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HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

減らすべきムダがある。

2016-12-21 07:52:14 | Weblog
 先週、先々週とジャーナリストの横田増生氏による週刊文春ユニクロ潜入ルポについて書いた。第3弾が掲載された12月22日号はトップ記事が「電通の真実 激震ドキュメント」だった。電通の内情はグラフィックデザインに携わることからよく知っている。これについても書けなくはないが、別の媒体で機会があれば論評してみたい。

 ところで、ユニクロ潜入ルポの第3弾は、「黒字のため“ロボット化”する従業員」のテーマで、横田氏が店舗の従業員と人件費の問題に触れている。どの企業でも売上げが伸び悩む中、労務管理と賃金コストは二律背反する問題だ。政府は同一労働なら正規、非正規と同一賃金にするように政策目標に掲げて議論を進めているが、企業としてもそう簡単に答えが出せる問題ではないだろう。

 当たり前のことだが、人件費は減額すると従業員からは不満が噴出して士気が下がり、生産性が落ちるリスクをもつ。また法律上は減額に見合う正当な理由がないと、下げることはできない。それでも、ユニクロでは人件費の調整について、現場は上層部から「口酸っぱく」言われているようである。

 それを如実に示すのが、昨年の創業祭惨敗を受けての異変だ。売上げ不振を招いた原因が「値上げ」だったとの反省から、柳井正社長は低価格路線へ回帰し、併せて経費削減を厳命した。さらに低価格のままでは売上げが下がるため、並行して「客数を増やせ」との条件までつけている。だが、2016年8月期決算をみると、客数は対前年比で5%も落ち込み、一度遠のいたお客を呼び戻すのはそう簡単ではないことを示す。

 一方、経費削減の目標は1000億円に及ぶ莫大な規模だ。2016年3月〜8月の下期にはパートアルバイトの出勤調整を行って人件費を削減し、営業利益は前年同期比の38.0%の増益と、早速効果をもたらした。しかし、横田記者が勤務するイオンモール幕張新都心店では、創業祭が不振だったことから「会社が倒産してしまう危機状況になる」との大義のもと、従業員の頭数が必要な11月でさえ出勤調整を行ったほどだ。

 親会社ファーストリテイリングは内部留保が3400億円あり、自己資本比率は安定した40%台で、株主への年間配当金は約360億円といたって優良企業である。にもかかわらず店舗では人件費を抑えて、利益を上げることが堂々と行われていることに横田氏は疑問を投げかける。結果的に店長クラスはサービス残業せざるを得ず、収益目標の達成という「手柄」のために、自ら身を削っているのだ。

 店舗をエリア毎に管理するリーダーやスーパーバイザーは、「販売管理費が非常に高くなっています。…原因は人件費を超過させているからです。粗利と人件費の関係に十分な注意を払ってください」(記事から引用)と、バランスシートを見て指示するだけ。店舗の責任者とは違い直接パートアルバイトには接しないからか、実にドライな物言いに聞こえる。上場企業、グローバルSPAとしてはこれがスタンダードなかもしれないが、コストは人件費だけではない。もっとムダなものがいくらもあるように思う。

 販売管理費には荷造りや運搬に関わる経費があげられる。 ユニクロの場合、この中にもムダなものがあるのではないか。工場から日本に送り届ける輸送費は別にして、国内の物流センターから各店舗への運搬費はどうなのかである。店舗にあれだけ膨大な在庫を積み上げているが、それがセールを含め100%消化することはありえない。仮に50%しか消化していないのなら、残る50%の在庫運搬費は、ムダと考えることもできる。

 また、その分の荷受けから品出し、畳みや整理に携わる従業員の人件費、その分の在庫を展開するスペースの不動産賃貸料も、コスト増の要因ではないのか。今やユニクロの顧客の何割かは店に行かずにネットで購入していると思う。その分の在庫も店舗に置かなければ、まだまだコスト削減ができるはずである。

 ECはお客が送料負担を嫌がるケースや一定額以上の購入で送料無料のコスト負担も生じるが、店舗販売にしてもトラックで商品を配送していることに変わりはない。店舗向けにまとめた大口配送と家庭向けの小口配送とのコストバランスになるわけだが、店舗に在庫を積むことでムダな作業コストが発生しているのは間違いない。

 ベーシックなデザインで、単品コーディネートで完結。お客が自由に着こなせば良いを標榜するユニクロだからこそ、店舗は小規模にして全国数カ所に物流センター兼ストックルームを作り、そこから配送するような仕組みを整えてもいいのではないか。そもそも論として人件費を削りたいなら、店舗における省力化をもっと進めるのが先ではないのか。システムで成長したきたユニクロだからこそ、思いきってショールーミングを選択することも、経費削減に向けた重要な経営判断ではないかと思う。

 販売管理費には広告宣伝費もある。メーンはテレビCMと新聞の折込みチラシだ。CMではシーズン毎のトレンド商品のキャンペーン、企業イメージの訴求などを行っている。不定期のスポットだが、全国ネットで放映本数は多くなるため、毎回のCM投下費用は数億円規模になると思われる。

 チラシについては、週末に行ってきた値引きセールが縮小され、EDLP(エブリデーロープライス)戦略にシフトしたため、毎週金曜日の新聞折り込みもかつてのB3サイズ一辺倒から変わってきている。それでも直近に折り込まれたクリスマスセール向けは、B2サイズでユニクロとしては最大だ。これらが全国の新聞(2015年一般紙の発行部数は約4000万部だが、購読部数はそれより少ないと思われる)の朝刊配達分に入るのだから制作・印刷費、折込み料を合計すると、こちらも1回で数億円の規模になるだろう。

