単品でどう変化を付けるかだが、上下、フルアイテムではかなりのリスクがあるので、挑むには腹をくくらないと難しい。

 メタボが気になるおじさん、おばさんはタイトは着づらいし、ワイドは太ってみえるからさらに抵抗感があるかもしれない。でも、メンズスーツではアルマーニスタイルで一世を風靡したソフトスーツがリバイバルするとの見方もある。当然、パンツもプリーツが復活するだろう。これならおじさんだってゆったり穿けるし、自分が20代の時の流行に戻ったと考えれば、決して気後れしないと思う。

 メーカー側にとっては、用尺が増えてのコストアップが頭の痛い問題だが、ヒットトレンドになれば売上げもつく。筆者はレディス専門畑で来たので、今年は昨年とはガラッと変わって、ワイドなシルエットの女性が街を闊歩する光景を見てみたい。

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買い得を考え直す。

2017-01-18 07:12:40 | Weblog
 2017年が始まって2週間が過ぎた。1月2日、初詣に出かけたついでに、中心部天神の初売りを見て回ったが、メディアの報道ほど服袋を買った人とはすれ違わない。店外に出ると購買客の密度が落ちて目立たなくなるのだろう。

 それとも中身がメーカーの売れ残り在庫やコストダウン製造した専用品であるのを消費者が見透かし始めたということか。福袋商戦を煽るのは年末年始に飯のタネがなく、営業企画としてタイアップ番組を作りたいテレビ局くらいでは。服袋も商品詰め込み型から、コト消費の体験型にならざるを得ないということである。

 それにしても、初売りからセールへの流れは、皮膚感覚で年々賑わいを失っていると感じる。人手は2年前の15年がピークだったのではないか。その時でさえセール用に確保していた在庫を投入したようなショップもあった。お客側は「お値打ち品がないなあ」との印象から、集客の割に購買には結びつかなかったところが多かったと思う。

 日常から十分に値ごろな商品が出回っている。それを買えば、セールでまた同じような商品を買う必要はない。一部のブランド品では、「狙い目はバーゲンまで待とう」「お買得品を1円でも安く買おう」という消費者心理も働く。伊勢丹のように長蛇の列ができるのはわからないでもない。言い換えれば、昨年のセールが惨敗したところ、17年のセールも不発だったところは、明らかにプロパー商品に魅力がないのである。

 消費者の立場から言えば、今の市場には大枚をはたいても買いたくなるような商品がなかなかない。SPAを中心に値ごろな商品はいくらでもあるが、それが買いたくなるかというと別問題。値ごろ感、安さはあくまで選択肢の一つであって、絶対的な価値ではない。なおさら仕入れのみで勝負するセレクトショップとなると、商品1点1点はバイヤー垂涎の品かもしれないが、必ずしもお客の感性にフィットするとは限らない。

 今は高級セレクトショップを訪れるお客でも、SPAやネット通販もチェックしている。バリエーションに富んだMDに飼いならされてきているせいか、選択肢が少ない品揃えではどうしても購入に二の足を踏んでしまうだろう。購入条件が素材感やデザインであるなら、それらを提供するブランドを買えばいい。しかし、仕入れ中心のセレクトショップとなれば、そうは行かないのである。売り方の問題ばかりがクローズアップされているが、今年は商品そのものの課題にもスポットを当てるべきだと思う。

 それはアパレルも小売りも十分にわかっているはずだ。ところが、「消費がモノからコトに変わった」からとか、さも問題がないように商品から目を逸らし、責任転嫁や言い訳をするようでは製版の使命を放棄したことに他ならない。やはり抜本的に商品づくりから品揃えまで考え直さないとどうしようもないだろう。初売りはその年の商売に勢いを付けるイベントでしかない。作りすぎた不良在庫をだらだらと消化していくのが良いわけではない。その後はあくまでプロパーで売る日々が続くのである。

 一方で、ファッションは気分消費的な面もある。陽射しが明るく春に向かって行くのに重たい冬素材、ダークな色合いが着たいはずもない。だから、冬本場と春に向かう中で商品をどうしていくのか、考えなければならないのである。

 福岡は先週末から今週火曜日まで、「日本中をこの冬一番の寒波が襲う」と報道される中でも、陽射しは暮れとは比べ物のはならないほど明るかった。マンション内の事務所では、暖房が必要ない時間帯もあるくらいだ。肌寒い日々はまだまだ続くが、陽射しが日に日に春めいていく中では、なおさらプロパーで売れるMDがカギを握るのは言うまでもない。

 どこかのグローバルSPAは、毎年のように1〜3月の四半期決算では、「天候不順で春物の動きが鈍く、売上げが低迷した」と言っている。まだまだ肌寒いのだから、Tシャツや薄手のコットンが売れるはずはない。かといって、重たい冬物でも買う気にはならない。何年も経験しているのなら、もう少し企画をじっくり練ってもいいのではないか。

 具体例を挙げれば、スプリングコートは厚手のコットンギャバで、生地をコーティングするとか、取り外し可能なフリースのライナーを付けるとか。薄手になめしたレザージャケットを押し出すとか。目が詰まった肉厚のコットンニット、綿素材のスエードやフランネル、同素材のピケなんかを使ったジャケットやパンツがあれば、防寒を発揮しつつ4月まで引っ張れると思う。

 色目はブライトカラー、パステルやグレイッシュトーンが主体になるが、ポイントは逆差し色としてダーク系を入れてもいいんじゃないかということだ。黒、紺はもちろん、モスグリーンやカーキなどである。例年のように暖冬が続いて9月、10月はなかなか気温が下がらない。ウールのアウターやニットが立ち上がりから実半期に入っても売れないのは、寒くないから要らないのである。

 だからと言って、着るものが不必要かと言えばそんなことはない。コットン素材を主体とした「春物」の黒、紺、モスグリーンはこのシーズンにも十分に着てもらえると思う。つまり、年明けの商品の中には、秋の立ち上がりにも着回せるようなものを加えることで、購入の選択肢を拡げることもできるということである。価格はそこそこ高くなるが、売れると売上げは確実につく。

 グローバルSPAなら同じ素材で色のバリエーションは10種程度まで増やせる。だから、十分対応できる思うし、現に行っているヨーロッパのメーカーもある。仕入れのみのセレクトショップでも1年を通したMDの中で、メーカーに別注企画などを持ちかけてもいいのではないか。毎年、暖冬、寒春で失敗したと嘆いてばかりでは何も始まらない。もっと暖冬を前提とした着こなし、寒春に即応できる商品に目を向けるべきなのである。

 消費者は賢くなっている。必要でないものは買わないと言われる。ならば、消費者の合理的なワードローブ計画に添うような商品企画、売り方をすれば良いということだ。あくまで判断は消費者がするのだから、買いたい商品があれば売れるはずである。

 店頭で在庫を持ちこせないなら、通販サイトなどに「お値打ちコーナー」を設けていいと思う。店頭で売れない在庫ばかりをサイトに置いたところで、ネットの向こうの消費者が反応するはずもない。そうではなく、「春素材だけど、ダーク系だから秋口にも着回し」「ブライトカラーの薄手ニットは九州の方におすすめ」なんて括りを作ってもいいのかもしれない。安売りを打ち出すのではなく、真のお買得、お値打ち感を訴えるのである。

 筆者がニューヨークで仕事をした90年代半ば、百貨店のブルーミングデールズには12月なのに麻のジャケットやパンツ、コットンのシャツが値ごろな価格で売られていた。最初は「ええ、もう春夏物なの」と思ったが、よくよく考えるとニューヨーカーの中には、クリスマスホリデーを避寒地のバハマやプエルトリコで過ごす人もいる。旅行着(トランク)として夏用のクロージングが必要になるのだ。

 日本でも水着が一年中売れると言われるが、欧米ではホテルにおけるドレスコードからジャケットが不可欠になる。新規に商品を仕入れるというより、夏場の在庫を確保して投入していたのではないか。米国の百貨店は商品を買い取るからこそ、できることだが。

 こうした売り方の発想転換は決算や課税の問題があるのでアイデアの域を超えず、どこでも一律にできることではない。それは十分承知の上だが、商品が売れないと断じるだけでなく、もう少し商品の作り方や売り方で融通を利かせてもいいと思う。ECがここまで発達しているのだから、消費者は店頭で必要な商品が見つからなければ、通販サイトにお目当ての商品を探しに行く。

 しかし、ECが目先を変えただけの単なる流通ルートにとどまり、店頭の商品と同じものしか売ってなければ、現物を見て試着して買うか、しないで買うか、コスト分だけ多少安いかの違いなだけで、購入の選択肢は広がらない。そうではなくて店頭ではできない、いろんな商品展開、売り方ができるところがECの良さ。だからこそ、商品の着回しをサイトと連動して商品開発から提案まで行っていく。消費者にお買得感=賢い買い物を訴えて行くことも重要だと思う。

 ここ数年はECやオムニチャンネルなど、販売手法さえ新たなものにすれば、活路が見出せるようなビジネス論も多い。しかし、いくら売り方を近代化したところで、売れないものは売れないのである。これはいたって単純明快なことだ。

 ネットビジネスが隆盛を極めれば極めるほど、まやかし、詐欺まがい、食わせ者の業者も登場してきており、星印ではわからないところで悪徳商法があとを立たないのも事実だ。いくら「イタリア製生地」「コードバーン使用、日本製」と謳われたところで、ネットの先にあるものを消費者が確認できるはずもないからである。

 昨年暮れにはDeNAのキュレーションサイトの問題が噴出した。その多くが読者を増やして広告の収入源を上げようとするあまりに、運営者は執筆を自分で行うことなく、一記事数百円から二千円程度の安価で外注したり、裏ワザを使って検索上位表示させたりしていた。

 結果、ネット上では信憑性や根拠のない事実がまかり通り、読者が間違った情報を鵜呑みにする危険性が非常に高いことがはっきりした。そうなると、通販サイトの世界で消費者を欺くような商品の流通が絶対にありえないと、誰が言い切れるのだろうか。今年はECの世界でも蓋をされて来たこうした問題点がどんどん噴出するかもしれない。

 せっかくの利便性と購買チャンスがまやかしや詐欺まがいといったイリーガルな行為で悪用されることがあってはならない。消費者がますます期待はずれ、まがいものを購入させるケースが増えて行けば、ECには未来はない。これには売る側だけでなく、商品を作る側にも責任があるわけで、ネット時代のもの作り、売り方がますます問われる1年になると思う。

 いいくらい言われているが、要は価値あるものを作りだし、賢いお客の理にかなった商品提案だと思う。「今は着れないかもしれないけど、秋口の方がいいかもね」。店頭での接点がネットでも管理、継続されるような仕組みづくり。単に実店舗とネットを融合させるスローガンではなく、その中にどんな商品を作って投入し、レスポンスとヒット率を高めて行くか。メーカー、小売り双方の挑戦にかかっていると思う。
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