 テレビCMは代理店に言わせれば、「ブランドロイヤルティを維持するために不可欠なもの」かもしれない。だが、販促効果を考えるとネット浸透によるテレビ離れは深刻だし、番組視聴率が必ずしもCMの認知度を示すものではなくなってきている。

 目下のテレビ視聴者は圧倒的に60代以上が多いが、いくらユニクロのターゲットが老弱男女と言っても、限られた視聴者の中で効果を十分に発揮しているかには疑問が残る。映像の必要性はあると思うが、40代以下ならネット動画で十分ではないのか。経費削減の面でCMを見直すというのではなく、マス媒体における費用対効果という点で一考の余地はあるのかもしれない。

 チラシは新聞購読者との関係性があるため、テレビCMよりもピンポイントで販促情報を提供できる。だが、新聞を購読しない層が確実に増えているのは、人口が最も多い東京23の区新聞折込み総部数が約240万部しかないことを見てもわかる(2015年6月29日 オリコミのデータ)(http://www.orikomi.co.jp/wp-content/themes/default/img/orikomi/maps/cir/cir_tokyo.pdf)。

 あるポスティング会社によると、平均的な新聞投函率は戸建で60%、分譲マンションで50%、ワンルームマンションで5%程度まで下がっているとの情報もある。新聞を購読しなければ折り込みチラシも見られないわけで、折り込み広告社に新聞購読者層やレスポンス率を精査させながら、徐々にネットチラシに切り替えていくなど、経費として見直す部分はまだまだあると思う。

 ユニクロは米国における新規出店に際しトラフィック媒体、ローリングビルボードなどのオープン広告と併用して、出店後にはデジタルマーケティングにも注力している。例えば、ユニクロUSAはネット向けのファッションマガジンにユニクロの商品を着たお客の写真がアップされると、自前のFacebookですかさずシェアしている。

 またFacebookを使ったスタイリングコンテストやユニクロのPinterestをハックするキャンペーンなど、デジタルマーケティングは旧来メディアが幅を利かす日本より進んでいる。というか、日本でもマス媒体が以前のような力を持たなくなっていることを考えると、もっとSNSを活用することで媒体コストを削減できるのではないか。

 売上げの半分を日本で稼いでいるから、国内事業における販売管理費を削減する意図はわからないではない。しかし、いくら柳井社長が「プライスリーダーを取り戻す」「経費の削減」を訴えたところで、価格を下げても客数は戻っていないし、人件費を削ることで現場が確実に疲弊しているのも事実だ。

 ファーストリテイリングの2016年8月期の連結売上高は1兆7,864億円だが、前期比伸び率をみると6%と前年の22%を大幅に下回っている。10月に2020年度売上げ目標を5兆円から3兆円に下方修正したのは、紛れもない国内市場の縮小、客数の減少を受けてのことである。

 だからこそ、低価格や経費削減といった単純な政策ではなく、ビジネス全体の枠組みを見直さなければならないと思う。低価格戦略を続ける以上、海外の生産態勢、為替などからコスト変動とは切っても切れない。原価率の圧縮で商品の質が低下すれば、さらにお客は離れていく。SPAシステムを構築し、どこよりも磨きをかけてきたからこそ成長できたのだ。それゆえ新たなシステム構築がカギになるのは言うまでもない。

 横田氏はルポで「私自身、一年働いてみて、従業員は間化されたマシーンになることが求められているのではないかと感じることがあった。人間というより黒字を生み出すロボット、調整弁として都合のいいように使われている気がしてくるのだ」(記事より引用)と、徹底した人件費抑制の背景にも切り込んでいる。

 ユニクロの業務は高度にマニュアル化されているため、さらなる人件費削減が厳命されればスタッフの出勤調整も堂々と行われ、限られた人数で対応せざるを得ない。ゆえに生身の人間、感情をもつ人間にとっては、受け入れ難い面もあるだろう。

 しかし、収益の拡大を最優先する柳井社長がそうしたメンタリティに与するはずもない。だからこそ、ユニクロは小手先に施策ではなく、ビジネス戦略自体を変革していかなければならないのだ。そこでは感情をもつ生身の人間をロボットのように使うのではなく、現実にロボットを活用すべき段階に来ているのでないのかと思う。

 Amazonはすでに川崎市の物流倉庫で、国内で初めて自走式ロボットを導入した。ロボットを活用することで、人間が棚に置いた商品を探して歩き回るのではなく、人間が仕分け作業をしている場所に棚が自動的に運ばれてくるのだ。これで作業の負担を低減するほか、商品を探す手間が減り、受注から発送までの時間短縮にもつながるという。

 ベーシックな商品をセルフサービスで売っているユニクロこそ、店舗はショールーム化して在庫量と人海戦術的な作業を極力減らし、ECとロボットなどによるオートメーション化を連動させるシステムの構築に取り組むべきではないか。当然、ロボットが作業をこなすようになると、人間による単純労働は必要でなくなり、人件費削減とは別次元のレイオフが始まることも想定される。

 これはユニクロに限ったことではなく、ファッション業界、全サービス業に通じることだ。ロボット化のような仕事が嫌なら、人間らしい仕事とは何かを考えなければならないし、そのための能力開発が求められる。これからのファッション業界で、人間はどんな仕事ができるのか。ユニクロ潜入ルポの深層に潜む課題からも目が離せない。

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